Amazon Web Services ブログ
クリックストリームデータによるビジネス成果の促進
今日の競争の激しい市場では、顧客を中心に考えることは不可欠です。顧客を中心に考えるためには、まず性別や年代といったユーザー属性(デモグラフィック)、嗜好やライフスタイルといったユーザーの心理的属性(サイコグラフィック)、取引、購入記録、サポートケース、製品の使用状況、買い物習慣、コンテンツの好みなどのデータが必要です。ガートナーのレポートによると、消費者を 360 度把握している企業は 10% 未満です。彼らが努力しないからではなく、全体像を把握することはとても難しいのです。この課題は、データ収集と統合のプロセスに内在する複雑さに起因し、消費者の全体像を把握するうえで根強いハードルとなっています。
今日のビジネス環境は変化が速いため、タイムリーなビジネス意思決定では、新しいデータに何時間も何日もアクセスするのではなく、リアルタイムでアクセスする必要があります。競争力を維持し、現在の市場の状況に合わせて十分な情報に基づいた意思決定を行うためには、組織はリアルタイムの情報を自由に利用できなければなりません。
市場が急速に変動し、顧客の好みが変化すると、古くなったデータによって機会を逃したり、インサイトが古くなったりして、顧客体験が最適ではなくなる可能性があります。
企業は、自社のデータ(ファーストパーティデータ)の所有権を取り戻し、顧客や見込み客の情報の力を活用して競争力を高め、より顧客体験をもたらすべく取り組む必要があることを認識しています。ファーストパーティデータの例としては、企業が顧客の行動や好みについての理解を深めるための大きな可能性を秘めたクリックストリームデータがあります。
クリックストリームデータとは、ユーザーと Web サイトまたはモバイルアプリケーションとの間で発生するデジタルインタラクションを収集したものです。リアルタイムにユーザーデータを収集し有用なインサイトを作成することは困難な場合があります。アマゾン ウェブ サービス(AWS)のサーバーレスサービスは、クリックストリームデータをシームレスにキャプチャ、処理、視覚化し、分析基盤に取り込むためのスケーラブルなアーキテクチャを提供するために役立ちます。
ユーザーインタラクションには、リンクやボタンのクリック、さまざまなページの表示、特定のページの閲覧時間、フォームの送信、ファイルのダウンロード、その他デジタル環境で行われるさまざまなアクティビティなど、さまざまなアクションが含まれます。クリックストリームデータは、ユーザーの行動、好み、パターンに関する貴重なインサイトを提供します。これにより、組織は Web サイトやアプリを最適化し、顧客体験を向上させ、データ駆動型の意思決定を行って全体的なパフォーマンスを向上させることができます。
クリックストリームデータを活用することで企業が得ることができる利点をいくつか紹介します。
- 顧客インサイト: クリックストリームデータは、顧客の行動、好み、関心に関する貴重なインサイトを提供することができます。クリックストリームデータを分析することで、企業はユーザーが Web サイトやモバイルアプリをどのように操作しているか、どのページや機能が最も人気があるか、コンバージョン前にユーザーが取るアクションをよりよく理解できます。
- パーソナライゼーション: クリックストリームデータを使用して、ユーザー体験をパーソナライズできます。ユーザーのクリックストリームデータを分析することで、企業はパーソナライズされたレコメンデーションを行い、ターゲットを絞ったコンテンツを表示し、関連性の高い広告を配信できます。
- 最適化: クリックストリームデータは、Web サイトやモバイルアプリの最適化に使用できます。クリックストリームデータを分析することで、企業は Web サイトやモバイルアプリの中で、ユーザー体験を損なっている領域やコンバージョンを妨げている領域を特定できます。その後、変更を加えてユーザー体験を向上させ、コンバージョンを増やすことができます。
- マーケティング: クリックストリームデータは、マーケティングキャンペーンを最適化するために使用できます。クリックストリームデータを分析することで、企業はカスタマージャーニーをよりよく理解し、ターゲティング、メッセージング、チャネルセレクションについてより多くの情報に基づいた意思決定を行うことができます。
本ブログでは、サーバーのプロビジョニングや管理を必要とせずに、AWS サーバーレスサービスを使用してクリックストリームデータをほぼリアルタイムで収集するための高レベルのアーキテクチャについて説明します。
アーキテクチャ
このソリューションでは、 Amazon API Gateway 、 AWS Lambda 、 Amazon Kinesis データストリームを使用してクリックストリームデータを取り込んで処理し、Amazon Kinesis Data Firehose を使用して未加工データをアマゾンシンプルストレージサービス (Amazon S3) に保存し、次に Amazon Athena と Amazon QuickSight を使用してユーザーフレンドリーな方法でデータを分析および視覚化します。
