はじめに
ゲームなみなさんこんにちは!Game Solutions Architect の Kazuki です。
この記事では、生成AIをゲーム開発内のQuality Assurance (品質管理 / 以下、QA) の分野に活用できるかどうかを実際に試しながら可能性を探っていきます。
※QA とは : 品質管理のことで不具合がないか、面白いか、などゲームの品質を管理する業務のことです。
生成 AI の利用には注意点も多く、導入しにくいと感じている開発者も少なくはないと思います。しかし、注意点を正しく理解し、問題のない方法で活用すれば、様々な作業を生成 AI に任せることができ、開発者はよりクリエイティブな業務に注力することができるようになります。
今回は、ゲームテキストの誤字脱字などの校正作業を生成 AI で行うことができるかを、実際に試して確認していきます。作成物はプロンプトのみとなっているので、初心者でもわかりやすい内容となっていると思いますので最後までお付き合いいただけると幸いです。
builders.flash メールメンバー登録
builders.flash メールメンバー登録で、毎月の最新アップデート情報とともに、AWS を無料でお試しいただけるクレジットコードを受け取ることができます。
AWS for Games
AWS for Games はより早い開発、よりスマートな運営、そしてより楽しいゲームへの成長という Build、Run、Grow の 3 つの柱に沿ってサポートします。今回は Build の柱、「 クラウドゲーム開発」の分野で生成 AI を利用したものになります。

生成 AI の注意点
生成 AI の利用には、まだ多くの課題を抱えていることは事実です。2024 年 1 月現在、明確なルールや法律はなく、各国で様々な議論が行われています。知的財産権の侵害、誤情報の発生、機密情報の漏洩、セキュリティなどの問題について多く議論が交わされています。
ゲーム開発のようなクリエイティブな分野では、特に知的財産権への配慮が欠かせません。そのため、生成 AI 活用に大きなリスクを感じ、利用を控えている方も多いと思います。
しかし生成 AI には、開発効率を上げる可能性 (アイディア出し、QA 作業など)を秘めています。リスクにおそれ、全ての業務で使うこと自体を避けるのはもったいないと思います。このリスクをしっかり理解し利用できる業務で生成 AI を活用すれば開発者は今よりも多くの時間をクリエイティブに利用することができます。
このリスクを理解し生成 AI を利用する取り組みとして責任ある AI (responsible AI) というものがあります。AWS もこの取り組み を行っております。
責任ある AI を学び、リスクを正しく理解すればあらゆる分野で生成 AI を利用することができるようになるので、ぜひ一度目を通していただきたいです。責任ある AI には様々な分野で考え方がありますが、生成 AI 利用者が一番注意しなければいけない点としては「生成 AI によって出力されたものに責任を持つこと」とされています。出力をコントロールし責任を持つことができれば生成 AI の業務利用は可能です。
今回の QA サポート利用のような最終的には人間のチェックが入り、内容に責任を持つことができる業務であれば問題がないと考えられています。
校正作業を生成 AI に行わせるメリット
最終的に人間のチェックが入るのであれば生成 AI を使う意味はないのではないか、と思う方もいるかと思います。残念ながら、出力の精度にもよりますが、あらゆる作業において生成 AI のみに全て任せることは難しいと思います。
実は今回の目的は校正作業をすべて生成 AI に行わせることではなく、開発段階で気付くことができる単純な不具合を事前に検出することで不具合件数を減らすことです。
ゲーム制作にはゲーム自体を開発する部門とバグチェックや品質管理を行う部門があります。品質管理部門から不具合が指摘されると、開発部門は不具合を確認、判断、修正する必要がでてきます。不具合再現、原因箇所の特定、データやプログラム修正、確認を行い、品質管理部門に引き渡し、修正確認を行い、問題なければ完了という一連の作業が発生します。この作業は開発側で発見できていれば未然に防ぐことができたものです。
校正作業を生成 AI に行わせることができれば、明らかだが見落としがちな不具合を出さないことで、修正コストや部門間のコミュニケーションコストを下げることができます。

校正作業とは
