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【自動車業界】車載ソフト開発をクラウドネイティブに ─ dSPACE × AWS で加速する次世代クルマづくり(dSPACE Japan User Conference 2026 で発表)

はじめに

みなさんこんにちは、ソリューションアーキテクト チームリーダーの白石です。2026 年 9 月 17 日に TAKANAWA GATEWAY Convention Center で開催された「dSPACE Japan User Conference 2026」にて、パートナープレゼンテーションとして「車載ソフト開発をクラウドネイティブに ─ dSPACE × AWS で加速する次世代クルマづくり」というテーマで登壇しました。

車載ソフトウェアは発売前に短期間で作り切るだけでなく、発売後も OTA で更新し続けることが求められるようになり、しかも 1 台に載るソフトウェアは大規模化し続けています。その中で、dSPACE のソリューションを AWS 上で動かすと何が変わるのか?この記事では、セッションの内容を解説するとともに、関連する公開事例と技術ブログをご紹介します。

dSPACE Japan User Conference 2026 の AWS セッションの様子。満席に近い会場で、参加者が登壇者とスクリーンに注目している

自動車ソフトウェア開発の 2 つのチャレンジ

自動車ソフトウェア開発のチャレンジは多岐にわたりますが、セッションでは代表的な 2 点を取り上げました。

1 つ目は、OTA (Over-the-Air) による更新が前提になり、発売後も高頻度なリリースが続くため、開発と検証が発売時点で完結しなくなったことです。更新の頻度はメーカーによって大きく異なり、先行するメーカーでは高頻度な更新がすでに常態になっています。

2 つ目は、System of Systems として複雑さが増すことです。クルマの機能を少数の高性能なコンピューターにまとめる流れが進み、ECU の数は減る方向にあります。ある調査会社の Web 記事では、2030 年までに 1 台あたりの ECU が 100 個超から 10 個未満になるという見通しも示されています。一方でソフトウェアの量は増え続けており、2027 年には 1 台あたり 6 億行に達するという予測もあります。より少ないハードウェアの上で、より多くのコードが動くようになります。言い換えれば、ECU の数が減っても検証の負担は減らず、多数の機能を少数の計算基盤に統合するソフトウェアインテグレーションの難易度が格段に上がります。

この 2 つに同時に対応するには、「複雑なものは時間と工数をかけて検証する」という従来の進め方だけでは足りません。セッションでは、これに対して次の 3 つをお伝えしました。

  1. シミュレーションを活用した仮想開発 (Virtual Engineering) は、すでに AWS 上で稼働しており、クルマ開発で利用されている
  2. クラウドに載ると、工程の自動化や作業記録、成果物とエビデンスの保存も仕組みで自動化できる
  3. さらに生成 AI を組み合わせて効率化できる

AWS 上の Virtual Engineering 環境と、プロセス管理・生成 AI の関係を示す図

Virtual Engineering はすでに AWS 上で稼働している

dSPACE のソリューションは、モデルベース開発 (MBD) からデータ駆動開発 (DDD) まで工程全体をカバーしており、特殊なハードウェアを必要とするソリューションを除けば AWS 上で動かせます。dSPACE のソリューションに代表されるような Virtual Engineering は、すでに AWS 上で稼働するようになっています。AWS 上の Virtual Engineering 環境は、大きく 3 つの要素で構成されます。必要なエンジニアリングツールが揃った VDI 環境、ビルドや検証、シミュレーションなどの重い処理を実行するパイプライン、そして開発に使うデータを集約したデータ基盤です。dSPACE のソリューションは、このうち VDI 環境とパイプラインの上で動きます。セッションでは公開事例を 3 つご紹介しました。

VDI 環境、パイプライン、データ基盤の 3 つの要素が改善のループを作る図

  1. トヨタ自動車株式会社 ── VDI 環境
    パワートレーン電子開発部では、dSPACE の TargetLink を含む 20 種類以上の開発ツールを Research and Engineering Studio on AWS (RES) の仮想デスクトップに集約しています。社内のソフトウェア教育では、ツール環境のセットアップが丸 1 日から 15 分に短縮され、200 台以上をまとめて配布・更新・削除しています。量産開発へは本格展開の段階です。(導入事例)
  2. 日産自動車株式会社 ── パイプライン
    Engineering Cloud として CI、機械学習の学習、ソフトウェア評価を AWS 上に構築しています。AWS Lambda による並列処理で、統合 SIL のテスト実行時間をオンプレミス比で 75% 削減しました。(AWS ブログ/導入事例)
  3. 本田技研工業株式会社 ── データ基盤
    AWS 上に構築した Digital Proving Ground (DPG) により、実車を製造する前にクラウド上で設計とテストを行っています。車両データを集めるデータレイクも同じ基盤の上にあります。(プレスリリース/TECH PLAY の記事 前編・後編)

