Amazon Web Services ブログ
Amazon Inspector SBOM Generator をプラグインで拡張
本ブログは 2026 年 7 月 30 日に公開された AWS Blog “Extend Amazon Inspector SBOM Generator with Plugins” を翻訳したものです。
Amazon Inspector は、Amazon Web Services (AWS) のワークロードを継続的にスキャンしてソフトウェアの脆弱性を検出する、自動化された脆弱性管理サービスです。Amazon Inspector の脆弱性管理機能は、Amazon Inspector SBOM Generator (inspector-sbomgen) と呼ばれる資産インベントリエンジンによって支えられています。これはスタンドアロンのコマンドラインツールで、コンテナイメージ、ディレクトリ、アーカイブ、ローカルシステム、コンパイル済みバイナリなどからソフトウェア部品表 (SBOM) を生成します。過去 2 年間で、AWS は inspector-sbomgen のカバレッジを数十のプログラミング言語エコシステム、オペレーティングシステム、広く導入されているアプリケーションへと拡大してきました。
今回、inspector-sbomgen を利用するビルダー向けの新機能として、独自のカスタムパッケージコレクターを記述できるプラグインシステムを発表します。ソースコードのコンパイルや公式リリースを待つ必要はなく、すぐに使い始めることができます。
inspector-sbomgen の最新バージョンは、Amazon Inspector ユーザーガイドからダウンロードできます。
この記事では、inspector-sbomgen プラグインシステムでできること、これを構築した理由、そして数分で最初のプラグインを書く方法を紹介します。あわせて、プラグインが生成したパッケージコンポーネントを Amazon Inspector の脆弱性スキャンと統合する方法や、セキュリティが強化された予測可能なプラグイン動作を実現するプラグインの安全性モデルについても解説します。
プラグインシステムを構築した理由
ソフトウェアのエコシステムは動的です。新しい言語パッケージマネージャー、ロックファイル形式、エンドユーザーアプリケーションが絶えずリリースされ、その多くは迅速に採用されます。中にはセキュリティの検証がほとんど行われないまま使われるものもあります。その結果、セキュリティチームには可視性のギャップが残ります。つまり、SBOM ツールがまだ認識できないソフトウェアが本番ワークロードで動いているという状態です。お客様からは、こうしたエコシステムの多くを直接インベントリ化したいという要望をいただいてきました。最近まで、それを実現する唯一の方法は、機能リクエストを出して inspector-sbomgen チームがエコシステムに対応し、新しいリリースをデプロイするのを待つことでした。
inspector-sbomgen プラグインシステムは、この状況を変えます。プラグインを使うと、次のことができます。
- inspector-sbomgen が標準では対応していないエコシステムへの対応 – 新しいオープンソースエコシステム、ニッチまたは変化の速いパッケージ形式、組織独自のツールなど、inspector-sbomgen を変更することなくインベントリ化できます
- エコシステム検出の迅速なプロトタイピング – 開発者にも AI コーディングアシスタントにも扱いやすいプラグインシステムを設計しました。プラグインは Lua で記述され、実行時にロードされるため、Go ツールチェーンもコンパイルも不要です。組み込みのテストハーネスを使ってプラグインを繰り返し改善し、すぐに結果を確認できます
- 安定した基盤の上での構築 – プラグイン API はアーティファクトの種類による違いを抽象化するため、検出ロジックを一度書くだけで、コンテナイメージ、アーカイブ、ローカルシステムなどでシームレスに動作します。また、プラグインは sbomgen の内部構造から分離されているため、コアツールでリグレッションが発生した場合の影響範囲も小さく抑えられます
実際、私たち自身もこのプラグインシステムを内部で活用し、新しいエコシステムのカバレッジを以前より速く提供できるようになりました。1.13 リリースでは、Apache Tomcat、NGINX、MySQL、Redis、WordPress、OpenSSH ツールチェーンなど、これまで Go で実装されていた 20 以上のエコシステムが、プラグインとして sbomgen バイナリに組み込まれています。同じリリースでは、Apache Cassandra、Apache Struts、Conda、Swift パッケージ、AI エージェントコレクター (Amazon Q Developer、Kiro CLI、Claude Code、GitHub Copilot、Ollama) など、10 を超える新しいエコシステムもプラグインとして追加されました。
inspector-sbomgen プラグインの仕組み
sbomgen プラグインは 2 段階のパイプラインで動作します。
- 検出 (discovery) – アーティファクトのファイルシステムをスキャンし、インストール済みパッケージのメタデータを含むファイルを特定します
- 収集 (collection) – 検出された各ファイルを開き、ファイルの内容を解析して、結果を SBOM にパブリッシュします
内部では、イベントバスが検出プラグインと収集プラグインをつないでいます。検出プラグインは検出したファイルの一覧をイベントとしてパブリッシュし、1 つ以上の収集プラグインがそのイベントをサブスクライブして、パッケージ収集をトリガーします。開発者にとっては、これはオブザーバーパターンとしておなじみの動作でしょう。
