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IVR による電話注文から Amazon Pay 決済へ – Amazon Connect で実現する新しい注文導線の構築アイデア

はじめに

近年、IT の急速な進歩と共に EC 市場は急速に拡大し、様々な顧客ニーズに応えるため EC サイトや決済手段も多様化する中、「電話」という従来からのチャネルの重要性は今なお低下することはありません。シニア層や IT に不慣れな方への対応や緊急時の問い合わせなど、電話での対応が必要とされるシーンは決して少なくなく、むしろ事業者様とお客様をつなぐ接点として大きな価値をもたらす役割を担っています。
その一方で、コンタクトセンターにおける人手不足やコストの課題は、業界共通の大きな悩みであることも事実です。オペレータの負荷軽減や業務効率化、運用コストの削減を目指す中で注目される技術として IVR (Interactive Voice Response) があります。IVR は電話による顧客対応を自動化する技術として活用されており、音声ガイダンスに従ってキーパッドから番号を入力する、あるいはユーザーが発話することで、その内容に応じて様々なサービスを利用できるシステムです。この技術により、ヒューマンオペレーターの対応を減らし必要な場面にだけオペレーターが介在できるため、人手不足の課題解決につながり、見方を変えると、オペレータ対応を真に必要とするお客様に絞った対応ができるため、問い合わせ窓口としての満足度向上にも貢献できます。
ここで注目したいのが、AWS が提供するクラウドベースのコンタクトセンターサービス Amazon Connect と AI による柔軟な対話を実現する Amazon Lex です。従来の定型フレーズによる音声ガイダンスでは無機質な印象もあった IVR ですが、AI や 音声合成マークアップ言語 (SSML) など、多様な機能を活用することで、より自然で温かみのあるインタラクションを AWS で実現することができます。そもそも、従来のオンプレミスのコンタクトセンター基盤の IVR にこうした最新のテクノロジーを組み込もうとした場合、時間やコストが制約になることもあります。これに対し、Amazon Connect と Amazon Lex はわずか数クリックでデプロイすることができ、料金についても初期費用不要の従量課金モデルでサービスを利用することが可能です。そのため、スモールスタートで素早く取り組みを開始し、事業成長とともに規模をスケールすることができます。
また、Amazon Pay は Amazon が提供する ID 決済サービスで、Amazon アカウントを持っていればどなたでも利用できる簡単・便利な決済サービスです。amazon.co.jp を普段からご利用いただいているお客様はすでに Amazon アカウントをお持ちですので、Amazon Pay をすぐに利用できます。Amazon Pay が導入されている EC サイトでは、Amazon アカウントに登録されたお支払い方法・お届け先住所を利用できるため、最短 3 ステップでお買い物が完了します。Amazon Pay を IVR による電話注文と統合することで、電話口でのやり取りから Web 決済までスムーズかつセキュアに完結し、これまで抱えていた「電話口でのクレジットカード番号の伝達」や「注文導線における入力操作の手間」というお客様の不安・不満、さらには事業者様が懸念する「購入からの途中離脱」の解消につながります。
本記事では、Amazon Connect および Amazon Lex を活用した IVR による電話注文から Amazon Pay での Web 決済につなげる新しい購入体験のシナリオや構成例についてご紹介します。お客様の利用シーンや属性に合わせて選択可能な最適なチャネルを提供し、コンタクトセンタービジネスをさらに拡張するアプローチのきっかけとなれば幸いです。

電話注文時のユーザー体験

本記事では電話注文のシーンに焦点を置き、電話注文の開始から決済完了までの一連の流れを想定します。
お客様がカタログやテレビショッピングで見た電話番号を入り口とし、どういった体験ができるかのアイデアをご紹介します。
一例ではありますが、以下のようなフローをユーザー体験として想定できます。

  1. 電話をかけて、商品名・購入数 を電話口で伝える。
  2. 注文を電話口で確認したら、電話をかけた端末に SMS メッセージを受信する。
  3. SMS のリンクから Web に遷移し、Amazon Pay で決済を行う。

手順 1, 2 のフローは電話口でのインタラクションとなり、手順 3 は、Web での決済操作となるイメージです。
電話口でのインタラクションは IVR によって実現が可能です。つまりオペレータの介在なしに電話でのフローは完結できます。
例えば、以下のような対話イメージを IVR によって実現できます。

IVR による電話注文を実現する AWS のサービス

電話口での IVR は Amazon ConnectAmazon Lex で構築が可能です。
Amazon Connect は AWS が提供するクラウドベースのコンタクトセンターサービスで、Web コンソールの UI 上でブロックをつなげることで、コンタクトフローを簡単に構築することができます。そのブロックの中の一つに、Amazon Lex を呼び出すブロックがあります。Amazon Lex は 会話型インターフェースを構築する、いわゆるチャットボットのサービスです。Amazon Lex を Amazon Connect と統合することで、電話口での対話を実現することができます。Amazon Lex では注文を処理するためのインテントを構築し、Amazon Connect のフローの中で呼び出すように構築が可能です。「買い物したい」という発話によって、構築した注文処理のインテントが発動し、最後の注文確認までの会話フローを構築することができます。
また、Amazon Lex から AWS Lambda を呼び出すことも可能なため、Amazon Lex のインテントの中で注文確認ができれば AWS Lambda を呼び出し、注文情報をデータベースなどに保管するような構築イメージになります。

