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生成 AI と IoT でスマート産業機械の価値を最大化
今日の競争の激しい産業環境において、建設機械、鉱山機械、工場設備などの産業機械メーカーは、製品の可能性を最大限に引き出す革新的な方法を模索しています。IoT を活用してこれらの機械をクラウドに接続することで、装置メーカーは実際の使用環境での装置の性能を可視化し、稼働パターンを理解し、繰り返し発生する故障モードを特定し、装置の改善と新たなサービス提供につながる最適化の機会を発見できます。機械からクラウドへの包括的な接続ソリューションの構築は複雑で時間のかかる作業となる可能性があります。ブログ「AWS を使用したスマート産業機械の構築: 総合的ガイド」では、大規模なインフラ投資なしで安全でスケーラブルな産業ソリューションを実現する AWS IoT サービスについて説明しました。このブログでは、スマート産業機械向けの IoT と生成 AI を組み合わせた変革の可能性について探ります。特に、装置メーカーが Amazon Bedrock のような AWS 生成 AI サービスと、AWS IoT Core や AWS IoT SiteWise のような AWS IoT サービスを組み合わせて、産業オペレーションを革新し、新たな洞察を生み出し、具体的なビジネス成果を実現する方法に焦点を当てます。
[訳注: このブログにおいて、スマート産業機械(Smart Machines , Smart Industrial Machines) はスマート製品 (Smart Products: この場合、消費者向け製品も含む)の一分野で主に産業現場で稼働しITシステムと接続して高度な機能を有する装置、重機、建機などのスマート製品を表しています]
スマート産業機械向けの生成 AI
生成 AI は、運用データと製品データからアクションにつながる分析結果を導き出すことで、産業用途における大きなイノベーションをもたらすことができます。これにより、機械オペレーターやサービスエンジニアは、迅速に、一貫性のある方法で問題を解決することができます。Capgemini の調査によると、製造業の大多数が生成 AI に単に興味を持っているだけでなく、55% が積極的にその可能性を探求しており、45% が現在パイロットプロジェクトに取り組んでいます。AWS と AWS パートナーは、企業が生成 AI ベースのアプリケーションを効果的に構築し大規模展開することを容易にします。装置メーカー向けの生成 AI と IoT を組み合わせたスマート産業機械の 4 つのユースケースについて説明します。
- 問題の診断・解決の支援
- フィールドサービスオペレーションの強化
- 装置メーカー向け機械群分析
- AI が出力した診断レポート
1. 問題の診断・解決の支援
IoT と生成 AI の組み合わせは、保守管理に革新をもたらすことができます。例えば、装置の IoT センサーからのデータが、温度、圧力、振動などのしきい値を超えたことにより異常警報をトリガーするシナリオを考えてみましょう。IoT センサーからの異常検知アラートに、生成 AI が機器の取扱説明書、標準作業手順書 (SOP) 、過去のメンテナンス記録、蓄積された現場作業者の経験知識、必要部品の履歴などの関連情報を付加することで、メンテナンス業務を大幅に改善することができます。保守チームは、警報に加えて、問題に関する完全な状況、詳細な修理手順のガイダンス、具体的な交換部品の推奨事項、修理に必要な工具のリストなどを受け取ることができます。これにより、装置メーカーのサービス技術者とエンドユーザーの保守スタッフの双方にとって不具合対応が簡素化され、修理時間が短縮され、現地での熟練したサービスエンジニアの必要性が低減されます。このユースケースのサンプル実装については、「AWS における問題の診断・解決支援のガイダンス」を参照してください。この組み合わせは、障害検出を超えた包括的な保守ガイダンスを提供し、音声対応の AI アシスタントを通じて提供することも可能で、技術者は修理作業中に手を自由にしながら、音声で診断情報を要求することができます。例えば、技術者がポンプモデルの圧力変動の原因について尋ねると、作業の流れを中断することなく即座に音声ガイダンスを受け取ることができます。
2. フィールドサービスオペレーションの強化
現地での問題の診断・解決支援を基礎として、装置メーカーは遠隔診断とインテリジェントな訪問前準備により、フィールドサービスオペレーションを変革することができます。フィールドサービスチームは AI が出力した診断レポートを受け取り、センサー測定値やエラーコードなどの機械データを遠隔で分析し、現地訪問が必要な場合は各修理に必要なものを迅速に準備することができます。この準備には、交換部品の予想、必要かつ適切な工具、特定の問題に対する技術者の専門知識の適合が含まれます。その結果、複数回の現地訪問が減少し、保守コストが削減され、初回修理成功率と修理時間が大幅に改善されます。より良い障害分析と準備により、より良いリソース配分、より速い修理時間、より効率的な技術者の配置、そして改善された顧客体験が可能になります。
