Amazon Web Services ブログ

スマートグラス × 音声 AI エージェントで実現する店舗業務のハンズフリー支援

「あの商品どこ?」というお客様からの一言に、新人スタッフは即答できるでしょうか。

AWS Summit Japan 2026 の流通小売・消費財・飲食ブースで、「スマートグラス × 音声 AI エージェントによる店舗業務支援」デモを展示し、スマートグラスを装着した来場者ご自身が、声で話しかけるだけで AI が音声と AR 表示で即答する体験をお届けしました。

スマートグラス × 音声 AI による店舗業務支援のイメージ

図 1: デモのイメージ。スマートグラスに話しかけると、棚位置・商品名・在庫を視界に表示

このデモは、Amazon Nova 2 SonicAmazon Bedrock AgentCore Gateway を中核とするマネージドサービスの組み合わせで構成されています。

解決したい課題: 新人の「即戦力化」

流通小売・飲食業界のお客様とお話しする中で、必ずと言っていいほど話題に上るのが「人手不足」です。採用が難しいことに加え、パート・アルバイトの入れ替わりや外国人スタッフの増加により、経験の浅いスタッフで現場を回す場面は今後ますます増えていきます。

そこで本デモが着目したのが、「新人が戦力になるまでの時間」を縮められないか、という切り口です。ベテランなら 1 秒で答えられる「あの商品どこ?」も新人には答えられず、売り場を覚えるのに数週間、商品知識を身につけるのに数ヶ月かかり、その間の接客品質はシフトの巡り合わせで決まってしまいます。

具体的な場面 ビジネスへの影響
知識の属人化 「あの商品どこ?」にベテランしか即答できない 接客品質がシフト次第でばらつく
バックヤード往復 「在庫ありますか?」の確認で往復 2〜3 分 お客様は待ちきれず離脱、販売機会を損失
両手が塞がる 品出し・調理中に端末を取り出せない 情報を調べる行為自体が業務の中断になる
タスク管理の断絶 品出し・値札変更等が口頭伝達やメモベース 抜け漏れ・重複対応が発生、連携コストが高い
言語の壁 外国人スタッフがマニュアルにアクセスできない 戦力化がさらに遅れ、業務の偏りが生まれる

生成 AI によるチャットボットの業務活用は一般的になりつつあります。しかし、画面とキーボードを前提とした UI は、品出し中・調理中・接客中など「両手が塞がる」現場では使いにくく、情報を調べる行為自体が業務の中断になってしまいます。

そこで本デモでは、スマートグラス × 音声 AI エージェントという組み合わせを選びました。声で聞けば、AI がベテランの知識で即答する。新人が初日からベテランの知識にアクセスできる状態を目指したデモです。

使用したスマートグラス: RayNeo X3 Pro

RayNeo X3 Pro(製品ページ)

  • 透過型フルカラー MicroLED ディスプレイ(6,000nits ピーク輝度)により、装着した本人にだけ文字やカードが浮かんで見える
  • マイク 3 基(ビームフォーミング対応)+ ステレオスピーカー 2 基を内蔵し、音声入力と再生がグラス単体で完結
  • スピーカーは耳を塞がない骨伝導方式。AI の音声を聞きながらお客様との会話や店内アナウンスも聞き逃さないため、通常のイヤホンのように業務を阻害しない
  • スナップオン式の度付きインサートレンズに対応。普段メガネをかけている方でも視力を補正した状態で体験可能
RayNeo X3 Pro

図 2: 本デモで使用したスマートグラス RayNeo X3 Pro。見た目は普通のメガネながら、AR ディスプレイ・マイク・スピーカーを内蔵

本デモでは、右フレーム上部の物理ボタンをワンクリックすると音声入力が始まるようアプリを実装し、来場者が迷わず操作できるようにしました。

なお、本ソリューションは特定デバイスに依存しません。「音声を送り、テキスト・画像を受け取って表示する」API を呼び出せるスマートグラスであれば、他機種にも置き換え可能です。

