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生成系 AI は製造業をどう変えるか
はじめに
Amazon は数十年にわたり人工知能 (AI) と機械学習 (ML) に注力してきました。Amazon では、ML を民主化し、あらゆる規模や業種にわたる 100,000 以上のお客様を含めた、利用したいすべての方がこの技術を利用できるように取り組んできました。この中には、さらにエキサイティングな結果をもたらすことを期待して、AI/ML の先にある生成系 AI に注目している製造企業も含まれています。
生成系 AI は、会話、ストーリー、画像、動画、音楽など、新しいコンテンツやアイデアを生み出すことができる AI の一種です。このモデルは、一般に基盤モデル (Foundation Model, FM) と呼ばれる、膨大な量のデータで事前トレーニングされた大規模モデルによって支えられています。生成系 AI により、メーカーはビジネスを改革し、業界を変革する可能性を秘めています。
生成系 AI の可能性は信じられないほどエキサイティングです。しかし、私たちはまだごく初期の段階にいます。多くの企業が何年も基盤モデルに取り組んできましたが、製造業のお客様は、今現在利用できるものをどう活用してビジネスを変革できるのでしょうか。また、どこから始めればよいのでしょ うか。
IDC による調査「The State of Manufacturing and Generative AI Adoption in Manufacturing Organizations (製造組織における製造と生成系 AI の採用の現状)」¹ によると、製造業者にとって、今後18か月間に生成系 AI が最も大きな影響を与える可能性があると回答した上位の事業分野は、製造(生産)、製品開発、設計であり、その後に販売とサプライチェーンが続きました。このブログでは、革新的な新製品設計の創出、かつてないレベルの製造生産性の向上、サプライチェーンアプリケーションの最適化を実現する生成系AIの可能性に焦点を当てます。
製品の設計開発における生成系 AI によるイノベーション
最初に検討する分野は製品の設計開発です。AI と ML はすでに高性能コンピューティング(HPC)と併用されており、個別の製品コンポーネントの設計を強化し、最終的には人間が通常考えもしないような新しく革新的な設計を実現しています。これらの技術により、メーカーはさまざまな設計の選択肢を迅速かつ効果的に検討し、コスト、質量、材料、設計時間、さらには製造時間を最小限に抑えながら、最も効率的なソリューションを見つけることができます。その一例が、3D デザイン、エンジニアリング、エンターテイメントソフトウェアのリーダーである Autodesk です。1982年以来、建築、建設、エンジニアリング、製造、メディア、エンターテインメント業界向けにこのようなソフトウェアを開発してきました。開発のスピードアップと効率化を図るため、Autodesk は着実にアマゾンウェブサービス (AWS) の利用を拡大し、データセンターの設置面積を縮小してきました。Autodesk は Fusion 360 製品で生成系 AI を使用して、材料、製造上の制約、安全係数、その他の変数など、ユーザーが指定したパラメーターの範囲内で革新的な新しい設計を作成し、革新的なジェネレーティブデザインの成果を模索しています。2023 年 4 月にドイツで開催されたハノーバーメッセで、Autodesk は、新しいモビリティ設計コンセプトを迅速に検討し、エンジニアリングおよび製造コストを管理しながら、リードタイムを短縮するために新しいモビリティソリューションの作成プロセスを改善したモビリティのスタートアップ企業についてプレゼンテーションを行いました。このスタートアップ企業は、Amazon SageMaker による AI ジェネレーティブデザインと積層造形を実現する、Autodesk Fusion360 を採用しました。新設計の市場投入までの期間を3.5年から6か月に短縮でき、市場投入までの時間を 86% 短縮できました。
AI を活用することで、設計の可能性が広まるだけでなく、エンジニアは大規模なデータセットを分析し、安全性の向上や、シミュレーションデータの作成、部品の製造や機械加工の迅速化、製品の市場投入までの時間短縮を図ることができます。これらのデータセットは 、メーカーの AI 戦略を構築するためのソース情報、つまり基盤モデル(FM)になる可能性があります。これにより、データのプライバシーと安全性が保たれると同時に、このテクノロジーのメリットを享受できます。