この分離により、1 つの検出プラグインが複数のコレクターにデータを供給できます。例えば、あるコレクターはパッケージメタデータを抽出し、別のコレクターはシークレットをスキャンし、さらに別のコレクターはポリシーをチェックする、といった構成が可能です。各収集プラグインは、計算コストの高いアーティファクトファイルシステムの再走査を行うことなく、同じファイルリストを利用できます。
5 分で書ける最初のプラグイン
inspector-sbomgen を使えば、プラグイン環境を簡単にセットアップできます。plugin new コマンドで sbomgen に新しいプラグインワークスペースを作成させ、--with-example フラグを指定すると、すぐに実行できる検出プラグインと収集プラグインのペアがワークスペースに用意されます。
上記のコマンドを実行すると、プラグイン名と、プラグインワークスペースを格納するディレクトリの入力を求められます。カスタム値を指定することも、デフォルト値をそのまま使うこともできます。
なお、対応するコマンドラインインターフェイス (CLI) 引数でプラグイン名とディレクトリを指定すれば、対話形式のプロンプトをスキップできます。
プラグインワークスペースを作成すると、inspector-sbomgen は次のステップを案内する画面を表示します。開発者や AI コーディングアシスタントに対して、変更が必要なソースファイルや関連ドキュメントの場所を示してくれます。
プラグインワークスペースができたので、その中身を詳しく見てみましょう。
スキャフォールディングされたプロジェクトには、動作する検出プラグインと収集プラグインのペア、_testdata/ 配下のテストフィクスチャを使ってパスするユニットテスト、統合開発環境 (IDE) 連携用の .vscode/settings.json、開発者ドキュメントのローカルコピーが含まれています。
スキャフォールディングは、人間と AI コーディングアシスタントの両方が読みやすいように、意図的に簡潔で完結した内容になっています。各ファイルには、それぞれの関数の役割と、プラグイン作成者が記述すべき箇所を説明する明確なコメントが付いています。
プラグインをテストするには、まずパッケージロックファイルやコンパイル済みバイナリなど、スキャン対象となるものが必要です。サンプルプラグインは、次の内容を持つ架空の example.lock をインベントリ化します。
付属の検出プラグインは、アーティファクトのファイルシステム内で example.lock のインスタンスを探す方法を知っています。
そして、付属の収集プラグインは、example.lock の内容を解析し、パッケージ情報を出力 SBOM にパブリッシュする方法を知っています。
テストの実行
プラグインにはテストフレームワークが組み込まれているため、実際のアーティファクトをスキャンする前にロジックを検証できます。テストは Lua で記述し、プラグインと同じ場所の init_test.lua に配置して、_testdata/ 内のフィクスチャデータを参照します。
次のコマンドでテストを実行します。
これは、私たちが設計し得た最も短い開発ループです。Go ツールチェーンも、再ビルドも、コンテナの起動も不要です。テストを書き、実行し、繰り返し改善するだけです。
実際のアーティファクトのスキャン
プラグインが結果を生成するには、プラグインが探すファイルを含むアーティファクトを inspector-sbomgen に与える必要があります。サンプルプラグインの場合、example.lock ファイルを含む任意のディレクトリが対象になります。先ほど生成したフィクスチャがちょうど良い題材です。
--plugin-dir フラグは、Lua プラグインの読み込み元を inspector-sbomgen に伝えます。生成される SBOM には、example.lock 内の 3 つのパッケージそれぞれに対応する CycloneDX コンポーネントが含まれます。例を以下に示します。
プラグインが生成するすべてのコンポーネントには、収集元のファイルを記録する amazon:inspector:sbom_generator:source_path プロパティが付いています。そのため、コンポーネントを生成元のアーティファクトまで常にたどることができます。
Amazon Inspector による脆弱性スキャン
プラグインが生成したパッケージ情報は、他のコンポーネントと同等の正式な SBOM コンポーネントとして扱われます。Amazon Inspector を含め、CycloneDX SBOM を読み取るあらゆる下流のツールで利用できます。SBOM を Amazon Inspector に送信して脆弱性分析を行うには、--scan-sbom フラグを追加します (有効な AWS アカウントが必要です)。
まったく新しいエコシステムに対応する際の重要な注意点: プラグイン作成者は任意のエコシステムをインベントリ化できますが、Amazon Inspector が脆弱性を報告できるのは、アドバイザリが存在するコンポーネントに限られます。アドバイザリフィードにまだ含まれていないエコシステムのコンポーネントを Amazon Inspector に渡すと、Amazon Inspector は Component skipped: no supported rules found (コンポーネントはスキップされました: サポートされるルールが見つかりません) というプロパティ付きでコンポーネントを返します。以下に例を示します。
