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【開催報告】 第2回 自治体事業者向け AWS ガバメントクラウドワークショップ 2025 in 大阪

こんにちは。ソリューションアーキテクトの松本侑也です。
パブリックセクター技術統括本部で自治体のお客様の技術支援を担当しています。

2025 年 10 月 31 日に「第 2 回 自治体事業者向け AWS ガバメントクラウドワークショップ 2025 in 大阪」を開催しました。第 1 回は 2025 年 6 月 17 日に東京で開催されています。第 1 回のイベントについて知りたい方は下記のブログをご参照ください。
【開催報告】自治体事業者向け AWS ガバメントクラウドワークショップ 2025 in 東京 | Amazon Web Services ブログ

このイベントは、第 1 回に引き続き、ガバメントクラウドへの標準化対象業務システムの移行を進める上で必要となる技術について深く学び (Dive Deep)、実践的なワークショップを通じて技術スキルを高め、さらに参加者同士の交流 (Have Fun) を目的としています。

本ブログでは、イベント内容を簡単にご紹介しつつ、当日のセッションやワークショップの様子を共有いたします。
本イベントは、夜に開催された第 4 回 Gov-JAWS の参加者も合わせ、総勢 91 名が参加する大規模なイベントになりました。

イベント概要

「自治体事業者向け AWS ガバメントクラウドワークショップ 2025 in 大阪」は以下のような形で実施しました。

  • 日時: 2025 年 10 月 31 日 (金) 13:00-18:30 (懇親会 + Gov JAWS: 18:30-20:30)
  • 場所: アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 大阪オフィス
  • 参加対象: 運用管理補助者、ASP、自治体向けパッケージ開発者の方々、自治体

1. 事例・デジタル庁 セッション

まず前半では、注目度の高いテーマについてセッションを実施しました。

  • 生成 AI によるガバメントクラウド運用管理補助業務の効率化 – 株式会社アイネス 田中 翔 氏
  • GCAS Connectと公共SaaSについて – デジタル庁 宮川 亮 氏, 西村 毅 氏

2. テーマ別ワークショップ

後半は、参加者が以下の4つのワークショップから自身の関心や課題に合わせて選択できる形式を採用しました。

ワークショップ名 主な内容
クラウドにおける可用性設計の考え方と FISによるテスト実践 AWS Fault Injection Service (FIS) を利用した障害試験と障害調査における生成 AI 活用について
コスト最適化 Dive Deep!インスタンス自動停止・起動の実装方法詳解 インスタンス自動停止・自動起動の実装例のご紹介、ハンズオンを通した活用方法の習得
⽣成 AI による開発・運用効率化ワークショップ 生成 AI による業務効率化と開発支援の実践、Amazon Bedrock を利用したアプリケーション開発入門
つくば市事例から考える、自治体生成AIビジネスの作り方 自治体における生成AI活用方法を、具体的な業務課題とそれを解決するソリューション含めてご紹介

具体的に手を動かしたり、自治体職員の方から生の声を聞ける場になっており、参加者からは「割と長丁場でしたがあっという間でした。選択肢が沢山あったのも非常に良かったです。」というコメントをいただきました。

3. 特別セッション

  • セキュリティインシデントへの備え: AWS Security Solutions Architect 中島 章博
  • ガバメントクラウド運用改善からSaaS製品の開発へ: 株式会社大崎コンピュータエンヂニアリング 久保田 亨 氏

事例セッション – ハイライト

生成 AI によるガバメントクラウド運用管理補助業務の効率化

株式会社アイネスの田中 翔氏から、ガバメントクラウド上で100以上の自治体システムを運用する中で直面した課題と、生成 AI を活用した解決策についてご紹介いただきました。

同社では、システム数の増加に伴い「運用監視チームの拡大には限度がある」「障害が集中した場合に SLO 内での対応が困難になる」という課題に直面していました。この課題を解決するため、AWS Failure Analysis Assistant (FA2) を Amazon Bedrock のエージェント機能と組み合わせた「エージェント版 FA2」を開発しました。

Amazon CloudWatch からアラームが発生すると、Bedrock エージェントが自動的に Amazon Athena のログやインスタンスの稼働情報を確認し、障害の発生原因と解決策を提示します。導入効果として、障害調査にかかる時間が10分の1に減少し、障害調査ができる人数が10倍に増加しています。

GCAS Connectと公共SaaSについて

デジタル庁から、西村 毅氏による公共 SaaS の共通要件と、宮川 亮氏による GCAS Connect についてご紹介いただきました。

西村氏からは、2025 年 9 月 30 日に公開された「公共SaaSの共通要件にかかる技術方針 (1.0版)」について説明がありました。公共 SaaS とは、ガバメントクラウド上で稼働し、制度官庁等が標準仕様を定める情報システムを SaaS として構築したものです。アーキテクチャ要件では、カスタマイズを行わずマルチテナント構成とすること、業務アプリケーションのソースコードは全テナント共通とすること、外部システムとのデータ連携は API 連携とすることなどが必須要件として定められています。