なお、SMS メッセージの送信についても AWS で実現することができ、例えば、Amazon SNS のサービスに SMS メッセージを送信する機能があります。Amazon Connect では発信者の電話番号を取得することができ、さらにコンタクトフローの中で AWS Lambda に電話番号情報を渡して実行することも可能です。そのため、Lambda 関数にて Amazon SNS から SMS 送信を行うよう実装することで、Amazon Connect から連携された電話番号をもとに発信者であるお客様に SMS メッセージを送信することを実現できます。

上記のように、多様な機能を提供する AWS のサービスを組み合わせることで、IVR による電話注文から SMS の送信まで、すべてを AWS でシンプルに実現できると考えています。電話注文でのインタラクションから SMS 送信までのアーキテクチャ例を以下に掲載いたしますので、ご参考にいただけますと幸いです。

本記事冒頭でも言及した通り AWS は従量課金モデルであるため、スモールスタートで「まず試してみる」といったことが可能です。新しい機能の導入・拡張に AWS は非常に親和性が高いです。

Amazon Pay による Web 決済

続いて、Web での決済操作の導線イメージをご紹介します。
ここでまずは簡単に Amazon Pay の紹介をいたします。

Amazon Pay とは

Amazon Pay は Amazon のお客様向けに提供されている ID 決済サービスで、Amazon Pay を導入されている事業者様の EC サイトにてご利用いただけます。
Amazon Pay のご利用に新たな専用アカウント・アプリの登録は必要ありません。
Amazon アカウントをお持ちのお客様、つまり amazon.co.jp を普段からご利用いただいているお客様であれば、その Amazon アカウントに登録されているお支払い方法・お届け先住所を利用することができるため、購入したい EC サイトにて新たにクレジットカードや住所情報登録の手間が軽減され、スピーディーかつ安心してお買い物を楽しむことができます。また、Amazon Pay ではクレジットカードだけでなく、Amazon ギフトカードやあと払い(ペイディ)、メルペイ、パートナーポイントによるお支払いも可能です。
Amazon Pay に関する詳しい情報、および導入を検討される事業者様は、Amazon Pay の公式ページ、またはこちらのページから無料でダウンロードできる資料にてご説明しておりますので、ご参照ください。

Amazon Pay での決済イメージ

Amazon Pay の概要を掴めたところで、決済操作の導線イメージをご紹介します。「電話注文時のユーザー体験」の章にて記載した手順 3 に相当する箇所のご紹介となります。
簡易な例ではございますが、以下に購入フローのイメージを掲載します。上部の水色のエリアが事業者様の EC サイト、下部のオレンジのエリアが Amazon 側のページ (Amazon Hosted Page) を表しています。
Amazon Pay ではこのように、EC サイトと Amazon Hosted Page を行き来することで決済を進めることが基本となります。

流れとしては、ユーザーに SMS が到達し、そこに記載された URL をクリックすることで、電話口での注文情報が反映されたカートページに遷移します。今回 SMS での送信としているのは、Amazon Connect で発信者の電話番号が取得できるためであり、他の手段で URL を送付する方法も考えられます。URL をクリックし Web ページに表示された Amazon Pay ボタンをクリックすることで、Amazon Hosted Page に遷移します。ユーザーはお持ちの Amazon アカウントでログインし、そのアカウントに登録されているお支払方法およびお届け先住所を選択、あとは EC サイト側で注文確定ボタンを押すことで Amazon Pay の決済を完了することができます。
このように、Amazon アカウントを持ったユーザーであれば、電話注文から購入完了までの一連の流れを、途中での入力の手間などなくスムーズに完結できるよう実装することが可能です。
Amazon Pay を事業者様サイトに組み込む方法については、Amazon Pay インテグレーションガイドにて記載がございますので、適宜ご参照ください。
(EC サイトへの Amazon Pay 導入にはお申し込みが必要です。)

IVR × Amazon Pay 導入のメリット

IVR による電話注文から、Amazon Pay での Web 決済に引き込むことで以下の観点でメリットがあると考えています。

  • 待ち時間の軽減
    IVR での自動応答がない場合、電話注文が殺到すると、オペレータに接続されるのを待つ時間が長くなってしまい、お客様の体験は低下します。 IVR による自動応答で一部の通話に対応することができれば、待ち呼数が減ることになり、有人対応を必要とするお客様もオペレータに繋がりやすくなります。
  • 購入離脱の削減と在庫確保の安心感
    オペレータと繋がらないことで今まで購入から離脱していたお客様を救うことができます。また、IVR によって商品の在庫状況をすぐに確認できるようになるため、例えば、期間限定商品の注文に対して、電話注文でまずは在庫を確保することでお客様の安心感や満足度を向上させることもできると考えられます。
  • 有人対応が必要なお客様への手厚いサポート
    IVR による電話注文の導入により、その利用者だけでなく、一方でそれを利用しないお客様に対してもメリットがあると考えられます。例えば、高齢者やまだ Web 操作に不安がある方からの問い合わせや、注文トラブルなどの緊急の問い合わせに対して、オペレータをさらに動員させることできます。つまり、オペレータの対応が真に必要なお客様に対するサポートにより時間を充てられることにつながるため、コールセンターとしての質やお客様満足度の向上につながると考えられます。
  • 電話口でのクレジットカード番号情報の伝達が不要、後払いによる支払い不安からの解消
    Amazon Pay による Web での決済導線に誘導することで、電話口でクレジットカード番号を伝える必要がなくなります。加えて、商品と併せて配送する請求書でお客様からの入金を待つという決済モデルから解放され、支払い不安が解消されます。お客様および EC サイトを持つ事業者様双方においてメリットが出てくるポイントです。