これはエラーではなく、想定どおりの動作です。SBOM は正しく生成され、コンポーネントは引き続き追跡され、source_path によってどのファイルから生成されたかを正確に把握できます。Amazon Inspector がそのエコシステムのアドバイザリカバレッジを追加すれば、プラグインを一切変更することなく、同じ SBOM から脆弱性の検出結果が生成されるようになります。Amazon Inspector がすでにサポートしているエコシステムについては、プラグインが生成したコンポーネントは組み込みスキャナーが生成したコンポーネントと区別なく扱われます。
ファーストクラスの IDE サポート
AWS は、プラグインを書くときの生産性と効率を重視しています。オートコンプリートのようなモダンな便利機能なしで Lua を書くのは快適とは言えません。そのため、plugin new コマンドでスキャフォールディングされたすべてのプラグインプロジェクトには、library/sbomgen.lua 定義ファイルと、それを VS Code の Lua Language Server 拡張機能に自動的に接続する .vscode/settings.json が付属します。
コード補完と IDE サポートを利用するには、まず sumneko.lua 拡張機能をインストールし、VS Code でプラグインプロジェクトを開きます。これにより、すべての sbomgen.* 関数で次の機能が使えるようになります。
- 型情報付きのパラメータヒント
- ホバー時のドキュメント表示
- 定数のオートコンプリート (
sbomgen.component_types.*、sbomgen.groups.*、sbomgen.platform.*) - 関数呼び出しの型チェック
push_package()に必須フィールドが欠けている場合のインライン警告
この定義ファイルのおかげで、AI コーディングアシスタントによるプラグイン開発もうまく機能します。型情報とドキュメントがツールで読み取れる形式で埋め込まれているため、アシスタントは、素の Lua で記述する場合に比べてはるかに少ない人手の確認で正しいプラグインコードを生成できます。
安全な基盤
プラグインは inspector-sbomgen と同じプロセス内で実際のコードを実行するため、そのコードが安定し、セキュリティが強化された状態を保てるように実行環境を設計しました。すべての Lua プラグインは隔離されたサンドボックス内で実行されます。各 Lua 仮想マシン (VM) は、安全な操作のみが許可されるように、Lua 標準ライブラリの制限されたサブセットにのみアクセスできます。
- ファイルシステムへの直接アクセスの禁止 – Lua の
ioライブラリはロードされません。すべてのファイル操作はsbomgen.*関数を経由して sbomgen の内部処理にルーティングされるため、ディスク上のディレクトリ、コンテナイメージ、圧縮アーカイブ、マウントされたボリュームのいずれをスキャンする場合でも、プラグインは同じように動作します - サブプロセスの実行や環境の変更の禁止 – Lua の
osライブラリはブロックされているため、プラグインはプロセスの起動、環境変数の変更、アーティファクト外のファイルへのアクセスができません - VM のイントロスペクションの禁止 – Lua の
debugライブラリはブロックされています - 無制限なコードロードの禁止 –
dofile、loadfile、loadstringは削除されています。require()は利用できますが、プラグイン自身のディレクトリツリーに制限されているため、プラグインは自身のヘルパーモジュールを共有できる一方、他のプラグインやシステムパスからコードをロードすることはできません
プラグインが未処理の Lua エラーを発生させた場合、inspector-sbomgen は警告をログに記録し、次のファイルまたはプラグインの処理を続行します。1 つの不具合のあるプラグインが他のプラグインの実行を妨げることはありません。また、プラグインが inspector-sbomgen の組み込みパッケージコレクターを上書きすることもありません。すべてのプラグインは一意の名前を宣言する必要があり、カスタムプラグインが公式の組み込みプラグインですでに使われている名前を使用した場合、そのカスタムプラグインは警告付きでスキップされます。組み込みプラグインが常に優先されるため、カスタムプラグインがツール自身の検出動作をひそかに置き換えたり隠したりすることはできません。
次のステップ
今すぐ独自のプラグインの構築を始めるには、次の手順に従ってください。
- Amazon Inspector ユーザーガイドから最新の inspector-sbomgen をインストールします
inspector-sbomgen plugin new --with-exampleを実行し、プロンプトに従いますinspector-sbomgen plugin test --path ./my-sbomgen-plugins -vを実行し、サンプルテストがパスすることを確認します- サンプルのロジックを、独自のエコシステム向けの検出ロジックに置き換えます
すべての関数、定数、コマンドについては、以下の完全なリファレンスドキュメントで詳しく説明しています。
- Lua プラグイン開発者ガイド: プラグインの概念、ディレクトリ構造、ライフサイクル
- Lua プラグインテストガイド: テストフレームワークのリファレンスとフィクスチャの規約
- Lua プラグイン API リファレンス:
sbomgen.*API の完全なカタログ
まとめ
組織独自のロックファイル形式への対応の追加、新しいオープンソースエコシステム向け検出のプロトタイピング、あるいは自作スキャナーから組織全体で大規模に運用できる仕組みへの置き換えなど、どのような用途であっても、このプラグインシステムは、アイデアから動作する SBOM までの道のりをできる限り短くするように設計されています。皆さんがこれを使って何を作るのか、とても楽しみにしています。
この記事に関するご質問がある場合は、AWS サポートにお問い合わせください。