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生成 AI とデータによる小売体験の刷新
この記事は 「How generative AI and data are redefining retail experiences」(記事公開日: 2024 年 10 月 22 日)の翻訳記事です。
小売業と消費財業界は、デジタルトランスフォーメーションを中核に据え、急激に変化しています。 小売業者と消費者ブランドは、このデジタル化へのジャーニーのさまざまな段階にあり、それぞれがビジネスを前進させようとカスタマイズされたソリューションを求めています。 デジタルトランスフォーメーションを推し進めるには、組織はデータに基づくインサイトを必要としており、それによってビジネスの成果を実現しようとしています。 こうした状況の中、データレイク、機械学習 (ML)、人工知能 (AI) などのテクノロジーにより、インサイトを得て、それに基づいて行動することがこれまでになく簡単になっています。
生成 AI で小売を新たな高みへ
小売業と消費財のダイナミックな世界では、生成 AI は変革をもたらす触媒として機能します。 企業が顧客と関わり、業務を管理し、成長を促進させる方法を変革します。 生成 AI の可能性は非常にエキサイティングで、Goldman Sachs は 10 年間で世界の GDP が生成 AI によって 7% 増加し、生産性が 1.5% ポイント向上すると予測しています。
商品マーケティングの自動化
小売業者や消費財ブランドは、Amazon Bedrock、大規模言語モデル (LLM)、マルチモーダルモデルを使用することで、インテリジェントな商品分析や使用説明書用の文章作成を行うことができます。 こうしたモデルは、商品の正確性を保証するだけでなく、オンラインの商品カタログ全体で検索をかけた時にその商品がヒットするよう、使用説明書の文章の最適化も行います。
The Very Group (TVG) を例にとってみましょう。 英国の大手マルチブランドオンライン小売業者である TVG では、人気のある E コマース Web サイトを通じて、お客様は衣料品、家庭用品、電子機器などのカテゴリーにある何千もの商品ページにアクセスできます。また、 TVG で扱う商品の開発推進を目的とした生成 AI システムを開発することで、商品開発プロセスも変革しました。 このシステムでは、Amazon Bedrock、LLM、マルチモーダルモデルを使用して商品を分析し、TVG のコピーライター向けのコンテンツを作成しています。 こうして開発処理時間が短縮され、質の高い商品説明の作成が容易になったため生産性が向上しました。
カスタマーサービスの強化
小売業者も、オンラインと店舗の両方での顧客体験の向上に努めています。 2021 年の Qualtrics の調査では、調査回答者の 80% が、顧客体験が悪いために他のブランドに切り替えたと答えています。 一方で、AI を活用したチャットボットとカスタマーサービスソリューションとのやりとりを通じて、消費者はより自分に合ったサービスを享受できるようになりました。 アマゾンウェブサービス (AWS) のコンタクトセンターソリューションにより、企業はチャットボットを使用してウェブ上の顧客をほぼ瞬時に支援できるようになり、運用コストを削減しながら顧客満足度を向上させることができています。 また、Amazon Q in Connect を使うと、生成 AI アシスタントが顧客からの問い合わせにどのように回答し、対応したらよいかを提案してくれるので、より迅速な問題解決と顧客体験の向上を実現しています。
Orbit Irrigation のカスタマーケア担当シニアマネージャーである Brian Dick 氏は次のように述べています:「お客様の問題を解決するために、当社のカスタマーケア担当者は 1 回の問い合わせにつき 2 ~ 3 分かけて、いくつものデータソースを検索しています… Amazon Q in Connect を使うと、問い合わせにかかる時間を 10 ~ 15% 節約できます。そのため 1 時間あたりに処理できる通話数が増えるので、Orbit のコスト削減に直接つながることが期待できます」。こうしたパーソナライズされたアプローチは、顧客満足度を高めるだけでなく、ロイヤルティの醸成にもつながります。
