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【開催報告】AWS Summit Japan 2026 レポート:SUMCO が挑む、Amazon Redshift × 生成 AI による半導体ウェーハ製造 DX
本記事は 2026 年 6 月 25 日から 26 日に幕張メッセで開催された AWS Summit Japan 2026 の開催報告です。AWS for Industries Zone に出展した株式会社 SUMCO のブース展示 「Amazon Redshift × 生成 AI で挑む 半導体ウェーハメーカーの DX」 の内容を、SUMCO と AWS が共同で振り返ります。
図 1: AWS Summit Japan 2026 の SUMCO ブース。実物の 300mm シリコンウェーハとともに、生成 AI を活用したデータ分析の取り組みと AWS 基盤のアーキテクチャを展示した。
SUMCO と半導体を支えるシリコンウェーハ
SUMCO は半導体デバイスの基板材料となるシリコンウェーハの製造・販売を手がける企業です。社名は「Silicon United Manufacturing Corporation」に由来します。スマートフォンや自動車、データセンターに至るまで、あらゆる半導体デバイスの起点となる素材がシリコンウェーハであり、その品質は半導体の進化を根底から支えています。
シリコンウェーハは珪石から多結晶シリコンを精製し、単結晶を引き上げてインゴットとし、スライシング・ラッピング・ポリッシング・洗浄といった多数の工程を経て、鏡面ウェーハとして出荷されます。この一連の製造プロセスの各工程で、製造装置・検査装置から膨大なデータが生成されます。
図 2: SUMCO のデータ活用。各工程の検査情報・経路情報・製造装置の稼働情報を Amazon Redshift に集約し、データの意味を解釈してシリコンウェーハの状態を推定する。
背景と課題:ビッグデータを“価値”に変えるために
SUMCO が目指すのは、単一工程内の改善にとどまらず、製造装置・検査装置から生じる膨大なデータ、つまりビッグデータを収集・解析することで複数工程をまたいだ改善を実現することです。前工程が後工程に与える影響を把握し、工程間の装置の組み合わせまで見据えて最適化することで、より高精度・高品質なシリコンウェーハの製造につなげます。
一方でビッグデータを実際の価値へと変えていくには乗り越えるべきテーマがありました。分析を担う人材と製造現場とでは、得意とする領域が異なります。データ分析の専門人材であるデータサイエンティストは分析手法に、製造現場は工程や品質の知見に、それぞれ強みを持ちます。この双方の強みを結びつけ、限られた専門人材だけに頼るのではなく、現場を含む組織全体でデータを活用できる状態をつくることが取り組みの出発点です。
取り組み:3 つの要素で組織のデータ活用を底上げする
AWS Summit での展示は、SUMCO のデータ活用を次の 3 つの要素でご紹介しました。セキュアな基盤という土台と、その上で動く RedPulse・SynchroFabAI という 2 つのデータ活用の取り組みです。RedPulse と SynchroFabAI はいずれも SUMCO が開発した仕組みの名称です。
| A. 基盤 | セキュアな AWS 環境。製造データをクラウドで安全に扱うための土台 |
| B. RedPulse | 大量データの加工・比較を支えるデータ処理の仕組み |
| C. SynchroFabAI | 生成 AI で自然言語によるデータ解析を行う取り組み |
図 3: データ分析基盤の全体像。SynchroFabAI(生成 AI アプリ)と RedPulse(データパイプライン+データ処理)が、Amazon Redshift を中核とする基盤とともに構成される。
A. 基盤:製造データを安全にクラウドで活用する
製造データをクラウドで安全に活用するための土台となるのが、AWS 上に構築されたセキュアな基盤です。半導体業界はセキュリティ要件が厳しく、製造データをクラウドで扱うこと自体が挑戦的な取り組みであるため、その土台には堅牢なガバナンスが不可欠でした。
SUMCO の AWS 基盤は工場と AWS を安全につなぎ、用途ごとにアカウントを分離した構成をとっています(図 4)。この基盤はネットワーク統制と権限統制の 2 つの観点で運用されています。
ネットワーク統制(閉域網の構築)
- AWS 環境からインターネットへの直接通信を禁止
- AWS Direct Connect を用いたオンプレミスと AWS 間の専用ネットワーク接続
権限統制
- AWS Identity and Access Management (IAM) による必要最小限の権限付与
- AWS Organizations のサービスコントロールポリシー (SCP) による組織全体への予防的統制
- AWS 環境に対して社内 IP アドレス以外からのアクセスを制限
