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Well-Architected な組織文化でクラウド導入の利点を最大化する

しばしば組織の「個性」と表現される組織文化は、人々の働き方、相互作用、変化や課題への対応を決定します。組織の文化が変革の成功を左右する強力な要因であるという認識は、エビデンスにも裏付けられています。文化の影響は、クラウドの変革においてさらに大きくなります。というのも、クラウドの機能がいかに有用だとしても、その実際の有用性は人々がどのように使うかによって決まるからです。

しかしながら、組織文化が存在し、従業員の行動を形成するということに誰もが同意するとしても、それは主観的で無形のものです。組織文化は、Well-Architected なシステムのように、意図して思慮深く設計および構築することは可能でしょうか? この記事では、ビジネスの成果を達成するためにクラウド導入を加速する適切な組織文化を構築するためのベストプラクティスを提供します。

なぜクラウド導入に適した組織文化が重要なのか?

クラウドは、コスト削減、業務のアジリティ向上、運用の強靭性、スタッフの生産性向上など、多くの利点を提供しています。クラウドは急速に成長し、広く運用されているにもかかわらず、クラウドサービスのもたらす価値の実現において他の組織よりも成功している組織があります。

私たちのお客さまは、クラウドを利用して企業のデジタル変革を推進する上で、非技術的な要因、特に文化的変革が最大の課題だと述べています。すべての組織には既存の文化があります。文化には、クラウドへの対応を助ける側面もあれば、中立的な側面もあり、はたまた対立する側面もあります。成功している企業は、文化的な手段を活用して潜在的な問題点を特定して対処することで、クラウド導入を加速させています。

たとえば、クラウド導入を成功させるには、セルフサービスと再利用を重要視するオープンで協力的な文化が必要です。クラウドによって、企業は完璧さよりもスピードを優先するようになります。考えられるすべての結果に対して過度に分析する必要はありません。実験が奨励され、従業員は試行錯誤を通じて学ぶことができます。一方、指揮統制に基づいて意思決定を行う階層的な文化を持つ組織は、イノベーションを阻害し、クラウド導入における課題に直面する可能性があります。

組織文化の構築(アーキテクティング)

本来、または目的があって、すべての組織には文化があります。成功する企業文化は偶然の産物ではなく、慎重かつ意図的に構築されたものです。文化にはある程度の自発性と予測不可能性があるかもしれませんが、目的意識のある行動によっても影響を受け、形成されることもあります。

お客さま中心の文化:クラウドプラットフォームは、ビジネスソリューションを構築するための既製のビルディングブロックを提供します。お客さま中心の文化を促進することで、チームは「他社との差別化につながらない面倒な重労働」を省き、IT 内部ではなくビジネス価値とイノベーションに集中できるようになります。お客さま中心の文化は、お客さまのニーズ、嗜好、および行動を深く理解することを含みます。Amazon ではこれを「Working Backwards」(お客さまを起点に考え行動する)と呼んでいます。すべてのレベルの従業員がお客さまの満足を優先し、積極的にフィードバックを求め、お客さまからいただいた洞察に基づいて製品とサービスを改善するよう奨励されるべきです。

模範となるリーダーシップの文化:CEO はしばしば企業の文化、価値観、および長期的な目標を定義する一連の原則を実施します。これらの原則は、従業員に一体感をもたらすのに役立ちます。ただし、真に効果的なものであるためには、これらの原則が示されるだけでなく、組織のあらゆるレベルで実践される必要があります。リーダーは、「なぜクラウドなのか?」を明確に説明する中で、定義され、測定可能で、期待されるビジネス成果を伝える必要があります。変革をもたらすリーダーは、クラウド戦略の設定と伝達において、「これが私たちの未来です。そのためのロードマップがあり、その道のりを成功させるために必要なリソースを提供します。」と企業自身、自分たちの事業に対して伝えます。信頼を育み、リソースを提供し、自律性とコラボレーションを促進することで、リーダーは従業員が主体性を発揮し、前向きな変化を推進できるよう支援します。また、従業員が叱責を恐れることなく問題をエスカレーションできるオープンで安全な環境も醸成します。

