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「フィジカル AI 開発支援プログラム by AWS ジャパン」最終成果発表会を開催しました

2026 年 8 月 31 日、AWS ジャパンは「フィジカル AI 開発支援プログラム by AWS ジャパン」の最終成果発表会を AWS 麻布台ヒルズオフィスで開催しました。1 月 27 日に発表し、51 社 (うち半数以上がスタートアップ) を採択、3 月 3 日のキックオフから約 6 ヶ月支援してきました。

最終成果発表会の会場

6 ヶ月をふりかえって

プログラムでは、フィジカル AI 領域スペシャリストによる技術支援、コスト最適化支援、ロボティクス・生成 AI コミュニティ形成、Go-To-Market 支援の 4 つの柱で参画企業への支援を行いました。アマゾングループが世界 300 以上の施設で約 100 万台のロボットを運用してきた経験も、この 4 つの柱の設計に反映しています。

技術支援の中心は、アカウント担当とスペシャリスト Solutions Architect (SA) チームによる個別の伴走です。週次の定例を設けたり、開発の現場まで伺った企業もありました。あわせて Prototyping & AI Customer Engineering (PACE) チームによるプロトタイピング支援やサンプルコード Physical AI Scaffolding Kit (PASK) の公開、生成 AI イノベーションセンター (GenAIIC) による支援も進めています。

コスト最適化の面では、開発の初期段階での試行錯誤がしやすいよう総額 600 万 US ドル規模の AWS クレジットをご用意しました。

コミュニティ形成では、Physical AI on AWS のアーキテクチャNVIDIA Robotics Solutions、グローバルトレンドとロボットに関する勉強会と、コミュニティミートアップを開催しました。

Go-to-market の面では、AWS Summit Japan 2026 でのデモ展示など、採択企業の露出と連携の機会づくりを行いました。参加企業からは、AWS 経由で紹介した顧客との商談につながったという声もいただいています。

以下では、8 月 31 日最終成果発表会について、第一部 (記者向け成果発表会)・第二部 (参加企業向け成果発表会) にわけて紹介します。

記者向け成果発表会

冒頭、AWS ジャパン 代表執行役員社長の白幡 晶彦が登壇し、プログラムを総括しました。

AWS ジャパンは、日本への投資を「技術」「信頼性」「人と社会」の 3 本柱で進めており、本プログラムはその 1 つ目である技術への投資の中核にあたります。今年 1 月には「日本のために、社会のために、その先へ」という目標を掲げました。日本はロボティクスで世界をリードしてきており、ハードウェア設計、精密制御、製造技術には数十年の蓄積があります。この強みに生成 AI を掛け合わせることが日本にとって最大の機会であり、世界に対する最大の競争力になる。この領域は日本政府も重要施策のひとつとして位置づけており、AWS はクラウドでフィジカル AI の実用化を支えていると話しました。

そのうえで、フィジカル AI による日本の社会課題解決に不可欠な要素を 3 つ挙げました。1 つ目はスピードです。採択した 51 社のうち半数以上がスタートアップで、完璧な計画を立ててから動くのではなく、仮説を立てて試し、学んで改善するサイクルを高速に回す機動力が社会実装を牽引しています。ハードウェアの開発から手がける企業も複数ありました。2 つ目は現場の力です。テクノロジーだけでは現場で役に立つロボットは生まれません。物流や建設、製造の現場で数十年にわたり蓄積されてきた知見とデータ、そしてスケールが、スタートアップの機動力と組み合わさることで一気に前へ進みます。3 つ目はクラウドです。基盤モデルの学習、大量のデータの収集と前処理、何百通りものシミュレーションを並列で走らせることをオンプレミスだけで行うのは、時間もコストも現実的ではありません。必要なときに必要な規模の計算資源を確保できることは、フィジカル AI の開発において選択肢のひとつではなく不可欠である、と述べました。

