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今すぐ動くか、遅れをとるか: SaaS リーダーが PLG on AWS を見逃すわけにはいかない理由

この記事は、AWS で SaaS Partners Global Practice Lead を務める Oded Rosenmann、AWS で Principal SaaS Business Lead を務める Akshay Patel によって執筆された Act Now or Lag Behind: Why SaaS Leaders Can’t Afford to Overlook PLG on AWS を翻訳したものです。

あなたは最近、SaaS (Software-as-a-Service) の業界がプロダクト・レッド・グロース (製品主導の成長: PLG) アプローチにシフトしていることにお気づきかもしれません。多くの方の関心事にもなっているようですが、それには正当な理由があります。

AWS SaaS Factory チームは、顧客獲得コスト (CAC) の削減、ファネルの拡大、およびグローバル展開に向けた取り組みの一環として、多くの AWS パートナーの PLG 戦術の実装を支援してきました。あらゆる重要な変更と同様に、この変遷を成し遂げる際には克服すべき課題があります。

貴社の SaaS ビジネスが十分な速さで成長していないとお考えなら、PLG がプロダクトの可能性を引き出す鍵となるかもしれません。取締役会、投資家、創設者、経営幹部、さらには個々のチームメンバーまで、誰もがこの画期的な戦略を理解することで恩恵を受けることができます。まだ PLG を検討していないなら、今がその時です!

SaaS の成功戦略としてのプロダクト・レッド・グロース

PLG は SaaS の市場開拓(GTM)モデルであり、成長促進剤として活用されています。市場リーチを拡大し、より多様な顧客への扉を開くと同時に、プロダクトをビジネスの拡大と成功のきっかけに変えます。GTM 戦略は従来の販売やマーケティングの取り組みから変わり、プロダクト自体が顧客を獲得、活性化、維持するための主要な手段となります。

PLG は SaaS 環境で成功を収めています。セルフサービス機能を通じて、顧客のペインポイントに組織が対処することができます。SaaS プロバイダーは、ユーザーがプロダクトを迅速に試して価値を実現できるようにし、多額の追加投資をすることなく、最小限の手間でトライアルユーザーを有償顧客に変えることができます。

プロダクトを使用する鍵を顧客に提供する場合、このアプローチを実行可能なビジネス戦略に変える必要があります。多数の AWS パートナーとのコラボレーションを通じて、次の 7 ステップのガイドを作成しました。経営幹部やプロダクト・リーダーが AWS で PLG を効果的に実装できるよう支援することを目的としています。

顧客のライフサイクル全体にわたって PLG を構築するための 7 つのステップ

PLG 戦略を検討し始めたSaaS企業は、よくある落とし穴に陥り、PLG の立ち上げや方向転換に必要な重要なステップを見落としがちです。ここでは、成功する PLG モデルを実装するために必要なコアコンポーネントを紹介します。

図1. 顧客のライフサイクル全体にわたって PLG を構築するための 7 つのステップ

図1. 顧客のライフサイクル全体にわたって PLG を構築するための 7 つのステップ

1) 事業拡大を行う前に、新規顧客を獲得できるような PLG 戦略に会社を合わせる

PLGは、経営幹部がオーナーとなって主導する全社的な戦略です。Land and Expand 戦略(訳者注: 市場や顧客にフリートライアルなどで最初の足がかりとなる関係性を構築し、その後アップセル・クロスセルなどリーチを拡大していく戦略)を展開する方法を追求する必要があります。

PLG 戦略をサポートするスケーラブルで費用対効果の高い SaaS ソリューションを提供するためには、マルチテナンシーのアーキテクチャの選択が不可欠です。AWS ブログ Let’s Architect! Designing architectures for multi-tenancy では、技術チームがプロダクトの急成長に備えるのに役立つマルチテナントアーキテクチャについて紹介しています。

PLG の目標は、ユーザーを引き付け、ソリューションを簡単に見つけて試し、購入できるようにし、これをスケールさせることです。ユーザーがシステムに慣れてくれば、SaaS ソリューションが提供するその他の機能、新しい機能をハイライトするように戦略をシフトします。

