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【開催報告】Amazon Game Tech Conference 2022

こんにちは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクトの山本です。
2022年11月10日に Amazon Game Tech Conference 2022 を開催いたしました。本記事ではイベントの重要なポイントをピックアップしてお伝えします。
イベントでは AWS の最新動向だけではなく、ゲーム業界における周辺の最新情報が凝縮されています。以下にアーカイブ動画がございますので、詳細を確認されたい方は是非下記リンクからご確認ください。

Amazon Game Tech Conference とは?

Amazon Game Tech Conference は、AWS がゲーム業界に関わる皆様に向けて最新の情報提供を目的としたイベントです。今年は AWS Dev Day 2022 Japan の Game Tech トラックとしてオンラインに加え、3年ぶりに対面イベントとして開催を実現することができました。セッションには AWS クラウドを活用した柔軟なゲーム開発環境の構築、eスポーツの最新動向、また最近のトレンドであるメタバースを取り上げました。ビジネスからエンジニアリングまで、 Amazon のゲーム業界に向けた最新情報が凝縮されたイベントになります。

1 – AWSを活用したゲーム開発の最新動向

コンソールゲームの開発に関わる方々をお招きし、特に開発の「ビルド」を軸にディスカッションを実施しました。冒頭で各社ビルドに関する数字を準備いただきディスカッションがスタート。

まず、株式会社タムソフト 湯口様から「8 と1.5」という数字を共有いただきました。これは湯口様が関わったプロジェクトのパッケージビルド時間の数字だそうです。プラットフォーム1つで約1.5時間かかり、すべてのプラットフォームをビルドするのに合計で約8時間かかるため、深夜帯にビルドを回すことが多いようです。この数字は一例に過ぎず、ゲームの開発規模が大きくなればパッケージのビルド時間がかかり、プラットフォームが増えれば、ビルド時間が爆発的に増加する課題があると共有いただきました。同様に株式会社カプコン 伊集院様もパッケージのビルド時間には悩まれていたようです。そこで、直近のタイトルであるバイオハザード ビレッジ ゴールドエディションにおいて、「300」にも及ぶパッケージのビルドをクラウドでパッケージングした事例を紹介いただきました。1パッケージあたり9時間かかるそうで、直列で動かすと2700時間という膨大な時間をクラウドのスケールを活用し、ビルドにおける時間を圧倒的に短縮した事例を紹介していただけました。また、インクレディビルドジャパン株式会社 古屋様から Unreal Engine で開発中のとあるタイトルをクラウドで分散ビルドした所、ビルドの所要時間が「1/5」になったという実績の数字をいただけました。近年のゲーム開発は、リリース後もアップデートがあるため、ビルド時間の短縮は非常に大きな意味があるとパネラーの方々の熱気が伝わってきました。

もう一点、コンソールゲーム開発においてビルドという文脈で Microsoft Visual Studio は欠かせない存在です。そんな Microsoft Visual Studio を AWS で利用するには、これまで 3rd Patry の会社から提供されているものしかご利用いただけませんでした。ただ、今年の8月に AWS で Microsoft Visual Studio Enterprise 2022 および Microsoft Visual Studio Professional 2022 のライセンスを含む Amazon Machine Image (AMI) の提供が正式に開始されました。詳細についてはこちらをご覧ください。株式会社カプコン様では AWS 上で Microsoft Visual Studio の利用検証を始めており、オンプレミスと同等の仕組みをクラウドで活用できるか検証中です。来年の上半期には開発中の殆どのタイトルでクラウドを活用したパッケージ作成が行える想定だそうです。

面白いゲームを作る上で重要なのは、試行錯誤できる環境だと伊集院様と湯口様が発言されていたのが印象的でした。試行錯誤出来る環境があればユーザからのフィードバックを反映し、イテレーションを多く回すことで、面白いゲームに近づける。試行錯誤できる環境作りのためにもクラウド活用には力を入れていきたいと宣言されていました。

2 – メタバースとゲームの交差点とは

東京ゲームショウ2022で盛り上がりを見せたメタバースですが、メタバースの関連事業に取り組む企業様をパネラーに迎え、メタバースとゲームとの交わりについて、ディスカッションを実施しました。

