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第一三共株式会社 × QSimulate: データ駆動型創薬 (D4) における QM-FEP 活用 — QSimulate × AWS で切り拓く親和性予測の高度化

このブログは、第一三共株式会社 スマートリサーチ第二研究所と QSimulate による共著です。

はじめに

第一三共株式会社 (以下、第一三共) では D4 を活用し、DMTA サイクル (Design-Make-Test-Analyze) の中で Structure Based Drug Design (SBDD) 及び親和性予測を通じた創薬効率化を推進している。創薬研究の高度化に伴い、親和性予測の精度向上はますます重要な課題となっている。Free Energy Perturbation (FEP) の活用に加え、より正確なエネルギー関数の導入が求められており、特に今後複雑化が見込まれる化学モダリティにおいては、従来の FEP では対応が困難であった非古典的相互作用や共有結合系の親和性予測を高い精度で実施できる技術が不可欠である。こうした背景のもと、QSimulate との国内外での面談を通じ、同社が有する量子化学 (QM) を組み込んだ FEP 計算技術 (QM-FEP) を評価した。同社は、創薬研究に求められる実用的なスループットを確保しながら、クラウド環境を活用した計算コストの最適化にも取り組んでいる。計算精度と速度を高い水準で両立する同社の技術は我々のニーズに合致するものと判断した。

QSimulate の紹介、特長

QSimulate は創薬研究を加速するためのシミュレーション技術を開発するボストン発のスタートアップであり、ノースウェスタン大学教授であった CEO 塩崎亨らにより 2018 年に設立された。独自の量子化学計算技術を駆使することで、世界で唯一 QM に基づく FEP を商用プロダクト QUELO として展開している。QUELO は QM 力場と独自の AI 力場を併用することにより、従来の標的に対する高精度・高スループットとともに、金属配位性リガンドのような非古典的相互作用や共有結合系での高精度な結合親和性予測も可能にした。QUELO の機能強化や精度改善を目指して、現在はボストン、バークレー、ベルギー、東京の四拠点を中心とした国際チームで開発を推進している。 QUELO はコストパフォーマンスの優れた Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) G7eG6e インスタンス上で効率的に動作するように、単精度と倍精度を組み合わせた独自の混合精度アルゴリズムを採用している。従来の量子化学計算と比べて約 1,000 倍の高速化を達成し、タンパク質・リガンド複合体の量子化学計算が 1 スナップショットあたりミリ秒単位で処理可能となった。これまで数ヶ月かかっていたシミュレーション時間を数時間へと短縮、計算コストも 100 〜 1,000 分の 1 に削減することで、QM-FEP による創薬研究を現実的なものにした。

図 1: QUELO プラットフォームの図

QUELO は AWS ParallelCluster 上に展開され、AWS CloudFormation を使った迅速なデプロイと簡易な運用を実現している。Amazon EC2 のオンデマンドインスタンスとスポットインスタンスを使い分けることで、状況に応じた弾力的な計算リソースの確保が可能である。またデータ基盤には Amazon Relational Database Service (Amazon RDS)、ストレージには Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) を採用することで、データの堅牢性とアクセス利便性を確保している。さらに知的財産保護のため、ウェブアプリケーションを保護する AWS WAF など、AWS の豊富なセキュリティ機能を全面に活かした安全な環境を提供している。

図 2: AWS 上に展開された QUELO のアーキテクチャ図。QUELO は AWS ParallelCluster、Amazon EC2、Amazon RDS、AWS Lambda、Amazon S3、AWS WAF などの様々な AWS の機能を活用しています。

QSimulate の評価 (既存課題の貢献など)

QUELO の技術導入により、従来の課題解決に向けた成果が得られてきている。QM 力場を活用した計算では良好な予測精度が確認され、さらに同社独自の AI 力場を組み合わせることで、計算精度と計算速度の両立が実現されている。 クラウド環境の活用においては、通常時はスポットインスタンス、緊急時はオンデマンドインスタンスを使い分けることで、現場のニーズに応じた柔軟な計算実行が可能であることが確認された。AI 力場の適用では計算時間の短縮を、QM 力場の適用では従来手法では対応が困難であった非古典的相互作用への対応をそれぞれ実現した。 既に複数の創薬プログラム・標的に活用しており、実際のプロジェクトにおいて新規ケモタイプ創出にも貢献した。今後、共有結合系において Warhead の比較が必要な場面での親和性予測についても、技術革新によってさらなる精度の向上と適応範囲拡大を期待している。

まとめ

創薬研究において、化合物候補を迅速に高活性な群へと絞り込むことは、効率化を行う上で必須なプロセスである。QSimulate 技術の活用は、QM 力場による高い予測精度と、 AI 力場およびクラウド環境を組み合わせた計算速度の向上を同時に実現できることが示され、本課題に対する有効な解決策の一つといえる。 今後は、本技術を複数創薬プロジェクトへ適用し、さらに推進していく予定である。計算精度・速度の両立がもたらす恩恵を享受し、創薬サイクルの加速と成功確率の向上に継続的に貢献していきたい。

おわりに

本ブログでご紹介した第一三共株式会社と QSimulate の取り組みや関連する AWS サービスに関して、ご興味・ご質問をお持ちのお客様はお問い合わせフォームもしくは担当営業までご連絡ください。

著者について

第一三共株式会社

岡田 晃季 (Akitoshi Okada) スマートリサーチ第二研究所 第三グループ シニアサイエンティスト: 創薬効率化に向けた、計算化学/機械学習による活性/物性予測を担当。「計算とはいつも二手三手先を考えて行うものだ…」と言えるようになりたい。
森友 紋子 (Ayako Moritomo) スマートリサーチ第二研究所 第三グループ プリンシパルサイエンティスト: 計算化学の活用を通じた創薬研究効率化実現を目指しています。仕事においても私生活においても、まず状況を整理したうえで効率を重視して行動するタイプで、息抜きは読書とピアノです。
芹沢 貴之 (Takayuki Serizawa) スマートリサーチ第二研究所 第三グループ長: マルチモダリティインフォマティクスの推進を基軸とする業務変革推進、研究効率化に興味があります。スポーツ観戦が好きですが種目がドッジボールからバレーボールと陸上に代わりました。

QSimulate

塩崎 亨 (Toru Shiozaki) QSimulate CEO: 創薬におけるコンピュータ・シミュレーションの新しいあり方を提案するために QSimulate をボストンで起業。前職ではノースウェスタン大学化学科で研究室を運営。最近庭いじりにはまっています。
井本 翔 (Sho Imoto) QSimulate Japan, Chief Scientist: 計算化学による研究開発加速をできるように、デプロイ支援から技術指導まで包括的なサポートを目指しています。元々は水泳をやっていましたが、最近は陸上進出を果たしマラソンにも熱中しています。

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中島 丈博 (Takehiro Nakajima) ハイテク & ヘルスケア・ライフサイエンス部 シニアソリューションアーキテクト: ヘルスケア・ライフサイエンスのお客様を中心にクラウド利用の技術支援をしており、ユースケースの紹介やお客様のご要望を具現化するための活動をしています。週末は旅の予定に思いを巡らせています。