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KPI – テクノロジーからビジネスへのエンタープライズジャーニー
本記事は 2024 年 4 月 11 日に公開された ”KPIs – Enterprise Journey from Technology to Business” を翻訳したものです。
以前のブログ記事で説明したように、AWS は、KPI (Key Performance Indicators: 主要業績評価指標) が明確に定義され、追跡され、調整された組織が、クラウドトランスフォーメーションのジャーニーで成功していると理解しています。しかし、KPI を定義して追跡することは難しい課題です。組織が連携して成果を追跡し、そうすることに価値があるとしても、最初から KPI に注目することが難しい組織もあります。
このブログ記事では、架空の企業 (AnyCompany) が KPI を導入するまでのジャーニーを、複数の顧客とともに取り組んだ実際の経験に基づいて説明します。大規模な企業組織である AnyCompany は、営業利益と売上の向上を目指していました。まず、コストの最適化、総所有コストの削減、技術的負債の回収、将来の機能のための基盤構築を実現するために、オンプレミスのデータセンターを廃止し、アプリケーションをクラウドに移行することから始めました。彼らが採用した未来が、ビジネスの成長と変革を後押ししました。
ビジネス KPI を使ってクラウド導入の効果を追跡する
AnyCompany のビジネス目標と現在の文化、プロセス、ガバナンスを理解した上で、ビジネス KPI の導入を促進するために Crawl (ハイハイ)、Walk (歩く)、Run (走る) のアプローチを推奨しました。最初の Crawl フェーズでは技術 KPI から始めて、次の Walk フェーズでビジネス KPI を導入して初期の摩擦を乗り越え、最後の Run フェーズでは徐々にすべてのビジネス KPI に移行します。Crawl フェーズの焦点は、ワークロードをクラウドに移行することで技術的負債を軽減することです。戦術的な KPI は、ワークロードのリプラットフォームとリアーキテクチャの効果的な追跡と進捗報告を確実にします。Walk フェーズでは、クラウド導入技術とコスト削減の成果をビジネス部門のビジネス成果に結び付けます。Run フェーズでは、組織が社内のマーケティングと社内のビジネスアプリケーション開発チームからの肯定的なフィードバックを通じて成功を収めた後、外部のクライアント対応チームは、クライアントにも同様の結果をもたらすという見通しを持ってモチベーションを高めます。これにより、人、プロセス、テクノロジー、ビジネスの観点から組織全体の変革を促進するプラスのフライホイール効果が生まれます。
Crawl フェーズ — 技術 KPI を追跡し、測定する
このフェーズでの主な焦点はテクノロジー、つまり技術的負債を減らし、クラウドの導入を増やすことです。このフェーズの KPI は、次の表に示すように、コスト削減、トレーニングを受けたスタッフの数、移行されたアプリケーションの数、運用上の優秀性などのメリットの測定に重点を置いています (表 1)。組織はこの段階では社内の KPI に重点を置き、IT 以外の社員に進捗状況をすぐに伝えます。これにより、KPI の測定、追跡、共有というマッスルメモリー (条件反射的に意識せずに行動できること) が生まれます。KPI は、完了までの期間が複数の四半期または数年にわたる場合に有効です。サイロ化された構造のため、AnyCompany ではこのステップが必要でしたが、他の組織では次の段階にすばやく移行し、勢いをつけるために Crawl フェーズを必要としない場合があります。
表1 Crawl フェーズの KPI と影響
メリット | 目的 | 測定 | 影響 |
---|---|---|---|
コスト削減 | データセンターの廃止 | マネージドサービスプロバイダー (MSP) のデータセンターから廃止されたサーバー数 | IT 支出を詳細に確認することによる的を絞った最適化の取り組みが可能 インフラストラクチャ支出のより正確な予測 オンプレミスとクラウドのコスト削減 (ビジネスケース) |
オンプレミスとクラウドのサーバー数 | |||
オンプレミスとクラウドのコスト | |||
コストの前年比 (YoY) | |||
ダウンタイムの削減 | 使用されていないアプリケーションを廃止することでアプリケーションフットプリント (リソース使用量やシステムに与える影響など) を簡素化 | 廃止されたアプリケーションの割合 | 技術的な問題が顧客に影響を与える前にプロアクティブに解決 ピークアプリケーション使用時のパフォーマンス低下なし (オートスケーリング) アプリケーション停止回数の減少 |
技術的負債の除去 | サポートされた OS 上で稼働するアプリケーションの割合 | ||
サポートされたデータベース上で稼働するアプリケーションの割合 | |||
運用上のメトリクスの改善 | オンプレミスとクラウドの平均検出時間 (MTTD) の基準 | ||
プラットフォームやリホストの性能改善 | オンプレミスとクラウドのピーク負荷時におけるアプリケーション性能の基準 | ||
計画外のシステム停止回数の削減 | オンプレミスとクラウドのシステム停止回数の基準 |
AnyCompany は、Crawl フェーズ中に前の表 1 の KPI を使用して、オンプレミスアプリケーションの約 25%、コストのかかるレガシーデータベースとサーバーの約 50% を廃止しました。さらに、複数のデータセンターを閉鎖し、セキュリティとオブザーバビリティを向上させ、モダンアプリケーション開発プラットフォームを構築しました。
Walk フェーズ — ビジネス KPI を徐々に導入する