2023 年 4 月、AWS は Amazon Bedrock を発表しました。これは AI21 Labs、Anthropic、Stability AI、Amazon の基盤モデルに API 経由でアクセスできるようにする新しいマネージドサービスです。Amazon Bedrock は、お客様が基盤モデルを使用して生成系 AI ベースのアプリケーションを構築し、大規模利用する最も簡単な方法であり、すべてのビルダーのアクセスを民主化します。Amazon Bedrock の最も重要な機能の 1 つは、モデルのカスタマイズが非常に簡単ということです。顧客は Bedrock に Amazon Simple Storage Service (S3) に置いたラベル付きの例を提示するだけで、大量のデータに注釈を付けることなく、特定のタスクに合わせてモデルをファインチューニングできます (わずか20例で十分です)。たとえば、大手ファッション小売業者で働いているコンテンツマーケティングマネージャーが、今後のハンドバッグの新ラインに向けて、新鮮でターゲットを絞った広告とキャンペーンコピーを開発すると想像してみましょう。そのために、過去のキャンペーンで最も成果を上げたキャッチフレーズのラベル付きの例と、関連する製品の説明を Bedrock に提供します。Bedrock は、お客様だけがアクセスできる基盤モデルのコピーを個別に作成し、このプライベートコピーをトレーニングします。トレーニング後、Bedrock は新しいハンドバッグ用の効果的なソーシャルメディア、ディスプレイ広告、ウェブコピーの生成を自動的に開始します。お客様のデータは、元のベースモデルのトレーニングには使用されません。 お客様は、Bedrock API にアクセスしてモデルのファインチューニングデータを安全に提供するように Amazon 仮想プライベートクラウド (Amazon VPC) を設定できます。また、すべてのデータは暗号化されます。顧客データは、転送中 (TLS1.2により) および保管中、サービスが管理する暗号鍵によって常に暗号化されます。
生成系 AI による生産の最適化
製造メーカーは、生産量の低下とそれに伴うコストのリスクが高いため、生産環境での新技術の採用と実装をためらうことがよくあります。工場生産では、生成系 AI のユースケースはまだ初期段階ですが、工場のリーダーから、生成系 AI が総合設備効率(OEE)の最適化にどう役立つかについて、すでにご相談を受けています。生成系 AI は基盤モデルを作成するために大量のデータを必要とするため、製造業のお客様は、生成系 AI の旅を始めるために、まず工場のデータにアクセスしクラウドへ移行することが必要という業界特有の課題を抱えています。多くのメーカーにとっての第一歩は、産業データ戦略を打ち立てることです。データはあらゆるデジタルトランスフォーメーションの基盤であり、ビジネスチームがそのデータを簡単かつ効果的に活用して組織全体のさまざまなユースケースに対応できるようにするには、産業データ戦略を立てることが不可欠です。 なぜでしょうか? 製造業の企業は、データソースが連携するように設計されておらず、分断されサイロ化していることに苦労することが多く、基盤モデルを導入しても、高品質のデータセットに対して経済的、かつ安全、構造化された形式で、容易にアクセスすることが困難になっています。AWS は産業用データファブリックソリューション(IDF)でこれらの課題の多くに対処します。
たとえば、ジョージアパシフィック(GP)のような企業は、製紙の品質を最適化するために長年 AI と ML を使用してきました。GP は、AWS のデータ分析技術を使用して、生産中に紙が破れないような加工ラインの適切な稼働速度を予測することで、利益を増やし、プラントのリソースを最大限に活用しました。しかし、生成系 AI は製造業の生産にどのように役立つのでしょうか。
ビジネスリーダーや生産リーダーとの会話の中で、繰り返し登場する問題の1つは、人員削減によって工場における知識・経験が損なわれ続けているということです。経験豊富な従業員は退職しつつあり、何十年にもわたる知識が失われることが頻繁に起こっています。このような方たちは、機械のベアリングに注油が必要かを音から判断したり、機械が過度に振動して正常に動作していないことを感じとれるような従業員です。難しいのは、経験の浅い従業員が複雑な生産業務を効率的に実行し続けるために必要な知識をどう身につけるか、そして生産、品質、設備の可用性をどう最大化するか、です。メーカーが過去の機械メンテナンスデータ、修理データ、機器マニュアル、生産データ、さらには他のメーカーのデータをデジタル化してキャプチャし、効果的な基盤モデルを補強して実際の変化に影響を与えることができたらどうなるでしょうか。例として、故障が続き、計画外のダウンタイムが発生している装置を考えてみましょう。生産技術者が生成系 AI を使用して考えられる障害原因を問い合わせ、機器の入力調整、必要なメンテナンス、さらにはダウンタイムを軽減する交換部品の購入について、確度の高い提案を得ることができたらどうでしょうか。経験豊富な技術者や作業員がいない状況下では、生成系 AI は生産環境で OEE を最大化できる可能性を秘めています。