宮川氏からは、ガバメントクラウドの利用をネットワークの面から支援する GCAS Connect についてご紹介いただきました。GCAS Connect は、同一団体内の異なる CSP 間を閉域ネットワークで接続する機能と、公共 SaaS などの共通サービスに閉域ネットワークで接続する機能を提供します。IPv6 アドレスを利用することで複雑なアドレス変換なしですべての共通サービスへ接続が可能となり、それぞれの共通サービスと個別のネットワーク回線を準備することなく、GCAS Connect という1つのネットワークで接続できるようになります。

テーマ別ワークショップ

つくば市事例から考える、自治体生成 AI ビジネスの作り方

つくば市の横田 雅代氏と AWS の岩田 尚徳から、自治体基幹系システムにおける生成 AI 活用の実証事例についてご紹介しました。

実証では、AWS が公開しているオープンソースの生成 AI アプリケーション Generative AI Use Cases を活用し、2つの業務で検証を行いました。1つ目は、ひとり親相談業務での相談経過の要約です。Amazon Transcribe による音声の書き起こしと Amazon Bedrock による要約機能を組み合わせた検証を実施しました。2つ目は、保育所入園申請の審査業務です。申請書と添付書類 (PDF) を生成 AI で照合し、不備確認を自動化する仕組みを検証しました。

つくば市においては個人番号利用事務系の領域で生成 AI を利用するにあたり、PIA (特定個人情報保護評価) の実施やセキュリティポリシーの見直しも並行して進めており、実用化に向けて着実に前進しています。

また、つくば市の事例紹介の後には Generative AI Use Cases を使ったハンズオンを行いました。画像生成やチャットなど基本的なユースケースのほか、つくば市で実証が進んでいる音声書き起こし・要約機能の実践を行いました。

参加者からは「実例を含めた内容で非常にわかりやすく、今後のビジネス化に向けて、とても勉強になりました」「身近な団体の生の事例、対応を直接伺う機会は非常に貴重で参考になるものでした」といった感想が寄せられました。

コスト最適化 Dive Deep!インスタンス自動停止・起動の実装方法詳解

AWS から、ガバメントクラウドにおけるコスト最適化の手法として、インスタンスの自動停止・起動の実装方法について詳しく解説しました。

ガバメントクラウドの費用の大半を占める Amazon EC2Amazon RDSAWS Fargate といったコンピュートリソースに対し、夜間休日などシステム稼働の必要性がない時間帯にリソースを停止することで、大幅なコスト削減が可能です。ただし、実装にあたってはメンテナンスウィンドウ、バックアップ、パッチ適用等の時間帯等、個々のシステムごとに考慮すべき点もあります。

本ワークショップでは、Amazon EventBridgeAWS Step Functions を組み合わせた自動停止・起動の仕組みを解説しました。タグベースで対象リソースを管理し、EC2、ECS on Fargate、RDS などのサービスを対象に自動停止・起動を実現できます。また、Step Functions を介することで、システム固有の動作確認等の組み込みや、緊急時の手動による環境起動にも対応可能です。

参加者からは「実際でガバクラで課題になっている問題の対策となる勉強内容であった」「EventBridge も普段触ることがなかったので勉強になった」といった感想が寄せられました。

クラウドにおける可用性設計の考え方と FISによるテスト実践

AWS から、クラウドレジリエンスの考え方と AWS Fault Injection Service (FIS) を活用した障害試験、生成 AI を使った障害調査について解説しました。

従来の「壊れない」システムを目指す堅牢性のアプローチから、「壊れてもすぐ回復する」システムを目指すレジリエンスのアプローチへの意識変革が重要です。AWS FIS を使用することで、アベイラビリティーゾーンの停電シナリオなど、実環境の条件で障害注入テストを簡単に実行できます。

また、障害調査・対応の効率化として、Amazon Q DeveloperAmazon CloudWatch investigations を紹介しました。CloudWatch investigations は、関連するメトリクスやログ、AWS CloudTrail などの情報を自動で収集・分析し、調査結果から「仮説」と「アクション」を提案することで、迅速な障害対応を支援します。

参加者からは「すぐにでも使いたい内容だった」「実際に手を動かせたので記憶に残りやすいと思いました」「新たな障害対応のアプローチが増えて非常に参考になりました」といった感想が寄せられました。

⽣成 AI による開発・運用効率化ワークショップ

AWS から、生成 AI を活用した開発・運用業務の効率化について、実践的なハンズオン形式で解説しました。

ワークショップは3つのパートで構成されました。
1つ目は、運用業務への導入として、株式会社大崎コンピュータエンヂニアリング様の取り組みを参考にした AWS CloudTrail ログの要約機能を体験しました。Amazon Bedrock を使用することで、大量のログから特定の操作を抽出し、確認すべきログをメール送付する仕組みを実装し、運用管理補助業務の効率化を実現します。

