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Amazon Bedrock AgentCoreによる、高度なネットワーク運用エージェントの構築

本記事は、2026年1月12日に公開された ”Building Intelligent Network Operations Agent with Amazon Bedrock AgentCore” を翻訳したものです。

深夜2時、バージニア北部リージョンにてお客様のトランザクション処理が失敗したというアラートが、あなたのスマートフォンに届きました。Amazon Web Services (AWS)上で画像処理プラットフォームを管理するネットワーク運用者のあなたは、複雑なアーキテクチャのトラブルシューティングを迫られます。このネットワークは、複数のAmazon Virtual Private Cloud (Amazon VPC) がAWS Transit Gatewayで相互接続されており、その上で多数のマイクロサービスが実行されています。根本原因の可能性は多岐にわたり、セキュリティグループの設定ミスからNetwork Access Control List (NACL) の問題、AWS Network Firewallルールが正当なトラフィックをブロックしているかもしれません。このようなシナリオは現在のクラウド環境においてますます一般的になっており、複雑なネットワークトポロジが復旧時間を長引かせる要因となっています。

今日のAWSユーザーが運用する環境は、複数のAWSリージョンにわたる数百ものVPCを含むことが珍しくありません。それぞれのVPCには独自のセキュリティ設定、Network Firewallポリシー、Transit Gatewayを介した複雑なルーティングが組み込まれています。接続障害が発生すると、運用チームは通常、VPCフローログAmazon CloudWatchメトリクス、AWS Reachability Analyzerの検出結果、アプリケーションログなど、膨大なデータソースを横断して調査しなければなりません。その結果、トラブルシューティングが長期化し、解決に向けたアプローチも担当者によってばらつきがちです。本記事では、Amazon Bedrock AgentCoreのAI機能をAWSのネットワーキングサービスと統合し、高度なネットワーク運用エージェントを構築する方法を解説します。セキュリティや運用水準を満たしながら、診断と修復を自動化する手法を探ります。

エージェントの構成要素

レゴブロックを組み合わせて複雑な構造を作るのと同様に、エージェントベースのソリューションも複数のモジュール化されたコンポーネントを組み合わせて構築されます。各モジュールには特定の役割があり、それらを適切に組み合わせることで、組織のニーズに合わせて適応・拡張できる、堅牢で柔軟なネットワーク運用システムが構築されます。図1に、このようなエージェントに必要な構成要素を示します。

図1: ネットワーク運用エージェントの構成要素

  1. Interface&Integrationブロックは、ユーザーとシステムを繋ぐ主要な接点として機能します。自然言語処理やマルチモーダル入力をサポートすると同時に、AWSサービスとのシームレスな連携を可能にします。具体的には、自然言語のクエリを構造化コマンドに変換し、AWS SDKによる直接的なAPI連携AWS Lambda統合、モデルコンテキストプロトコル(MCP)サーバーベースの統合機能を介してサービス間接続を管理します。
  2. Security&Operationsブロックは、Amazon Bedrock AgentCore IdentityAWS Identity and Access Management (IAM)ロール、Prompt EngineeringAmazon Bedrock AgentCore Policiesを用いて包括的な保護を実装します。同時に、Amazon CloudWatchを通じて、モニタリング、アラート、自動修復を管理します。このブロックは、安全な運用とプロアクティブな問題検出を保証します。認証と認可からコンテンツフィルタリング、監査ログに至るまで、多層的なセキュリティコントロールを実装することで機能します。
  3. Intelligenceブロックは、Amazon NovaClaude Sonnet 4Llamaなどの基盤モデル(FM)を利用した認知エンジンとして機能します。これには、高度なChain-of-Thought(思考の連鎖)プロンプティングと ReAct(Reason+Act)機能が組み込まれています。このブロックは、複雑なネットワーク運用に求められる、中核となる推論や意思決定能力を提供するために必要です。大規模言語モデル(LLM)機能とプランニング・コンポーネントを組み合わせ、短期的な運用のコンテキストと長期的に学習されたパターンの両方を維持しながら、複雑なタスクを管理可能なステップにまで細分化することができます。
  4. Orchestrationブロックは、StrandsLangGraphCrewAIなどのフレームワークを用いて、ワークフロー実行を調整し、異なるコンポーネント間の相互接続を管理します。このコンポーネントにより、複雑な多段ステップの処理を可能にしながら、様々なコンポーネント間をスムーズに連携できます。複数のエージェントが連携する必要がある場合は、タスクの分解、並列処理、エージェント間通信を管理することで実現します。
  5. Memoryブロックは、エージェントの作業メモリとして機能し、短期的なセッションのコンテキストと、長期的に学習されたパターンの両方を保持します。これは、パーソナライズされ、かつ状況をくみ取った対話を実現するために必要です。Agent Core Memoryを利用した短期的・長期的なメモリ戦略を使い分けることで、複数のセッションにわたって関連する文脈を維持しながら、会話履歴やユーザーの好みを保存できます。これらの機能は、十分な情報に基づいた意思決定と、個々のユーザーに最適化された対話を行うために極めて重要です。
  6. Deploymentブロックは、AgentCoreランタイムを介することで、組織のニーズに最適な実装アプローチを選択できます。フルマネージド型のインフラストラクチャや、カスタム実装ができる柔軟な基盤を提供します。
  7. Evaluationブロックは、パフォーマンスを評価するためのAI駆動型テストフレームワークを提供します。このブロックは内部的にLLMエージェント(evaluator)を実装しており、独自のエージェント(target)との会話をオーケストレーションして会話中の応答を評価します。このブロックは、様々なシナリオをシミュレートし、エージェントの応答を期待値と比較することで、品質を維持し、一貫した動作を保証します。