KONE(エレベーターとエスカレーターのグローバルリーダー)が AWS と共同で、接続されたエレベーターの保守履歴、IoT データ、関連文書を分析して技術者がエレベーターをより速く修理できるよう支援する AI 搭載の技術者アシスタントを開発した様子をこのビデオでご覧ください。
3. 装置メーカー向け装置フリート分析
従来の機械群分析では、数千台の導入済みの装置からの洞察を抽出するために、データサイエンティストと複雑なデータエンジニアリングが必要でした。生成 AI は、大規模なデータセットに対する自然言語でのクエリを可能にし、テレメトリーデータとサービスレポートやオペレーターのフィードバックなどの非構造化ソースを組み合わせて、自動的に文章化された分析結果を生成することでこれを変革します。性能パターンを理解するためにダッシュボードを手動で構築する代わりに、装置メーカーは「高温環境での掘削機の一般的な故障モードは何か?」といった質問をして、傾向を特定し、環境要因を相関させ、設計の改善を推奨する包括的な分析を受け取ることができます。これにより、技術チーム以外でも機械群の洞察にアクセスできるようになり、営業チームや製品チームが異なるユースケースや環境での装置の性能を迅速に理解できるようになります。これらの洞察により、新しい「サービス化」ビジネスモデルも可能になります。システムは資産タイプ、顧客セグメント、地理的位置ごとに詳細な性能に関する文章を自動的に生成し、これまでは大量の手作業による分析が必要だったパターンを明らかにします。
4. AI が出力した診断レポート
装置メーカーは生成 AI を活用して、テレメトリーデータ、保守履歴、環境条件、インシデントログなど、複数のデータソースを統合した包括的な運用レポートを作成することができます。これらのレポートは自社チームの戦略的洞察を創出し、また手作業によるレポート作成とデータ収集の時間を節約することもできます。これらのレポートは、リアクティブな診断とは異なり、より広範な性能パターンを分析して製品開発に情報を提供し、設計の改善を特定し、サービスと顧客サポート戦略を最適化します。
これらのレポートは、製造業者向けの戦略的インテリジェンスと、顧客向けの自動化された多次元レポートの両方のレベルで価値を創出する二重レポートアプローチを取ることができます。装置メーカーはこれらの診断機能を顧客向けのプレミアムサービスとして提供し、装置の信頼性向上、より良い顧客サービス、顧客オペレーション管理のための洞察を通じて、より強固な顧客関係を構築しながら、継続的な収益を生み出すことができます。
HP が AWS とともに、IoT、機械学習、生成 AI を活用して未来のインテリジェント印刷工場を創造している様子をこのビデオでご覧ください。
IoT データと生成 AI の橋渡し
「AWS でのスマート産業機械導入のガイダンス」は、スマート産業機械への取り組みの出発点となります。このガイダンスは、スマート産業機械を効果的に大規模に接続・管理するために必要な基本的な構成要素を確立し、同時にさまざまなアプリケーションのために品質データを準備、文脈化、維持する産業データ基盤を作成します。この基盤があれば、装置メーカーは AWS の生成 AI を使用して新しい機能を開発することができます。
図 1 のアーキテクチャ図は、生成 AI レイヤーが追加されたこの基本的なスマート産業機械アーキテクチャを示しています。
図 1: AWS IoT と生成 AI を使用した AWS でのスマート産業機械導入のアーキテクチャ
産業用 IoT データは、AWS IoT SiteWise Edge を使用して AWS IoT SiteWise に直接取り込むか、AWS IoT Core のルールを介して取り込まれます。システム内で、このデータは静的プロパティ(シリアル番号、機械タイプなど)と動的プロパティ(センサー測定値、GPS 位置など)を組み合わせたデジタルアセットモデルに整理されます。モーター、アクチュエーター、ポンプなどの個々のアセットは、より大きな機械や装置を表現するために親子関係で接続されます。構造化された IoT データの基盤は、生成 AI 機能と組み合わされることでさらに強力になり、生の運用データを実用的な洞察とインテリジェントな自動応答に変換して、支援付き保守と機械群管理分析を実現します。このパターンは、交換部品と保守記録情報を取得するための保守プラットフォームなどのサードパーティの産業システムにも拡張することができます。
Amazon Bedrock: IoT と生成 AI の統合のための柔軟なソリューション
スマート産業機械ソリューションに取り組む装置メーカーは、Amazon Bedrock で生成 AI の取り組みを開始することができます。Amazon Bedrock は、主要な基盤モデル (FM) への容易なアクセスを提供する完全マネージド型サービスです。Amazon Bedrock Knowledge Bases を使用すると、これらのモデルと組織のデータを簡単に接続して、特定の情報ソースに基づいた正確で関連性の高い文脈に応じた応答を提供することができます。Amazon Bedrock Knowledge Bases は、Amazon S3、外部システム、Salesforce、Confluence、SharePoint などの顧客ソリューション、およびカスタムエンドポイントの既存データと接続し、迅速な導入を可能にします。Amazon Bedrock Knowledge Base のセットアップは、ここで定義されている手順を使用して迅速かつ簡単に行うことができます。