生成系 AI によるサプライチェーンの最適化
AWS はサプライチェーンのユースケースに対応するために複数のサービスを提供しています。AWS Supply Chain は、企業がサプライチェーンの可視性を高め、リスクの軽減、コストの削減、顧客体験の向上につながる意思決定をより迅速に行えるようにするアプリケーションです。AWS Supply Chain は、複数のサプライチェーンシステムのデータを自動的に組み合わせて分析するため、企業は業務をリアルタイムで観察し、傾向をより迅速に把握し、より正確な需要予測を生成して、顧客の期待に応える十分な在庫を確保できます。AWS Supply Chain は、約 30 年にわたる Amazon.com のロジスティクスネットワークの経験に基づき、統一されたデータレイク、機械学習を活用した洞察、アクションの推奨、およびアプリケーション内でのコラボレーション機能を提供することで、サプライチェーンの耐障害性を向上させます。
パンデミックや地域紛争、原材料不足、さらには自然災害によるサプライチェーンの不確実性を考えると、製造業者のサプライチェーンは、完全な不安ではないにしても、引き続き懸念すべき分野です。調達に関わる機能は、生成系 AI が価値を付加できる肥沃な基盤です。あるメーカーが特注の機械加工部品を使い果たし、特注の加工作業を提供する代替の企業を探しているとします。生成系 AI を使用すると、必要な専門作業を行うための適切な機能を代替企業に提供することができます。また、人間の日常的なやりとりの代わりに生成系 AI を使用することも考えられます。つまり、以前は適切なデータを取得してその意味を理解するのに数時間から数日かかっていた質問に回答してもらうことです。生成系 AI は、配送の課題、自然災害、ストライキ、またはその他の地政学的イベントに関連するリスクを積極的に評価することで、サプライチェーンのコントロールタワーとしても機能する可能性があります。これにより、サプライチェーン部門は希少な資源を適切に配分して混乱を緩和することができます。
おわりに
私たちは明らかに、ジェネレーティブ AI へと踏み出す新しくエキサイティングな第一歩におり、私は今、製品設計から生産、サプライチェーンに至る、製造業において可能性のある用途をほんの少しご紹介したにすぎません。AWS は先月に、いくつかのエキサイティングな新サービスを発表しま した。
- Amazon Bedrockは、お客様が基盤モデルを使用してジェネレーティブ AI ベースのアプリケーションを構築およびスケーリングする最も簡単な方法であり、 すべてのビルダーのアクセスを民主化します
- Amazon Titan FM: Amazon の高性能な基盤モデル (FM) を使用して、お客様が責任を持ちつつイノベーションを起こせるようにします
- Amazon EC2 Trn1n インスタンス:ネットワークに最適化され、1,600 Gbps のネットワーク帯域幅を提供し、ネットワーク集約型の大規模なモデルでは Trn1 よりも 20% 高いパフォーマンスを発揮するように設計されています
- Amazon EC2 Inf2 インスタンス: AWS Inferentia2 を搭載し、数千億のパラメータを含むモデルを使用する大規模なジェネレーティブ AI アプリケーション向けに特に最適化されています
- Amazon CodeWhisperer は、基盤モデルを内部で使用し、開発者のコメントと過去のコードに基づき統合開発環境 (IDE) 上でリアルタイムでコードの候補を生成し、開発者の生産性を大幅に向上させる AI コーディングコンパニオンです
私たちは、お客様が AWS 上で生成系 AI を使って何を構築するのか楽しみにしています。まずは当社のサービスを探り、生成系 AI がお客様の組織にどのようなメリットをもたらすかを調べてみましょう。私たちの使命は、あらゆるスキルレベルの開発者とあらゆる規模の組織が生成系 AIを使用してイノベーションを起こせるようにすることです。これは、私たちが信じる、製造業に新たな可能性をもたらす機械学習の次の大波の始まりに過ぎません。
¹ IDC, The State of Manufacturing and Generative AI Adoption in Manufacturing Organizations, 1Q23, r:# EUR250654623, May 2023