Amazon Web Services ブログ
【開催報告】AWS Summit Japan 2026 物流業界向けブース展示「スマートグラス×生成AIエージェントで倉庫業務を革新」
こんにちは、ソリューションアーキテクトの田邊です。2026 年 6 月 25 日から 26 日にかけて幕張メッセで開催されたAWS Summit Japan 2026の AWS for Industries Zone(ブース番号 044 )にて、スマートグラスと生成 AI エージェントを組み合わせた倉庫ピッキング支援デモを展示しました。本ブログでは、展示内容とその裏で動いている AWS サービス構成を、デモの体験に沿ってご紹介します。
背景:倉庫ピッキング業務の課題
倉庫のピッキング業務は物流オペレーションの中でも人手に依存する割合が高く、ハンディターミナル(専用の携帯端末)の導入は進んでいるものの、以下のような課題が現場に残っています。
- 両手が塞がる: 商品を持つ・置く動作と端末操作が競合し、重量物のハンドリング時に効率が落ちる
- 視線の移動: 端末画面と棚を交互に見る必要があり、ピッキングミスや作業テンポの低下につながる
- 教育コスト: 新人・パート作業者が端末操作や棚配置を覚えるまで時間がかかる
- 多言語対応: 外国人作業者が増える中、日本語のみの指示系統ではオンボーディングに時間がかかる
これらの課題に対して、スマートグラスと生成 AI エージェントを組み合わせ、「見るだけ・話すだけ」で業務システムにアクセスできる新しい業務体験を提案するデモを企画しました。
デモの全体像
今回のデモでは、倉庫のピッキング業務を題材に、スマートグラスと生成 AI エージェントによるハンズフリー業務支援を紹介しました。特徴は以下の2点です。
1. 音声だけで完結する業務システム操作
- 「ピッキングリストをください」と話しかけるだけで、倉庫管理システム( WMS )から作業リストを取得し、音声で案内
- 商品の QR コードをスマートグラスでスキャンするだけで、ピッキング完了が自動で記録
- 端末画面のタップは不要。両手で商品を扱いながら業務を進められる
2. 自然な多言語対話
- Amazon Nova 2 Sonic により、人と話しているような低遅延で自然な音声対話を実現
- 英語・スペイン語・ドイツ語・フランス語・イタリア語・ポルトガル語・ヒンディー語に対応(話した言語を自動判定して同じ言語で応答)
- 商品の取扱注意など業務ナレッジも、社内マニュアルから探して読み上げ
使用したスマートグラス
本デモでは、Android を搭載したスマートグラス 2 機種を用意し、来場者に体験いただきました。両機種とも AI エージェントと対話するアプリを単体で動作させることができ、それぞれ形状・視認性・装着感に特徴があります。
Vuzix M400 — Android11 を搭載し単体で動作するモノキュラー(単眼)型のスマートグラスです。1,280 万画素のカメラでバーコード読み取りに対応し、本体 68 g、IP 67の防水防塵性能で倉庫環境にも適しています。ノイズキャンセリングマイクを搭載しており、周囲に環境音がある現場でも音声を正確に拾うことができます。
RayNeo X3 Pro — Android を搭載したフルカラー MicroLED ディスプレイを持つ眼鏡型のスマートグラスです。バーコード読み取りに加え、音声・映像を組み合わせたマルチモーダルな対話に対応します。輝度 6,000 ニットの高い視認性で、明るい場所でも表示内容がしっかり見えます。装着感が眼鏡に近く、より日常的なユースケースにも馴染むデザインです。
なお、本デモのアプリは Android で動作する仕組みのため、Vuzix・RayNeo に限らず、Android 対応の他のスマートグラスやタブレット・スマートフォンでも同様の体験を実現できます。
アーキテクチャ構成
デモのアーキテクチャは以下のような構成になっています。
スマートグラス上の Android アプリはシンプルな役割に絞り、会話の理解・業務データの取得・回答生成といったロジックはすべてクラウド側の Amazon Bedrock AgentCore Runtime に集約しています。全体の処理の流れは次のとおりです。
- 認証: 端末にクラウドの長期パスワード的な情報を置かず、Amazon Cognito と AWS Lambda により一時的な接続 URL を発行するセキュアな仕組み
- 音声送受信: スマートグラスから作業者の音声をリアルタイムに Amazon Bedrock AgentCore Runtime へ送信。Amazon Nova 2 Sonic が音声を直接理解し、応答の音声を返す
- 業務データへの問い合わせ: エージェントが必要に応じて Amazon Bedrock AgentCore Gateway を介し、ツール(関数)を呼び出し、Amazon DynamoDB ( WMS データ)や Amazon Bedrock Knowledge Bases (社内マニュアル)からデータを取得
この構成により、スマートグラス側は音声とカメラの入出力に専念でき、エージェントの機能追加やプロンプト調整はクラウド側の変更だけで反映されます。以下、デモのシナリオを順に追いながら、各ステップで動いているサービスを見ていきます。