AWS 自身が直接貢献できる部分もあります。車載 ECU と同じ Arm アーキテクチャの AWS Graviton では、Arm 向けのソフトウェアをそのまま動かせます。Graviton 上で仮想 ECU を動かす製品も AWS Marketplace で提供されています。dSPACE とは、dSPACE VEOS で仮想化した ECU と Graviton 上の HPC を接続するコンセプト実証を「AWS における自動車 E/E アーキテクチャのシミュレーション Part 1/Part 2」で公開しています。実機 ECU をつないで検証する HiLS (Hardware-in-the-Loop Simulation) を置き換えるものではなく、その前段における各種検証を充実させる取り組みです。

ここでご紹介した事例で使われている、代表的な AWS サービスは次のとおりです。

AWS サービス 一言解説
EC2 Image Builder ツールをインストールした仮想デスクトップのイメージを作成・更新する
AWS CloudFormation 環境の構築をテンプレートで自動化する
AWS Step Functions ビルドやテストの手順をワークフローとしてつなぐ
AWS Lambda サーバーを用意せずに処理を実行し、多数のテストを並列で回す
AWS CodeBuild ソースコードのビルドとテストを実行する
Amazon Elastic Container Registry (Amazon ECR) ビルド環境や実行環境のコンテナイメージを保管する
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) シミュレーションなど重い処理の計算資源を必要なときに用意する。Graviton による Arm 環境も選べる
Amazon SageMaker AI 機械学習モデルの学習を実行し、マネージド MLflow で学習条件と結果を管理する
Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) 車両データや検証結果などを大容量で保管する
Amazon Redshift 集めたデータを分析するデータウェアハウス
AWS Direct Connect 拠点やテスト車両から大量のデータを専用線で AWS に送る

クラウドに載ると、工程と記録も自動化できる

開発・検証環境が AWS 上にあることの利点は、速さだけではありません。データと成果物 (アーティファクト) が同じ場所に揃うため、次のことを仕組みとして自動化できます。

  • 工程の自動化: ビルド、テスト、学習をパイプラインとして自動で回す。日産自動車の CI 自動化はその一例です
  • 作業記録の自動化: どの版を、どの入力で実行し、どんな結果になったかが、実行と同時に残る
  • 成果物とエビデンスの保存: コード・データ・環境を分けて保存し、同じ実行条件を後から再現できる

dSPACE Japan との共著ブログ「dSPACE と AWS で実現する自動運転 AI 開発の効率化」では、dSPACE RTMaps と IVS によるデータの収集・整備、Amazon SageMaker AI とマネージド MLflow による学習、dSPACE の SiLS (Software-in-the-Loop Simulation)/HiLS による検証を 1 本のパイプラインにつないだ実装を紹介しています。検証結果をデータ条件やモデル情報と結び付け、データセットの見直しへ戻せるため、改善のサイクルが閉じます。

OTA で更新を続けるなら、過去の版を「どの条件で、どう検証したか」引けることが前提になります。ただし、これでトレーサビリティが完成するわけではありません。紐付けるべきデータが揃い、何を証跡とするかを各社の運用で決められるようになります。こうした取り組みはすでに先行する事例が出てきており、これから多くの企業で活用されていくと考えています。

生成 AI でさらに効率化する

データとツールが AWS 上に揃っていると、生成 AI が読める対象が 1 か所にまとまります。こちらも実装例が出始めた段階です。

ツール操作と設計書の自動化

共著ブログ「生成AIで開発ツール操作を自動化 – Kiro × MCP Server × dSPACE ControlDesk」では、Kiro に自然言語で指示すると、dSPACE ControlDesk を操作する Python コードと、その設定を記録した設計書が同時に生成される PoC を紹介しています。dSPACE 社のドキュメントを扱う際の設定を含め、詳しくはブログをご覧ください。

AI 駆動テストオートメーション(会場デモ)

会場のブースでは、生成 AI がテスト仕様書からテストケースを作り、VEOS と ControlDesk で実行し、その結果からテストケースを改善するループを展示しました。生成 AI でテストケースを生成し、実行と合否の判定はツールが担います。詳細は別の記事でご紹介する予定です。

おわりに

このブログでは、dSPACE のソリューションに代表される Virtual Engineering を AWS 上で動かす意義を、3 つに分けてご紹介しました。Virtual Engineering を AWS 上で稼働させることは、すでに各社で実用化されています。一方で、工程と記録の自動化や、生成 AI との組み合わせは、これから広げていく領域です。dSPACE と AWS は、この領域にお客様と一緒に取り組んでいきたいと考えています。

ご関心のある方は、お近くの AWS のアカウントチームまたは AWS for Automotive までご連絡ください。

本セッションの資料作成にあたり、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの丹羽 伸二、衣笠 昭弘、畔柳 竜生、長谷川 仁志、山田 遼太、髙橋 佑介、Senthil Sena、保木本 祐二の協力を得ました。また、登壇の機会をいただいた dSPACE Japan 株式会社の皆様に感謝いたします。

著者

白石 真一 (Shiraishi, Shinichi)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
グローバル自動車・製造事業本部 ソリューションアーキテクト チームリーダー。自動車 OEM で AD/ADAS・コネクテッドカーの車載ソフトウェア開発に 15 年以上従事し、2022 年より現職。博士(工学)。