データ駆動の意思決定文化:今日の意思決定には、固定的なオペレーション情報だけでなく、次のステップや将来の見通しをリアルタイムで分析する必要があります。クラウドは、事業において戦略的意思決定を行うために膨大な量のデータを処理するための強力な人工知能(AI)および機械学習(ML)ツールを提供します。クラウド導入のメリットを最大化するには、データを使用して情報を提供し、優先順位を付け、意思決定の指針を決めることに重点を置く、データ駆動の意思決定文化が必要です。たとえば、製造業ではクラウドベースの AI と ML ツールを使用してセンサーデータを分析し、ダウンタイムを最小限に抑え、コストを削減するためのメンテナンスを予測しスケジュールすることができます(予知保全)。データ駆動の意思決定文化を実施することで、予知保全分析からの得た知見を活用してメンテナンスタスクを優先順位付けし、リソースを効率的に割り当てることができます。

アジリティ、イノベーション、実験、リスクを取る文化:クラウドコンピューティングはアジャイル開発文化に適しています。それは実験、柔軟性、インクリメンタル(段階的)な提供の原則に基づいています。クラウドネイティブ技術は、サービス提供に影響を与えることなく、システムの迅速かつ頻繁な変更をサポートします。アジャイル開発アプローチでは、完璧よりもスピードが重視されます。望ましくない結果が発生した場合に、実行してはいけないアクションを知っておくことには価値があります。たとえば、Amazon では、リーダーシッププリンシプルを指針として誘導し実行するためのメンタルモデルを使用しています。「Bias for Action」はその指針の 1 つで、「ビジネスにおいてスピードが重要です。多くの決定と行動は元に戻せるため、詳細な調査は必要ありません。計算されたリスクテイクを大切にします。」と述べています。

継続的な学習の文化:これは、従業員がクラウドの環境に対応するスキルと知識を持つことを確実にするために、組織が従業員のトレーニングと教育を優先する必要があることを意味します。これにはクラウドサービスに関する技術的なトレーニングだけでなく、コミュニケーションやコラボレーションといったソフトスキルを含みます。学習は自助努力で為すべきであり、イベント駆動のものでは成り立ちません。組織全体で絶え間なく学ぶためには、測定と報酬の仕組みが必要です。トレーニングだけでなく、クラウドの経験が豊富な従業員が新しいチームメンバーを指導するための社内メンターシッププログラムを設立することもできます。

再利用の文化:クラウドの価値を高めるためには、ソフトウェア資産の再利用が必要です。再利用により、組織は既存の実証済みで信頼性の高いソフトウェアコンポーネントを活用して、効率性の向上、コスト削減、市場投入までの時間の短縮を実現できます。たとえば、従来のソフトウェア開発者はインフラストラクチャリソースの複雑さを理解するのに時間を費やし、ビジネス価値を提供するソフトウェアの構築に充分な時間を割くことができませんでした。クラウドでは、Infrastructure as Code (IaC) を使用することで、開発者は事前に構築されテストされた再利用可能なテンプレートを選択し、ソフトウェアアプリケーションを構築するために必要なインフラストラクチャコンポーネントを自動的にプロビジョニングします。再利用の文化には、個人が自分の知識、経験、リソースを他者と積極的に共有できる、オープンで協力的な考え方が必要です。

自動化とセルフサービスの文化:クラウド導入には、クラウドの強力な自動化ツールとセルフサービス機能を活用したリソースの提供、管理、利用が含まれます。セルフサービスには、従業員が信頼されて権限を持ち、自らのタスクに責任を持つような文化の変革が必要です。たとえば、オンプレミス環境では、アプリケーションチームは通常、IT インフラストラクチャチームにインフラのプロビジョニングを依頼します。クラウドでは、チームは自分自身で(セルフサービスで)自動化プロセスを通じてインフラをプロビジョニングします。これにより、開発者は自由になり、チケット処理を待つ代わりにビジネス価値を提供するための時間を増やすことができます。クラウド導入には集中的かつ組織的な取り組みが必要ですが、これを推進する Cloud Centre of Excellence (CCoE) が役立つ場合があります。この多種専門的なチームは、クラウドポリシー、ベストプラクティス、トレーニング、アーキテクチャを反復可能で自動化された、セルフサービス型の方法で提供することで、企業の成熟度を高めることができます。

