Amazon Web Services ブログ
【開催報告&資料公開】AWS メディア業界向け勉強会開催報告 – リアルタイムの翻訳生成や基幹システムの移行などのメディア業界事例
AWS メディア業界向け勉強会 #9(2026 年 7 月 10 日開催)
2026 年 7 月 10 日(金)に、メディア業界のお客様向けに AWS 勉強会を開催いたしました。放送局のお客様にご登壇いただき、 AWS の活用事例についてご紹介いただきました。この記事では、カスタムモデルの生成等を通じてリアルタイム翻訳の精度を向上させた事例や、社内の基幹システムをクラウド移行する際の勘所、AI 会話システムの構築、クラウド編集環境の構築、社内ハッカソンにおける Kiro の活用などのメディア業界におけるクラウド活用事例を知ることができます。登壇者の所属部署および肩書きは登壇当時のものとなります。
鳥人間コンテスト Live 配信におけるリアルタイム英語字幕
読売テレビ放送株式会社
クロステック局 放送DXグループ
福岡 一輝 氏
読売テレビ放送株式会社では、毎年夏に琵琶湖で開催される鳥人間コンテストの公式 YouTube ライブ配信において、海外ファンに向けたリアルタイムの英語字幕付与を昨年から実施しています。エンジニア 1 名がわずか 2 か月で AWS 上にフルマネージドサービスを組み合わせた独自システムを構築し運用を開始しています。
リアルタイム字幕生成の流れは、Amazon Transcribe による文字起こし、生成 AI サービスによる翻訳、番組専用の校正 AI による後処理の 3 段階で構成されています。Amazon Transcribe ではカスタムボキャブラリーやカスタム言語モデルを活用して認識精度を向上させています。校正処理では、Amazon SageMaker AI を用いてファインチューニングした番組専用モデルを構築し、Amazon Bedrock にCustom Model Import 機能を用いてカスタムモデルをデプロイしました。これにより、チーム名や専門用語などの固有名詞の補正や、主語の誤変換などを解決しています。独自モデルの構築にあたっては、Amazon SageMaker AI の JumpStart 機能を活用、過去の 10 時間分の配信音声を全て文字起こしし、正解データを手作業で作成するという学習データ整備も行っています。
映像の処理には Amazon Elastic Container Service(Amazon ECS)を採用し、機能ごとにマルチコンテナ設計とすることでリスク分散を図っています。AWS Fargate の採用により複雑なインフラ管理が不要となり、開発者がアプリケーションロジックに集中できる環境を実現しています。また、字幕と映像のタイミングを一致させるため、映像をバッファリングして音声処理の遅延を吸収する仕組みを実装し、フロントエンドの UI からも微調整が可能な設計としています。YouTube Live への出力には AWS Elemental MediaLive を使用しています。さらに、AWS SAM による Infrastructure as Code(IaC)でシステム全体を管理しており、環境の再現やアーキテクチャ情報の把握が容易になっています。配信後には海外視聴者からポジティブなコメントが多数寄せられました。
資料のダウンロードはこちら
社内の基幹システムを AWS に移行してわかった勘所と注意点
株式会社毎日放送
デジタルストラテジー局 副部長
田中 淳史 氏
関西テレビ放送株式会社
DX推進局 DX戦略部 主事
石井 克典 氏
読売テレビ放送株式会社
コーポレート局 情報システムグループ
谷 尚大 氏
読売テレビ放送、関西テレビ放送、毎日放送の 3 社は同一の会計パッケージを AWS 上に導入しています。この共通点を活かしてパネルディスカッション形式にて、基幹システムの AWS 移行における勘所と注意点についてお話しいただきました。放送局の基幹システムがクラウドで安定運用できることを 3 社の実例で示していただいた貴重なセッションです。
移行のきっかけについては、長年稼働してきた会計システムのモダナイズに合わせて自然にクラウドを選択した局がある一方、他局の先行事例や構築ベンダーからの推薦が後押しになった局もありました。共通していたのは、クラウドへの移行に対する社内の抵抗感が以前ほど大きくなかったという点です。
構築においては、AWS Direct Connect の敷設や社内セキュリティ基準の策定など、初めてのクラウド本格利用ならではの苦労もありました。一方で、従来はハードウェアも含めてベンダーに委ねていた領域を自社で理解し運用する体制へと変化したことで、Savings Plans による長期コミット割引やインスタンスの稼働時間調整といったクラウドならではのコスト最適化を主体的に活用できるようになっています。会計システムの稼働後に他のワークロードでも AWS の利用が広がっていることが前向きに語られました。
もう一度やり直すとしたら何を変えるかという問いに対しては、「会計システム単体ではなく将来的なマルチアカウント構成を見据えた全体設計をすべきだった」「関係者間の役割分担を最初に明確にすべきだった」などの声があり、これから移行を検討される方へのアドバイスとして共有されました。
自社のマスコットキャラクターを AI で再現してみた
株式会社CBC Dテック
テクニカルセンター プラットフォーム技術部
大石 祐貴 氏
