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【開催報告&資料公開】 流通小売・消費財企業向け:2024 年 最新ソリューションによるレガシーシステムのクラウド移行
流通・小売・消費財業界に関わられている方々を主な対象として、2024年11月15日に「流通・小売・消費財業界向け:2024 年 最新ソリューションによるレガシーシステムのクラウド移行」のオンラインセミナーを開催しました。ご参加いただきました皆さまには、この場を借りて御礼申し上げます。本ブログでは、その内容を簡単にご紹介します。
拡大する市場、新たなブランドの台頭、そして日々変化する顧客ニーズ。流通・小売・消費財業界では高まる顧客の期待に応えるために、デジタルテクノロジーを活用するための組織やシステムを常に新しくしていくこと、つまりモダナイズしていくことが求められます。AWS への移行は、インフラストラクチャをクラウドに移行してコストを削減するだけにとどまらず、新サービスや新商品の市場投入までの時間を短縮するなど経営戦略に大きく貢献します。ミッションクリティカルなアプリケーションとデータを AWS へと移行することが変革の基盤となります。今回のセミナーでは、AWS の包括的なサービスとソリューションを活用し、クラウド移行を成功させたお客様 3 社に具体的な事例をお話いただきました。
本ブログでは、セミナーからハイライトをご紹介してまいります。なお、ご登壇 3 社目の企業様については公開範囲のお約束により本ブログでのご紹介ができないため、割愛しておりますことをご理解ください。
1. オープニング
AWS 技術統括本部 エンタープライズ技術本部 流通小売・消費財グループ 部長 五十嵐 建平
クラウド移行は企業にとって、時間もコストも必要な大きな意思決定の一つです。移行を決定すると次に、どのように計画すればよいのか、どのような AWS サービス構成、環境へと移行するのが最適なのか、多様な移行手段、ツールの中からどれを選択すればよいのか、プロジェクトをどう進めていくべきなのか…まだまだ考えなくてはならないことがあります。
(1) なんのために移行するのか?
自社の中期経営計画や事業部戦略、ゴール、こういったビジネスコンテキストに沿った目的を定めることは、クラウド移行の大きなプロジェクトの意思決定、つまり予算上申のためにはとても重要です。移行目的は企業によりその優先順位は違えど、大きく次の 6 つと言われています。
クラウドを移行によって目指すものについて、これら 6 つの主要な領域をカバーできているか、しっかり検証してみるとよいでしょう。企業様の状況によってはすべてをカバーする必要がないこともあるかもしれませんが、今回のセミナーでご登壇いただく各社様とも上記をそれぞれ言及されていました。
(2) 移行をどう計画すればよいのか?
クラウドに移行するにあたり最初に考えるアプローチは、一般的に「リフト&シフト」と呼ばれるものです。これは、現状のシステムと同じような構成、同じようなアーキテクチャ、同じような運用のまま、クラウド上で動かすことをまずは目指すものです。まずクラウドへと移行してハードウェアの老朽化対応やコスト削減を実現するわけです。こうして時間やコストの余裕を得たうえで、次のステップとしてクラウドに最適化し設計・構築、つまり「クラウドネイティブ」の段階へと進みます。2 社目にご登壇いただいた株式会社三越伊勢丹システム・ソリューションズ様はまさにこの「クラウドネイティブ」のステージへと進んでいらっしゃいます。この 2 つのアプローチは必ず順を追わなくてはならないものではなく、基幹系は「リフト&シフト」で慎重に移行しつつ、DX 案件などスピードの求められる部分に対しては最初から「クラウドネイティブ」で取り組むことのできる環境を整えていくといった両輪型のアプローチもありえます。1 社目にご登壇いただいたサッポロホールディングス株式会社ではこの両輪型のアプローチを採用することで、時間のかかる基幹移行を待たずにクラウドの価値を享受することに成功されています。
「リフト&シフト」で移行を行う際には多様な “業務” による分類、レガシーシステム、新規システム、あるいはピークのあるものないものなどの “システム特性” の分類の 2 軸で分類を行うことで、移行メリットとその影響を確認することができます。基幹システムは規模も大きく一度に全システム/アプリケーションを移行することは現実的ではありません。一例ではありますが、移行リスクが低く、かつ、移行メリットが高いと考えられる領域(例えば下図の例であれば「アプリ E」)から移行を始めていこう、そこから経験値を積みつつ順次、リスクの高いものへと挑戦していこう、といった段階を踏むことが可能です。
(3) どんな構成にすればよいのか?