セキュリティとコンプライアンスの文化:クラウド導入ではセキュリティとコンプライアンスに関する新たな考慮事項が生じます。組織はクラウド環境におけるデータ保護、プライバシー、および規制遵守を優先する必要があります。セキュリティとコンプライアンスに重点を置いた文化は、責任共有の意識を持つことで、セキュリティ対策がクラウド導入のあらゆる側面に統合されることを保証します。

ガバナンスの文化:クラウドサービスの利用を開始するのは容易になりましたが、企業のクラウド導入はより複雑になりました。適切なガバナンスがないと、クラウドの利用がすぐに制御を失う可能性があります。クラウドでは、インフラストラクチャの容量が「固定」から「無制限」に変わりますし、コストモデルも固定費から変動費(pay-as-you-go;従量課金)に変わります。これにより価値を提供するのに必要なアジリティは提供されるものの、シャドウ IT や経緯が不明のコストが発生することがあります。ここでクラウドガバナンスの文化が重要となります。ガバナンスの文化は、組織がクラウドの利用を管理し制御するために実施する一連のポリシー、手順、プロセスです。それはリアルタイムで自動化された「ガードレール」を通じてアジリティを維持しながら統制力を犠牲にすることなく実施されます。

おわりに

企業はそれぞれが複雑でユニークであり、文化が異なることもあります。組織文化は変革にとって重要であり、従業員のマインドセット、エンゲージメント、コラボレーション、変化への適応性、レジリエンスを形成します。変革の目標をサポートし、それに沿った文化を育むことで、組織は成功かつ持続可能な変革の実現可能性を高めることができます。Amazon のイノベーションへのアプローチは、文化からプロセス、テクノロジーに至るまでの一連の方法論、概念、ツールに基づいています。

参考情報

AWS CAF – Culture Evolution

AWS Well-Architected

Mental Models for Your Digital Transformation

AWS Prescriptive Guidance – Accelerating cloud adoption through culture, change and leadership

Learn from Amazon’s Approach to Innovation

Leading and Innovating with Leadership Principles

Elements of Amazon’s Day 1 Culture

The Imperatives of Customer-Centric Innovation

How to create a data-driven culture

本記事は、Nurani Parasuraman および Siraj Gadne による「Maximize Cloud Adoption Benefits with a Well-Architected Organizational Culture」を翻訳したものです。翻訳はカスタマーソリューションマネージャの山泉 亘が担当しました。

<原著執筆者について>

Nurani Parasuraman

AWS のカスタマーソリューションチームの一員です。彼は、人、プロセス、テクノロジー全体にわたる基本的な移行から大規模なクラウド変革への推進を通じて、企業が成功し、クラウド運用から大きなメリットを実現できるよう支援することに情熱を注いでいます。AWS に入社する前は、複数の上級管理職を歴任し、ファイナンスサービス、小売、通信、メディア、製造におけるテクノロジーの提供と変革を主導していました。彼は金融学の MBA と機械工学の理学士号を取得しています。

Siraj Gadne

アマゾンウェブサービスのカスタマーソリューションチームのリーダーです。彼は真のビルダーであり、移行、モダナイゼーション、トランスフォーメーションを通じて顧客がクラウド運用のメリットを最大化できるよう支援することに情熱を注いでいます。Siraj は、25 年間のキャリアの中で、コンサルティングと企業の分野でいくつかの指導的地位を歴任してきました。AWS に入社する前、Siraj はザ・コカ・コーラ社、Merkle Inc.、キャップジェミニに勤務し、クラウド対応とデジタルトランスフォーメーションの分野で顧客にサービスを提供していました。