まず、メタバース関連事業の企業からみたゲーム会社とのコラボについてお話いただけました。株式会社 ambr 西村様からはメタバースはみんなが夢見ている体験を実現できるのが VR の魅力だと考えており、今後はゲームの一部に VR を再現する方法を模索していきたいと仰っていました。株式会社 VARK の杉本様は色々な IP とバーチャルライブの開催を増やしていきたいのと、独立した 3D 空間でファン同士が語り合えるコミュニティを活用し、ゲーム IP の垣根を超えた相互集客できる場の提供も考えているようです。また、クラスター株式会社 成田様からは IP 提供元との相互運用性の促進に取り組んでいきたいようで、IP におけるキャラクターや世界観は企業だけでなくユーザが共に「価値のある・守るべきもの」であると感じられており、ユーザに深く愛着を持ってもらうための仕組みづくりをゲーム会社と一緒に考えていきたいと話されていたのが印象的でした。

もう一点、メタバースを実現する技術で重要なものは?というパネラーの問いに対し、杉本様からメタバースを構築する際にユーザー同士のソーシャル情報の管理に苦心したものの Amazon Neptune を導入したおかげで、大きな助けになったと評価いただけました。成田様と西村様はインフラのコストが重大な課題になっているようです。そこで、クラスター株式会社様では AWS Graviton を活用し、最大4割程度のコスト削減を実現できているそうです。 また、株式会社 ambr 様では主管した TOKYO GAME SHOW VR 2022 のような流入数が予測できない上にサービスを落とせないイベントがあった。それに対し Amazon Aurora Serverless v2 を導入したことで、オートスケーリングにより安定してトラフィックを捌きつつコストを最適化できたと喜びの声をいただきました。

最後にメタバースが普及する上で重要なポイントをパネラーの方々に語っていただきました。メタバースならではの未知の体験を作っていく重要性、コンテンツや IP の提供元がどれだけメタバース側へ歩み寄ってくれるのかといった部分を話していただけました。AWS 西坂から技術面での重要なポイントは、今後メタバースが広大でかつリアルタイムな世界を作り上げるためには、サーバサイドでいかに空間を管理するのが非常に重要になってくる。これからのメタバースの実現においては MMORPG に類似した技術がベースとなり、インフラストラクチャは MMORPG に引き続き AWS が貢献できると締めくくりました。

3 – eスポーツのこれから

eスポーツを取り巻く環境は劇的に変化しており、今後日本だけでなく世界でeスポーツとゲーム配信がどの様に発展していくのか、またそれを実現させる技術革新について、業界の有識者とディスカッションを実施しました。

まず始めに、パネラーの方にeスポーツの普及に向けた取り組みを紹介いただきました。インテル株式会社様はeスポーツの大会冠スポンサーを10年続けておられ、eスポーツの認知度向上に寄与しています。株式会社 KADOKAWA Game Linkage の Retloff 様は FAV gaming に所属されているプロゲーマです。eスポーツ講師として、学生にゲームのレクチャーだけでなく、eスポーツのビジネスモデルや戦略におけるデータアナリストとしても活動しておられます。最後に Genvid Technologies Japan K.K 様はライブ配信の仕組み提供されている企業です。eスポーツにおけるライブ配信でキャプチャー画面だけでなく、様々な視点の情報を可視化し、新しい視聴体験を提供されています。

次に、eスポーツにおける新しい技術についてお聞きしました。Genvid ジョンソン様からは Genvid が提供する Massively Interactive Live Events (MILE) の仕組みと、動画配信に載せるデータの同期について詳しく解説していただきました。Retloff 様にはeスポーツのデータアナリストとして、これまでアナログな方法でデータの収集を行っておられました。直近は動画や画像の分析サービスである Amazon Rekognition を導入し、大幅に時間を短縮できた事例を紹介いただきました。Retloff 様には AWS Summit で「eスポーツプレイヤー向けの機械学習システムの開発」でも登壇いただいたので興味がある方は、是非こちらもご覧ください。

最後にeスポーツにおけるクラウドでの技術支援について AWS 岩井がまとめました。例えば、eスポーツにおけるレイテンシーは非常に重要な課題であるのに対し、AWS のバックボーンのネットワークを活用し遅延を抑え、より良いユーザ体験を提供するための AWS Global Accelerator を紹介しました。他にもeスポーツによってはリアルタイムなデータ分析が必要になるタイトルもある。AWS であればリアルタイムデータ分析のパイプラインを簡単に構築できるというのもクラウドならではの特徴だと締めくくりました。

4 – Building an MMO in the Cloud

Amazon Game Studios は 昨年 New World という大規模な MMO をリリースしました。New World のバックエンドは Microservices や Serverless で構成されています。今回、 New World のソフトウェアエンジニアの Matthew Woo 様を招待し技術的なディスカッションを実施しました。