カスタマーサービスを活性化させているもうひとつの企業が DoorDash です。 2024 年の初め、DoorDash は自社の Amazon Connect コンタクトセンターに生成 AI を活用したセルフサービスを導入しました。 DoorDash は生成 AI を活用して、特に Dashers と呼ばれる配送ドライバーへのカスタマーサポート体験を強化しようとしていました。 消費者、業者、Dashers からの大量のリクエストに直面した同社は、当時、セルフサービスという選択肢の改善を模索していました。 DoorDash は AWS とその Generative AI Innovation Center で協働し、音声で操作が可能なセルフサービスのコンタクトセンターソリューションをほんの 2 か月で開発しました。
DoorDash は Amazon Connect と Amazon Lex を使用してインタラクティブな音声応答システムを構築し、カスタマーケア担当者への転送を 49% 削減しました。 また、DoorDash は 1 回の通話で解決する割合を 12% 向上させたため、顧客体験の向上と年間 300 万ドルの運用コスト削減につながりました。 しかし、通話の多くは依然としてカスタマーケア担当者によるサポートを必要としていたため、DoorDash はセルフサービス機能をさらに強化する必要に迫られました。
Dashers は配達中の問い合わせでは迅速な対応を必要とするため、DoorDash は応答時間の短縮に取り組みました。 Amazon Bedrock を通じて生成 AI を実装したことで、よくある質問にすばやく回答できるようになり、セルフサービスの効率と信頼性が向上しました。 このイニシアチブは、サポートを合理化しただけでなく、3700 万人以上の消費者と 200 万人の Dasher からなるユーザーベースの市場の発展および顧客体験の向上の両方を目指す DoorDash の取り組みを強化するものでもありました。
消費者体験を高度にパーソナライズする
Amazon Bedrock を使用することで小売業者は高度にパーソナライズされたショッピング体験を提供できます。これによって、かつてないほどの正確さと魅力的なアプローチでお客様が探している商品にたどりつけるようになります。生成 AI を活用するこうした企業は、よりカスタマイズされた商品レコメンデーション、動的なコンテンツ生成、インテリジェントな検索機能を提供することで、オンラインストアの常識を変革しています。 その影響は計り知れません。 McKinsey は 2021 年に、高度にパーソナライズされた体験を提供することで平均で 10 ~ 15% の収益増加が可能であり、そうしたイニシアティブを導入した企業の収益は 5 ~ 25 パーセント増加すると報告しました。
他にも素晴らしい事例があります。 Buy with Prime は、Amazon Bedrock 検索拡張生成(RAG)を使って高度にパーソナライズされた体験の開発を追求しています。 RAG を使用して商品サポートの問い合わせを処理するチャットボットソリューションを改善し、従来のメールベースのサポートより優れた体験を提供しています。
こうしたイノベーションによって、企業は目覚ましい成果を生み出しています。B2B 体験をパーソナライズしている企業の 77% が市場シェアの拡大を報告しており、消費者の 4 分の 3 近くがパーソナライズなしではショッピングを完了できないと答えています。 さらに、パーソナライゼーションによって顧客獲得コストを 50% も削減できます。 こうした例と実績は、生成 AI の力と可能性を実証しています。 消費者はすでに、ショッピングジャーニー全体を通じてより魅力的で効率的でパーソナライズされたサポートを利用しており、その恩恵を受けています。
高度なデータインサイトによって小売業界を変革
Amazon Q や Amazon QuickSight などの生成 AI テクノロジーには、高度なデータインサイトの収集など、いくつかの機能があります。 小売業者や消費者ブランドは、これらのインサイトを活用してデータの可能性を最大限に引き出すことができます。 なぜこれが重要なのでしょうか? 効果的なデータ管理と分析によって、小売企業や消費財企業は競争力を保つことができます。そこに AWS は、Amazon S3 などのスケーラブルなストレージソリューションと強力な分析ツールを組み合わせた強固なフレームワークを提供しています。企業はこのAWS フレームワークを使用して、膨大な量の構造化データと非構造化データを安全に管理できます。こうしてデータ処理が効率化され、小売業者は実用的なインサイトを迅速に引き出すことができるのです。