7つのステップのうち、最初の戦略ステップにおいて重要なアクションの1つは、ターゲットオーディエンス、理想顧客プロファイル(ICP)、およびターゲットペルソナを定義することです。データとフィードバックを集めて彼らの課題、動機、障害となっているものを理解し、SaaS ソリューションを試してみたくなるようなユーザー体験を作りましょう。PLG アプローチを採用するにあたり、第一印象は重要であり、オンボーディング体験の効率化は極めて重要です。有償版へのシームレスな移行のためにアプリ内ガイダンスを使用して、顧客価値の実現を加速します。タイム・トゥ・バリュー(TTV)を監視し、成長力を強化できるよう改善します。B2B SaaS 企業を発展させる際には、B2C スタイルのユーザー体験を取り入れることが理想的です。

AWS パートナーであり顧客データプラットフォーム(CDP)でもある Twilio は、世界中のすべての開発者が音声通話用の API をすばやく試して購入できるようにすることで、従来の通信業界を根本的に変革しました。新規顧客を大規模に獲得することに成功したことで、急成長している一連の API ベースの通信サービスが立ち上げられました。

2) SaaS ジャーニーを通じたカスタマーエクスペリエンスを再考する

PLG では、プロダクトのユーザーエクスペリエンス (UX) が SaaS ソリューションの差別化の中核であり、UX、プロダクト、開発チームが主導します。ただし、これはプロダクトチームだけに限ったことではありません。顧客対応チームは、カスタマージャーニー全体を通じてプロダクト体験をサポートする役割を果たします。プロダクトが採用と普及の主な原動力となる場合、「ワオ!」と「なるほど!」の瞬間を実現するユーザー中心のアプローチが不可欠になります。

あらゆる業界において現代の顧客は、SaaS を含むサービスに取り組む前に、オプションやその他の顧客レビューについて調査することに精通しています。トライアルやフリーミアムサービスで顧客がプロダクトを利用しやすくすることで、ファネルを広げ、CAC を減らすことができます。

AWS Marketplace は、SaaS ソリューションを見つけ、購入し、デプロイするためのセルフサービスを顧客に提供することで、PLG 戦略を拡張します。AWS 認定ソフトウェアを提供する AWS パートナーの Rocketlane は、AWS での PLG 戦略の一環として、AWS Marketplace を使用して無料トライアルとフリーミアムサービスを作成しています。Rocketlane の共同創設者兼 CTO である Deepak Balu 氏は次のように述べています。「私たちは、顧客のオンボーディングをより予測可能で一貫性のあるものにすることで、個人の英雄的な努力に頼らずに済むようにしています」

3) 解決しようとしているペルソナに焦点を当てた体験を構築する

ジェフ・ベゾスは、オレンジ色の誰も座らない椅子を会議室に持ち込み、テーブルにつくお客様の声を表現したことで有名です。これが、Amazon が顧客にこだわり、お客様を起点として課題や改善点、メリットなどを考える方法です。PLGは、サービス対象のペルソナに焦点を当てることで、組織全体にまさにそれについて考え、実行するように強制します。

Broadpeak は、AWS 認定ソフトウェアを提供する AWS パートナーです。コンテンツ配信ネットワーク(CDN)およびビデオストリーミングソリューションの大手プロバイダーであり、世界中のコンテンツプロバイダーや有料テレビ事業者が顧客の期待に応えるのを支援しています。Broadpeak のクラウドプラットフォーム担当副社長である Mathias Guille 氏は、「購入者/ユーザーのペルソナについてはすでに詳しく説明できていましたが、AWS SaaS Factory はカスタマージャーニーのマッピングの手助けをし、お客様にシームレスなオンボーディング体験を提供するプロセスをサポートしてくれました」と述べています。

Broadpeak のサービスである broadpeak.io は、安全なストリーミング動画 API プラットフォームを活用して、視聴者ごとにコンテンツをコンテキスト化し、パーソナライズすることで、顧客体験に革命をもたらしました。Broadpeak は、ターゲットペルソナにとってのレイテンシーとエッジロケーションがあることの重要性を理解し、さまざまなリージョンにデータプレーンクラスターを導入し、エンドユーザーとの近接性を確保して低レイテンシーのパフォーマンスを実現しました。分散データ管理には Amazon Aurora Global Database、レイテンシーベースのルーティングには Amazon Route 53 などの主要な AWS サービスを利用しているため、市場投入までの時間を大幅に短縮できます。

Broadpeak は、PLG モデルではペルソナ中心のアプローチに重点を置いており、個々のペルソナに合わせてエクスペリエンスを調整することにフォーカスしています。この戦略は、低レイテンシーとパーソナライズに対するユーザーの期待を優先し、コンテンツプロバイダーとネットワークサービスプロバイダーに優れた価値をもたらします。