これらのビルティングブロックは、それぞれが独立しながらも、相互に連携できるように設計されています。まずは基本のブロックから始めて不可欠な機能を構築し、ニーズの拡大に合わせてより高度な要素を追加していくことが可能です。実装を成功させる鍵は、単に適切なブロックを揃えることだけではなく、それらをいかに組み合わせるかにあります。モジュールを選択・統合する際は、組織固有のニーズ、技術力、そして将来の成長計画を考慮して下さい。まずは最も差し迫った課題を解決するために必要最小限の要素から着手し、チームがシステムに慣れるにつれて、段階的に高度なモジュールを追加していくのが良いでしょう。重要なのは、各モジュール間のインターフェースをクリーンに保ちつつ、それらがシームレスに連携できるようにすることです。

ネットワーク運用エージェントの実装:理論から実践へ

本セクションでは、これまで述べてきた理論上の構成要素が、実際のシナリオを通じてどのように具体的な実装へ落とし込まれるかを説明します。対象シナリオは、図2に示す通り、バージニア北部リージョンでホストされている画像処理アプリケーションに影響を及ぼす、重大なネットワーク接続障害のトラブルシューティングです。

ExampleCorp の画像処理アプリケーション

図2: ExampleCorpの画像処理アプリケーション

  1. Amazon Route 53がDNSリクエストを処理します。画像処理アプリケーションのフロントエンドには、Application Load Balancer(ALB)を介してアクセスします。ALBは、バックエンドアプリケーションとして機能するサーバーレスのLambda関数にトラフィックを分散します。
  2. Lambda関数は、ユーザーのリクエストに基づいてS3バケットから画像を取得し、レンダリングを行います。サーバーレスなアーキテクチャのため、手動によるスケーリングなしで、並列の画像レンダリング処理が可能です。
  3. 専用のDBサブネットに配置されたAmazon RDSには、利用データやプラットフォーム分析結果が保存されます。このデータベースは、プラットフォーム全体で画像がどのようにアクセスされ、利用されているかを追跡します。
  4. レポートサーバーは、利用レポートやパフォーマンスメトリクスを生成します。適切なサブネットを経由したルーティングによりRDS内データに安全にアクセスし、基幹業務に影響を与えることなくプラットフォーム分析を行います。
  5. ネットワーク構成にはVPC による分離を採用し、アプリケーションコンポーネントとレポートコンポーネントを切り離しています。AWS Transit GatewayがVPC 間のセキュアな通信を可能にし、専用サブネット(App、Reporting、DB)によって各サービス間に明確なセキュリティ境界を確立しています。

Amazon Bedrock AgentCore Runtimeによるトラブルシューティングの自動化

ワークフローは、図3に示す以下のステップに従います。

図3: Amazon Bedrock AgentCoreベースのアプローチ

  1. チャットクライアントはAmazon Cognito を介して認証され、ユーザーはJWTトークンを添えて質問を送信します。
  2. AgentCoreランタイムはトークンを検証し、Claude 4.0 Sonnetモデルを活用して会話を処理します。
  3. AgentCore Gatewayは、MCPプロトコルを通じてツールへの安全なアクセスを提供します。
  4. AWS Lambda Targetは、適切な認証のもとでAWSサービスの操作を実行します。
  5. AgentCore Identityは、ワークロードの認証とトークン交換を担います。
  6. AgentCore Observabilityは、包括的なモニタリング、メトリクス、およびログ記録機能を提供します。

Amazon AgentCoreを使用したネットワーク接続トラブルシューティングのユースケースを実装するための詳細なデプロイ手順は、sample-building-network-ops-agent-with-amazon-bedrock-agentcoreにて公開されています。

まとめ

Amazon Bedrockを搭載したインテリジェントなネットワーク運用エージェントの導入は、クラウドインフラストラクチャ管理への革新的なアプローチであり、大きなビジネス価値をもたらします。平均復旧時間 (MTTR)を数時間から数分に短縮し、24時間365日体制の自律診断を可能にすることで、運用コストを抑えつつビジネスを継続できます。

モジュール式のビルディングブロックを実装することで、組織がいかにAIを活用してネットワーク運用とインシデント解決を効率化できるかを示しました。これらのエージェントはAWSサービスと統合されており、Claude Sonnet 4などのFMを使用して複雑なネットワークシナリオを理解して診断を自動化し、堅牢なセキュリティ制御を維持しつつ状況に応じた推奨事項を提供します。

しかし、AIエージェントが常に最適なソリューションであるとは限りません。AIエージェントは、文脈の理解や自然言語での対話を必要とするような、複雑で多段階な操作には優れていますが、より日常的な運用タスクには従来のサーバーレスAPIベースのシステムの方が適している場合があります。例えば、セキュリティグループの定期的な更新や明確な入出力を持つスケジュールされたバックアップ操作は、直接のAPI呼び出しにより効率的に処理できるため、エージェントインフラストラクチャを使う場合のオーバーヘッドを回避できます。高度なトラブルシューティングシナリオにはエージェントを使用し、日常的な運用にはサーバーレス機能を維持するといったハイブリッドアプローチを採用することが、多くの組織の成功に繋がっています。

AIの機能は進化を続けていますが、導入を成功させるためには現実の状況に合わせる必要があります。まずはエージェントの機能が真に活かせる、具体的で価値の高いユースケースから始め、運用ニーズや複雑さに応じて段階的に拡張して下さい。このようなバランスの取れたアプローチを取ることで、組織はより回復力のある効率的なネットワーク運用を構築でき、チームはビジネス価値を高める戦略的な取り組みに集中できるようになります。

準備はいいですか? 次にできることは以下の通りです:

翻訳はSolutions Architectの田中が担当しました。原文はこちらです。