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実店舗の生産性と顧客体験を高めるスマートストア

こんにちは。ソリューションアーキテクトの平井です。本記事では、最新テクノロジーにより店舗の生産性と顧客体験を高めるスマートストアについて、スマートストアとは何で、どういった課題やニーズを解決するのか、どのようなユースケースや事例があり、どういったテクノロジーにより実現できるのかについて紹介します。

はじめに:店舗の重要性とスマートストアが必要とされる背景

近年、E コマースが急成長していますが、小売業にとって店舗が重要であることは言うまでもありません。IHG Group の調査レポート “Stores Don’t Matter? Not So Fast” によると、店舗の売上は 74% を占めています。商品に直接触れることができる実店舗は今後も無くなることはなく、E コマースとよりシームレスに連携した顧客体験を提供することで、事業の成長や競争優位性を維持しようとすると、店舗のイノベーションが重要です。

店舗のイノベーションを進めるには、顧客のニーズを理解する必要があります。Capgemini Research Institute の調査レポート “Smart Stores Rebooting the retail store through in-store automation” によると、60% の顧客が支払い支払い時における長い行列を苦痛と感じていて、自動化により解決すると信じています。調査結果から読み取れるキーワードとして、”待たない”、”在庫切れに出くわさない”、”すぐに見つかる”、”助けてくれる・教えてくれる”、があります。一方、小売業者は、オンラインとオフラインを繋げたより良い体験の提供や、顧客の行動からインサイトの獲得、セルフサービスの促進と、作業効率の向上、設備故障の予兆検知といった点に関心があります。下表は顧客や店舗スタッフなどの店舗に関わる関係者(ステークホルダー)の関心事の例を示しています。

表1 : 店舗のステークホルダーと関心事の例

ステークホルダーの例 関心毎の例 キーワード
顧客 ・待たない
・在庫切れに出くわさない
・すぐに見つかる助けてくれる、教えてくれる
顧客体験
店舗スタッフ ・接客の時間を増やしたい
・接客以外の作業を効率化したい作業精度は落としたくない(欠品、廃棄)
接客、販売
マーケティング、店舗企画 ・販促の精度と鮮度を高めたい
・購買意欲を高めたい(インセンティブ、レイアウト)
売上増加
店長、経営企画 ・省エネ(サステイナブル)とコスト削減を進めたい
・防犯と安全、衛生を維持強化したい
店舗マネージメント

スマートストアとは

スマートストアは、最新テクノロジーを実店舗に導入して店舗の生産性と顧客体験を高めることにより、顧客と小売業者双方の関心事を実現するソリューションです。店舗設備や顧客などの店舗を構成する要素の間でデータが共有されているものの、テクノロジーは周辺やバックグラウンドで動作することで特別な操作を必要とせず、テクノロジーの存在を意識する必要がありません。そして、最も重要なのは、インテリジェントであるため全てのステークホルダーにとって望ましいスマートな意思決定を支援します。

新しい顧客体験を提供するスマートストアの一つの例として、Amazon が運営するアパレル実店舗の Amazon Style があります。Amazon Style は実店舗でありながら、実店舗の煩わしさを排除するという目線で作られています。モバイルアプリを用いて商品選択や試着室の予約を行い、試着室ではタッチスクリーンにより最適なレコメンデーションやお買い得商品を確認しながら追加で選択できます。選択した商品は、バックヤードから素早く試着室に商品が届けられます。

スマートストアは絶対的、固定的なソリューションではありません。どういった課題を解決したいか、ユースケースを実現したいかにより、選択されるテクノロジーやアーキテクチャは変わります。小売業者がこのような仕組みを 0 から作り上げるには、セキュリティや性能、あるいはコストを考慮したベストプラクティスを見つけるのに時間と手間がかかり難しいというフィードバックを耳にします。このような課題に対して、AWS では、多くの技術的問題やビジネス上の問題を解決できるリファレンスアーキテクチャーを、AWS アーキテクチャセンターより提供しているので実現方法を検討する上で参考になります。例えば、Scan-and-Go、コンピュータビジョン、IoT 機能を利用した Smart Grocery では、スマートストアで期待されるいくつかのユースケースを実現する方法が記載されています。

スマートストアにより実現できること

スマートストアによりどういったことが、どんなテクノロジーにより実現できるかについて整理します。
ここからは、表 1 の分類観点(キーワードとステークホルダー)でそれぞれのユースケースとテクノロジーを取り上げて、ソリューションの例を紹介します。

顧客体験(顧客)