サービス選定理由
クリックストリームデータは、ユーザーのトラフィックと行動に応じて非常に変動しやすく、大量のメッセージとして継続的にストリーミングされます。新しいアプリケーション機能、 Web サイトのレイアウト、またはマーケティングキャンペーンのパフォーマンスを評価する場合、迅速なアクションを可能にするためにそれらをリアルタイムで分析することが重要です。
このアーキテクチャ用に選択された AWS サービスは、クリックストリームデータを処理するための自動スケーリング機能と費用対効果の高いソリューションを提供します。これらのサービスは、入ってくるワークロードの変動に対応するようにリソースを動的にスケーリングし、ほぼリアルタイムの処理と分析を保証します。従量課金制の価格モデルでは、使用したリソースに対してのみ支払いが発生するため、過剰なインフラを用意しておく必要がなくなり、コストを最小限に抑えることができます。
Amazon API Gateway は、開発者があらゆる規模の API を簡単に作成、公開、保守、監視、保護できるようにする完全マネージド型サービスです。
AWS Lambda はサーバーレスのイベント駆動型コンピューティングサービスで、サーバーのプロビジョニングや管理を行わずに、事実上あらゆるタイプのアプリケーションやバックエンドサービスのコードを実行できます。Lambda は 200 以上の AWS サービスと Software-as-a-Service (SaaS) アプリケーションからトリガーできます。支払いは使用した分だけです。
Amazon Kinesis Data Streams は、あらゆる規模のデータストリームの収集、処理、保存を容易にするサーバーレスのストリーミングデータサービスです。
Amazon Kinesis Data Firehose は、ストリーミングデータを確実に収集、変換し、データレイク、データストア、分析サービスに配信する抽出、変換、ロード (ETL) サービスです。
Amazon S3 は、業界トップクラスのスケーラビリティ、データ可用性、セキュリティ、パフォーマンスを提供するオブジェクトストレージサービスです。あらゆる規模と業種のお客様が、データレイク、クラウドネイティブアプリケーション、モバイルアプリなど、ほぼすべてのユースケースで任意の量のデータを保存および保護できます。
Amazon Athena では、場所を問わずペタバイト単位のデータを簡単に柔軟に分析できます。Athena を使用すると、Amazon S3 データレイクとオンプレミスのデータソースや SQL や Python を使用する他のクラウドシステムを含む 30 のデータソース からデータを分析したり、アプリケーションを構築したりできます。
Amazon QuickSight は、ハイパースケールの統合ビジネスインテリジェンス (BI) により、データ駆動型の組織を強化します。QuickSight を使用すると、すべてのユーザーが、最新のインタラクティブなダッシュボード、ページ分割レポート、埋め込み分析、自然言語クエリを通じて、同じ情報源からさまざまな分析ニーズを満たすことができます。
ニーマン・マーカスは、このソリューションを自社の e コマース Web サイトである BergdorfGoodman.com とNeimanMarcus.com に実装しました。オムニチャネルパーソナライゼーション担当ディレクターの Sravan Erukulla 氏は次のように語っています。「AWS は ニーマン・マーカス グループ と協力して、毎日数百万件のレコードを処理できるクリックストリームリポジトリを作成しました。わずか 3 週間で、2 つのチームが協力してソリューションを構築し、本番環境にデプロイしました。このクリックストリームデータにより、ニーマン・マーカスは、ユーザーの閲覧行動や放棄されたカートなどについて、ほぼリアルタイムでモデルのトレーニングと調整を行うことができます。」
アーキテクチャ図
図 1 はクリックストリームのデータフローアーキテクチャを示し、クリックストリームのレコードが一連のステップを経てどのように処理されるかを示しています。図中のカスタマー Web ポータルは、Web サイトやモバイルアプリケーションなどのデジタルプラットフォームとして機能し、ユーザーがシステムを操作できるようにします。ユーザーが Web ポータルを操作してさまざまなリンクをクリックすると、クリックストリームデータは次のように処理されます。
図 1 — アーキテクチャ
- クライアント (カスタマー Web ポータル) は、クリックストリームペイロード (レコード) を API Gateway に送信します。
- API Gateway はレコードを Lambda に送信し、そこでデータが標準化されます。