最後に「日本発のフィジカル AI イノベーションが、ここから生まれることを期待しています」と締めました。

AWS ジャパン 代表執行役員社長 白幡 晶彦

各社の取り組み

13 プロジェクト・14 社が成果を発表しました。以下社名 敬称略、五十音順。文中の専門用語と固有名は末尾の注釈にまとめています。

株式会社アトム — 日本発のヒューマノイドメーカーを目指すスタートアップです。歩行と全身の制御をシミュレーター※1 の上で学習させ、実機で通常歩行と早歩きを確認しました。あわせて、人が遠隔操作した動きを記録し、そのデータから研究開発用途の自社モデル※2 を学習させて、荷物の仕分け作業などで一定の精度に到達。人の視点で撮影した映像のみを用いる学習は難航しましたが、遠隔操作のデータに加えることで学習が進むことを確認し、現在その精度を検証しています。8 月 28 日には物流作業を対象に 24 時間の連続稼働デモを実施しました。AWS は計算リソースの計画と提供、フィジカル AI チームとの技術ディスカッションで支援しています。今後は 200 台規模のロボットと 30 万時間のデータ、数十億パラメーターの基盤モデルという規模で、台数・データ量・モデルの規模を増やせば性能が向上するのかを検証する計画です。同社はこれを、日本で初めてのロボット基盤モデルのスケーリング則の証明と位置づけています。

オムロン サイニックエックス株式会社 — オムロングループで先端技術の研究開発を担う会社です。今回は、フィジカル AI の土台にあたる研究の成果を発表しました。現在のフィジカル AI 開発では、AI の能力評価、動作データの準備、大規模モデルの構築に多くの人手と計算資源が必要です。そのハードルを下げるため、「理解・行動・振り返り」に対応する 3 つの成果を示しました。1 つ目は、AI がどの程度まで動画を正しく理解できるかを測る評価用ベンチマークの開発です。規模の大きいモデルでも時間の前後関係を取り違えやすく、しかも自身が生成した誤りには気づけないことが明らかになっています。2 つ目は、規模の小さいモデルでも言葉を理解する能力を活かしてロボットを動作させる手法。3 つ目は、動作中の失敗をその場で検出して理由を出力し、その失敗を活かして精度を自己改善する仕組みです。この 3 つは「状況を理解する」「行動を生成する」「振り返る」という一連のループの各工程に対応しており、ループとしてつなぐことで動作の精度が自ら上がり、モデルの軽量化によって速く安く回せるようになる、という構想が示されました。AWS からは高性能な GPU リソースの提供と、AWS 環境を利用するための補助 (コンソールの操作ガイド、GPU をまとまった期間確実に予約できる Amazon EC2 Capacity Blocks for ML の活用提案) を受けており、約 3 ヶ月の利用を通じて特許・論文を 3 件投稿しました。インスタンスの確保からセットアップまでを通した支援やガイダンスの充実があれば研究開発をさらに加速できる、という要望もあわせて示されました。

株式会社ZEALS — ヒューマノイド本体から専用のソフトウェア基盤、動作用のモデルまでを自社で開発するスタートアップです。3 月の採択時点ではソフトウェアに特化し、他社製の機体を活用していました。現場のデータを取得するには現場に入れる身体が必要ですが、日本の狭い廊下を通れ、人と同じ空間で安全に動き、現場が導入できる価格の機体は、当時中国にもアメリカにも見つからず、自社開発に踏み切りました。8 月にローンチした準国産コンパクトヒューマノイド「D1」は、全高 129.3〜159.3cm、走行ベース幅 48cm で、2 本の腕を備えます。機体に加え、会話や自律移動を支える「Omakase OS」、物の操作を担う AI と学習・改善を支えるモデル・データ基盤「Omakase Zen」を揃え、現場データの収集から学習・評価、現場への再投入までを回す土台が整いました。AWS はモデル開発に使うデータ処理基盤の構築、学習の分散処理への対応、データ変換の高速化を支援しており、データ変換は 10 倍に高速化しています。発表会の直前には病院で 3 日間の実証を行い、自律移動、受付前での案内、配茶機の操作、ドアの開閉を D1 が実行しました。2026 年度は販売台数ではなく現場での稼働時間を指標に置き、100 台の量産と 10,000 時間の稼働を掲げました。