図 4: AWS 基盤の全体構成。Organization・User・DWH のアカウントを分離し、AWS Transit Gateway で接続。工場からは AWS Direct Connect 経由で取り込み、DWH アカウントの Amazon S3・Amazon Redshift にデータを集約する。
運用から、社内向けシステムの企画・ソリューション提供へ
SUMCO 社内の AWS チームの役割は基盤の運用にとどまりません。IAM の最小権限設計や AWS サービスの払い出し、社内向けの AWS サポート・教育を担いながら、さらに AWS の技術を使った社内向けシステムの企画から、現場へのソリューション提供までへと取り組みを広げています。この社内 AWS チームの活動が、次に紹介する 2 つのデータ活用の取り組みを支えています。
図 5: SUMCO 社内 AWS チームの取り組み。基盤構築・運用・教育を土台に、社内向けシステムの企画とソリューション提供へと役割を広げている。
B. RedPulse:データ加工の知見を組織で共有する
RedPulse は大量データの加工・比較を支えるデータパイプラインとデータ処理の仕組みです。製造装置が生成する製造中の時系列データを抽出し、複数の装置や時間帯といった条件で比較できます。これまで熟練者の経験に根ざしていたデータ加工の手順を仕組み化し、誰もが同じ手順で大量データを扱えるようにすることで、分析の入口となる作業を組織の共有資産にします。
図 6: RedPulse。製造中の時系列データを抽出し、複数の装置・時間の条件で比較できる。
実装面では、工場から取り込んだデータを Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) に CSV / Parquet 形式で格納します。その後 AWS Lambda や Amazon Elastic Container Service (Amazon ECS) でデータパイプラインを通じた処理を実行し、Amazon Redshift を中核とするデータ分析基盤に集約しています。
図 7: RedPulse のアーキテクチャ。工場のデータを Amazon S3 に格納し、AWS Lambda・Amazon ECS でデータパイプラインとデータ処理を行い、Amazon Redshift に集約する。
RedPulse で取得・整形した時系列データは、機械学習による品質予測や、品質に強く寄与するパラメータの要因分析へとつながります。RedPulse は、こうしたデータ分析業務を支える役割を担っています。
C. SynchroFabAI:生成 AI で意味づけ・分析の知見を組織で共有する
SynchroFabAI は生成 AI を活用して自然言語でビッグデータを解析する取り組みで、本記事執筆時点では PoC 段階です。データの意味を説明し、分析手法を提案・実行することで、分析の専門人材でなくても自然言語での対話だけでデータ分析を進められることを目指しています。
図 8: SynchroFabAI。自然言語での問いかけに対し、AI がデータの意味を説明し、分析手法を提案・実行する。
実装面では、オンプレミス環境に配置した AI エージェントの Cline が Amazon ECS 上に構築した Model Context Protocol (MCP) サーバーを介して、AWS 上の Amazon Redshift のデータソースを参照します。Cline の推論においては、Amazon Bedrock で大規模言語モデルを利用します。Cline の振る舞いは Rules や Skills、および分析手法を記述した参照ファイルによって制御しています。
図 9: SynchroFabAI の実装。オンプレミスの Cline から、MCP を介して AWS 上の Amazon Bedrock・Amazon Redshift を利用する。
SynchroFabAI では、AI に持たせる知識の設計、すなわち製造現場の知見のうち何を、どのような形式で AI に渡すかの見極めを工夫しています。大量データへのクエリ生成を助ける専門用語集や、データと製品状態を紐づけるためのカタログ情報を AI に与え、「異常状態の推測」や「因果関係の推測」といった役割を担わせます。本 PoC では、データ・意味づけ・分析での解釈・AI の振る舞いという各層について、AI にどこまでの役割を担わせられるか、そしてデータと製品状態の紐づけや分析手法の選択・結果解釈の妥当性を検証しています(図 10)。こうして確立した意味づけ・分析の知見を仕組みに蓄積し、組織全体で共有・再利用していくことを目指しています。
図 10: SynchroFabAI へのデータ分析フローの実装。データ・意味づけ・分析での解釈・AI の振る舞いの各層について、AI に担わせる役割と、PoC で検証している内容を対応づけている。
