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Outpost VFX が ビジュアルエフェクト向けに AI モデルのトレーニングを AWS で加速した方法

本記事は 2026 年 6 月 30 日 に公開された「How Outpost VFX Uses AWS to Accelerate AI Model Training for Visual Effects」を翻訳したものです。

Outpost VFX の Tim Chauncey と Dheeraj Bhadani との共同執筆です。

ビジュアルエフェクト (VFX) 向けの AI モデルトレーニングには数週間を要することがあり、制作スケジュールのボトルネックになりがちです。英国、カナダ、インドにスタジオを構え、高品質な映画やエピソードコンテンツを手がける Outpost VFX にとって、1 日の遅延がクライアントへの納品やプロジェクトスケジュールに直接影響します。

本記事では、Outpost VFX が AWS インフラを活用してフェイスリプレースメントのワークフローを刷新し、トレーニング速度を最大 8 倍に向上させた方法、シングル GPU の制約を克服するために実装した技術アーキテクチャ、そして AWS マルチ GPU トレーニングで得られた具体的な成果について紹介します。

課題: AI トレーニングにおけるシングル GPU のボトルネック

VFX 制作における従来のフェイスリプレースメントワークフローでは、監督承認用の初期バージョンを作成するだけで、コンポジットや専門的なビューティ・デエイジング作業に 5 日以上かかります。この手法は有効ではあるものの、制作スケジュールで最も重要な反復承認プロセスの初期段階でボトルネックが生じます。VFX の現場では、AI トレーニングの遅さがそのまま納期遅延、コスト増加、クライアントへのフィードバックサイクルの長期化につながります。

Outpost VFX は、撮影現場の映像を学習してフェイスリプレースメントを高速化できる AI モデルを独自に開発していました。しかし、シングル GPU のコンピューティング制約により効率が頭打ちになっていました。既存のフェイススワップツールは同時に 1 つの GPU しか使えず、モデルトレーニングで利用できるビデオランダムアクセスメモリ (VRAM) と処理能力が限られていました。そのため、AI 支援アプローチの潜在能力を十分に引き出せずにいました。

設計上の考慮事項

Outpost VFX は、AI ワークフローを最適化するうえで技術的に重要な要件を 3 つ特定しました。

  • コンピューティングのスケーラビリティ – 意味のある効率改善を実現するには、フェイスリプレースメントモデルのトレーニングを複数の GPU に並列化する必要がありました。シングル GPU によるトレーニングでは、モデルの反復サイクルに毎回数週間の遅延が生じていました。
  • インフラのセキュリティ – 2022 年から AWS を利用し、完全仮想化された技術スタックを運用する Outpost VFX にとって、機密性の高い制作データを扱うソリューションは自社の厳格なセキュリティ要件を満たす必要がありました。
  • パフォーマンスの最適化 – 単純な速度向上にとどまらず、より大規模なデータセットや高解像度画像にも対応できるアーキテクチャが、出力品質の向上に不可欠でした。

これらの要件に対応するため、Outpost VFX は AWS Generative AI Innovation Center の開発者と連携しました。同チームは Outpost VFX の技術部門と一体となって AI 学習アルゴリズムの刷新に取り組みました。AWS Generative AI Innovation Center は、ストラテジスト、データサイエンティスト、エンジニア、ソリューションアーキテクトで構成されるチームで、顧客とともに生成 AI の力を活かしたカスタムソリューションを段階的に構築します。チームへの参加方法については、Generative AI Innovation Center のページをご覧ください。

アーキテクチャの実装

このソリューションでは、Outpost VFX の既存フェイススワップモデルのコードベースを改修し、複数 GPU での分散トレーニングに対応させました。実装には、Outpost VFX の既存インフラ要件に沿った、分離されたセキュアなクラウド環境内に AWS マルチ GPU の Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) P5 インスタンスを使用しました。