株式会社ダイフク・株式会社JDSC — 物流現場の完全無人化に向けて、マテリアルハンドリングのリーディングカンパニーと、AX・データ活用を手がける企業が共同で取り組みました。物流では入荷から出荷まで各工程に人の判断と手作業が残っており、加えて事前に登録したものしか扱えず、品目が変わるたびに設定を作り直す必要があることが、完全無人化の障壁の一つになっています。今回取り組んだのは、ロボットの基本動作と安全条件をあらかじめ用意しておき、作業手順は事前に定義しない方式です。「棚 A の 3 段目に品を 2 個補充して」という作業者の言葉を AI がその場で作業単位に分解し、各段階で成否を判定して失敗した部分のみを再実行します。学習は Amazon SageMaker AI、検証済みアセットの展開は CI/CD で自動化し、シミュレーションでの検証サイクルを高速に回す構成を AWS 上に構築しました。検証では、指示に沿って仕分け先を判断するタスクを対象に、シミュレーション環境において、学習していない商品と仕分け先の組み合わせでも 100 回中 97 回、適切な仕分けまで成功しました。物流における完全無人化の実現に向け、今後は実機での検証を含むフィジカル AI の研究開発を進めていきます。

株式会社竹中工務店 — 日本建設業連合会の長期ビジョンでは、建設業の技能労働者が 2035 年度に 129 万人不足すると見込まれる一方、建設投資額は拡大が見込まれています。この人手不足を補う手段のひとつとして、建設業に特化したモデル※2 を開発し、塗装作業への適用可能性を検証しました。難所はデータでした。建設現場で使う道具の 3D データが存在しないため、道具の 3D データを自社で用意し、実際の現場を撮影した映像から三次元で再現したデータと組み合わせて「壁をローラーで塗装する」作業の学習データを構築しています。遠隔からデータを収集できる環境も整えました。AWS 上に構築したシミュレーション環境のなかに、収集から公開モデル※3 の調整、検証までを一貫して行う仕組みを構築しました。シミュレーション上での塗装動作 (物体操作の部分) の精度は現時点で 10〜15% 程度で、移動をともなう動作は検証中です。残る課題は、学習データが不足していて収集も難しいこと、そして検証と、シミュレーションで学習した動きを実機で通用させること※4 です。今後は建設技能労働者を支援するロボットの実現に向けて、言語モデルを介した人とロボットの会話にも取り組む方針です。

Telexistence 株式会社 — ロボットの基盤モデルを自社で開発するスタートアップです。基盤モデルには、言語モデルを土台にする方式と、動画生成モデルを土台に世界の動き方そのものを学習する方式※5 の 2 系統があり、同社は両方を開発しています。今回は後者を実機に載る形で確かめるため、10 億パラメータの軽量なモデルを自社開発しました。Amazon の研究チーム (Frontier AI & Robotics) の成果も取り込んでいます。AWS 上には、データの蓄積から学習、構成とデータの指紋を記録して再現性を担保するチェックポイント管理、学習を止めずにシミュレーション上で性能を測る評価までをつないだ仕組みを構築。設計の異なるモデルを同時に学習させ、条件を揃えて比較できるようにしたことが検証速度に直結したとのことです。結果として、大量のロボット動作データによる事前の学習を経ていない自社モデルの成功率が 86% となり、事前学習を済ませた公開モデル※6 の 80%、同じモデルを事前学習なしで初期化した場合の 50% に対して、事前学習済みのモデルと同等の水準に到達しました。大量のロボット動作データに依存せずに動作するモデルを構築できれば、開発の初期投資を抑えられます。