モデルとデータを Amazon Bedrock Agents と組み合わせることで、データの保存場所に関係なく、IoT データや独自の情報から迅速に洞察を得ることができます。自然言語でのやり取りを通じて、1 台の機械を監視したり、シームレスに機械群全体の管理に拡張したり、運用サマリーを生成したりすることができます。Amazon Bedrock Agents は外部システムに対するタスクを調整・実行することができ、IoT データと保守システムをクエリして新しいインシデントチケットや警報を作成することができます。これにより、自律型エージェントを使用してあらゆるワークフローに対応することができます。
例えば、Amazon Bedrock agents は、IoT データとナレッジベースの洞察を加えて、Amazon Connect で自動的にサポートチケットを作成することができます。装置の問題が発生した場合、システムは状況に応じた情報とともにオペレーターに即座に通知し、より迅速な解決とプロアクティブな顧客サービスを可能にします。このコンタクトセンターパターンの詳細については、「AWS での自動入力のコンタクトセンターへの接続ガイダンス」を参照してください。
Amazon Bedrock は、より複雑なワークフローのためのエージェントシステムの構築を加速するマルチエージェントコラボレーションもサポートしています。この機能のハンズオンデモンストレーションについては、Amazon Bedrock マルチエージェントコラボレーションをご覧ください。
スマート産業機械向けのエッジインテリジェンス
接続性が限られているか不安定な環境で稼働する産業機器にとって、生成 AI 機能をエッジに直接導入することは魅力的な選択肢です。接続性とコンピューティング能力に応じて、定型的な小規模タスクはエッジモデルで実行し、より複雑なクエリは接続が利用可能な場合にクラウドの大規模言語モデル (LLM) にオフロードするハイブリッドアプローチを採用することもできます。小規模言語モデル (SLM) をスマート産業機械に直接組み込むことも可能で、オフライン状態でも継続的な AI 支援が可能になります。AWS でのエッジインテリジェンスとエッジでの生成 AI と IoT のベストプラクティスについて詳しくは、これらのブログをご覧ください。
AWS IoT SiteWise Assistant: 産業用 IoT と生成 AI 統合のためのネイティブソリューション
Amazon Bedrock があらゆる IoT データソースに対して柔軟な基盤を提供する一方で、AWS は産業用データの収集、保存、分析のニーズに AWS IoT SiteWise を利用する産業機器メーカー向けに目的に特化したソリューションも提供しています。AWS IoT SiteWise Assistant は、機械の性能、傾向、運用指標に関する洞察を得るために複雑な技術的クエリステートメントを書く必要なく、自然言語で機械データをクエリできるようにすることで AWS IoT SiteWise の機能を強化します。より詳細な概要については、「AWS IoT SiteWise Assistant による産業意思決定の変革」をご覧ください。
製品開発ライフサイクルに生成 AI を活用し市場投入を加速する
[この章は日本のお客様向けに原著者許諾のもと AWS Japan SA 吉川が追加しました]
製造業におけるスマート製品開発で比重をましているソフツェア開発にでは、生成 AI ツールを活用することで大幅な効率化が可能です。AWS Japan ブログ「生成 AI (Amazon Bedrock と Amazon Q Developer) を活用した製造業スマート製品開発の新しいかたち – Part2 製品開発ライフサイクルの加速」では、生成 AI がソフトウェア製品開発ライフサイクル (SDLC) の各フェーズでどのように活用できるかを詳しく解説しています。市場調査やプロトタイピング、要件定義、コーディング、テスト、デバッグ、多言語対応など、開発プロセス全体で生成 AI を活用した具体的な活用事例が紹介されています。さらにタスクの自動化や人間と AI の協調開発の仕組みについて詳しく説明されており、開発者として参考になる知見が得られます。生成 AI ツールの活用によるスマート製品開発の効率化と生産性向上のヒントが得られるはずです。
AWS パートナーによるスマート産業機械向けの生成 AI