Amazon QuickSight は、このエコシステムにおいて極めて重要なツールです。 超高速で並列性の高いインメモリ計算エンジンにより、大規模なデータセットを迅速に分析できるため、ユーザーは数十億行のデータを操作に応じてリアルタイムに視覚化できます。 この機能は、リアルタイムのデータ傾向に基づいて迅速な意思決定を行う必要がある小売業者にとって極めて重要です。 Amazon Q in QuickSight では、自然言語によるクエリもサポートしているため、ユーザーは質問をしたり、すぐにデータを視覚化してもらうことができます。 これによりデータへのアクセスが民主化され、技術的な専門知識がなくても、どの部門の従業員であっても複雑なデータセットを扱うことができます。
Amazon Q in QuickSight での自動データ準備機能は、セマンティック情報を推測してデータセットに追加することで、効率を大幅に向上させます。 これによって手作業によるデータ準備作業に費やす時間が減り、複雑なデータ管理から解放されてインサイトの抽出に集中できるようになります。
小売業者は、こうしたインサイトを、次のようなさまざまな用途に活用できます。
マーケティング戦略のパーソナライズ
Amazon Q を利用すると、小売業者は自然言語によるクエリを通じて顧客の行動を迅速に分析できます。 たとえば、マーケティング担当者は「18 ~ 25 歳の顧客が先月購入した商品は何か」と尋ねることができます。そうしたデータがあれば、販売キャンペーンを変更して改善できます。
生成 AI を統合することで、ユーザーの行動に基づいてマーケティングコンテンツをリアルタイムでカスタマイズできます。 マーケティングチームは Amazon Q を使用して販売キャンペーンのパフォーマンスに関する詳細を表示させることもでき、戦略を迅速に調整しやすくなります。 Amazon Personalize などのツールを QuickSight や Amazon Q と組み合わせると、コンテンツの作成と配信を強化できます。 さらに、Amazon Q のストーリー機能ではインサイトの共有が簡単になり、視覚的にわかりやすいレポートを作成し、チーム間のコラボレーションが向上します。 こうした機能により、マーケティングチームはトレンドに迅速に対応し、より効果的なキャンペーンを推進できます。
在庫管理
効果的な在庫管理には、コストを最小限に抑えながら最適な在庫レベルを維持することが不可欠です。 Amazon Q では、小売部門や消費財部門が簡単な自然言葉で過去の売上データをクエリできるため、正確な需要予測が容易になります。 例えば、小売業者は「過去の傾向に基づく次の四半期の売上予測はどれくらいか」と尋ねることができます。 これにより、企業は在庫レベルを積極的に調整し、人気商品の品切れを防ぎつつ過剰在庫を減らすことができます。 Amazon Q からのインサイトを活用した QuickSight の視覚化機能によって主要な在庫指標は継続的にモニタリングできるようになり、その結果、小売業者や消費者ブランドはサプライチェーンをタイムリーに調整できるようになるので、顧客満足度と業務効率が向上します。
業務効率
業務効率を最大化することは小売業者にとって不可欠です。Amazon Q は、対話型クエリを通じて動的に過去の主要業績評価指標の追跡ができ、一方で QuickSight はデータを静的に視覚化することに長けているので、QuickSight の強力な視覚化ツールを、Amazon Q の対話型クエリで補完し KPI を追跡することができます。 マネージャーは「今月は売上目標に対してどの程度達成しているか」といった質問をすることができます。 リアルタイムダッシュボードはパフォーマンスを継続的に監視し、ボトルネックを特定し、迅速な行動を促すためのインサイトを提供します。 こうした高度な機能を業務に統合することで、組織は情報に基づいたデータ主導の意思決定を迅速に行い、ビジネス目標をより早く達成できます。