利用シーン

利用シーンとしては、以下の場面が例として考えられます。

  • テレビ/ラジオ ショッピング
  • カタログ通販
  • チケット予約
  • ホテル予約
  • 飲食店予約時の事前決済

上記のユースケースや本記事にて紹介したフローはあくまで例ではございますので、他にも適用できる場面や取り入れられるフローなどがあるかと思います。イメージを膨らましていただくための一助となれば幸いです。

Outbound Call による Amazon Pay 決済

本記事でご紹介した構想は、テレビやカタログで見た電話番号に対してお客様から電話をかけるといったシーンを想定しておりました。一方、Amazon Connect では Outbound Call の機能があり、Amazon Connect からお客様に対して電話を発信することができます。
また、Amazon Pay では Payment Method On File (PMOF) という機能があります。
PMOF という機能は、購入者が商品を初回購入するタイミング、あるいはマイページなどから事前に支払い方法を登録することで、以降の購入時は事業者の任意のタイミングでその購入者が登録した支払い方法に対して課金することができる機能です。
支払い方法の事前設定を必要とする事業者や、購入者の操作なしに取引を処理する必要がある事業者に有用な機能です。
IVR を使った Amazon Connect からの Outbound Call と Amazon Pay の PMOF の機能を統合することで、お客様の再購入をサポートする体験を実現することも可能です。
(現時点におきまして、PMOF は Amazon Pay の担当者より個別でご案内をした事業者様のみご利用いただける限定機能となっております。導入のご検討・PMOF の技術資料をお求めの場合は Amazon Pay へのお申し込み後、担当者へご相談ください。)

流れとしては、初回の購入時あるいは事前に PMOF によって支払い方法を登録します。
初回の購入時から例えば 2 週間経過したタイミングで、その購入者に対して Amazon Connect から Outbound Call をかけます。
Outbound Call の中でお客様が購入の意思を示すことで、事前に PMOF にて登録した決済方法に対して請求をかけることができます。
これにより、再購入の際に Web 決済導線を再度操作することなく完結することができ、簡単でスムーズな購入体験を実現できます。
PMOF による支払い方法の登録を行った以降における Outbound Call での IVR 対話イメージ例を参考までに掲載いたします。

上記のイメージ例では、お客様は最短 1 クリックのキーパッド操作で購入まで完了できるため、非常に手軽でスムーズな購入体験になります。
認証コードによる本人確認や、注文から 60 分間は注文を取り消せるようにするといったオペレーションを組み込むことで、さらなる安心感を付加することもアイデアとしてあるかと思います。

なお、関連する記事といたしまして、取引内容の確認・承認を Amazon Connect の Outbound Call で自動化する技術ブログ Automate transaction confirmation using outbound calls with Amazon Connect もございますので、よろしければ参考にしてみてください。

最後に、Outbound Call に関して Amazon Connect Outbound Campaign という機能もございます。この機能はアウトリーチすべきお客様のセグメントを作成し、適切なタイミング、適切なチャネル(音声通話、SMS、Email等)でプロアクティブなアプローチを実現することができます。ここに IVR を活用することもでき、オペレータが不要な大規模なアウトリーチも可能です。ぜひご検討材料の一つとしていただけますと幸いです。

まとめ

本記事では、AWS で実現する IVR と Amazon Pay を統合することによって、電話注文から決済までを実現する構想についてご紹介しました。IVR を構成する AWS のサービスについても触れ、AWS を活用することでシンプルかつスモールスタートで始められる点、加えて柔軟に機能拡張していくことができる点も AWS 活用の大きな強みです。すでにコンタクトセンターを導入されている事業者様におきましても、IVR による電話注文のチャネルだけを切り出す形で AWS にて実現することも考えられます。また、Amazon Connect で実現するコンタクトセンターの柔軟性は Amazon BedrockAmazon Q in Connect と組み合わせることで、生成 AI の技術要素を盛り込みさらに広げていくこともできると考えています。
本記事でご紹介した対話フローや AWS 構成図は一例ではございますので、事業者様の取り扱う商材や社内要件、ターゲットとするお客様、必要となる機能によっても変わってくる部分があるかと思いますが、電話注文のチャネルを拡張するためのアイデアの一助となりましたら幸いでございます。

著者

庭屋 郁基
アマゾンジャパン合同会社
Amazon Payments Japan 事業部
Solutions Architect