AWS パートナーは、戦略的コンサルティングやアイデア創出から、「AWS でのスマート産業機械導入のガイダンス」を活用したスケーラブルで安全なソリューションの提供まで、スマート産業機械ソリューションを構築する AWS の顧客をサポートする重要な役割を果たしています。このセクションでは、これらのシステムインテグレータ (SI) AWS パートナーが、IoT と生成 AI の組み合わせにより、顧客を支援し、より広範なスマート産業機械産業を発展させている方法について説明します。
日本のお客様向け情報
富士ソフトは AWS プレミアパートナーとして IoT やスマート産業機械の開発に豊富な実績を持っています。装置の組み込み開発からアプリケーション開発まで一貫したサービスを行っており、センサーデータ収集、機械学習による予防保守、遠隔操作など、 IoT を活用した機能の実現が可能です。 AWS サービスの導入から運用・技術サポートまでのワンストップ支援も行っています。ものづくりの現場ニーズに合わせたソリューションと、豊富な開発実績のある技術者が、 IoT 化を支援します。
クラスメソッド は、AWS プレミアパートナーとして豊富な IoT ソリューション構築実績を持っています。5,000 件を超えるプロジェクト実績と 3,500 以上の AWS 認定を有し、 スマート産業機械からのデータ収集、分析基盤の構築、モバイルアプリ開発など、IoT ソリューションの一貫した提供が可能です。特に AWS の IoT サービスを活用した IoT システムの設計、構築、運用支援に強みを持っています。
グローバルパートナー
AWS のパートナーは世界中でお客様を支援しています。北米や欧州のスマート産業機械システムを構築するときには、以下のグローバルパートナーに関する情報が役に立ちます。
Deloitte は生成 AI を活用して、スマート産業機械向けの支援付き保守と自律的な意思決定を実現し、アフターマーケットサポートと Equipment-as-a-Service (EaaS) への移行の両方を最適化しています。
SoftServe の統合 IIoT プラットフォームと生成 AI ソリューションは、産業用 IoT (IIoT)、生成 AI、デジタルツイン、NVIDIA の機能を組み合わせてスマート産業機械を変革します。彼らの Schunk 実装により、遠隔およびフィールドサポートエンジニアが顧客の装置を効率的にトラブルシューティングできるようになります。
Twisthink は現在、生成 AI と IoT の AWS サービスを活用して、より少ない開発努力と投資で、予測保守と機械群管理分析のためのスマート産業機械ユースケースをサポートしています。
Green Custard は AWS 上で IoT と生成 AI を組み合わせ、支援付き保守、リアルタイムの性能最適化、強化された顧客サポートを通じてスマート産業機械の提供を革新しています。彼らの Britvic’s Aqua Libra Flavour Tapの実装は、IoT データとサポート文書のインテリジェントな分析を通じて強化された顧客サービスを実証しています。
結論
IoT と生成 AI の組み合わせは、保守運用の強化、機械群管理プロセスの拡張、顧客向けの新しいアプリケーションを通じた新たな収益源の創出により、スマート産業機械メーカーにとって変革的です。AWS と AWS パートナーは、製造業者が現在の IoT ソリューションを拡張するか、競争力を維持し収益成長を促進する位置付けの新しいスマート産業機械を構築するのを支援するサービスとソリューションを提供します。
IoT と生成 AI で製品を変革する準備はできましたか?AWS または AWS パートナーにご連絡いただき、今日からスマート産業機械の取り組みを開始してください。AWS での生成 AI の詳細については、以下のリソースをご覧ください:
- 産業向け生成 AI
- 生成 AI イノベーションセンター
- Amazon Bedrock Agents を使用した堅牢な生成 AI アプリケーションを構築するためのベストプラクティス
- AWS Internet of Things
このブログへの追加の貢献者に特別な感謝を捧げます。このブログの背後には、産業用 IoT の背景を持つ以下の方々を含む、産業、IoT、生成 AI にわたる AWS スペシャリストの素晴らしいコラボレーションがあります:
- Yuri Chamarelli、シニア生成 AI/ML スペシャリストソリューションアーキテクト(産業用 IoT のバックグラウンド)
- Channa Samynathan、AWS Edge AI & Advanced Computing シニアワールドワイドスペシャリストソリューションアーキテクト
- Vijay Karthick Baskar、製造業向けシニアパートナーソリューションアーキテクト
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このブログはAWS Blog Maximizing the value of Smart Machines with generative AI and IoT を元にAWS Japan Solutions Architect 吉川晃平 (Kohei Yoshikawa) が翻訳し日本の読者向け情報を追記しました。