もともと Outpost VFX は、GPU アクセラレーション対応のワークステーションでフェイススワップモデルをトレーニングしていました。俳優とスタントダブルの小規模なデータセットを収集し、RTX 3090 GPU でベースモデルをファインチューニングする手法です。この方法は機能していたものの、ファインチューニング 1 回あたり約 1〜2 週間かかるなど、トレーニング時間が長いという課題がありました。また、クラウドワークステーションの管理オーバーヘッドを考えると、スケールアップも容易ではありませんでした。そこで、P5 インスタンスでのトレーニングを検討することになりました。

P5 インスタンスには、分散トレーニングワークロード向けに設計された NVIDIA H100 GPU が搭載されています。GPU 間の通信に PCIe を使用する G シリーズインスタンスとは異なり、P5 インスタンスは NVLink インターコネクトを備えており、勾配同期に必要な帯域幅が大幅に向上しています。これは複数 GPU でのトレーニングにおいて重要な要素です。また、H100 の 14,592 個の CUDA コアと 80 GB の高帯域幅 HBM3 メモリは、従来のローカル RTX 3090 環境から大きく進化しています。

Outpost VFX は Generative AI Innovation Center と協力し、P5 インスタンス上でモデルを動作させました。6 週間のアドバイザリー期間を通じて、AWS のサイエンティストがモデルコードを PyTorch Distributed Data Parallel (DDP) トレーニング戦略に対応するよう変換しました。DDP は、各 GPU にモデルの重みをコピーする並列化手法で、各トレーニングバッチで処理できる画像数を増やせます。バッチあたりの画像数が増えることで、トレーニングプロセスが直接高速化されます。

技術的な実装内容には、フェイスリプレースメントモデルトレーニングのマルチ GPU 並列化、機密性の高い制作データに対応したセキュリティアーキテクチャの強化、そして Outpost VFX の既存 AWS ベース技術スタックとの統合が含まれます。Outpost VFX は AI パイプラインの進化を続けており、今後は Amazon SageMaker AI のマネージドトレーニング、モデルバージョニング、ホスト型推論などのサービスを活用して、グローバルなスタジオ全体でのモデル開発・デプロイをさらに効率化できると見込んでいます。

パフォーマンス改善の測定

マルチ GPU トレーニングの速度向上を検証するため、Outpost VFX はトレーニング用の画像データセットを収集し、モデルのハイパーパラメータを固定したうえで、特定の損失閾値に達するまでの時間を計測しました。ベースラインは G5 インスタンス上のシングル GPU とし、P5 インスタンスでの結果と比較しました。

Outpost VFX と AWS の共同開発により、フェイスリプレースメントモデルの学習速度は最大 8 倍向上しました。このパフォーマンス向上は反復サイクルの短縮に直結し、初期バージョンに対する監督承認プロセスをより迅速に進められるようになりました。高解像度画像や大規模データセットでのモデルトレーニングが可能になったことで、出力品質も向上しました。特筆すべき点として、初回レビュー用のクライアントへの v001 納品にかかる期間が、従来の 1〜2 週間から 2 日間に短縮されました。

「並列化されたワークフローと複数のハイエンド GPU を同時に活用できるようになったことで、イテレーションのスピードが大幅に向上しました」と Outpost VFX の CTO である Tim Chauncey は述べています。「VFX の仕事においてイテレーションの速度は非常に重要であり、このアーキテクチャは将来の開発に向けて、より堅牢でスケーラブルな基盤を提供しています。」

今後の改善点としては、画像出力の品質向上が考えられます。Outpost はモデルに渡す画像の解像度を上げ、より多くの VRAM を搭載した新世代の Amazon EC2 P5 インスタンスを使用することで、より大きな画像や大規模なデータセットを処理できます。