4) プライシングとパッケージングを成長の手段にする

SaaSでは、プロバイダーはサービスのパッケージングとプライシングについて多くのオプションと属性を用意しています。ここでの重要なポイントは、プライシングとパッケージング戦略をプロダクトの重要な機能として構想することです。PLG アプローチでは、セルフサービスの体験がリードすることになります。プライシング・モデルは、顧客が購入を試みる際の煩わしさを取り除くために透明性があるだけでなく、顧客が得ている価値と直接一致している必要があります。この価値が高まるにつれて、ビジネスにとっての価値も高まります。

FraudBlock の親会社で、民間航空業界のリーダーでもある GA Telesis は、AWS SaaS Factory と提携して FraudBlock SaaS ソリューションを立ち上げました。これは、企業が組織を詐欺から守り、B2B トランザクションを安全に実行できるようにするための詐欺対策 API サービスです。GA Telesis の SVP 兼グローバル CIO である Darryl Maraj は、「AWS SaaS Factory チームが私たちに協力した真の価値は、『as-a-service』の考え方を理解し、スムーズなカスタマージャーニーマップを作成し、主要な顧客エンゲージメント指標を確立し、GTM 戦略を計画したときです」と述べています。

FraudBlock は AWS Marketplace の柔軟な価格オプションを活用しており、スターター PLG パッケージとして、個人が数分で無料パッケージにサインアップできます。このアプローチは、使用量ベースのモデルやハイブリッドモデルの最新のプラクティスと一致しています。API の使用需要が高まるにつれて、ユーザーはよりプレミアムなパッケージに柔軟にアップグレードでき、使用量が契約の上限を超えた場合はオンデマンドで支払うことができます。AWS Marketplace で提供されているサービスをチェックして、さまざまな価格オプションを確認できます。

5) 計測、計測、計測

メトリクスなしで PLG を 始めるのは、目隠しをして運転するようなものです。PLG を使用すると、エクスペリエンス全体を通じて顧客が何をどのように行っているかを理解し、SaaS サービスを差別化し、チームの規模を拡大できます。

発見から始まり、試用、購入、定着、拡張、解約と続くジャーニー全体にわたる指標を設定することで、ターゲットとするペルソナの意図した行動を促すための可視性が得られます。これらの指標により、チームはエクスペリエンスを向上させたり、ギャップを発見したりするためのトリガーポイントを特定することもできます。たとえば、ユーザーが体験版を操作すると、最初の価値の発見を表す使用状況メトリクスがトリガーされます。これらの指標は、多くの場合、有償顧客へのコンバージョンを促進するきっかけとなります。PLG では、これはしばしばアクティベーションと呼ばれます。

ユーザーがアクティベーションされると、同じモデルを使用して購入やさらなる拡大を促進できます。これは、ユーザーがログインする回数、使用する機能の数、およびプラットフォームに費やした時間によって計測できます。SaaS ソリューションが意図した価値を顧客に提供していることを確認し、どのトリガーポイントが最も効果的かを特定して、それに応じて戦略を改善して顧客生涯価値(CLTV)と顧客維持率を最大化することができます。

エレクトロニクス、オートメーション、デジタル化に焦点を当てる AWS パートナーの Siemens は、2021 年に SaaS 主導のビジネスに向けて戦略的な道を歩み、Xcelerator as-a-Service を導入しました。この変革の決定以来、Siemens は Amazon QuickSight を活用して、データ・ドリブンの戦略を通じて顧客エンゲージメントを強化してきました。

「QuickSightのダッシュボードはセッション単位の支払いで、インタラクティブなデータに安全・高速かつ費用対効果の高い方法でアクセスできるので完璧です。クラウドベースのソリューションであるQuickSightは、私たちのニーズに合わせて自動的に拡張もできます」と、Siemens のプロダクトマネージャーである Massimilliano Ponticelli は言います。

最終的に、プロダクトはリーチを拡大し、新しい顧客を獲得するためのスケーリングメカニズムの一部になります。Amazon QuickSight により、Siemens はユーザーの行動を把握し、価値獲得を促進することができました。

6) 顧客とPLG戦略を中心に適切な組織を構築する

PLG は、サイロ化された組織モデルを打ち破り、チームが成果に合わせて調整できるようにします。Land and Expand 戦略の動きに応えるさまざまな機能を持つ新しい組織モデルを推進します。そのためには、適切な役割を定義し、その役割に適した人材を採用または訓練し、必要なツールと指標を提供することが重要です。