顧客は、欲しい商品が簡単に、待たさせることなく購入できることを期待しています。

分類 ユースケースの例 テクノロジー
商品探索 ・モバイルデバイスで QR コードのスキャン、または AR 技術により製品にオーバーレイされた商品の詳細情報を取得する
・店内に設置した端末で音声で質問できるようにして、商品を見つけやすくする
・モバイル
・AR/VR
・音声認識
お試し ・衣服や化粧品などのアイテムを使用した状態について、AR/VR 技術により仮想的に見る ・AR/VR
会計、決済 ・カメラや重量センサーを使用して、物理、あるいは仮想的な買い物カゴに入れられたものを検出する
・モバイルデバイスで商品をスキャンして、セルフサービスで支払いをすませる(Scan & Go)
・コンピュータービジョン
・IoT
・モバイル

レジに並ばずに商品を購入できる店舗については、Amazon Go をはじめとして近年増えてきていますが、AWS ではレジなし無人販売の仕組みを迅速に構築して学習や体験ができるプログラムとして、This is my Smart Cooler プログラムを公開しています(発表ブログ)。また、Scan & Go については、先に紹介したリファレンスアーキテクチャの Use case1: Scan-and-Go にて処理の流れがまとめられています。

レジに並ばない購買体験については同じでも、Amazon Dash Cart のような、ショッピングカートにインテリジェンスを持たせて商品の検出と購入までを行うスマートカートもあります。商品を検出する方法としてバーコードや画像認識など複数選べるだけでなく、タッチパネルから顧客とのインタラクションにより商品を確定させることもできます。生鮮食品スーパーのような、ショッピングカートを使用した買い物が一般的なケースでは、顧客の購買体験を大きく変えることなく実現できます。

このようなソリューションは、例えば以下のようなアーキテクチャで実現することができます。

接客、販売(店舗スタッフ)

店舗スタッフは、作業精度を落とさずに、付加価値のある接客に時間を費やせることを望んでいます。

分類 ユースケースの例 テクノロジー
接客支援 ・店舗スタッフがタブレットを使用して商品や顧客情報を参照して顧客と会話して商品を薦める
・Bluetooth Low Energy と連携してモバイルアプリに案内表示することにより、顧客が店舗スタッフの支援を必要とせずに店舗を回れるようにする
・モバイル
・IoT
入出荷、お渡し ・店舗スタッフがイヤホンを装着し、自動で読み上げられた商品のピッキング指示をハンズフリーで聞くことにより作業の短縮化を図る
・カーブサイドピックアップやドライブスルーにおいてナンバープレートで顧客を認識する
・音声
・コンピュータービジョン
買い場作り ・定点カメラや巡回ロボットにより商品棚の在庫切れや棚割計画通りかを確認できる
・AR 技術により製品にオーバーレイされた在庫ラベルやフラッシュ販売レポートなどのデータを確認できる
・コンピュータビジョン
・ロボティックス
・AR/VR
商品、在庫管理 ・RFID タグや既存カメラを利用して在庫量を簡単かつ正確にカウントする
・IoT 技術により商品棚の価格をリアルタイムに更新したり、棚にある在庫のカウントや照明を調整する
・コンピュータビジョン
・IoT

商品の情報だけでなく、購入履歴や好みなどの顧客情報をモバイルデバイスでアクセスできるようにすることで、店舗スタッフの対応力を底上げできる可能性があります。さらに、接客としてどういった振る舞いをすべきかの推奨も提示することで、新人教育にも役立てることができます。ヤマハ発動機株式会社は、顧客と販売員のやりとりのデータを収集/分析する POS システムを AWS のサーバーレス技術で構築しただけでなく、現場の気づきを迅速に反映し続けることによって、顧客満足度の向上と商談の効率化に貢献する仕組みを構築しています。詳しい情報は、こちらの導入事例より確認できます。

接客業務に時間を費やすためには、その他の業務に費やす時間を少なくする必要がありますが、作業効率化以外のアプローチとしては、テクノロジーによる自動化や、顧客自身が対応するセルフサービス化があります。セルフサービスの例として、モバイルアプリと IoT(Bluetooth Low Energy など)を用いた店内案内の仕組みが実現可能です。予め顧客が用意したお買い物リストに基づき、商品がどこにあるかを店舗設備のビーコンと連動して通知することで店舗スタッフの支援を必要とせず欲しい商品を見つけることができます。それだけではなく、購買傾向や、顧客の嗜好などをもとに、推奨商品を提示することもできます。

このようなソリューションは、例えば以下のようなアーキテクチャで実現することができます。

その他、カーブサイドピックアップは、先に紹介したリファレンスアーキテクチャの Use case 2: Curbside Pickup に、IoT を搭載したインテリジェントな商品棚(スマートシェルフ)は Use case 3: In-Store Monitoring で構成要素と処理の流れがまとめられています。

売上増加(マーケティングや店舗企画)

マーケティングや店舗企画の担当者は、顧客の行動特性を基にカスタマイズされたマーケティング施策や、魅力的な売り場作りを求めています。

分類 ユースケースの例 テクノロジー
販促 ・Bluetooth Low Energy を用いて顧客に対して店内のエリアに応じた広告をモバイルデバイスに通知したり、ディスプレイに表示する ・IoT
・モバイル
インセンティブ ・位置情報サービスを使用し、来店した顧客にポイントなど報酬を付与する ・モバイル
店舗レイアウト、動線分析 ・顧客の店舗内移動を匿名で追跡して、購入の過程や時間を費やしている場所を認識する ・コンピュータビジョン

