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【開催報告】店舗業務にフォーカス!小売業界向け AI エージェント活⽤ワークショップ

本記事は、2025 年 9 月 4 日に実施した、ファッション、アパレル、コンビニエンスストアといった事業を展開されている小売企業のお客様を対象とした、AI エージェント活用ワークショップの内容をご報告するものです。本ワークショップでは、これらの業界の共通項である、店舗運営に焦点を当てて、店舗業務における課題を 生成 AI や AI エージェントを活用することでどのように解決できるかについてみんなで考え、アイデア出しから実装までの流れを体験いただくことを目的としています。

ワークショップの概要

ワークショップには、15 社 30 名の方にご参加いただきました。IT / DX 部門のみならず、企画、事業開発、AI 推進、元店長など、多種多様な所属部門、経歴のお客様にご参加いただきました。

主なアジェンダは、下記の通りです。

  • 生成 AI の今 - 汎用的→特定業務を支援するエージェント –
  • ハンズオン - 店舗向け AI エージェントを体験してみよう –
  • ハッカソン - 店舗業務を効率化しよう –

生成 AI の今 - 汎用的→特定業務を支援するエージェント – [資料]
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 平井 健治

2025 年の今、企業における生成 AI の活用は汎用的なチャットツールから、特定業務を支援する AI エージェントの活用へと進化している段階にあります。PwC 社のレポートによると、生成 AI の活用において、米国と比較し日本は期待を下回るケースが多く見られます。その要因として知識やスキル不足による具体的なユースケース検討の停滞が挙げられる一方で、期待以上の成果が出たケースとして日米間で共通している要因は「ユースケース設定」にあることが明らかになっています。
AWS は、多くの汎用ユースケースに対応可能な生成 AI サンプルソリューション「Generative AI Use Cases(略称 GenU )」をオープンソースで公開しており、ユーザーはユースケースビルダー機能を利用することで、ノーコードで独自のユースケースも構築できることをご紹介しました。データ活用のユースケースにおいては、自然言語でデータ分析や新たなダッシュボード生成を行う Amazon Q in QuickSight や、追加学習なしに高精度な時系列予測を実現する基盤モデル Chronos-Bolt について、デモを通じてご紹介しました。
そして店舗業務に目を向けると、これらのユースケース以外にも、発注、検品、シフト作成など様々なタスクがあり、ここに AI エージェントの活用を検討しましょう、と参加者に投げかけました。注意すべき点として、エージェント 1 つに多数の役割を持たせると、ハルシネーションの発生確率を高めたり、後からの機能追加が困難になるため、エージェントを役割で分けて、複数の業務特化エージェントが連動するマルチエージェント構成の必要性について説明しました。

ハンズオン - 店舗向け AI エージェントを体験してみよう – [資料]
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 喜多 望

ハンズオンでは、店舗業務で重要な在庫管理と売上分析する AI エージェントの構築を体験いただきました。AI エージェントは独自の在庫管理 DB や売上分析システムと連携した処理を行うことができます。参加者は、ノーコードで AI エージェントを開発できる Amazon Bedrock Agents を利用し、在庫確認を行うエージェントと売上分析を行うエージェントを作り、そして、これらのエージェントと連携し取りまとめる Supervisor エージェントを構築しました。さらに、GenU から Supervisor エージェントを呼び出せるように設定することで、 Web アプリケーションから自然言語で店頭在庫の確認や売上分析を行えるチャット環境を短時間で構築いただきました。AI エージェントがユーザーからのリクエストを理解してタスクを細分化し、業務特化のエージェントと連携して、複合的な処理を完結できるということを体験いただきました。

ハッカソン -店舗業務を効率化しよう – [資料]
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 濱上 和也

「ユースケースの解像度が高ければ、実用的な AI アプリは作れる」ということを体験いただくため、店舗業務を効率化する AI エージェントを具体化するハッカソンを行いました。現実世界の業務には、単純なワークフローもあれば、複雑な処理の分岐や判断を必要とするケースなど多岐に渡り、それぞれの業務フローに対して AI はどのように機能できるか、人間との役割分担はどうあるべきか、について問いかけました。AI から人間に判断を求めるユースケースの具体例として、FAQ ページを更新する AI エージェントのデモをお見せし、これを実現する AWS アーキテクチャの概要と、 実は Amazon Q Developer がほぼ全て開発したことについて触れ、ユースケースの解像度が高ければ、開発自体のハードルは今はかなり低いということを説明しました。