株式会社野村総合研究所 — フィジカル AI という言葉が広まる前からロボティクスに取り組んでおり、環境や用途に応じて適切な技術を選定できることを強みに挙げています。2025 年 10 月から 12 月には成田空港にお土産販売のロボット店舗を出店し、完全無人での販売を実施した実績があります。今回は 3 つのアプローチを並行して探索しました。実機を使った学習ではペットボトルのピッキングに成功。実環境を再現したシミュレーションで学習させて実機を動かす手法※7 では、映像の質感が実環境と異なるという課題を改善し、シミュレーション上で学習したモデルで実機を動かせる可能性が見えています。3 つ目は人の一人称視点で作業を記録したデータを用いる方法で、人の作業データからロボットのモデルを構築できることを確認しています。将来的には、現場スタッフの作業データによってロボットを導入できる状態を目指しています。データ収集からチーム内でのデータ共有、モデルの訓練と評価までを AWS 上に構築し、必要な計算資源を短期間で確保できたとのことです。

株式会社Highlanders — 四足歩行ロボットとヒューマノイドを、機体から AI、量産までを一体で開発する 2023 年創業のスタートアップです。危険・過酷な現場の「移動」を四足歩行ロボット「HLQ PRO」で置き換え、その先の「作業」をヒューマノイド「N」で担う二本立ての事業を掲げ、機械設計、電装・制御、通信・クラウド、AI、量産・品質までを同じチームで手がけています。今回は、自社開発のモデル「Kepler」を支える一連の仕組みを AWS 上に構築しました。「Kepler」は、ロボットが周囲を捉えて次に起きることを予測し、行動を決める 100 億パラメータのモデルで、じっくり計画を立てる層と素早く反応する層を組み合わせ、量産で集まるデータをもとに自ら改善していく構成です。AWS 上には、遠隔操作などで生まれる大量のロボット動作データを集約して整える処理、実機での収録だけでは足りない例外的な状況をシミュレーター※1 の並列実行で補って学習用のデータを生成する処理、AWS ParallelCluster による大規模な GPU クラスタでモデルを学習させる処理までをつなぎ、学習を 24 時間 365 日動かし続ける体制を実現しています。構築にあたっては AWS の Solutions Architect とフィジカル AI の専門チームが議論に加わりました。あわせて 2026 年 6 月 25 日・26 日の AWS Summit Japan では、四足歩行ロボット「HLQ PRO」の実機による実演デモを行いました。

FastLabel 株式会社 — AI 開発用のデータを専門に扱う会社です。フィジカル AI でも、学習データを増やせば性能が伸びるという関係が示されつつありますが、ロボットを実際に動かして集めるデータは容易には増やせません。そこで、シミュレーター※1 上で作成した少量の動きのデータを大量に増やし、実データと混ぜて学習データセットを作る仕組みを構築し、その効果を検証しました。遠隔操作により作成した 90 パターンの動きを約 100 倍に拡張し、不正な動作や失敗を除いて 10,000 パターンを取得。シミュレーション上で条件をランダムに変えることで、規模だけでなく多様性も確保しました。実データのみで学習した場合と比べ、データを収集した環境での作業成功率が平均 14.2% 向上し、データを収集した環境とは異なる環境でも、対象物に手を伸ばす動作の達成率が改善して汎化性の向上が確認されています。学習したときの環境から条件が変わると精度が落ちるという、現場導入の障害となる課題に対して改善が見られたことになります。一方で、シミュレーションデータの量が最も多い条件では成功率が下がっており、シミュレーション環境への過適合の可能性が残るとして、現在も分析と検証が進められています。データ構築の費用と性能の関係も定量化され、シミュレーションによってデータ収集のコストを下げられる可能性が示されました。学習は AWS 上の GPU インスタンスで行い、AWS からはシミュレーション技術の知見と計算リソースの提供を受けています。