PLG モデルとセールス主導型モデルは両立しません。マーケティングと営業の役割は、組織全体で進化し、拡大しています。たとえば、グロースプロダクトマネージャー、カスタマーサクセスマネージャー、グロースマーケター、インサイドセールスなどの新しい役割が一般的になりつつあります。リーダーは、顧客行動の追跡、顧客満足度の計測、顧客エンゲージメントの監視に必要なツールをチームに提供する必要があります。

図2. カスタマーエクスペリエンスを中心にチームを構築する

図2. カスタマーエクスペリエンスを中心にチームを構築する

AWS 認定ソフトウェアを提供する AWS パートナーの Snyk は、AWS 上の SaaS ソリューションでエンタープライズのワークロードを保護しています。Snyk は SaaS トライアルをシンプルで簡単に開始できるようにし、AWS Marketplace で世界中から利用できるようにしました。彼らは、データや分析ツールを使用し、ユーザーがソフトウェアを使いこなすのをサポートし、グロース・チームが導入を促進するアクションをリアルタイムで起こせるようにしています。

7) スケーラブルな SaaS クラウドネイティブアーキテクチャの実装

効果的な SaaS トライアルのためには、PLG モデルのトライアル段階で 実用最小限の機能 (MVF) を通じてプロダクト独自の価値が伝えられるようにしてください。アプリケーションのアーキテクチャにサーバーレスまたはコンテナテクノロジーを利用すると、スケーラビリティと費用対効果が高まるため、試用版の実装に適しており、PLG 戦略をサポートできます。

AWS SaaS Factory チームは、AWS のお客様が SaaS への移行を加速するのに役立つリファレンスソリューションを構築しました。AWS のブログ記事 AWS サーバーレスサービスによるマルチテナント SaaS ソリューションの構築Building a Multi-Tenant SaaS Solution Using Amazon EKS では、オンボーディング、テナント分離、データパーティショニング、テナントデプロイパイプライン、およびオブザーバビリティを効率化するためのリファレンス・ソリューションとアーキテクチャの考慮事項について説明しています。

Signeasy は、企業向けの電子署名および文書トランザクション管理 SaaS ソリューションを提供しています。会社の規模が拡大してきたとき、AWSのサーバーレス を使用して顧客向けの SaaS セルフサービスダッシュボードを作成しました。AWS LambdaAmazon Timestream などの AWS サーバーレスサービスは、お客様のニーズに合わせてスケールアウトとスケールインを行い、俊敏性を高め、インフラストラクチャ管理を軽減すると同時に、オンデマンドのユーザーエクスペリエンスを向上させます。

ブログ記事 Why Signeasy Chose AWS Serverless to Build Their SaaS Dashboard では、Signeasy が AWS のサーバーレス を使用してテナント向けの SaaS ダッシュボードを作成した理由と方法について詳しく説明しています。

まとめ

この投稿では、良いもの (good) から素晴らしいもの (great) へと移行するための秘訣となる7つのステップについて説明しました。1つのエリアだけで優れた存在になるという選択肢は実際には取りえません。すべての要素が相乗的に連携して機能する必要があります。

SaaS リーダーには、現代のビジネスモデルを再構築する力があります。PLG 戦略を再考し、AWS や AWS パートナーコミュニティと協力して SaaS ビジネスを成長させましょう。

PLG と SaaS on AWS の詳細については、 AWS SaaS Factory Insights Hub にあるすべてのコンテンツをご覧ください。

さあ、PLG ドリブンの新しい考え方を 貴社の SaaS ジャーニーに取り入れてみましょう。

AWS SaaS Factory について

AWS SaaS Factory は、SaaS 導入のあらゆる段階にある組織を支援します。新しいプロダクトの構築、既存のアプリケーションの移行、AWS での SaaS ソリューションの最適化など、どのような場合でも、私たちがお手伝いします。AWS SaaS Factory Insights Hub にアクセスして、技術やビジネスに関するコンテンツやベストプラクティスをご覧ください。

SaaS ビルダーは、アカウント担当者に連絡してエンゲージメントモデルについて問い合わせたり、AWS SaaS Factory チームと連携したりすることをお勧めします。

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翻訳はソリューションアーキテクト 中山 七美 が担当しました。原文はこちらです。