① 音声でタスク取得
作業者がスマートグラスに「ピッキングリストをください」と話しかけると、生成 AI エージェントが WMS から作業リストを取得し、棚番号・商品名・数量を音声と画面で案内します。
裏側では、スマートグラスから送られてきた音声をクラウド上の Amazon Nova 2 Sonic が受け取ります。Amazon Nova 2 Sonic は音声を直接理解し、そのまま音声で応答を返せる生成 AI モデルです。従来の「音声を一度文字に起こしてから生成 AI に渡し、生成された文章を再び音声にする」という 3 段階の処理と違い、音声のまま処理するため、人と話しているような自然で低遅延なやり取りが可能になります。作業者の意図が「ピッキングリストの取得」だと判断されると、エージェントが WMS 用のツールを呼び出し、Amazon Dynamo DB からリストを取り出して音声で読み上げ、同時にタスク一覧を画面に表示します。
② QR スキャンで商品照合・完了
案内された棚に移動し、商品のQR コードをスキャンすると、エージェントが商品を照合し、ピッキング完了を WMS に自動で記録します。次のアイテムがある場合は続けて音声で棚の場所を案内し、全アイテム完了時には作業時間もフィードバックします。
ここでは、音声とカメラという異なる入力を、同じ会話の流れの中で扱っています。QR スキャンの結果はテキスト情報として Amazon Nova 2 Sonic に渡り、エージェントは「今、この作業者は音声で受けたタスクの商品をスキャンした」と文脈を理解した上で、Amazon Dynamo DB に完了記録を書き込みます。作業者は「モードを切り替える」といった意識をせず、話す・スキャン・話す、というテンポで作業を進められます。
③ 視覚支援と業務ナレッジ照会
「棚の場所が分からない」と聞けば倉庫マップで棚位置をハイライト表示、「タイミングベルトの取扱注意点は?」と聞けば社内マニュアルから該当箇所を音声で読み上げます。
業務ナレッジの音声応答は、Amazon Bedrock Knowledge Bases という機能で実現しています。これは、事前に社内のピッキングマニュアルなどのドキュメントを Amazon S3 に置いておくと、生成 AI が質問の意図に合わせて関連する記述を意味的に検索してくれる仕組みです。エージェントは検索結果をもとに要点をまとめ、Amazon Nova 2 Sonic を通じて自然な音声で回答します。マニュアルを更新しても、それを取り込み直すだけで、エージェントの回答が常に最新の内容に保たれます。
1 会話あたりのコスト
ブース来場者から多くいただいた質問がコスト面でした。本デモの構成で、ピッキング 4 アイテムを約 3 分で処理する会話1回あたりのコストは、およそ 8.9 円( 1 USD = 160 円換算)です。1 端末あたり 100 会話/日 × 30 日で月額約 26,720 円と、実運用に耐える水準です。コストの大半(約 78 %)は音声の生成( AI の応答音声)が占めるため、AI の応答を簡潔にする工夫がコスト削減に最も効きます。
期待される効果
本ソリューションの導入で、以下のような効果が期待できます。
- 作業者の身体的・認知的負荷の低減: 端末操作から解放され、視線を作業対象に集中できる
- 教育コストの削減: 音声で作業指示・マニュアル照会ができ、新人・短期雇用者の即戦力化が容易
- 多言語対応による人材活用: 外国人作業者にも母語で指示・案内が可能
- 既存 WMS を活かした導入: 現行の業務システムを置き換えず、生成 AI エージェントから連携
本デモのコアである「生成 AI エージェント × ウェアラブルデバイス × 音声インタラクション」の組み合わせは、倉庫ピッキングに限らず、「両手を使う現場作業×システム連携」が求められる幅広い領域に応用可能です。製造ラインでの作業指示と部品照合、医療現場での検体照合と電子カルテ入力、設備点検・警備での手順書参照とレポート入力、店舗のバックヤード在庫確認など、応用先は多岐にわたります。
まとめ
AWS Summit Japan 2026 で展示した「スマートグラス × 生成 AI エージェント」は、倉庫ピッキング業務における「両手が塞がる」「教育コストが高い」「多言語対応が難しい」という課題に対し、見るだけ・話すだけで業務システムにアクセスできる新しい業務体験を提案するものです。Amazon Bedrock AgentCore Runtime と Amazon Nova2 Sonic の組み合わせで、サーバレスで実装できます。物流業界は 2024 年問題をはじめ様々な課題に直面していますが、生成 AI エージェントを既存の業務システムに繋ぐことで、現場の負荷を減らしながら生産性を高めることが可能です。ご興味のある方は、担当ソリューションアーキテクトまでお気軽にご相談ください。
会場では倉庫ピッキング以外のユースケースについても多くのご相談やディスカッションをいただき、このソリューションパターンへの関心の高さを実感しています。
この展示は、ソリューションアーキテクト横山、駒野、山本、田邊が担当しました。