株式会社豆蔵 — システム工学・ソフトウェア工学・ロボット工学を強みとし、ソフトウェアから AI、機構、電気までを自社で手がける技術者集団です。産業向けに開発してきた「ヒューマノイドロボットでの板金整列アプリ」について、これまで対応できていなかった 2 つのテーマに取り組みました。上半身は、遠隔操作で 359 パターンの動きを収集してモデル※2 に学習させました。ただし映像だけを頼りにした制御では衝突が発生したため、力の強さを測るセンサーを使って柔らかく当てる制御を追加しています。無作為に積まれた部品から 1 枚を取り出す動作はモデルでは成功率が低かったため、取り出しは従来のプログラム、整列はモデルという分担にして、整列の成功率は板金の上下整列で 85%、左右整列で 80% を達成。下半身は、メーカー標準の制御では実現できなかったしゃがみ動作・前傾動作を、シミュレーション上での強化学習によって独自に実現しました。全身の制御も、作業に必要な 10 の関節に絞ることで 43 パターンの動きで実現しています。全身の関節すべてを使って同じことを行う場合には一般に 2,000 パターン以上が必要とされる (NVIDIA Isaac GR00T の FAQ による目安) ので、学習に必要なデータを大幅に減らせたことになります。公開モデル※3 の調整は約 8 時間、下半身の強化学習は約 32 時間で、いずれも AWS 上の GPU インスタンスで回しました。すべてをモデルで解決せず、従来のプログラムと相互に補完するハイブリッド構成が現実的だという結論は、産業での実用を前提に置いた発表でした。

株式会社MW — 住宅そのものを開発し、そこに AI とロボットを組み込む会社です。照明やエアコンの制御は同社のスマートホーム基盤「MW intelligence」によって自動化できていますが、物理的な作業をともなう家事は依然として人の時間を奪っています。ここを自動化するために開発しているのが、住宅に組み込むガントリー型の半人型ロボット「MW bot」です。人のように動きながら、家具のように暮らしに溶け込みます。家事は手順の決まっていない非定型の作業なので、そのためのモデル※2 を自社で開発しています。データ収集の専用拠点を設け、年間 5 万時間規模の家事データの収集を開始しました。最終的には 2.5 PB の学習データを集める予定です。本プログラムではモデルの追加学習までを実施し、日次で集まるデータを Amazon S3 に蓄積し、Amazon SageMaker HyperPod で学習したモデルを実機で検証して次の学習に戻す循環を構築しています。今後は大量の学習データの管理と、大規模なモデル学習の面で AWS との連携を深めていく方針です。

株式会社メルカリ — 越境取引の拡大にともない、海外へ発送する商品をいったん国内の自社倉庫に集めて検品する作業が増え続けています。検品は倉庫の他の工程に比べて約 10〜60 倍の時間を要し、ロボットを投入したときの効果が最も大きい工程です。今回はこの検品・出品作業の自動化に取り組みました。いまのロボットを動かすモデル※2 には、力加減の制御が難しい、カメラの位置が変わると精度が落ちる、学習データを集めるのが困難という 3 つの限界があります。それぞれに対して、力の強さを測るセンサーと触った感触を捉えるセンサーをモデルに統合する、どの位置から撮った映像でも学習したときの視点に投影しなおしてからモデルに入力する、力加減や触感も一緒に記録できる専用の収集機器で人の作業を取り込む、という 3 つの手法でモデルの開発に取り組んでいます。まずは同じカテゴリのなかでばらつきが小さい靴の検品に注力し、箱を開けて靴を取り出し、全面を確認して戻し、箱を閉じて元の位置に戻すまでの 9 工程を対象としました。学習は AWS 上の分散学習で進め、立ち上げをスムーズに行えたとのことです。靴の検品については 2026 年度中の実証実験に向けて製品設計を進めている段階で、2028 年には自社倉庫の約 20% を自動化し、社内コストを年間最大 2 億円削減する計画です。