移行の方式について、AWS では「7R」と呼ばれる分類を提唱しています。R で始まる移行方式が 7 種類あるので、7R です。今回のセミナーでは、下の 3 つについては触れていないため、上の 4 つについて簡単に紹介します。
「Rehost」および「Relocate」は単純移行とも呼ばれ、OS やアプリケーション、データベースなどに代表されるミドルウェアに変更を加えず、できるだけそのままの構成でクラウドへと移行するものです。「Replatform」はその名前の通りプラットフォームを更新するわけですが、「Rehost/Relocate」を一歩進めて、OS をオープンなものに変更する、データベースを Amazon Relational Database Service(RDS)や Amazon Aurora のようなマネージドサービスに変更するといったプラットフォームの変更を取り入れていくものです。商用データベースのライセンスから解放される、運用をマネージドに委ねることで負荷低減するといったメリットを得つつ、アプリケーション側の変更などを極小に留めるアプローチです。ここまでの 3 つの方式はいずれも (2) でご紹介した「リフト&シフト」に相当します。アプリケーションまで手を加えていこうとするのが「Refactor」で、例えば現行の Web サーバーベースのアプリケーションから、コンテナやサーバーレスといったクラウドネイティブなアプリケーションアーキテクチャへと書き換えることで、クラウド移行のメリットをインフラ、アプリともに最大化することを狙います。効果も大きいですが実際にはなかなか大変です。
この「7R」も、基幹アプリケーション領域は「Rehost」で、例えば業務データ分析(データウェアハウスなど)だけは「Replatform」でといった具合に組み合わせて適用することももちろん可能です。(2) で述べた効果とコストやリスクをトレードオフにかけて検討していきます。この移行方式が決まると、おのずと移行に利用するツールなども絞り込まれてきます。
こういった検討を重ねることで、多数ある基幹システムをどのようにグルーピングしてどの順序で移行していくのが自社にとって最適なのか、現実的な移行プロジェクト計画へと落とし込みができるのです。
ご登壇各社様ともしっかり上記を踏まえたうえで、それぞれ異なるアプローチ、方式を取られていることが紹介されています。
2.お客様事例 (1) IT インフラの変革:サッポログループの AWS 全面移行プロジェクト
サッポロホールディングス株式会社 DX・IT 統括本部IT統括部 企画グループリーダー 伊藤 淳 様
サッポロホールディングス様からは、2023 年から来年 2025 年第一四半期まで約 2 年半に及ぶ基幹システム移行プロジェクトについてご紹介いただきました。2021 年にインフラの中期計画検討を開始された際に、現行のプライベートクラウドの継続だけではなく、パブリッククラウドへの移行を一つの選択肢として加えることにされました。これは、ビジネス環境や社会環境の変化に企業として柔軟に対応できる、効率的な IT 基盤が求められていること、そしてデータとデジタル技術の活用による、いわゆる DX の推進がビジネス側から強く求められていたことなどを背景としています。このため、単にリフト&シフトで安全にクラウドへと移行するだけでは不十分で、DX にも対応できる基盤が必要とされるため、基幹システムは「安定重視プラットフォーム」へ移行しつつ、そして新たな DX 案件などのための「チャレンジ重視プラットフォーム」も提供して、ビジネス側からの変革要望にも応えるという両輪のアプローチを採用されました。
約 100 ある基幹システムは、Opening で紹介したような軸で分析を行い、移行方式をパターン化し、移行するグループの整理や、パターンごとの移行ツールの選定を行いました。AWS の提供する移行のためのサービス、AWS Application Migration Service(MGN)、AWS Database Migration Service(DMS)を利用して Rehost を中心としつつ、データベースを一部はマネージドサービスである Amazon RDS に移行するなど Replatform も取り込まれています。
基幹システムの移行についてはこれまでに約 7 割前後の移行が完了しており、2025 年第一四半期には当初計画を前倒しして完了できる見込みとなっています。またチャレンジ重視の領域も、安定重視プラットフォームとセキュアに接続できるようにしておくことで、基幹系のクラウド移行を待たずに推進できるようになっており、すでに AI を利用した取り組みなど事例化できるものも生まれています。サッポロホールディングス様は、基幹システムの移行完了後には、さらにリソースやコストの最適化、さらなるクラウドサービス活用、データ活用推進などを進められていくことを計画されています。今後のモダナイゼーションへの道のりに進んで行かれるところを、AWS もお手伝いしてまいります。
3. お客様事例 (2) 三越伊勢丹グループの価値創造に向けた “モダナイズ” への挑戦
株式会社三越伊勢丹システム・ソリューションズ ICT エンジニアサービス部 部長 竹前 千草 様