さらに、生成 AI 機能を統合することで、チームはデータサイエンスの広範なトレーニングを受けなくても複雑な分析を行うことができます。 チームメンバーは Amazon Q in QuickSight に「先月の売上増加に貢献した要因は何か」と尋ねることができます。 また、主要な要因の概要を数秒以内に受け取ることができます。 この機能により、小売部門や消費財部門は表面下にある本質的な傾向を理解し、戦略を積極的に調整できるようになります。
Amazon Q と Amazon QuickSight は、小売企業や消費財企業が蓄積されたデータから実用的なインサイトを引き出すことを支援します。こうしたツールによってデータ管理プロセスが簡素化され、自然言語クエリによる可視化機能が強化されることで、企業は市場の変化に迅速に適応し、持続的な成長に向けて業務を最適化できるようになります。
まとめ
小売・消費財業界は、技術の進歩と消費者の期待の変化に促されて、急速に進化し続けています。 生成 AI の使用とデータ主導型戦略の採用は、よりパーソナライズされた体験の創出、業務の最適化、データに基づいた意思決定を目指す小売・消費財業界にあってはトレンドとなっています。 こうしたイノベーションを取り入れることで、小売業者や消費者ブランドは、成長を続けるデジタル市場において、顧客満足度を高め、プロセスを合理化し、競争力を高めることができます。
独自のソリューションを構築する際の、アーキテクチャの参照となるケースに関しては、AWS ソリューションライブラリの Generative AI Application Builder on AWS ページをご覧ください。 小売および消費財分野のビジネスおよび技術ユースケース向けのさまざまな検証済みソリューションとガイダンスが紹介されています。 小売および消費財企業が、ソリューションを購入するか自社開発するかの選択に迫られた時でも、AWS には広範なパートナーコミュニティがあり、そのパートナー各社が業界ニーズに合わせて厳選したソリューションが AWS Marketplace の小売・消費財向けハブで提供されていますので Marketplace 上でいろいろと選べます。
その他のユースケースやトレンドの詳細については、AWS for Retail and Consumer Goods ページをご覧ください。
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著者について
Anu Kaggadasapura Nagaraja
Anu Kaggadasapura Nagarajaは、シアトルオフィス勤務のアマゾンウェブサービスのソリューションアーキテクトです。機械学習、AI、データ分析を専門としています。 エンタープライズグリーンフィールド小売店や 消費財のお客様と協力して、AWS プラットフォーム上で革新的なアプリケーションを設計および開発しています。テクノロジー強い信頼を寄せている Anu は、お客様がAWSを最大限に活用して、ビジネスの問題を解決できるよう支援することに力を注いでいます。
Brendan Jenkins
Brendan Jenkins はソリューションアーキテクトで、AWS の企業顧客を対象に技術ガイダンスを提供し、ビジネス目標の達成を支援しています。 DevOps と機械学習テクノロジーを専門としています。
Esther Kang
Esther Kang はAWS バージニアオフィス勤務のアソシエイトソリューションアーキテクトです。 AWS に入社する前、Esther はメリーランド大学で学び、コンピュータと情報科学の学士号を取得して卒業しました。 在学中にデータベースの設計とプログラミングのスキルを磨き、現在は AWS の職務でそのスキルを活かしています。
Parker Bradshaw
Parker Bradshaw は AWS のエンタープライズ SA で、ストレージとデータテクノロジーを専門としています。 小売企業が大規模なデータセットを管理して顧客体験と商品品質を向上させるのを支援しています。彼はイノベーションと技術コミュニティの構築に情熱を注いでいます。休日は、家族と過ごす時間を大切にし、ピックルボールを楽しんでいます。
本ブログは CI PMO の村田が翻訳しました。原文はこちら。