株式会社リコー — 現場の文書の AI 化から始め、定型業務、非定型業務へと AI の適用範囲を広げ、その 4 段目として現場作業への実装を掲げています。課題として置かれたのは、ロボットの行動データが質・量・多様性のいずれの面でも不足していること、さらにロボットの機種 (アーム型や人型など本体の構成) が変わるたびにデータ収集と学習を繰り返す必要があり、それが規模の拡大と普及の足かせになっている点でした。そこで、公開されているモデルを土台に、機種に依存しない共通の動作表現をいったん学習し、機種ごとに差し替えるのは出力側だけにする方式を検証しています。AWS 上に GPU サーバー 5 台の学習環境を構築し、1 回の試行を約 4 日、モデル改良を週 1 サイクル回せる体制を確立しました。結果として、ひとつの共通表現をもとに 3 種類のロボットをシミュレーション上で動作させられることを確認し、うち 1 機種は実機でも自社部品のピックアンドプレースを実行できることを確認しました。あわせて公開ベンチマークでの評価では、モデルの規模※8 を約 3 分の 1 に抑えても性能が保たれることを示しました。同じ性能を小さなモデルで出せれば、ロボット側に載せる計算資源の選択肢が広がります。本プログラムでの実施範囲は技術の蓄積までで、共通の動作表現を用いたモデルの使いこなしと改良のノウハウを獲得した段階です。今後は自社工場での事例づくりを進めたうえで、お客様との共創に移り、自社とお客様の環境に適したハードウェアへ広げていく方針です。

注釈

  • ※1 シミュレーター: NVIDIA Isaac Sim / Isaac Lab。ロボットと現場をソフトウェア上に再現し、実機を損傷させずに大量の試行を行える環境です。アトムはこれに MuJoCo を併用しています。
  • ※2 ロボットを動かすモデル: 正式には Vision-Language-Action (VLA) モデル。カメラの映像と人の言葉を受け取り、ロボットの動きを直接出力するモデルを指します。
  • ※3 公開モデル (竹中工務店・豆蔵): NVIDIA Isaac GR00T。NVIDIA が公開しているロボット向けの基盤モデルで、各社が自社の作業に合わせて調整のうえ利用します。
  • ※4 シミュレーションで学習した動きを実機で通用させること: Sim2Real と呼ばれます。シミュレーション上では成功しても、摩擦や照明などの条件の違いにより実機では動作しないことが多く、フィジカル AI 共通の課題です。
  • ※5 動画生成モデルを土台に世界の動き方そのものを学習する方式: World Action Model と呼ばれる系統で、Diffusion Transformer と呼ばれる構造を用います。言語モデルを土台にする方式と比べ、時間の流れを扱いやすい一方で、推論にかかる計算コストが大きくなります。
  • ※6 事前学習を済ませた公開モデル (Telexistence): Physical Intelligence の π0.5。大量のロボット動作データで事前に学習された基盤モデルです。
  • ※7 実環境を再現したシミュレーションで学習させて実機を動かす手法: real2sim2real と呼ばれます。
  • ※8 モデルの規模: パラメータ数で表します。今回は共通の動作表現を用いない 70 億パラメータのモデル (81.3pt) と、20 億パラメータのモデルに共通の動作表現を加えたもの (81.5pt) を、ロボット操作の公開ベンチマーク LIBERO-10 で比較しています。

総括

13 プロジェクトの発表のあと、AWS ジャパン プリンシパル スタートアップ ソリューションアーキテクトの針原 佳貴がまとめを話しました。

AWS ジャパンの生成 AI 開発支援は、2023 年に日本のスタートアップから「日本語に特化した基盤モデル・大規模言語モデルを自社で開発したい」という声を受け、4 つの柱で LLM 開発支援プログラムを立ち上げ、国内 17 社のモデル開発を支援したことから始まりました。その後、モデル開発だけでなく利活用を支援する生成 AI 実用化推進プログラムやグローバルのアクセラレータでも支援を行い、並行して経済産業省 GENIAC に採択されたお客様の基盤モデル開発を支えるなど、官民で連携した取り組みを続けてきました。

フィジカル AI 開発支援プログラムは、その延長線上にあります。昨年秋ごろからスタートアップの皆様と話すなかで、日本にも画像や動画を扱う基盤モデルの開発実績があり、現場のデータを使えば国産の VLA を作れるのではないか、ただしスタートアップ単独では難しいので AWS からの支援があると嬉しい、という声をいただいたことが出発点でした。お客様のニーズから逆算してプログラムを設計し、1 月に発表、3 月から半年間の開発を進めてきたことになります。プログラム期間中に AWS 社内でもフィジカル AI のワークロードを支援する体制が手厚くなったため、今後は生成 AI 実用化推進プログラムの枠組みのなかでフィジカル AI の支援を続けていきます。