- Lambda はレコードを Kinesis Data Streams に送信して非同期処理を行います。
- Kinesis Data Streams はリクエストを Kinesis Data Firehose に転送します。
- Kinesis Data Firehose は、1 分ごとにレコードをバッファリングし、S3 バケットにアップロードします。
- Athena は S3 バケットに保存されているデータのクエリと分析に使用されます。
- QuickSight を使用してダッシュボードを作成し、データを視覚的に表示します。
クリックストリームのユースケースの例
クリックストリームデータは、Amazon Personalize を使用してパーソナライズされたおすすめ商品を提供するための貴重な情報源となります。Amazon Personalize は、開発者がアプリケーション向けにパーソナライズされたレコメンデーションを作成できるようにする機械学習サービスです。Amazon Personalize はクリックストリームデータを使用してレコメンデーション機能を強化し、より適切でパーソナライズされた体験を顧客に提供できます。このブログで説明されているクリックストリームソリューションは、図 2 に示すように、クリックストリームデータを Amazon Personalize にフィードするように拡張できます。
図 2 — クリックストリームのユースケース
- Kinesis Data Streams はクリックストリームのレコードを Lambda に渡します。
- Lambda はレコードをフォーマットして Amazon Personalize に送信します。
まとめ
AWS サーバーレスサービスを活用することで、クリックストリームデータを扱うための強力でスケーラブルなソリューションが得られます。 Amazon API Gateway 、AWS Lambda 、 Amazon Kinesis Data Streams 、 Amazon Kinesis Data Firehose 、 Amazon S3 、 Amazon Athena 、 Amazon QuickSight などのサービスを利用することで、組織はクリックストリームデータを切れ目なく収集し、処理、視覚化し、分析基盤に取り込むことができます。Kinesis Data Firehose は受信データを自動的にスケーリングしてバッファリングすることで取り込みプロセスを促進し、Lambda はデータ変換と加工のためのカスタムコードの実行を可能にします。
サーバーレスアーキテクチャにより、企業はさまざまなデータ量を効率的に処理し、オペレーションコストを削減し、迅速に反復処理を行い、デジタルコンテンツにおける顧客の行動の変化から学ぶことができます。また、クリックストリームデータから迅速にインサイトを抽出できるため、データ主導の意思決定と顧客体験の向上が可能になります。
技術に焦点を当てたブログ「AWS サーバーレスサービスを使用してクリックストリームデータをキャプチャする」では、クリックストリームデータのキャプチャを開始する際に役立つように、このソリューションを導入する手順を段階的に説明します。
AWS の担当者にお問い合わせいただき、当社がお客様のビジネスをどのように促進できるかをご確認ください。
参考文献
- Real-time Clickstream Anomaly Detection with Amazon Kinesis Analytics
- Amazon Personalize customer outreach on your ecommerce platform
著者について
Pritam Bedse
Pritam Bedse は、アマゾン ウェブ サービスのシニアソリューションアーキテクトで、エンタープライズ企業のお客様を支援しています。彼の関心と経験には、AI/ML 、分析、サーバーレステクノロジー、カスタマーエンゲージメントプラットフォームなどがあります。仕事以外にも、Pritam は屋外でのガーデニングやグリルを楽しみます。
Christin Carter
Christin Carter は、アマゾン ウェブ サービスのプリンシパルアカウントマネージャーで、エンタープライズ企業のお客様を支援しています。彼女の関心と経験には、デジタルトランスフォーメーション、AI/ML 、分析、サーバーレステクノロジー、カスタマーエクスペリエンスソリューションなどがあります。仕事以外では、Christin が世界中を旅し、大小さまざまな新しい冒険を求めています。
Jared Warren
Jared Warren は、アマゾン ウェブ サービスのプリンシパルソリューションアーキテクトであり、エンタープライズ企業のお客様と協力しています。仕事以外では、ボードゲームをしたり、裏庭でバーベキューをしたりしています。
翻訳はソリューションアーキテクトの小西が担当しました。原文は こちら です。