日本有数の老舗企業の一つである三越伊勢丹グループ様では、2015年からクラウド利用(リフト&シフトアプローチ)を開始し、次いで 2018 年より段階的機能再配置と呼ぶ、いわゆるモダナイゼーションへの挑戦を開始されました。画一的な構成で実現できていた旧来型のアーキテクチャのモダナイズが進むにつれて、三越伊勢丹システム・ソリューションズ様の中ではアーキテクチャなどへのバラつきや、これまでと異なるチームビルディングへの戸惑いなどの技術・組織両面での課題が見られるようになり、この課題への対策として 2021 年に CCoE を組織化されました。特にバックエンドのモダナイゼーションの投資価値は見えづらく、経営トップの皆様が「モダナイズを宣言」することで、モダナイゼーションが組織のミッションともなり、現場が非常に進めやすくなったとのお話は、モダナイゼーションが IT 部門だけの閉じた活動になりがちな多くのお客様にとって力強いメッセージになったのではないでしょうか。
またモダナイゼーションを進めることで当たる壁のもう一つ、「開発チームはアプリからインフラまで全ての知識を必要とされる。新しく出てくる技術要素も習得しなくてはならない。大変で途中で逃げ出したくなる」というお話にも大きな共感を覚えました。三越伊勢丹システム・ソリューションズ様はそこから逃げ出さず、CCoE による DevOps 基盤の整備で底上げを図る、新たな人事制度やロールを導入するといった根本的な打ち手を続け、自ら保守運用を楽にしていくための仕組みを作り上げられています。Amazon CTO Werner Vogels の「You build it, You run it.」の言葉をまさに実践されている組織ではないでしょうか。
今後も、クラウドへとリフト&シフトした基幹システムについてコストの最適化やモダナイゼーションの戦略検討を進めつつ、モダナイズした領域についても「一生懸命がんばる」の精神論にならないよう、技術のキャッチアップや品質を安定化させるためのメカニズムの強化、そしてサービス実現のスピードと柔軟性を上げていくために欠かせない「市民開発」の拡大にチャレンジされるとのことです。三越伊勢丹グループ様のモダナイゼーションの道のりはとても長く、まだ四割半ばくらいではないかとのお話でした。ですが、確実に、日本の流通小売業界の基幹システムモダナイゼーションの牽引役を担う一社と言えます。今後の展開も楽しみです。
まとめ
クラウド移行を始める・始めてからもいろいろなお悩みがあると思います。実際にその悩みと格闘しながら長いクラウドジャーニーへと踏み出され、着実な成果を出し始めていらっしゃるお客様の事例をご紹介してまいりました。長いクラウドジャーニーのどのステージに位置するのかも異なり、取られているクラウド移行の方式もそれぞれ異なるものでした。
まだ多くの企業において、企業トップや情報システム部門が「クラウド移行するべきか、どう進められるのか」といった迷いを持たれているのではないでしょうか。クラウド移行という選択肢を外して考えることはできない時代ですが、これまでと違う要素に戸惑いを持たれることも多いでしょう。経験不足が気になるお客様もいらっしゃるでしょう。ですが、今日の Opening でご紹介したように、
- なぜ移行するのか、目的を定める
- リフト&シフト、クラウドネイティブ化といった移行のアプローチと、それぞれのメリット、コスト、リスクをトレードオフして自社の戦略を立てる
- さらに業務特性とシステム特性を踏まえてグルーピングし、Rehost、Relocate、Replatform、Refactor など移行方式を選択する
- 移行方式に合う移行ツール、手段を選択する
- リスクが低く価値の高いところから始め、全体の依存関係を見ながらプロジェクト計画を立てる
このステップを踏んでいただくことで、必ず前に進むことができます。ぜひ、早くクラウド移行への挑戦を始め、そして進化を早めて、競争力を加速させていきましょう。私たちがお手伝いします。
イベント案内
12 月にはいよいよ、re:Invent 2024 が開催されます!ぜひご参加ください。
【登録受付中】re:Invent 2024
2024 年 12 月 2 日 – 12 月 6 日 ラスベガス *オンデマンド視聴もあります
登録はこちらから:https://reinvent.awsevents.com/
また re:Invent 2024 における小売消費財業界向けのお薦めセッション等を、以下ブログにてご紹介しております。こちらも合わせてご覧ください。
AWS re:Invent で小売消費財業界のイノベーションを加速
今後も、流通・小売・消費財業界の皆さまに向けたイベントを企画し、情報発信を継続していきます。ブログやコンテンツも公開しております。
流通小売参考情報
[1] AWS ブログ ”流通小売” カテゴリー
[2] AWS ブログ “消費財” カテゴリー
[3] AWS 消費財・流通・小売業向け ソリューション紹介ページ
[4] インダストリー向け e-Book:
- スマートストアテクノロジーの力を活用する( e-Book | 紹介ブログ)
- 小売業のデジタルコマースを最適化する 4 つの重要なステップ( e-Book | 紹介ブログ)
- 流通・小売・消費財企業のイノベーションを生成 AI で促進する( e-Book | 紹介ブログ)
- 消費財企業が成長するための極意( e-Book | 紹介ブログ)
- 消費者に愛されるブランドを構築する( e-Book | 紹介ブログ)
このブログは、ソリューションアーキテクト 杉中 が担当しました。