体験シナリオ

来場者には 1〜2 分で、スーパー / アパレル / 飲食の 3 業態から興味のあるシナリオを選んでいただきました。

当日ブースに掲示した操作手順・質問例のパネル

図 3: ブースに掲示した操作手順と質問例のパネル

ここでポイントとなるのが、AI の回答が音声と AR 表示の 2 チャネルで同時に届くことです。

  • 音声: 耳で聞きながら手を止めずに作業を続けられる
  • AR 表示: エリア番号や在庫数など「聞き逃したら困る情報」が視界に残り続ける

「音声で概要を掴み、詳細は視界のカードで確認する」という組み合わせが、ハンズフリーでも確実な情報アクセスを実現します。それでは、代表的なやり取りをご紹介します。

スーパー: バイト初日でもベテランの案内

入社初日のアルバイトスタッフ。お客様に「コーヒーはどこ?」と聞かれたが、売り場配置をまだ覚えていない。

[スタッフ] 「コーヒーはどこですか?」

[音声] 「有機コーヒー豆 200g は C-02 エリアにあります。在庫は 7 点です」

売り場を覚えていない新人でも、音声で答えを聞きながら、視界に残るエリア番号を頼りにお客様をそのままご案内できます。

グラス越しの視界イメージ

図 4: 商品名・棚位置・在庫を AR カードで表示(実際の UI を背景に合成して再現。実機では背景が現実の視界になる)

スーパー: 「ありません」で終わらない接客

品出し中のスタッフ。お客様から在庫を聞かれたが、自店舗には在庫がないケース。従来なら「ありません」で終わるところを、AI が在庫システムを参照し近隣店舗の在庫まで提示する。

[スタッフ] 「食パンはありますか?」

[音声] 「食パン 6枚切りは、幕張店には在庫がありませんが、麻布台店には 12 点の在庫があります」

自店舗に在庫がないと判断すると、AI エージェントが指示されなくても近隣店舗の在庫を検索し、代替案を提示します。

近隣店舗の在庫カード

図 5: 自店舗に在庫がない場合、近隣店舗の在庫を表示

アパレル: EC へのシームレスな誘導

アパレル店舗の接客スタッフ。お客様が欲しいサイズが店舗に無い場合、近隣店舗や EC サイトの在庫まで自動で探し、売り逃しを防ぐ。

[スタッフ] 「Tシャツの L サイズはありますか?」

[音声] 「L サイズの Tシャツ ベーシック 白は、幕張店には在庫切れですが、EC サイトに 5 点あります」

店舗 → 近隣店舗 → EC と段階的にフォールバックするため、売り逃しが発生しません。この「在庫切れでも終わらない接客」は、来場者に最も驚かれたポイントの一つでした。

サイズ別在庫カード

図 6: サイズ別在庫を表示。在庫切れサイズは EC 在庫も表示

飲食: 予約確認

飲食店のホールスタッフ。料理を運びながら、次のテーブルの予約状況を確認したい。端末を取りに行かずに声だけで確認できる。

[スタッフ] 「テーブル 5 の予約状況は?」

[音声] 「テーブル 5 は伊藤様、2 名、17 時半から 19 時半です。ラストオーダーは 19 時です」

予約確認も声だけで完結。テーブル番号を聞くだけで予約者名・時間帯・ラストオーダーまで即座に返答します。

予約確認カード

図 7: テーブル番号・予約者名・時間帯・ラストオーダーを表示

タスク管理: 声で登録

清掃担当のスタッフ。作業中に気づいたタスクを、手を止めずにその場で登録したい。

[スタッフ] 「トイレ清掃をタスクに追加して」

[音声] 「トイレ清掃をタスクに追加しました」

タスクの登録も声だけで完結。手を止めてメモを書いたり端末を操作する必要がありません。

タスク登録カード

図 8: 追加されたタスクの内容と優先度を表示

多言語: 英語で聞けば英語で返る

外国人スタッフ、または英語しか話せないお客様への対応。日本語のマニュアルや POS 端末を読めなくても、母国語で質問すれば母国語で回答が返る。

[スタッフ] “Where is the coffee?”

[音声] “The Organic Coffee Beans 200g are in area C-02 at the Makuhari Store. We have 7 in stock.”