例えば、揚げたての味が自慢の唐揚げについて、店舗としては揚げたてのタイミングでアピールしたいわけですが、モバイルデバイス向けに、顧客に興味に基づいたターゲッティングを施して配信する仕組みを用意することで鮮度と精度の高い広告が可能になります。IoT 機器を店舗に用意して、ボタン一つで配信できるようにすることで、店舗スタッフのオペレーションを煩わすこともありません。このようなソリューションは、例えば以下のようなアーキテクチャで実現することができますが、デモも含むより詳細については、AWS Black Belt Online Seminar の 店内の「今」をお届けする小売業向けリアルタイム配信基盤のレシピ で確認できます(PDFYouTube)。

関連して、AWS はデジタルマーケティングをはじめとする魅力的な購買体験を E コマースで構築するためのリファレンス実装をリテールデモストアとして公開しており、実店舗に近づいた際にモバイルアプリケーションに通知するための方法やレコメンデーションを通知する方法についてワークショップ形式に学習することができます。リテールデモストアの詳細は紹介ブログをご確認ください。

この他、顧客の動線分析などコンピュータビジョンを利用するにあたって、AWS Panorama を利用すると既存カメラを活用できるだけでなく、機械学習モデルをエッジである店舗で実行することができます。

店舗マネージメント(店長、経営企画)

売上分析やシフト管理といった管理業務の効率化に加えて、省エネ(サステイナビリティ)や安全、衛生面の強化が店長や経営企画の担当者には求められています。

分類 ユースケースの例 テクノロジー
防犯、衛生 ・カメラ画像から万引きを検知や、顧客同士の距離が近すぎる場合の検知と警告を行う
・ロボットが巡回してこぼれや設備の破損などの危険な状況を検知する
・コンピュータビジョン
・ロボティクス
店舗インフラ整備 ・ロボットが店内を清掃する
・IoT 技術により店舗設備について故障を予兆検知する
・ロボティクス
・IoT
サステイナビリティ ・IoT 技術により電気ガスの使用を監視して光熱費を削減する ・IoT

商品棚の状態や冷凍冷蔵庫の温度管理、水道電力消費といった店舗インフラ整備全般の監視や故障の事前予測については、先に紹介したリファレンスアーキテクチャの Use case 3: In-Store Monitoring で構成要素と処理の流れがまとめられています。また、サステイナビリティについて、カーボンフットプリントの管理のためのデータの登録からモニタリングやアラートまでを AWS の各種サービスを使用して実現するソリューションガイダンスとして、Guidance for Carbon Footprint Measurement on AWS を利用できます。

その他、ロボティクスについては、セキュリティガードの利用例として、家庭用ロボット Amazon Astro をセキュリティロボットとして利用する Ring Virtual Security Guard があります。

まとめ

本記事では、最新テクノロジーにより店舗の生産性と顧客体験を高めるスマートストアについて、スマートストアがどういった課題やニーズを解決するのか、またどのようなテクノロジーやアーキテクチャにより実現できるのかを説明しました。顧客体験、接客・販売、売上増加、店舗マネージメントといった幅広いテーマを扱うスマートストアは、絶対的、固定的なソリューションではありません。優先度の高い範囲から実験的なアプローチで進めていき、短いフィードバックサイクルで適用範囲を広げていき、導入効果を高めていくアプローチを推奨します。

テクノロジーの進歩や小売業を取り巻く環境の変化により、スマートストアの取り組みは絶えず変化します。2022/11/28 – 12/2 に開催された AWS re:Invent 2022 では、小売業に限らず様々な最新事例が発表されましたが、スマートストアの取り組みに関連する事例として以下のセッションが参考になります。

その他、Amazon Go で利用されているテクノロジーの Just Walk Out と、手のひら認証による簡単な決済である Amazon One が可能とする顧客体験を高める方法についてまとめているこちらのブログも、スマートストアの検討を進めていく上で参考になります。 Amazon One により顧客体験をよりシンプルにする方法についてはこちらのブログが参考になります。Just Walk Out や Amazon One といった店舗向けにとどまらない、サプライチェーンやカスタマーサービスといった小売業にとっての、より広い業務課題に対して AWS が提供する目的別のアプリケーションについては、AWS re:Invent 2022 の以下のセッションが参考になります。

最後に、新しい時代において今までの Amazon が蓄えてきた流通小売の知見を、皆様に発信していく場として、AWS は日本におけるお客様事例、セミナーの告知・開催報告などをまとめたサイトを構築いたしました。ぜひ、こちらも定期的にご覧頂き、AWS が発信する流通小売業における最先端の情報を取得いただければと思います。