AWS ジャパン 針原 佳貴によるまとめ

閉会後は、ロボット展示会場へ移動しました。展示したのは 2 機です。ZEALS の準国産コンパクトヒューマノイド「D1」は、病院・商業施設・物流施設・製造現場などへの導入を前提に設計された機体で、日本の病院の廊下を通れるコンパクトさと、人がぶつかっても安全な柔軟さが特徴です。Highlanders のヒューマノイド「N」は、人向けの設備や道具をそのまま扱える身体と 5 指ハンドを備え、製造や物流の現場での軽作業を想定しています。いずれも動作に必要なデータ処理とモデル開発に AWS のクラウドをご活用いただいています。

ロボット展示会場

参加企業向け成果発表会

参加企業向けの成果発表会では、冒頭 AWS ジャパンの針原と、経済産業省 商務情報政策局 AI 産業戦略課 課長補佐の秋元氏による挨拶の後、AWS ジャパンの木村がモデレーターを務め、以下の企業の成果が発表されました。以下社名 敬称略、五十音順。

  1. 株式会社アイシン/ブレインズテクノロジー株式会社
  2. 株式会社ACCESS
  3. 株式会社APTO
  4. SCSK株式会社
  5. 株式会社Enactic
  6. 株式会社カミナシ
  7. カラクリ株式会社・Upstage Co., Ltd.・株式会社ジェイテクト
  8. クラスメソッド株式会社
  9. 大日本印刷株式会社
  10. 株式会社PKSHA Technology
  11. 株式会社MIXI
  12. 三菱電機株式会社
  13. Muso Action株式会社
  14. 株式会社メルカリ

得られた知見

3 月のキックオフの時点では、現場のデータを使って国産の VLA を作れるのか、作れたとして現場で使えるのかが、まだ見通せていませんでした。第一部の発表を通して見えたことを、白幡が挙げた 3 つの要素に沿って整理します。

まずスピードです。アトム、ZEALS、Highlanders、MW と、自社ハードウェアの開発から取り組んだ企業が複数ありました。ZEALS は 3 月時点では他社製の機体を活用していましたが、8 月に「D1」をローンチし、発表会の直前には病院での実証まで行いました。アトムは発表会の 3 日前に、物流作業で 24 時間の連続稼働デモを実施しています。速く回すには、安く早く測れることが前提になります。オムロン サイニックエックスは動作中の失敗をその場で検出して次の動作に反映するループを設計し、Telexistence は設計の異なるモデルを同時に学習させて条件を揃えて比較できるようにしたうえで、学習を止めずにシミュレーション上で評価を回す仕組みを組みました。FastLabel はデータ構築の費用と性能の関係まで定量化し、リコーは 1 回の試行を約 4 日に収めてモデル改良を週 1 サイクル回せる体制を作りました。何を測れば「できた」と言えるのかを先に決めて評価側を作り込むことが、複数の発表で共通していました。

次に現場の力です。技術だけでは足りないという認識が、具体的な形で出てきました。竹中工務店は、建設現場で使う道具の 3D データが世の中に存在しないという壁にぶつかり、自分たちで用意しています。メルカリは自社倉庫を実証環境として使い、他の工程の約 10〜60 倍の時間がかかる検品を対象に選びました。そして AI だけで解こうとしない判断も共通していました。ロボットの基本動作と安全条件を用意したうえで、手順の組み立てと各段階の成否判定をモデルに任せたダイフク・JDSC、古典的なロボット制御と AI を組み合わせて従来は難しかった柔軟な作業に取り組んだ野村総合研究所、取り出しは従来のプログラム・整列はモデルという分担にした豆蔵。とくに豆蔵は、学習した環境と実際に動かす環境が同じでないと成功率が落ちる、対象物がカメラから見えなくなると動作が破綻する、複数の作業を学習させると成功率が下がるといった限界を挙げたうえで、90 点でも許される作業やリトライできる作業がモデルに向く、という切り分けの基準まで示しました。どこを学習に任せ、どこを作り込み、どうつなぐかが、そのままシステムの構成を決めます。