英語で話しかければ英語で回答し、AR カードの値も英語に切り替わります。

英語での回答カード

図 9: 英語で質問すると、AR カードも英語で表示

管理者からのプッシュ通知

店長がバックオフィスからフロアスタッフへリマインドを送るケース。ラストオーダーの声かけ忘れを防ぎたい。

管理画面からリマインドを送信すると、スタッフのグラスに音声と AR カードで通知が届きます。

[AR] テーブル 5 ラストオーダー

[音声] 「テーブル 5、ラストオーダーの時間です」

インカムのように全員に割り込むのではなく、必要な情報を必要なスタッフへ届けられます。

管理画面からリマインド送信 → スタッフのグラスに通知が届く

図 10: プッシュ通知の流れ。上が店長の管理画面(リマインド送信ボタン)、下がスタッフのグラスに届いた通知

Agent Monitor: AI の思考プロセスを「見せる」

音声対話はグラス装着者にしか聞こえません。そこでブースの大型モニターに、AI エージェントが「商品検索 → 在庫確認 → 棚位置取得」と業務システムを呼び出す思考プロセスをリアルタイム表示しました。

Agent Monitor のリアルタイム表示

図 11: Agent Monitor の動作画面。「コーヒーはどこ?」と聞いた瞬間から、ツール呼び出しの思考プロセスがリアルタイムに表示される

順番待ちの来場者にも楽しんでいただけると同時に、技術的な会話のきっかけとしても機能しました。

ご来場いただいたお客様の声

ブースには約 500 名の方にお立ち寄りいただき、多くのポジティブなフィードバックをいただきました。

ブースの様子

図 12: AWS Summit Japan 2026 ブースの様子

最も大きな “Wow” を生んだのは、やはりスマートグラス越しに情報が浮かんで見える AR 体験そのものです。一方で技術者の方が驚かれていたのは別のポイントで、Amazon Nova 2 Sonic の応答の速さと、業務システムと自然に連携する Tool Use でした。

「スタッフがアトラクション・イベント・食事の確認に苦労しているため、導入検討したい」(テーマパーク業界)

「工場の業務が属人化しており、マニュアルを読み込ませて活用したい」(製造業)

「スーパー、ホームセンター、コンビニ、外食、アパレルなど店舗スタッフの業務支援に使いたい」(流通小売業界)

店舗向けに設計したデモにもかかわらず、ご来場いただいた方々には、「手が塞がる現場」「知識が属人化した現場」という共通項で自社の課題に置き換えて受け取っていただきました。私たちが訴求した「店舗業務支援」よりも一段抽象度の高い「現場の知識アクセス」というニーズが存在することは、展示を通じて得られた大きな気づきでした。

システム構成と技術的なポイント

ここからは、本デモの技術構成をご紹介します。体験シナリオの裏側では、次の一連の処理が数秒で完結しています。

  1. スタッフの声がスマートグラスからクラウド上の AI モデルに届く
  2. AI が発話を理解し、「どの業務システムに問い合わせるべきか」を自律的に判断してツール(商品検索・在庫確認など)を呼び出す
  3. ツールの結果を組み立てて、音声と AR 表示の両方で回答を返す

この「AI が自分でツールを選んで呼び出す」仕組みは Tool Use と呼ばれ、本デモのアーキテクチャの中核です。以下、この流れを支える各コンポーネントを解説します。

全体アーキテクチャ

システムアーキテクチャ全体像

図 13: システムアーキテクチャ全体像
レイヤー コンポーネント 実体 役割
クライアント スマートグラス RayNeo X3 Pro (Kotlin + Jetpack Compose) 音声入力・AR 表示
クライアント Agent Monitor Next.js (Amazon ECS Fargate) 思考プロセスのリアルタイム表示(AG-UI プロトコル)
音声・推論 Sonic Sidecar ECS Fargate (Python) グラスと AI の橋渡し(WebSocket / SSE)
音声・推論 Amazon Nova 2 Sonic Amazon Bedrock (us-east-1) 音声理解・推論・Tool Use・音声生成を 1 モデルで完結
ツール接続 AgentCore Gateway Amazon Bedrock AgentCore Lambda を MCP ツールとしてエージェントに公開
バックエンド 業務ツール群 AWS Lambda (Python, ARM64) × 5 商品検索・在庫確認・棚位置取得・タスク管理・予約確認
データ 商品マスター Amazon OpenSearch Serverless + Amazon Titan Text Embeddings V2 セマンティック検索
データ 在庫・棚・タスク Amazon DynamoDB トランザクショナルデータ

全リソースは AWS CDK (TypeScript) で定義しています。Amazon CloudFront による配信を組み合わせたマネージド構成です。

アーキテクチャのポイント

1. Amazon Nova 2 Sonic のネイティブ Tool Use で「1 モデル完結」

Amazon Nova 2 Sonic は、音声を直接入力として受け取り、音声で直接回答を返す Speech-to-Speech モデルです。従来の音声アシスタントでは「音声→テキスト変換 (STT) → テキスト LLM で推論 → テキスト→音声変換 (TTS)」と 3 つのステップを組み合わせる必要がありましたが、Nova 2 Sonic はこれを 1 モデルで完結させます。さらに、推論の途中でバックエンドのツールを呼び出す Tool Use もモデル内で行われるため、レイテンシとシステム複雑性の両方を削減できます。