“RedPulse では、Amazon Redshift の処理性能を引き出すことを念頭に SQL を作成・チューニングすることで、これまで時間を要していた大量データの集計が現実的な時間で回るようになり、Amazon Redshift のパワーを強く実感しました。SynchroFabAI では、生成 AI がデータの意味づけまで踏み込んで担う点が新鮮であり、集計や可視化の先にある「解釈」の領域にまで仕組みを広げられることは、現場のデータ活用の裾野を大きく広げると感じています。加えて、SynchroFabAI の設計にあたっては、専門用語集やカタログ情報として生成 AI に渡す知識の設計、そして意味づけ・分析手法の提案までを AI に担わせ、結果の妥当性の確認は人が担うという役割分担を、データサイエンティストと議論を重ねながら形にしていきました。実装側の視点だけでは辿り着けない分析の観点や知識に触れられたこの設計の過程こそ、本取り組みならではの面白さだったと感じています。”
― 株式会社 SUMCO AI推進本部 ICT推進部 荒木 亮 氏
今後の展望:データ活用を一部の専門人材から組織全体の力へ
SUMCO の取り組みは単なる分析ツールの導入にとどまりません。多品種生産という SUMCO の事業価値を支えるには、品種・工程に合わせた分析やアプリケーションが必要になります。データ加工の知見である RedPulse と、意味づけ・分析の知見である SynchroFabAI を組織の共有資産としていくことで、限られた専門人材への依存を減らし、現場を含む組織全体のデータ活用の底上げを図ります。
セキュアな AWS 環境という土台の上に、データ基盤の確立、そして生成 AI の活用へと、SUMCO は着実に歩みを進めてきました。この積み重ねの先に、現場を含む組織全体でデータを活かせる状態の実現を見据えています。
“データは当社の競争力の源泉であり、それを一部の専門人材だけでなく組織全体で活用できるようにすることは、多品種生産を強みとする当社にとって不可欠な変革です。今回の取り組みは、その第一歩として大きな手応えを感じています。セキュアな基盤の上で現場と分析をつなぎ、変化に素早く対応できる組織へ。AWS とともに、この歩みをさらに加速させていきます。”
― 株式会社 SUMCO AI推進本部 ICT推進部 部長 武富 太志 氏
おわりに
AWS Summit Japan 2026 の SUMCO ブースでは、実物のシリコンウェーハとともにデータ活用の取り組みを紹介しました。厳しいセキュリティ要件のもとで製造データをクラウドと生成 AI で活用する SUMCO の挑戦は、同じ課題に向き合う製造業の皆さまにとって、参考となる点があるのではないかと考えています。
SUMCO と AWS は、これからもデータ活用 DX の歩みをともに進めてまいります。本記事が、製造業におけるデータと生成 AI の活用を検討されている皆さまの一助となれば幸いです。
図 11: AWS Summit Japan 2026 の SUMCO ブースにて。展示を支えた SUMCO の皆さまと、AWS メンバー。
執筆者について
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武富 太志株式会社SUMCO AI推進本部 ICT推進部 / 部長 「データを、現場の力に変える」をテーマに、工場で生まれる膨大なデータをAIやクラウドで活用し、ものづくりの現場をスマートにする取り組みを率いる。難しいIT技術を社員が使いこなせるよう教育にも力を注ぎ、「一部の専門家だけでなく、全員でデータを使いこなせる会社」を目指して日々奮闘中。 |
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荒木 亮株式会社SUMCO AI推進本部 ICT推進部 半導体業界において、製造装置の制御技術と工場のデータ基盤、双方の実務領域にエンジニアとして関わってきた。SUMCOでは製造現場の知見をシステムとして具現化することで、ITを軸とした自動化とデータ活用に取り組んでいる。社内ではいつの間にか「万屋(よろずや)」と呼ばれるようになり、静かに受け入れつつも、熱量に限ってはその肩書きが窮屈らしい。 |
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大森 敬太株式会社SUMCO ウェーハ技術部 プロセス企画課 / データサイエンティスト 2021年にSUMCOへ入社後、ICT部門に配属。SEとしてIT知識を習得しながら、製造現場の見える化推進に取り組む。その後、システム開発やデータ分析業務など幅広いICT関連業務を経験。2023年よりデータサイエンス課に配属。現在、データサイエンス分野の博士後期課程に社会人博士として在学中。製造現場とデータ分析をつなぐ役割を担い、組織全体のデータ活用推進に取り組んでいる。 |
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酒井 賢アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ハイテク&ヘルスケア・ライフサイエンス部 / シニアソリューションアーキテクト IT 業界で 20 年以上の実務経験を持つソリューションアーキテクト。2020 年の AWS 入社後、製造業を中心にさまざまな業種の企業を支援し、現在は半導体業界を専門としている。企業がクラウドソリューションを計画・実装し、AWS 上で安全かつ高性能で柔軟な費用対効果の高い環境を構築することへの支援に注力している。 |














