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DTC e コマースサイトをモダナイズするための3つのステップ

筆者(Danny Yin)は15年以上にわたって、多くの革新的な消費者ブランドの e コマースプラットフォームの設計を支援してきました。特に消費者向け(Direct To Consumer; DTC)e コマースサイトにおける顧客体験の向上と運用効率向上を支援することが、AWS における筆者の役割です。 レガシーアーキテクチャに多額の投資を行っている消費財企業からも、クラウドベースの e コマースプラットフォームのメリットをどうすれば実現できるのかよく聞かれます。このブログでは、e コマースサイトをモダナイズするための3つの戦略について、その概要を紹介します。

DTC eコマースサイトの典型的なレガシーアーキテクチャはおわかりになりますね。オンプレミスのデータセンターに配置されたモノリシックアプリケーションで、DBA チームが巨大なウェブサイトを管理、チューニングしています。特にホリデーシーズンの購買ピーク時には、コストがかかる上に、拡張は難しく、管理にも時間がかかっていました。ここではこの点についてこれ以上深追いはせず、3 つのモダナイゼーションを見ていきましょう。

戦略1: DTC eコマースサイトをクラウドにリフト&シフトする

パンデミックにより、eコマースからの売り上げは急増しました。オンプレミス環境または、プライベートクラウド環境にあるアプリケーションの場合、その ウェブサイトは大量のオンライン購買客の流入に対処しきれなかった可能性があります。おそらく ITチームはサーバー容量を追加する必要があったでしょう。それにより一時的には対応できたかもしれませんが、e コマース利用が続けば最終的に、容量制限を超える、予算を超えるといったことになりかねません。

この課題を解決するために、仮想サーバーにリフト&シフトします。これは、モダナイゼーションに向けた比較的簡単に取り組めるステップであり、すぐに以下のようなメリットを享受することができます:

  • コスト削減 – AWS の従量課金制モデルをすぐに利用いただけます。使われていないサーバーに料金を支払う必要はありません。運用のベースラインとして Amazon EC2 リザーブドインスタンス(RI)を使用すれば、インスタンス価格はオンデマンドインスタンスと比較して大幅な割引価格(最大72%)で利用できます。次に、Amazon EC2 オンデマンドインスタンスを、またワークロードが適合するのであれば Amazon EC2 スポットインスタンスを使用します。スポットインスタンスを使うことでピークスループットは(オンデマンド価格と比較して)最大 90% 割引されます。
  • スケーラビリティAWS Auto Scaling により、ビジネス需要の変動に対応してサーバー容量をスケールインまたは、スケールアウトする柔軟性が得られます。
  • フォールトトレランスAmazon EC2 Auto Scaling を使うことで、不健全なインスタンスを検出して新しいインスタンスで置き換えることができます。ITスタッフの運用負荷が軽減され、e コマースサイト全体の健全性と可用性が向上します。
  • メンテナンス容易性 – 同じアプリケーションを新しくより柔軟なインフラストラクチャ環境に移動するだけなので、AWS クラウド環境にまだ精通していない IT チームであってもアプリケーションを容易にメンテナンスできます。

戦略2: eコマースサイトのアーキテクチャを見直しマイクロサービス化する

DTC e コマースサイトを AWS に移行しただけでは従来のモノリシックアプリケーションをクラウド上で実行しているだけであり、まだ多くのメリットが潜在したままです。これはレガシーアプリケーションアーキテクチャをそのままにしておくことの欠点でもあります。従来の e コマースサイトは、多くのコア機能すべてを 1 つの大きなアプリケーションに組み込んだ構成になっています。一つの独立した不具合を修正したり、新しい機能を追加したりするためであってもアプリケーション全体を再デプロイしなくてはなりせん。all-or-nothing のデプロイ戦略以外の選択肢がないのです。IT チームはデプロイ作業に数時間、場合によっては数日かけていることもあります。加えてデプロイにより不具合が発生する可能性も高いのです。問題を解決するためのテストとトラブルシューティングにさらに多くの時間が費やされます。アプリケーションもスケーラブルではなく、リレーショナルデータベースに依存しているデザインでは、e コマースビジネスを成長させようとしても頭痛の種と課題に直面するばかりです。

この課題を克服するために、従来の e コマースサイトを分解し、マイクロサービスを使用してアプリケーションを再設計します。 マイクロサービスアーキテクチャを適用すると、アプリケーション(この場合は e コマース)を、各プロセスを個別のサービスとして実行する独立したコンポーネントとして構築することができます。これらのサービスは、軽量な API を介して相互に通信します。従来のモノリシック型 e コマースサイトと対照的であり、ご想像のとおり多くの利点があります:

  • より柔軟なアプリケーション管理 – 問題を切り分けて修正できます。ソリューション全体を再デプロイする必要はありません。
  • 回復力のある e コマースサイト – これは柔軟性と密接に関連しています。独立した問題を修正するためにアプリケーション全体を停止する必要はありません。単一のコンポーネントを修正するだけでいいのです。これは、e コマースサイトに新しい機能を追加する時にも重要です。新機能が期待どおりに動作しなかったとしても、ウェブサイト全体に影響を出さないようにすることができます。拡張した機能についてのみ、問題のトラブルシューティングを行って対応すればよいのです。
  • 独立したスケーラビリティ – 各マイクロサービスは、独自のサーバーとデータベースを持つ完全に独立した設計となっているため、アプリケーション全体ではなく、個々のプロセスをスケーリングすることができます。たとえば、新たに素晴らしく魅力的なロイヤルティプログラムを立ち上げることになり、そのマイクロサービスのためにサーバーとデータベースを急遽、拡張する必要が出たとします。モノリシックアプリケーション全体に対するサーバーとデータベースの容量を追加する必要はなく、独立したプロセスのインフラストラクチャサービスだけを拡張すれば済みます。