本デモでは Sonic Sidecar が Nova 2 Sonic と双方向ストリームを張り、モデルから toolUse イベントを受け取るとバックエンドのツールを呼び出し、結果を返します。モデルは必要に応じて複数ツールを連鎖的に呼び出し(商品検索 → 在庫確認 → 棚位置取得)、最終的に音声で回答を生成します。

Amazon Nova 2 Sonic モデルカード(ドキュメント)

2. AG-UI プロトコルによる思考プロセスのリアルタイム可視化

Agent Monitor は AG-UI (Agent-User Interface) というプロトコルでエージェントの実行状態をストリーミング受信しています。AG-UI は「エージェントの中で今何が起きているか」をフロントエンドにリアルタイムに伝えるためのプロトコルです。本デモでは RUN_STARTEDTOOL_CALL_STARTTOOL_CALL_RESULTTEXT_MESSAGE_CONTENT といったイベントを SSE で逐次受け取り、エージェントが「今何を考え、どのツールを呼んでいるか」をリアルタイムに描画しています。フロントエンドのフレームワークを問わず同じイベントストリームを消費できるため、UI を独立して開発・差し替えできます。

3. Amazon Bedrock AgentCore Gateway で既存業務システムを簡単に接続

Amazon Bedrock AgentCore Gateway は、既存の API や Lambda 関数を AI エージェントが呼び出せるツールとして公開するマネージドサービスです。ツールの公開には、AI エージェントとツールをつなぐ共通規格として広く採用されている MCP (Model Context Protocol) を用いており、エージェントのフレームワークを問わず接続できます。本デモでは商品検索・在庫確認・棚位置取得・タスク管理・予約確認の 5 つの Lambda を Gateway に登録し、エージェントから MCP プロトコルで呼び出せるようにしています。

これにより、既存の業務システム(商品マスタ / 在庫マスタ / 基幹 API 等)を Gateway にツールとして登録するだけで、AI エージェントから即座に利用可能になります。Lambda でラップする方法に加え、OpenAPI 仕様に準拠した既存の REST API をそのまま登録することもできます。認証(IAM SigV4)やツールのセマンティック検索も Gateway が管理するため、エージェント側の実装を変更せずにツールの追加・差し替えができます。

Amazon Bedrock AgentCore Gateway(ドキュメント)

他業界への応用

本ソリューションのコアパターン「スマートグラス × Speech-to-Speech × ネイティブ Tool Use」は、手が塞がる業務環境全般に適用可能です。

業界 適用イメージ
製造 設備マニュアル・作業手順の音声照会、点検記録のハンズフリー登録
物流・倉庫 ピッキング位置案内、在庫照会、作業指示の音声受け取り
医療・介護 器材の所在確認、申し送り事項の音声記録
テーマパーク・ホテル 施設情報の即時照会、多言語での接客支援

技術的には AgentCore Gateway にツールを追加登録するだけで異なるドメインに対応できるため、自社の業務システムを Gateway に接続するだけで同様の体験を実現できます。

まとめ

本記事では、AWS Summit Japan 2026 で展示した「スマートグラス × 音声 AI エージェント」によるハンズフリー店舗業務支援デモをご紹介しました。

「あの商品どこ?」に新人が即答できない。この小さな困りごとの裏には、知識の属人化、販売機会の損失、外国人スタッフの戦力化といった、現場が長年抱えてきた課題が積み重なっています。声で聞けば AI がベテランの知識をスマートグラス上に AR + 音声で即答してくれる体験は、これらの課題への一つの答えになり得ると、来場者の皆様の反応を通じて実感しました。

そして、この体験を支える技術は決して特別なものではありません。Amazon Nova 2 Sonic と Amazon Bedrock AgentCore Gateway を中心としたマネージドサービスの組み合わせで構成しており、既存の業務システムをツールとして接続すれば、同様の仕組みをご自身の環境でも実現できます。

「手が塞がっている現場での情報アクセス」は、小売・飲食に限らず、製造、物流、医療、ホスピタリティなど多くの業界に共通する課題です。本記事が、現場業務への音声 AI エージェント活用を検討されている方の参考になれば幸いです。