そしてクラウドです。計算の規模で制約を押し返した例が並びました。Telexistence は複数 GPU での分散学習で軽量モデルを学習させ、FastLabel は 90 パターンの動きを 10,000 パターンに拡張してタスク成功率を平均 14.2% 改善しました。MW は年間 5 万時間規模で集まる家事のデータを日次で蓄積して学習に回す循環を組み、リコーは GPU サーバー 5 台の学習環境で 1 試行を約 4 日に収めています。必要な規模を必要なときだけ確保する使い方も見られ、オムロン サイニックエックスは GPU をまとまった期間確実に予約できる仕組みを使って 3 ヶ月分の計算資源を確保しました。

3 要素の外側では、コミュニティが具体的な成果につながりました。野村総合研究所からは、勉強会での最新情報の共有が助かったという声をいただきました。豆蔵は、類似の取り組みを行う参加企業とのコミュニティが形成されて情報交換ができたこと、相互に得意分野を活かした協業関係の構築が進んでいること、AWS から紹介した顧客との商談につながったことを挙げています。

これから

フィジカル AI の開発支援は今回で終了ではありません。お客様からいただいたご要望を踏まえ、生成 AI 実用化推進プログラムに統合して引き継ぎます。

3 月のキックオフイベントで、私たちは日本発のフィジカル AI イノベーションが生まれる大きな可能性があるとお話ししました。6 ヶ月後の今日、第一部と第二部をあわせて 26 のプロジェクトと、実際に現場で動くロボットを紹介できることとなりました。ものづくりと現場の技術に生成 AI を掛け合わせるという道筋が見えたことが、このプログラムの成果です。AWS は引き続き、日本のお客様とともにこの領域に取り組んでまいります。

参加企業の皆さまとの集合写真

関連リンク


木村 公哉(Kimura, Koya)

木村 公哉(Kimura, Koya)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
スタートアップ事業本部 技術統括部
シニアスタートアップソリューションアーキテクト

2023 年よりディープテックスタートアップを担当。支援プログラムの立ち上げなどに尽力し、2025 年よりフィジカル AI をはじめとしたロボティクス関連領域にも支援を拡大。2026 年 1 月に「フィジカル AI 開発支援プログラム by AWS ジャパン」を発足。VC・政府とのディスカッションを通じ、フィジカル AI・ディープテック領域のエコシステム形成にも取り組んでいる。

針原 佳貴(Haribara, Yoshitaka)

針原 佳貴(Haribara, Yoshitaka)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
スタートアップ事業本部 技術統括部
プリンシパル スタートアップ ソリューションアーキテクト

AWS Japan にて、ユニコーン企業を含む生成 AI スタートアップ企業を中心に 2019 年頃から技術支援を担当。2020 年よりマルチモーダル生成 AI 技術に携わり、生成 AI 大喜利「写真で一言 ボケて電笑戦」を企画・開催、広告賞である ACC ブロンズを受賞。2023 年の「AWS LLM 開発支援プログラム」立ち上げ、2024 年に発表された Amazon Bedrock Marketplace への日本発の基盤モデルのクラウド公開、2026 年発表の「フィジカル AI 開発支援プログラム」などを通じて、日本国内の生成 AI 技術発展に携わる。

生成 AI 分野に加え、日本におけるクラウド量子コンピューティングサービス Amazon Braket の普及や、量子スタートアップ・ハードウェア開発コミュニティとの連携により国産量子コンピュータのクラウド公開にも尽力。2024 年 11 月より、大阪大学 量子情報・量子生命研究センター 招へい准教授。東京大学 大学院 情報理工学系研究科 博士課程修了。博士 (情報理工学)。