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藤田医科大学 羽田クリニックにおいて、IBM 製病院情報システム (CIS) を AWS に構築・稼働

医療 DX においてのクラウド活用について

日本中の全ての業界・業種・地域で「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の加速が叫ばれています。デジタルを活用して、イノベーションを起こす DX は、ヘルスケア業界においても例外でありません。
昨今、病院をターゲットにしたランサムウェア被害が頻発しているように、ヘルスケアに関わるセキュリティやコンプライアンス、プライバシーの確保は最優先事項です。専門性が高くまた規制が厳しく、ステークホルダーも限られていた事もあり、これまではイノベーションが進みづらい環境にありました。カルテ、レントゲンなどの画像データ、様々な検査結果など、ヘルスケアに関する情報量は膨大かつ多様です。一方、これらデータは臨床現場・医療事務・研究分野で個別最適化される形で分断され、ヘルスケアのアクティビティ全体を俯瞰してデータ管理し、そこから有用な示唆情報を見つけ出すことが難しい状況にあります。また、病院や関連医療機関を跨いだ患者の健康情報・疾病情報について過去の診療履歴を振り返ったり、共有することも困難な状況です。患者の特性に応じたヘルスケア・プログラムを、他の患者の膨大な記録を基にカスタマイズして最適化すること(個別化医療)も未だ道半ばです。

愛知県豊明市に本院を構える藤田医科大学では上記の様な課題を率先して解決をするために、4 つのフェーズに分けた様々な取り組みを行っています。
フェーズ 1 では二次利用連携プラットフォームを構築して、データ交換の標準化と Web システムでの連携モデルを構築しています。研究領域でのセキュリティ対策ではデータの暗号化にブロックチェーン技術を用いた検証をし、臨床領域での業務改善としては生成系 AI を利用し概念実証(PoC)を行っています。
フェーズ 2 では本ブログで主に説明を行うクラウド上での電子カルテの稼働を行い、災害対策やデータ連携を目的としたシステム構築を羽田クリニックにて実装を行います。
フェーズ 3 ではオーダリングシステムや部門システムでの標準コードを取り入れ、データをより標準化したものとして保管し一次利用・二次利用や、業界を横断した取り組みに役立てることを想定しています。
フェーズ 4 では電子カルテシステムをクライアントサーバー形式から SaaS(Software as a Service)形式へと変革させることを想定しています。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS ジャパン)では藤田医科大学病院の上記のような取り組みを支援し、医療DXの推進をクラウドの力で実現するべく活動を行っています。

藤田医科大学 羽田クリニックの電子カルテ・医療情報基盤をクラウド環境上で稼働したことを発表

2023年10月17日に藤田医科大学 羽田クリニックにおける AWS 上での電子カルテ・医療情報基盤稼働について、藤田医科大学、日本 IBMより以下のようにプレスリリースが出され、同時に記者会見を開き、AWS からはパブリックセクター統括本部長の宇佐見が登壇しました。

以下、IBM Newsroom の発表内容を抜粋します。

藤田医科大学 (愛知県豊明市、学長 湯澤 由紀夫)と日本アイ・ビー・エム株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:山口明夫、以下 日本IBM)は、2023年10月2日に、羽田空港に隣接する複合施設内に開設した「藤田医科大学 羽田クリニック (以下、羽田クリニック)」の包括的な電子カルテ・医療情報基盤をクラウド環境上に構築し、利用開始したことを発表しました。藤田医科大学では、新電子カルテ・医療情報基盤を活用することで、健診から医療、予後(病気や治療などの医学的な経過に関する見通し)にわたり、患者様や臨床の医療者のデータ利活用を支えることによって、厚生労働省が提唱する「医療DX令和ビジョン2030」に先駆けて、医療デジタル・トランスフォーメーション (DX)を推進していきます。

(写真左より)藤田学園 理事長 星長清隆氏 / 藤田医科大学 学長 湯澤由紀夫氏/日本アイ・ビー・エム 執行役員 金子達哉氏/アマゾン ウェブ サービス ジャパン 執行役員 パブリックセクター統括本部長 宇佐見 潮

羽田クリニックの新電子カルテ・医療情報基盤は、藤田医科大学病院と同じIBMの病院情報システムIBM Clinical Information System (CIS)を使用しているため、IBMのデータ連携基盤を活用すれば、簡単に、国際標準規格のFHIRⓇに準拠した外部のヘルスケア・ソリューションとのデータ連携が可能です。さらに、アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)が提供するクラウドコンピューティング上で稼働することで、ベンダーや業界を超えたデータの相互交換が可能になりました。