株式会社 CBC Dテックでは、Amazon Bedrock を用いて CBC テレビの公式マスコットキャラクター「シェアシェア」の AI 会話システムを開発しました。当初は応答速度を重視して Amazon Nova Lite を使用していましたが、回答精度を重視して Amazon Nova Pro に切り替えました。用途に応じて最適な基盤モデルを簡単に切り替えられることが Amazon Bedrock のメリットです。キャラクターの性格や口調はプロンプトエンジニアリングで制御しており、音声合成には外部サービスでオリジナルの音声モデルを作成して使用しています。コーディングエージェントを活用することで、プログラミング経験がほぼない中でもシステムを構築しました。
今年 3 月の自社イベントにて来場者向けに展示し、フリートーク、定型文のポン出し、しりとりなどの機能を提供しました。今後は RAG や Amazon SageMaker AI によるファインチューニングでキャラクターの再現精度を高めることを検討しています。
資料のダウンロードはこちら
Amazon AppStream 2.0 を使用したクラウド編集環境の構築
読売テレビ放送株式会社
クロステック局 放送実施グループ
香川 駿貴 氏
読売テレビ放送株式会社では、Amazon WorkSpaces Applications(旧 Amazon AppStream 2.0) を使用したクラウド編集環境の構築と検証を実施しました。クラウド上に編集環境を構築することで、場所を問わず映像編集が可能になり、物理的な編集機の台数に縛られない柔軟な運用が実現できます。システム構成は、オンプレミスからクラウドストレージに素材を同期し、Amazon WorkSpaces Applications 上で EDIUS を動作させるというものです。3 つのアベイラビリティゾーンにサブネットを作成し、ここに編集機やライセンスサーバーを配置しています。
セッション起動時に証明書とバックグラウンドサービスを再生成するスクリプトを組み込んだマスターイメージを作成することで、当初から動いていた EDIUS 9 に加えて EDIUS 10、EDIUS 11 でも動作に成功しています。使用時間に基づくコストも明確になり、従量課金モデルによる編集環境のコスト可視化という点でも価値のある検証となりました。
資料のダウンロードはこちら
Kiro を使ったエンジニアハッカソンをやってみた
株式会社毎日放送
コンテンツ戦略局 プラットフォームビジネス部
村嶋 優吾 氏
株式会社毎日放送では、社内開発人口の増加を目的として、AWS の AI コーディングツール Kiro を使用した 2 日間のエンジニアハッカソンを開催しました。技術職の若手を中心に参加し、全チームが動くプロトタイプのデプロイまで到達しています。成果物の 1 つである新人研修用システムは、現在も開発が継続され実用化を目指しています。Kiro を選定した理由として、社内に AWS の精算フローが確立されており事務コストが低いこと、ターミナル操作や複雑なコマンド入力が少なく参加者層にマッチしていること、そして Kiro の「スペック駆動開発」の設計思想が放送局の技術職の働き方と相性が良いことが挙げられました。スペック駆動開発では仕様を自然言語で言語化してから AI に開発を指示するため、コーディング経験の少ない参加者でも効率的に開発を進めることができます。
運営者としての学びとして 2 つのポイントが共有されました。1 つ目は「仕様の言語化が最短経路」であること。事前にスペックをしっかり定義してから開発を始めたチームは AI の出力精度が高く、開発もスムーズに進みました。従来のハッカソンでは「早く手を動かす」ことが正義でしたが、生成 AI 開発においてはその気持ちを抑えて仕様の言語化に集中することが結果的に最短経路になるという気づきが得られました。2 つ目は「評価の壁」です。生成 AI により実装は容易になった一方で、セキュリティ設定の適切性やテストケースの網羅性など、成果物の品質担保が新たなボトルネックとして浮上しています。実装コストが削減された分、成果物を正しく評価するリテラシーの強化が今後重要になります。
資料のダウンロードはこちら
まとめ
メディア業界向け勉強会の開催概要をご紹介させていただきました。今回の 5 つのセッションでは、リアルタイム字幕生成、基幹システムのクラウド移行、AI キャラクター、クラウド編集環境、AI 開発ハッカソンと、幅広いテーマが取り上げられました。生成 AI と AWS のマネージドサービスを組み合わせることで、限られたリソースの中でも新しい価値を素早く生み出せることが各社の事例を通じて示されています。内容について詳しく知りたい方は、記事上部より資料のダウンロード及び動画を視聴いただけますのでご確認ください。引き続き業界の皆様に役立つ情報を、セミナーやブログで発信していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
参考リンク
AWS Media Services
AWS Media & Entertainment Blog (日本語)
AWS Media & Entertainment Blog (英語)
AWS のメディアチームの問い合わせ先: awsmedia@amazon.co.jp
※ 毎月のメールマガジンをはじめました。最新のニュースやイベント情報を発信していきます。購読希望は上記宛先にご連絡ください。
この記事は SA 小南英司が担当しました。