まとめ

AWS に最適化されたアーキテクチャにより、Outpost VFX はハイエンド VFX 制作に求められるセキュリティとスケーラビリティを維持しながら、AI を活用したフェイスリプレースメント機能をクライアントに提供できるようになりました。ローカルのコンシューマー向け NVIDIA GPU からエンタープライズ向け NVIDIA GPU への移行を含む並列化ワークフローアーキテクチャは、Outpost VFX のグローバルスタジオ運営における AI ツールの開発とスケーリングの基盤となっています。

「私が最も興奮しているのは、これらのモデルがもはや研究段階の実験ではなく、現代の VFX パイプラインに不可欠な要素になりつつあるという点です」と Outpost VFX のリードソフトウェアアーキテクトである Dheeraj Bhadani は述べています。「マルチ GPU アクセラレーションは、次世代のクリエイティブツールが構築される基盤です。」

次のステップ

AI トレーニングワークフローの高速化を検討している場合は、以下のステップを参考にしてください。

  • 現在の GPU 使用率を評価する: シングル GPU の制約がトレーニングのパフォーマンスを制限していないか確認する
  • マルチ GPU アーキテクチャを検討する: Amazon EC2 P5 インスタンスは、分散トレーニングワークロードに対してスケーラブルなコンピューティングを提供する
  • AWS Generative AI Innovation Center に相談する: Outpost VFX のトレーニングワークフロー並列化を支援したチームに問い合わせる

ユースケースとインフラ要件に合わせた分散トレーニング戦略を実装することで、同様の成果を得ることができます。

謝辞

著者一同、本プロジェクトにご協力いただいた Josh Chappatte、Laksh Puri、Ruchi Bhatia の各氏に感謝いたします。


著者について

Alex Newton

Alex Newton

Alex は AWS Generative AI Innovation Center のデータサイエンティストとして、生成 AI と機械学習を活用してお客様の複雑な課題解決を支援しています。最先端の ML ソリューションを現実の課題に応用することに情熱を持っています。

Hanno Bever

Hanno Bever

Hanno はロンドンを拠点とする AWS Generative AI Innovation Center のシニア機械学習エンジニアです。Amazon での 6 年間で、あらゆる業界のお客様が AWS 上で機械学習ワークロードを実行できるよう支援してきました。AWS Trainium および GPU インスタンスにおける分散モデルトレーニングのスケーリングと推論の最適化を専門としています。

Stephen Smith

Stephen Smith

Stephen は英国を拠点とする AWS のシニアソリューションアーキテクトです。さまざまな業界のエンタープライズ顧客と連携し、モダンでスケーラブル、かつコスト効率の高いクラウドアーキテクチャの設計を支援しています。AWS での 7 年以上の経験を持ち、最新のデータおよび AI ソリューションの導入を通じてお客様のビジネス課題を解決することに情熱を注いでいます。

Tim Chauncey

Tim Chauncey

Tim は 2022 年より英国に本社を置く Outpost VFX の最高技術責任者 (CTO) を務めています。在任中、スタジオによるハイエンドの映画・エピソード作品の制作方法に大きな変革をもたらし、従来のオンプレミス環境から AWS 上でグローバルに稼働する統合クラウドインフラへの移行を成功させました。現在は、最先端の ML プロダクションツールとエージェントシステムを Outpost の制作ワークフローに統合するチームを率いています。

Dheeraj Bhadani

Dheeraj Bhadani

Dheeraj は Outpost VFX のリードソフトウェアアーキテクトであり、VFX およびアニメーション業界で 20 年以上の経験を持ちます。技術革新に精通したベテランアーキテクトとして、Academy Sci-Tech Awards で表彰された技術的進歩に重要な役割を果たしてきました。構想から実装まで、高度に分散化されたスケーラブルで耐障害性の高いシステムの設計・構築に情熱を持っています。近年は、デジタルコンテンツ制作アプリケーションに統合されるプロダクショングレードの AI・機械学習ツールや、スタンドアロンソリューションとして展開されるシステムのアーキテクチャ設計と開発に注力しています。

翻訳は Visual Compute SSA 森が担当しました。原文はこちらをご覧ください。