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AIX ワークロードをAWS へ移行する際の始め方

お客様から、AIXワークロードをAWSに移行する方法についてお問い合わせをいただきます。お問合せには、現在の AIXポートフォリオの評価、AWSのTCO(Total Cost of Ownership)の見積もり、特定のワークロードの移行パターンと移行先のアーキテクチャを決定する際のガイダンスなどがあります。AIXのクラウドへの移行を加速させるには、移行を開始する方法と利用可能な移行パターンを知っておく必要があります。AWSは、経験、学習、ガイダンスに基づいてお客様を支援し、複雑さとリスクを最小限に抑え移行を明確にするお手伝いをします。

IBM AIXは、IBMが販売するUNIXオペレーティングシステムです。1986年に開発され、IBM Power Systemsやその他のIBMハードウェアプラットフォーム向けの主要なオペレーティングシステムの1つになりました。多くの一般的なソフトウェア・パッケージがAIX向けに作成されており、現在でも多くのお客様で導入されミッション・クリティカルなワークロードをAIX上で実行しています。AWS Application Migration Service(MGN)がサポートするリフトアンドシフトの移行パターンを使用して移行できる WindowsやLinuxのワークロードとは異なり、AIXのワークロードはリフトアンドシフト型の移行パターンには向いておらず、リプラットフォームやリファクタリングが必要です。これは、Power AIXシステムとx86 Linux / Windowsシステムのオペレーティングシステムとプロセッサアーキテクチャが異なるためです。ただし、これらのアプリケーション内にあるデータはアプリケーション間で移行が可能です。

このブログでは、さまざまなAWSのプログラムやパートナーを活用してAIXワークロードをAWS に移行するオプションについて説明します。これらのオプションには、AIXワークロードをAWS 用にリプラットフォームする、AWS サービスを利用してワークロードをフルモダナイゼーションする、またはパートナー製品を使用してハイブリッドソリューションを構築してリスクを軽減し、時間の経過に伴うアプリケーションの段階的なモダナイゼーションをサポートするアーキテクチャを提供することが含まれます。

AIX から移行する理由

AIXプラットフォームから移行することのビジネスメリットは、オンプレミスのアプリケーションをAWSに移行することと同様です。つまり、アジリティとレジリエンシーの向上、コストの削減、弾力性の向上、スキルリソース減少に関するリスクへの対処です。アジリティが向上すると、新しいアプリケーションや機能の作成、新しいチャネルの開拓など、ビジネスの変化に迅速に対応できるようになります。組織は、従量課金モデルを使用して設備投資から運用コストに移行することで、コストを削減できます。AWSは、コンピューティング、ストレージ、ネットワークリソースをオンデマンドでスケーリングし、AWSグローバルインフラストラクチャを通じてアプリケーションの耐障害性を向上するという付加価値を提供することで、弾力性を向上させます。最後に、特にAIXの場合、これらのシステムを管理できる熟練したスタッフを見つけることは難しく、事業運営にとってリスクとなり得ます。

AIX 向けクラウドのTCO 評価と移行計画

クラウド移行プロジェクトを計画する際には、ビジネスケース分析を意思決定プロセスに組み込むことをお勧めします。TCOの見積もりは、提案されたワークロードをAWSで実行するための年間コストを計算するために使用される標準的な方法です。TCO分析は、本質的にアプリケーションランタイム環境に関する実装固有の詳細なガイダンスを意図したものではありません。TCO分析を開始するには、移行元のAIX 環境の検出と、適切なサイズの構成および関連するAmazon Elastic Compute Cloud(EC2)インスタンス・クラスとタイプ、およびAWSストレージ オプション、これらを決定するメカニズムが必要です。移行の準備をさらに進めるには、アプリケーションの依存関係、既存のサーバー間の通信を理解し、アプリケーションの依存関係グループを特定することが重要です。これらはすべて、移行とウェーブ計画のプロセスに不可欠です。AWSには、お客様が使い始めるのに役立つガイダンス、仕組み、パートナーがあります:

  1. AWSクラウドエコノミクスチームは、lparstatHMC Scanner for POWERレポートなどの AIX 標準ユーティリティを使用して、現在の環境を徹底的に評価するお手伝いをします。これらのアウトプットは、AWSのEC2 コストを見積もるためのAWS のクラウド経済評価ツールへの入力として使用できます。なお、これらのツールは、ブログ記事「Estimating Amazon EC2 instance needed when migrating ERP from IBM Power Systems.」にあるように、POWER ファミリーと X86 アーキテクチャーのプロセッサーの違いを考慮に入れています。
  2. 堅牢な設定管理プロセスと関連する設定管理データベース (CMDB) がある場合は、情報を.csvファイルにエクスポートしてAWS Migration Portfolio Assessmentツールにアップロードできます。これは、パートナーやAWSプロフェッショナルサービスチームが協力してAWSへの移行を計画する際に活用できるように、AWS が開発した無料のツールです。IBM AIXオペレーティングシステムをさまざまなレベルで支援しているAWSパートナーもいらっしゃいます。AIXワークロードをAWSにマイグレーション検討いただき、AWSパートナーをお探しの際は是非AWSにご相談ください。

一般的な AIX ワークロードと移行パターン

様々なミッションクリティカルなソフトウェアアプリケーションをAIXからAWSに移行することを検討されている方もいるかもしれません。AWSに移行することで、既存のオンプレミス機能よりも俊敏性、弾力性、信頼性が向上します。クラウドのこれらのメリットが十分でリスクを最小限に抑えアプリケーションのモダナイズを長期的に見たい場合は、AWSインフラストラクチャで使用する同等のLinuxベースのソフトウェアを購入するのが適切なパターンかもしれません。クラウドへの移行時に運用タスクとコストを削減したい場合は、マネージドサービスを活用する方が適切なパターンです。オープンソースソリューションに移行するオプションにより、運用タスクを削除してライセンスコストを削減できます。

AIX の資産を構成するワークロードの種類が 3 種類以上あるお客様もいらっしゃいます。

  1. 商用Java アプリケーションサーバー上で動作するカスタムJavaアプリケーション
  2. 商用データベースソフトウェアを利用するアプリケーション
  3. 市販品(COTS)ソフトウェアで実装された基幹業務アプリケーション

Java アプリケーション

AIX上で実行されるJavaアプリケーションはコンテナ化されていないことが多く、Javaライセンスのサポート費用を必要とするベンダー固有のJava実装を利用できます。これらのアプリケーションは、変化する顧客要件に迅速に対応できず、柔軟性に欠け、コストがかかることに気付くかもしれません。このようなアプリケーションがある場合は、アプリケーションをコンテナ化し、AWS Elastic Container Service(ECS)などのマネージドコンテナサービスを活用することで俊敏性と柔軟性を高め、無料のJava実装またはオープンソースのアプリケーションサーバーを使用してライセンスコストを削減することを検討できます。

  1. AWS Correttoは、オープンJava開発キット(OpenJDK)のJava SE標準と互換性のある、本番環境に対応した無償のディストリビューションです。Correttoには、パフォーマンスの向上とセキュリティ修正を含む長期サポートが付属しています。
  2. AWSには、IBM WebSphereアプリケーションサーバーからAmazon EC2のApache Tomcatへの移行と、Oracle WebLogicからAmazon ECSのApache Tomcat(TomEE)への移行に関するガイダンスがあります。
  3. App2Containerは、仮想マシンで実行されている既存のアプリケーションをコードを変更せずにコンテナに変換するのに役立つコマンドラインツールです。A2Cは、サーバー上で実行されているアプリケーションを検出し、依存関係を特定し、Amazon Elastic Container Service(Amazon ECS)とAmazon EKS(Amazon EKS)へのシームレスなデプロイに必要なアーティファクトを生成します。

もしモノリシックなアプリケーションをマイクロサービスに分割しトランスフォームを行いたい場合は、AWSパートナーの vFunctionAWS Migration Hub Refactor Spacesが、自動化されスケーラブルで反復可能なプロセスを利用して、モダナイゼーションを始めるのに良い方法となり得ます。

