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【寄稿】CO2 排出量可視・削減サービス「e-dash」化を支えるサーバーレスアーキテクチャと IaC 戦略
CO2 排出量可視・削減サービス「e-dash」化を支えるサーバーレスアーキテクチャと IaC 戦略
こんにちは、AWS ソリューションアーキテクトの松本 敢大です。 本日は、三井物産発の環境系スタートアップである e-dash 株式会社様が提供する CO2 排出量可視化・削減サービスプラットフォーム「e-dash」のシステム構築事例をご紹介します。e-dash 株式会社 プロダクト開発部部長の佐藤様、プロダクト開発部の伊藤様、竹内様に、AWS を活用したモダンなアプリケーション開発の取り組みについてお話を伺いました。
e-dash 株式会社について
e-dash 株式会社は、「脱炭素を加速する」をサービスミッションとして掲げ、CO2 排出量の現状把握・報告・削減を一気通貫で行うサービスプラットフォーム「e-dash」を開発・運営しています。手間なく正確に CO2 排出量の可視化が叶うクラウドサービスと伴走型のコンサルティングサービスを組み合わせ、企業や自治体の CO2 排出量削減への取り組みを総合的に支援しています。また、サプライチェーンにわたり脱炭素の対話を持つための「e-dash Survey」や、製造した製品自体の環境負荷を算出する「e-dash CFP」も提供し、幅広い脱炭素経営のニーズに応えています。
「e-dash」サービスの特徴
AWS: まず 、 「e-dash」のサービス概要について教えていただけますか? e-dash 佐藤: 「e-dash」は、企業が電気や都市ガスなどのエネルギー使用量の請求書をアップロードするだけで、その使用量が自動的にデータ化され、グラフ形式で CO2 排出量が計算されるサービスです。従来の CO2 排出量管理サービスでは、エネルギー使用量を手動で入力する必要がありましたが、 「e-dash」では請求書をアップロードするだけで自動的にデータ化されるため、入力作業の負担を大幅に削減しながら、請求書を証票とした正確なデータ蓄積ができます。可視化も削減も専門家がお客さまに伴走しながら、継続的に成果を生み出す改善プロセスを構築します。また環境省が公表する排出係数を自社データベースに取り込み、当該係数に基づいた正確な CO2 排出量算定を行っています。
AWS: カーボンフットプリント(CFP)への対応状況について教えてください。 e-dash 佐藤: 「e-dash CFP」という製品を提供しています。製品・サービスのライフサイクル全体で発生する排出量を可視 化できます。原材料調達から製造、流通、廃棄まで、多岐にわたる工程を一元的に管理できるため、企業の脱炭素戦略における基盤として活用いただけます。
AWS: Scope 3 の算定は可能ですか? e-dash 佐藤: 可能です。「e-dash」は Scope 1・2 はもちろん、Scope 3 も網羅的に算定できる設計になっています。環境省・経済産業省のガイドラインに準拠した算定ロジックを採用しており、サプライチェーン全体の排出量を正確に把握できます。
AWS: 省エネ法報告機能について教えてください。 e-dash 佐藤: 省エネ法については、「e-dash」で収集・算定したデータをそのまま報告に活用できる仕組みを提供しています。必要な数値を自動で整理できるため、これまで煩雑だった報告作業の負担を大幅に軽減できます。
AWS を活用したシステムアーキテクチャ
AWS: システム構築の背景について教えていただけますか? e-dash 伊藤・竹内: スタートアップとして短期間で本番稼働が求められるなか、外部委託から内製化へと移行し、制度改正や機能追加への即応性を高める必要がありました。2024 年 4 月にリリースした「e-dash」は、それまで運用していたシステムを全面リプレイスしたもので、約 12 ヶ月の開発期間をかけて 10 名体制で再構築しました。現在は 3 名で運用を行っており、新規サービスや追加機能の開発についても、通常 2 週間程度で完了できる体制を構築しています。
AWS: インフラは基本的に AWS で構築されているとのことですが、その理由を教えていただけますか? e-dash 伊藤・竹内: AWS を選択した理由は大きく 3 つあります。 第一に、情報量の豊富さです。AWS は情報の数が多いので、トラブルが起きても簡単に解決できます。ドキュメントやコ ミュニティの情報が充実しているため、問題解決のスピードが速いです。 第二に、チームの経験です。私たちのチームメンバーも AWS を使った構築経験が豊富で、使い慣れたサービスを活用できることは大きなメリットでした。 第三に、サポートの質の高さです。他のクラウドベンダーとは異なり、AWS のサポートは非常にレベルが高いと感じています。単純な調査だけでなく、私たちの目線で支援していただいていると実感しています。また、コミュニティ活動が盛んで、他社の AWS ユーザーと情報交換しやすい環境も魅力です。
サーバーレスを基本としたアーキテクチャ設計
AWS: 具体的なアーキテクチャについて教えていただけますか? e-dash 伊藤・竹内: 「e-dash」のインフラは基本的に AWS で構築しています。スタートアップとして限られた人数で運用する必要があるため、フルマネージドサービスを積極的に採用し、インフラ管理の負担を最小限に抑えています。アーキテクチャの基本は Amazon ECS on Fargate と Amazon Aurora を利用しています。フロントエンドとバックエンドのアプリケーション実行基盤として ECS on Fargate を採用しています。CSV のエクスポート処理などは AWS Batch、アップロード処理は AWS Lambda を利用しています。