2つ目は、Amazon Bedrock を使った生成 AI アプリ開発の基礎として、API の呼び出し、プロンプトエンジニアリング、RAG や Tool Use の実装を体験しました。3つ目は、Amazon Q Developer を使った AI コーディング体験です。TODO アプリや CloudTrail 分析アプリ、AI エージェントアプリなどの開発を通じて、Amazon Q Developer が自律的にコード生成、デバッグ・エラー修正を行う様子を体験しました。

また、Amazon Q Developer CLI と Model Context Protocol (MCP) を組み合わせることで、Amazon CloudWatch や AWS ドキュメントの情報を活用した高度な調査や開発が可能になることも紹介しました。

参加者からは「Bedrock の使い方がハードルが高いと思っていたが簡単に使えそうなことが分かったので是非社内で展開できるようにしたい」「エラーの原因究明にかなり有効性があると感じた」といった感想が寄せられました。

特別セッション – ハイライト

セキュリティインシデントへの備え

AWS の中島 章博から、ガバメントクラウドにおけるセキュリティインシデントへの備えについて解説しました。

脆弱な公開サーバーは短時間で攻撃され、侵害されたワークロードは暗号資産マイニングや踏み台として悪用される可能性があります。これらの脅威に対し、初期設定で有効になっている AWS CloudTrailAmazon GuardDutyAWS Security Hub CSPM などのセキュリティサービスを活用することが重要です。

インシデント対応に備えるため、ログの取得を確実に行うこと、セキュリティ担当者連絡先の設定と AWS からの通知への適切な対応、生成 AI を活用した効率的なログ分析などを紹介しました。

参加者からは「改めてセキュリティ対策に関する意識を向上させるきっかけとなりました」「セキュリティに関しての知見が深まりました」といったコメントをいただきました。

ガバメントクラウド運用改善から SaaS 製品の開発へ

株式会社大崎コンピュータエンヂニアリングの久保田 亨氏から、ガバメントクラウド運用における課題と、それを解決するための自動化ツール開発についてご紹介いただきました。

ASP 運用管理補助では、バッチジョブの状況やアラートメールを当番制で毎日目視確認しており、業務 SE の運用負荷が非常に高いという課題がありました。この課題に対し、Amazon Connect を活用した運用フロー自動化を実現しました。Amazon SESAWS LambdaAmazon SNSAmazon EventBridgeAmazon DynamoDB を組み合わせることで、メール確認、切り分け、対応状況管理、連絡といった一連のフローを自動化しました。
さらに、これらの取り組みで作成したツールを SaaS サービスとして製品化しています。
参加者からは「現在人的対応を実施しているため、弊社でも同様の自動化を検討したいと思います」といったコメントをいただきました。

Gov-JAWS コミュニティの活動紹介

ワークショップと併せて、Gov-JAWS の活動も行われました。Gov-JAWS は、AWS のユーザーコミュニティ「JAWS-UG」の支部として、公共分野における AWS 利用に焦点を当てた新しいコミュニティです。政府や自治体が進める公共分野のクラウド利用に関連する知識やノウハウを共有するための場として設立されました。

 

イベント当日は夜の部として Gov-JAWS 第 4 回 Meet Up が開催され、懇親会と併せて多くの参加者が交流を深めました。このコミュニティを通じて、今後も公共分野でのクラウド活用に関する情報共有と横のつながりの拡大が期待されています。

まとめ

今回のワークショップでは、ガバメントクラウド特有の知見を共有すること・最先端の生成 AI を公共領域でどう活用していくかに焦点を当てました。自治体やデジタル庁職員の方をお招きし、様々な観点からガバメントクラウドや生成 AI の活用についてを深掘りすることができました。

参加者からは「このような場を次回も開催していただけると大変ありがたい」「大きすぎず、直接事例が聞けるイベントはありがたく今後も継続してほしいです」といったフィードバックが寄せられました。

ご参加いただいた方におかれましては、お忙しい中ご足労いただき誠にありがとうございました。
今後も、AWS ではガバメントクラウドの活用を支援するためのイベントや情報提供を継続して実施してまいります。

ガバメントクラウドに関するお問い合わせ

AWS の公共チームではガバメントクラウドクラウド相談窓口を設けております。
ガバメントクラウド利用全般に関するお問い合わせについて、担当の営業およびソリューションアーキテクトがご回答いたします。ぜひご活用ください。
https://aws.amazon.com/jp/government-education/worldwide/japan/gov-cloud-advisory-site/

著者について

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松本 侑也

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社のソリューションアーキテクト。パブリックセクター技術統括本部に所属し、自治体のお客様の技術支援を担当。ガバメントクラウドにおける標準化対象業務システムの移行支援や生成 AI の活用支援に取り組んでいる。