AWSは、藤田医科大学におけるIBMサービスの活用に向けて、グローバルの幅広い知見・スキルを活用し、AWSサービス選定・構成検討・院内におけるクラウド利用ガイドラインの作成サポートなどを行い、医療機関におけるクラウド上での電子カルテ・医療情報基盤の構築に向けたセキュリティーの向上を支援しました。また今回、AWSのクラウド上での電子カルテの運用・稼働に、セキュリティー対策やデータのバックアップなどを機能として提供しているマネージドサービスといった最新のテクノロジーが活用されています。
AWSは今後さらに、病院がインフラの運用管理を削減したり、臨床・オペレーション・研究の効率を向上し、病院がよりコアビジネスにフォーカスすることでビジネスの変革を推進するよう支援します。

IBM 製病院情報システム (CIS) を構築する上での AWS からの支援

IBMの病院情報システム (CIS) の構築において、藤田医科大学病院全体のアーキテクチャを以下の通り構築いただきました。

藤田医科大学東京 先端医療研究センターから AWS への接続は、専用プライベート接続サービスである AWS Direct Connect とマネージド IPsec VPN 接続が利用可能な AWS Site-to-Site VPN を用いた冗長接続となり、右上の電子カルテが稼働しているプライベートなネットワーク空間である Amazon Virtual Private Cloud(Amazon VPC) へセキュリティを考慮した接続を行っています。
また、図の中央にある AWS Transit Gateway のサービスをハブとして利用し、藤田医科大学病院を含めたオンプレミスネットワークとの接続や、右側 2 番目の健康診断システム、3 番目のデータ二次利用基盤へアクセスできます。
医療機関とクラウドを接続する際のネットワーク構成については、医療情報ガイドラインをクラウド上で実践する – ネットワーク編 Part 1 のブログをご確認ください。

AWS 上で稼働しているシステム個別の環境では、お客様の運用上の負担を軽減するマネージドサービスを活用して、運用負荷の軽減やセキュリティ向上を行っています。
電子カルテ環境ではオブジェクトストレージサービスを提供する Amazon S3 を利用してバックアップを保管しており、AI による脅威検出を行うことができる Amazon GuardDuty を利用してセキュリティ対策を行っています。また、AWS 上でマルチアベイラビリティゾーン(マルチAZ)構成を採用し、これにより自動的に他のデータセンターにデータのバックアップがとられる他、片方の AZ にトラブルが生じた場合でも、自動的に切り替えが行われます。マルチ AZ 構成を採用することでシステムの冗長性を確保することができます。
DWH/AI/ML Account 上で稼働している二次利用基盤では、データウェアハウスをクラウド上でマネージドに利用可能な Amazon Redshift を利用してデータ解析の準備環境を構築し、機械学習基盤をサービスとして提供する Amazon Sagemaker を用いてデータ解析を行っています。
ネットワーク監視には NW Firewall VPC を作成して、一般的な攻撃からウェブアプリケーションを保護する AWS Network Firewall を利用しています。
病院における基幹システムである電子カルテがクラウド上で動くことによって、よりセキュリティを強固にすることができるとともに、今後は AWS が提供する AI/ML や IoT サービスといった最先端のデジタルツールを導入しやすくなります。

また藤田医科大学病院内でクラウド利用をするにあたって、コンサルティングサービスである AWS プロフェッショナルサービスを利用して、藤田医科大学病院独自の AWS サービス技術ガイドラインの作成をご支援しました。当初課題として認識されていた、アカウント設計・ネットワーク設計・セキュリティ設計を対象にガイドラインの作成を支援し、AWS を利用していく際のリファレンス文書として役立てております。
特に AWS セキュリティ設計ガイドラインを利用するにあたり、取り組みの一部として厚生労働省が策定している医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 6.0 版を踏まえ、AWS サービスとして検討すべき事項をディスカッションの上、整理をしています。これらを用いることで、AWS 部分においては医療情報ガイドラインを考慮した設計とすることができると期待しています。

(参考画像)AWSプロフェッショナルサービスのセキュリティ関連サービス全体像

AWS ジャパン では、医療情報を取り扱うシステムを構築する際に参照される各種ガイドラインに対応するための「医療情報システム向け AWS 利用リファレンス」の文書の作成にあたり、AWS パートナー各社様を支援しています。

藤田医科大学病院における今後の AWS 利用について

藤田医科大学病院の医療DXに向けた 4 つのフェーズの取り組みについて、今後も引き続き最適なプラットフォームとして利用していただくよう、AWS は多方面での支援をしていきます。
フェーズ 1 の取り組みとして、すでに AWS で構築され始めている医療情報の二次利用連携プラットフォームにおいて、今後は製薬企業や治験事業者とデータの連携を行い、医療の質向上を目指す取り組みを支援していきます。また、生成系 AI の実証の取り組みにおきましても、AWS 上での検証を実施いただいており、医師の働き方改革をご支援していきます。
将来的な取り組みとして掲げているフェーズ 3,4 においても藤田医科大学病院のクラウドジャーニーを伴走し、今後さらに病院がインフラの運用管理の負担を削減し、臨床・研究の効率を向上させ、よりコアビジネスにフォーカスできるようなビジネスの変革の推進を支援します。