文字、文章の誤りを訂正する作業です。具体的には主に誤字、脱字、衍字、表記揺れといった4項目を確認していきます。
4 つの項目
誤字
間違って書かれた文字
(例)
アマゾン → アマソン(ゾがソになっている)
Amazon → Amozon(aがoになっている)
脱字
あるべき文字が抜けていること
(例)
アマゾン → アマン(ゾが抜けている)
Amazon → Amzon(aが抜けている)
衍字
誤って語句の中に入った不要な文字
(例)
アマゾン → アマゾンン(最後のンが余分)
Amazon → Amazonn(最後のnが余分)
表記揺れ
同音、同義の語句について異なる文字表記がされていること
(例)サーバーエンジニアがサーバを構築する(サーバーとサーバが混在している)
生成 AI で期待できること
すべて文章制作者が細心の注意を払って制作、確認を行なっていれば発生しないものかもしれませんが、自分で制作したものの間違いを見つけることは困難です。
誤字脱字衍字に関しては発見できるものもあるかもしれませんが、表記揺れに関しては文章全体での確認となってしまうため難易度が大きく上がり、発見は困難を極めます。特にゲームテキストのような複数キャラが会話する文章などに関してはあるキャラクターの一人称が、僕から俺に変わっているなど気づかないうちに表記揺れを起こしてしまっていることもあります。
開発側で他の人が確認する、といった運用もあるかもしれませんが、それでは人的なチェックコストが上がってしまいます。そのため生成 AI で上記のような校正作業を行うことで人的コストを上げずにバグ件数を下げるのとが期待されます。
生成 AI を使用して校正作業を行う
ここからは実際に生成 AI へ渡すプロンプト (命令文) を製作して校正を行わせます。生成 AI は AWS が提供している Amazon Bedrock 内の Anthorpic 社が提供している Claude を使用します。(使用するバージョンは v2.1)
プロンプト(命令文)とは
プロンプトとは人間から生成 AI に対して行動の指示を出す文章で、生成 AI の振る舞いを方向付けるものです。自分たちが求める結果を出力させるためには具体的で細やかなプロンプトの記述が必要になります。
今回は Claude を使用しているので日本語での記述が可能ですが生成 AI モデルによっては日本語が使えない場合もあります。また精度を上げるためには英語の方が良いとされています。理由としては英語の方が学習量が多いので英語の方が精度が高くなる傾向にあります。今回はわかりやすさとメンテナンス性を重視してプロンプトは日本語を使用します。
ここからはプロンプトを記述していく上での代表的なコツを紹介していきます。
プロンプトのコツ
実際にプロンプトを書いていく
上記のコツも利用しつつプロンプトを実際に書いていきましょう。今回は生成 AI に校正作業を行わせます。使う生成 AI は上記に記載した Amazon Bedrock 内の Claude (v2.1) です。ここでは手軽に試すために AWS のマネージメントコンソールから確認しようと思います。
最後に
今回は生成 AI を利用して誤字脱字、表記揺れなどの校正作業を行うことができるかどうかを実際に試してみて確認しました。これだけ少なく簡単に書いたプロンプトでも校正作業にはある程度使える、ということがわかりました。実際にここからチューニングすれば十分今回の要件を満たすものは作れると思います。私も引き続きチューニングやソリューション化を進めていこうと思います。
この他にも生成 AI のゲーム開発活用方法はまだまだあると思います。生成 AI 利用に関しては注意点などありますが、まずは使えるところから使えるレベルで利用していくと様々な恩恵を受けられると思います。
この記事が生成 AI をゲーム開発、運用に利用することで開発効率を上げてより面白いゲームを開発していくきっかけになれば幸いです。
筆者プロフィール
中村 一樹
アマゾン ウェブサービスジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト
約14年ゲーム業界で開発に携わっていた元ゲームエンジニア。
「ゲーム開発者は面白いゲームを開発することに時間を使うべき」と考えており、それ以外のことはマネージドサービスやAIなどに任せれば良いと思っている。
趣味はフィットネスジムで汗を流すこと。格闘技系ワークアウトが好き。
2024年の目標はジムに行ける回数が減ったことによる運動不足が原因でついてしまったお肉を減らすこと。