ハッカソンでは、今回のテーマである店舗業務の課題の具体例を示しながら、誰のどんな業務を解決するのか、グループ内で話し合い、ユースケースを 1 点に絞り込んでいただきました。そのユースケースで活用できる AI エージェントアプリケーションを利用者視点で 5W1H を定義し、必要となるデータやツール、連携方式について整理いただきました。
このワークでは、先ほどのハンズオンで作成した GenU の各種機能も活用し、要件の解像度を高める手法も実践しました。例えば、議事録生成 を使い、ディスカッション中の音声から 利用者視点の 5W1H を自動整理させたり、ダイアグラム生成 でシステム関連図の作成や、画像生成 で利用シーンをビジュアル化、チャット でシステム要件定義を行うなど、生成 AI の力を借りることで議論から効率良く解像度を上げていきました。

そして、これらの情報をインプットに、 Amazon Q Developer を使って画面プロトタイプの開発にも挑戦いただきました。全てのグループが画面プロトタイプを作成し、実用的な AI アプリケーションのアイデアを全体で発表いただきました。限られた時間でしたが、参加いただいたお客様は店舗業務における具体的な AI 活用のユースケースを特定し、その検討過程においても AI を活用しながら、アイデアからアプリケーション実装への実践的な流れを体験いただきました。

お客様の声

アンケートでは、CSAT 4.58 ととても高い評価をいただくことができました。「業務効率化を図れるような機能を体験することができ、過去実店舗に在籍していた身としても、非常に興味深く、店舗に実装されたらどれだけのことができるだろうかと、思い描くのが楽しい時間でした」、「ハッカソンで出ていた様々な案はいずれも実際の業務に活用できそうだと思いました」、「店長エージェントの実装を検討する中で、自社ソリューションの組み合わせなど、試したいアイデアが出ました」、「他社の方の事例を聞いたり、小売業界ならではの共通した課題への気づきを得られてかなり勉強になりました」、「 AI エージェントを活用するために今日から行動を起こしてみます」など多数のポジティブなコメントと、次回開催に対する期待の声をいただくことができました。

まとめ

ワークショップを通じて、各グループ計 6 つの具体的なユースケースを特定することができました。ユースケースの内訳として、店長視点のものが 3 つ(売れ筋商品の補充発注、シフト変更調整、週報の作成)、店舗スタッフ視点のものが 3 つ(店舗コンシェルジュ、商品ポップ作成、滞留在庫商品の広告作成)でした。偶然にもグループ間でテーマの被りがなく、何よりどのグループも議論と実装で盛り上がり、もっと時間が欲しかったというコメントをたくさんいただきました。これは、テーマを店舗業務に絞ったことの効果と AI ツールの活用、そして企業をまたぐお客様同士のコミュニケーションによって、お客様の気づきと満足度に大きく寄与したものと考えています。お客様の声に耳を傾けて、今後も期待に応える企画を考えてご提供していきます。

著者 / ワークショップ提供コアメンバーについて

平井 健治(Kenji Hirai)

流通・小売のお客様を担当するソリューションアーキテクトです。Amazon Redshift などアナリティクス関連の技術支援も行っています。

喜多 望(Nozomi Kita)

流通・小売のお客様を担当するソリューションアーキテクトです。好きな AWS サービスは Amazon GuardDuty で、業界問わず、Security 分野の技術⽀援も行っています。趣味はゲームとお笑いライブの鑑賞です

西村 忠巳(Tadami Nishimura)

流通・小売のお客様を担当するソリューションアーキテクトです。データガバナンスの観点から、お客様がデータ活用を効果的に行えるようなデモンストレーションなども多く行っています。好きなサービスは Amazon Aurora と Amazon DataZone です。趣味は筋トレで、自宅に徒歩0分のトレーニングルームを構築して、日々励んでいます。

濱上 和也(Kazuya Hamagami)

流通・小売のお客様を担当するソリューションアーキテクトです。好きな AWS サービスは Amazon Connect で、業界問わずコンタクトセンター関連の技術支援も行っています。最近は、Amazon Nova Canvas でバーチャル試着を楽しんでいます。