このアーキテクチャを実現するための 2 つの主要なテクノロジースタックがあります。Amazon Elastic Kubernetes Service (Amazon EKS)と Amazon Elastic Container Service (Amazon ECS)です。どちらもマイクロサービスアーキテクチャをネイティブにサポートするマネージドなコンテナオーケストレーションサービスを提供するものです。スケーラビリティ、復元力、およびセキュリティをもたらします。

マイクロサービスには他にも多くの利点がありますが、これらが最も大きな利点と言えます。 AWS マイクロサービスを使用して e コマースサイトを再設計することで、アプリケーションのモダナイゼーションへの道をさらに一歩踏み出すことができます。ただし ウェブサイトを再設計するには、アプリケーションを構成するマイクロサービスの優先順位を付けるための時間と適切な戦略が必要です。マイクロサービスに優先順位を付けるための戦略の概要を解説したブログ (マイクロサービスアーキテクチャに移行するための成功戦略) をぜひご覧ください。

戦略3: サーバーレスコンピューティングに移行し、ビジネスに集中する

マイクロサービスアーキテクチャに移行したら、次にサーバーレスコンテナアーキテクチャの利用を検討してください。サーバーレスコンテナアーキテクチャを利用することで、より機敏なアプリケーションを構築することができ、イノベーションを起こし、変化に迅速に対応できるようになります。サーバーレスアーキテクチャでは、コンピューティング容量のプロビジョニングといったインフラストラクチャ管理タスクは AWS によって処理されるため、IT チームはコアとなる e コマースビジネスに集中できます。サーバーレスコンピューティング戦略のメリット次のとおりです:

  • コストの節約 – コンピューティングサービスではきめ細かな粒度で、アプリケーションのリソース要件に厳密に一致するだけの使用量が課金されます。サーバー追加に対し、過剰なプロビジョニングや支払いはありません。
  • 自動スケーリング – サーバーレスモデルは、e コマースアプリケーションのニーズに自動的に対応できる機能が含まれています。ソーシャルメディアのトレンドが原因で突然注文が殺到した場合でも、ウェブサイトへのアクセスレートを維持でき、機会損失を招くようなことはありません。
  • アプリケーション開発を迅速に – 開発チームがコアビジネス価値、つまり顧客に優れたe コマース体験を提供することに集中できます。それ以外のこと(インフラストラクチャのプロビジョニング、パッチ適用など)は AWS にお任せください。アプリケーションの構成ではなく、アプリケーションの開発に集中できます。
  • IT要員がイノベーションに集中 – サーバー管理などの運用がなくなるため、テクノロジーのトレンドを調査したり、新しいテクノロジーを試したり、といった事業のイノベーションを促進するような活動に多くの時間を費やすことができるようになります。

すでにマイクロサービスアーキテクチャを適用している場合、 AWS Fargate はサーバーレステクノロジーとして自然な選択肢になるでしょう。AWS Fargate は、Amazon ECS および Amazon EKS で動作する、コンテナー用のサーバーレスコンピューティングエンジンです。 Fargate を使用すれば、サーバーをプロビジョニング、管理する必要はなくなります。アプリケーションごとにリソースを指定した支払いが可能で、アプリケーションを分離することでセキュリティも向上します。

詳細については、「AWSにおけるサーバーレス:サーバーを考慮せずにアプリケーションを構築・実行する」を参照ください。

ここで紹介した 3 つの戦略は、e コマースアプリケーションを最新化するために役立つはずです。このブログで説明した順序で進める場合はなおさらです。モダンアプリケーションへの道のりには少し時間がかかりますが、その途中でも十分にそのメリットを享受することができるでしょう。サーバーレスアーキテクチャ上で稼働するマイクロサービスでe コマースサイトを再設計できれば、敏捷性と効率性を備えた Cloud ArchitectureDTC e コマースサイトを実現することができます。

AWS for CPG の詳細については AWSアカウントチームにお問い合わせください。

 


著者について

Danny Yin

Danny(Yen-Lin)Yin は、消費財業界における AWS パートナーのグローバルテクニカルリードです。 E コマースアプリケーションの開発と運用に18年の経験を持ち、2018年に AWS に入社しました。Danny は、消費財企業が消費者に提供するデジタルユーザーエクスペリエンスを向上させ、さまざまな事業分野で運用効率を高める支援をしています。 Danny は、 AWS における消費財業界テクノロジーと、コンサルティングパートナーのソリューションアーキテクチャと技術支援も担当しています。 AWS 以前は、トイザらスでデジタルエンジニアリングのディレクターを務め、アウトソーシングしていた世界最大の玩具ウェブストアを、オンプレミスと AWS のハイブリッドクラウドのアプリケーションへと自社開発で移行することに成功しました。

 

翻訳は Solutions Architect 杉中が担当しました。原文はこちらです。