AWS: データベースの使い分けについて、もう少し詳しく教えていただけますか? e-dash 伊藤・竹内: はい。Amazon Aurora は、フルマネージドサービスとしての運用性の高さと、フェイルオーバー機能による高可用性を評価して採用しました。本番環境ではライターとリーダーのマルチ AZ 構成でフェイルオーバーを実現しています。管理負荷が低いので基本的にフルマネージドサービスを使うようにしています。Amazon DynamoDB は企業名管理など、単純な構造のデータ管理に活用しています。高いパフォーマンスが求められないサービスでも、可用性の高さおよびコストの安さから特定のマスタデータ管理に利用しています。Amazon ElastiCache は、分単位で更新が必要なリアルタイム性の高いサービスで活用しています。揮発しても問題ない一時的な計算データを格納し、パフォーマンスの最適化を図っています。
AWS: イベント駆動アーキテクチャについても教えていただけますか? e-dash 伊藤・竹内: 請求書処理フローでは、イベント駆動アーキテクチャを採用しています。Amazon ECS on Fargate から Amazon S3 へ請求書データがアップロードされると、S3 イベント通知をトリガーとして AWS Lambda が起動し、OCR 処理へと連携します。
開発速度を支える IaC 戦略
AWS: 開発速度を向上させるための工夫について教えていただけますか? e-dash 伊藤・竹内: 私たちは、Infrastructure as Code (IaC) を徹底的に推進しています。AWS Organizations、AWS Identity Center を含むすべての AWS リソースを Terraform で管理し、モジュールの共有により新規サービスの展開を迅速化しています。通常、新規サービスの構築には約 2 週間を要しますが Terraform モジュールの活用により、サービスの拡大に合わせて継続的にリアーキテクトしながらも、この期間を維持できています。
AWS: 権限管理についても自動化されているとお聞きしました。 e-dash 伊藤・竹内: はい。工夫している点として、GitHub と AWS のアカウント権限管理もすべてコード化されています。開発メンバーが Devin (AI アシスタント) に依頼すると、プルリクエストが自動生成され、SRE メンバーがレビュー・承認するだけでユーザーの追加・削除が完了する仕組みを構築しています。
直面した課題と解決
AWS: システム構築において直面した課題はありますか? e-dash 伊藤・竹内: 当初は外部委託でシステムを構築していましたが、スタートアップとして短期間で本番稼働が求められるなか、制度改正や機能追加への即応性を高める必要がありました。そこで、内製化へと移行し、AWS のマネージドサービスを積極的に活用することで、限られたリソースでも高品質なサービスを迅速に展開できる体制を整えました。特に、Terraform による徹底した IaC 管理により、新規サービスの構築期間を約 2 週間に短縮できたことは大きな成果です。
今後の展望
AWS: 今後の技術的な展望について教えていただけますか? e-dash 伊藤・竹内:請求書アップロード機能においては、OCR の精度向上を継続的なテーマとして推進していきます。また、開発チームでは AI の活用を積極的に進め、開発フロー全体の効率化を図ります。定常的な業務を AI で自動化・半自動化することで、エンジニアがより価値の高い領域に集中できる体制を整備していきます。
著者について
e-dash 株式会社様
佐藤 孝明(さとう たかあき)の紹介 新卒で野村総合研究所に入社し、システムエンジニアとして証券会社向けのバックオフィスシステムの開発・運用を担当。その後スタートアップ企業にてプロダクトマネージャとして、新規プロダクトの立ち上げ、組織開発を経験し、日産自動車にてコネクティドカーサービスのスマホアプリのプロダクトオーナーとして、プロダクトロードマップおよび KGI/KPI の策定と実行などの業務を行いコネクティド事業の収益拡大に寄与。2022 年 10 月から e-dash にプロダクトマネージャーとしてジョイン。
伊藤 明彦(いとう あきひこ)の紹介 新卒で野村総合研究所に入社し、様々な業界の IT システムの基盤設計・構築・運用を推進。その後スタートアップ企業にて開発リードとして、新規プロダクトの設計・開発・運用を担当。2024 年 9 月から e-dash にジョイン。現在は SRE チームのリーダーを担当。
竹内 克史(たけうち かつし)の紹介 バックエンドエンジニアとして複数サービスの開発に従事した後、現在は SRE としてインフラストラクチャの設計・運用を担当している。AWS を活用した信頼性向上施策、パフォーマンス改善、監視基盤の整備、自動化基盤の構築など、サービスの安定稼働を支える技術領域を幅広く推進している。2023 年 6 月に e-dash にジョイン。
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
松本 敢大 (Kanta Matsumoto) ソリューションアーキテクトとして、商社業界のお客様を中心に技術支援を行っています。様々な領域の商社という業界で沢山の刺激を受けております。新入社員育成として、新卒生成 AI 活用ブログ(ブログ1、ブログ2、ブログ3、ブログ4)などを投稿。AWS User Group – Japan IoT 支部で登壇などをしております。Physical AI が最近のブームです 好きな AWS サービスは AWS IoT Core(ブログ5)。趣味はカメラで、動物が好きです。