この段階では、組織はビジネス成果をテクノロジードライバーに結び付けます。Crawl フェーズで確立された KPI を拡大するにつれて、徐々に変化していきます。目標は Crawl フェーズですべての KPI を完成させることではなく、チームがメトリクスを活用し、継続的な改善とステークホルダーとの透明性を維持できる状態に移行する能力に注目することが目標であることに注意してください。次の表 2 に示すように、初期の KPI セットを取りこんで、自動化された環境プロビジョニングを追加するなど、それらを拡張することになります。これにより、開発者はインフラストラクチャの管理から解放され、デプロイの失敗が減り、機能の強化やより価値のあるタスクに集中できるようになります。ここでは、副次的な目標としてビジネスインパクトの測定から始めたいと思います。初期の KPI には完了までの明確な道筋があり、チームにこれらの新しい KPI を意思決定プロセスで使用してもらうために、チームに KPI を導入する機会を探してください。
AnyCompany は現在、クラウドへの移行を順調に進めており、このフェーズの一環として移行の先を見据えています。彼らは、クラウド移行の過程ですでに測定されていた技術 KPI にビジネス成果を追加しました。企業全体とのコミュニケーションを継続することで、企業のステークホルダーは、移行によって自社のビジネスがどのようにプラスの影響を受けているかを理解できるようになりました。表 2 は、追跡対象の技術 KPI がビジネスに与える影響を示しています。
表2 Walk フェーズの KPI と影響
メリット | 目的 | 測定 | 影響 |
---|---|---|---|
ダウンタイムの削減 | コードで運用されるアーキテクチャの増加 | 自動化された環境プロビジョニング数 | 開発者が機能強化に費やせる時間の増加 デプロイ失敗の減少、つまり、同じ作業を繰り返すことの減少 報告された問題に対するより早いレスポンスタイム |
デプロイの効率性 | 自動化されたアプリケーションのデプロイ数 | ||
デプロイ成功率 | |||
デプロイガバナンスの合理化 | デプロイガバナンスプロセスの評価 | ||
テスト自動化の割合 | |||
オンプレミス、クラウド、クラウドネイティブプラットフォームのデプロイ時間 | |||
コスト削減 | クラウドネイティブプラットフォームに移行することでリプラットフォームやリファクタリングの準備ができているアプリケーションのモダナイズ | クラウドネイティブプラットフォームのアプリケーションの割合 | 本番環境で報告された不具合に対するレスポンスの増加 本番環境での不具合数の減少 顧客へのプロダクト強化提供数の増加 デプロイ中のダウンタイムの排除 アプリケーションセキュリティの改善 (自動化されたセキュリティスキャン) |
AWS のマネージドデータベースの割合 | |||
機能のサイクルタイム (機能リクエストを本番環境に実装するまでの時間) | |||
デプロイ数の前年比 (YoY) | |||
本番環境で報告された不具合数 |
Run フェーズ — 時間とともにビジネス KPI を追跡、測定、発展させる
この段階では、長期的なビジネス上のメリットが実現されつつあり、移行の最初の部分も終わりに近づいています。この時点で、組織はクラウドで成熟しています。初期の戦術的な測定 は、次の表 3 に示すように、組織のビジネスに直接影響する KPI に置き換えられています。これには、売上増加、業務オペレーションの競争上の優位性確保と効率化、営業利益の増加、市場シェアの増加、新しい収益セグメントが含まれます。組織は機能リリースなどのアウトプットとビジネスを推進する成果の関係を理解しています。また、成果を測定すると同時に、その実現のためにどのような機能を追加する必要があるかを調べます。
表 3 Run フェーズの KPI と影響
メリット | 目的 | 測定 | 影響 |
---|---|---|---|
効率化 | 開発者の請求対象外時間 (直接的には収益を生まない時間) の削減 | デモや概念実証の労力を軽減し、プリセールス時間を追跡 | 従業員の生産性向上 |
AWS CloudFormation テンプレートのような再利用可能なアセットがチームを横断して共通的なワークロードに活用され、チームは付加価値のある作業と差別化されない作業に注目 | タグ付けされたアセットやアクセスの追跡 | ||
アジリティ (俊敏性) | より強いガードレールや舗装された道を提供して、プロジェクト内でジュニアレベルとシニアレベルのエンジニアが一緒に取り組むことができる。経験の浅いスタッフをより迅速に増員できる。 | Amazon CodeWhisperer (2024 年 6 月現在では、Amazon Q Developer) のような新しいツールの導入とアウトプットの測定 | 新人のオンボーディングプロセスの迅速化 |
イノベーション | クラウドネイティブソリューションに基づくクライアントオファリングへの新しい機能追加 (グローバル化、レジリエンシー、サステナビリティ) | 顧客による新しい機能のフィードバックスコア | 新しい収益源 |
この段階で、AnyCompany はテクノロジーの観点からクラウドトランスフォーメーションについてある程度の成熟度を達成し、現在は、完了しようとしている作業に関連するビジネス KPI との結び付けと測定に注力しています。ビジネスの変革を可能にする機能や特徴に焦点を当てながら、技術的負債が野放しにならないようにするためのメカニズムとガバナンスが整っています。このフェーズは継続的な道のりであり、ビジネス戦略と IT 戦略を結びつけることで、AnyCompany がマーケットリーダーとしての地位を確立し、コラボレーションを改善できるようになります。
結論
このブログ記事では、AnyCompany がトランスフォーメーションのジャーニーの初期から採用しているアプローチを紹介しています。現在の状況にかかわらず、これらの手順に従うことで、勢いを維持または回復し、一貫した進歩を遂げることができます。KPI を継続的に強化することを目標に、徐々にビジネス KPI に置き換えることができる技術 KPI を測定して共有するメカニズムを構築するための段階的アプローチについて説明しました。
この記事は、カスタマーソリューションマネージャーの仁科 みなみが翻訳を担当しました。原文はこちらです。