AIXモダナイゼーション・パターンの例:

商用データベース

商用データベースソフトウェアは、多くの場合AIX上で実行されるアプリケーションをサポートします。これらのプラットフォームから移行することで、ソフトウェアライセンスコストを大幅に削減できますが、複雑なIT課題になる可能性があります。これらのプラットフォームからの移行を決定する際に直面する可能性のある課題には、独自のデータベースコード、ビジネスロジックを格納するストアドプロシージャ、および長年にわたって構築された複雑なデータモデルを使用することが含まれます。AWSには、これらの環境をマネージドサービスに移行するか、データベースをフルモダナイゼーションしアプリケーションをAWS Auroraなどのオープンソースデータベースにリファクタリングするかを支援する方法論とフィナンシャルインセンティブプログラムがあります。

  1. AWS Database Freedomプログラムは、資金、アドバイス、サポートを提供することで、このような移行を支援することを目的としています。これらの移行では、既存の商用データベースを維持し同じ商用データベースのマネージドAWSサービスに移行する必要があります。
  2. Database Migration Accelerator (DMA)プログラムは、商用データベースから AWS Aurora のようなオープンソースデータベースに移行するという複雑な課題の解決を支援することを目的としています。このプログラムでは、移行ツール、ワークショップ、ガイダンス、PoCのサポートを提供して、必要に応じてお客様がデータベースとアプリケーションスタックをリファクタリングするのを支援します。
  3. AWS には、オンプレミスの商用データベースを分析、計画、移行するためのAWS Schema Conversion Tool (SCT)AWS Database Migration Services (DMS)AWS DMS Fleet Advisorなど、データベースの移行を支援するサービスがあります。

市販品(COTS)の アプリケーション

業界や基幹業務に固有のCOTSソフトウェアも、クラウドへの移行が複雑な場合があります。AIXからX86へのクロスプラットフォーム移行、アプリケーションのアップグレード要件と依存関係、クラウドへの移行自体など、さまざまな課題が発生するため、すべてを計画する必要があります。AWSには、これらのCOTSワークロードを専門とするサポートプログラムと移行チームがあります。これらには、AWS for Oracle ApplicationsSAP on AWSが含まれます。これらは、市場で最も人気の高いCOTSソフトウェアベンダーの2つですが、AWS Marketplaceには他のCOTSソフトウェアベンダーも存在しています。特定の COTSソフトウェア製品には、AWS導入のロードマップがサポートされている可能性があります。

維持と段階的なモダナイゼーション

AIXからの移行により、AIXプラットフォームやアプリケーションへの投資をやめるというのが方向性ですが、ご希望の期間内に終えるには不可能な場合もあります。データセンターの施設を空けたり、ワークロードをイベントベースのクラウドネイティブアーキテクチャに完全に書き直したりするには時間を要します。これらの理由から、AIX環境を一定期間保持するのが理にかなっている場合があります。

  • ベンダーの要件や制限を考慮して、既存の AIX COTS ソフトウェア環境は保持しておきます。
  • 既存のAIXアプリケーションをモダナイゼーションするものとして維持しておきます。
  • 既存の AIX アプリケーションは維持しつつ、AWS で新しい機能やサービスを構築します。

まとめ

IT環境の一部としてAIXワークロードを使用している場合は、これらのアプリケーションのマイグレーションとモダナイゼーションの両方に関して選択肢があります。マイグレーションの発見、評価、計画の方法を理解することが最初のステップです。次に、クラウド変革のアプリケーションポートフォリオとオプション、およびこれらの変革に必要な労力を理解することは、これらの決定を下す際の重要なデータです。AWSには、AIXへの移行をどのように進めるかを決める際に役立つプログラム、サービス、経験があります。これらのアプリケーションをAWSで解決する案をご一考くだされば幸いです。

翻訳はソリューションアーキテクト秋田が担当しました。原文はこちらです。