まずは New World の規模感についてです。New World はピーク時に同時接続が91万3000人と多くのプレイヤーに愛されているゲームです。現在5つのリージョンでサービスを展開していますが、その中でもフランクフルトリジョンのリクエストが一番多く、実績値として11000リクエスト/秒を記録しました。

そんな New World のアーキテクチャーですが、3つのコンポーネントから成り立っています。

1つはワールドをホスティングする部分です。ワールドのコンピューティングは Amazon Elasitc Compute Cloud (Amazon EC2) を利用しており、5つのリモート・エントリー・ポイント (REPs) と7つの計算処理ユニットの Hubs から形成されています。REPs はクライアントと直接通信を行うためのもので、外からの攻撃を保護する役割と7つの計算処理ユニットの内の特定の1つにプレーヤーを繋ぐ役割を担っています。 Hubs は物理的なシュミレーションを行ったり、あるいはプレイヤー同士のやり取りをサーバ上で計算しています。2つ目はコントロールプレーンです。これはオペレータが簡単にワールドのスケールをコントロールできます。コントロールプレーンのおかげで、ローンチから数日で185ワールドだったものを486ワールドに増やすことが出来ました。最後3つ目はキャラクターやワールドの情報を提供するマイクロサービスです。

New World では Amazon DynamoDB を活用しています。 Amazon DynamoDB はサーバレスで、高い拡張性があり、高いパフォーマンスが出るのがポイントでした。 特に New World では高い拡張性について注目しており、開発の初期段階ではワールドあたり1テーブルだった構成をリージョンあたり1テーブルに変更することで、ワールド間のデータの連携をしやすくしました。

最後にマイクロサービスについてです。マイクロサービスを管理する上で重要なのは、サービス間のコミュニケーションです。 New World では1つの大きなチームで全てのマイクロサービスを管理し、各マイクロサービスに担当のチームメンバーを付けることでコミュニケーションを円滑に進められました。他にもマイクロサービスを採用するとサービスの大きさを決めるスコーピングが課題になりますが、あえて明確なルールを決めるのではなく、サービスが何をするかを軸に小さく決めるようにしています。また、New World のマイクロサービスはサーバレスを積極的に採用することでインフラのメンテナンスから開放されました。

以前の AWS Blog に 『Amazon Games のシームレスな MMO「New World」を支えるユニークなアーキテクチャ』というタイトルで New World のアーキテクチャーの紹介もありますので、是非こちらも合わせてご覧ください。

Ask an Expert

AWS Loft Tokyo で提供していた Ask an Expert を本イベントでも設置しました。普段の Loft Tokyo での Ask an Expert とは違いゲーム業界向けのイベントですので、お客様も安心してゲームについてハイコンテキストで相談されていました。

デモコーナー

会場内には株式会社サードウェーブ様、デル・テクノロジーズ株式会社様、株式会社日本HP様の機器を使ってゲームデモを体験できるコーナーも設置。AWS が使われているゲームを多くのお客様が楽しみました。

懇親会

3年ぶりのオフライン開催ということもあり、お久しぶりですの方も多く非常に盛り上がりました。多くの参加者の皆様から今後のイベントもオフラインでの開催の要望もいただきました。

最後に

今回のイベントでは、AWS クラウドを活用した柔軟なゲーム開発環境の構築、eスポーツの最新動向、また最近のトレンドであるメタバースを取り上げたセッションから、AWS での大規模 MMO の裏側まで多岐に渡るトピックをお届けしました。セッションを振り返るとビジネスからエンジニアリングまで、ゲーム業界全体の最新情報が凝縮されていたように感じます。今回の学びが皆様のゲームビジネスの参考になれば幸いです。

改めて当日オフライン・オンライン共にご参加いただきました皆様には心より感謝申し上げます。
次回 Amazon Game Tech Conference を開催できるように、我々も尽力してまいります。その際は皆様の参加を心待ちにしております。

イベント当日の様子を Gamebusiness でもまとめていただいております。合わせてご覧ください。
https://www.gamebusiness.jp/article/2022/12/08/21118.html

AWS の業界向けサービスをより詳しく知りたい方は、Ebook も合わせてご活用ください。
https://resources.awscloud.com/aws-for-games-jp

このブログはソリューションアーキテクト 山本 純也 が担当いたしました。