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J.フロント リテイリングにおける統合データ基盤を活用したカスタマー・データドリブン経営の取り組み
本稿では、J.フロント リテイリング株式会社(以後、JFR)が、 AWS 上に構築した「統合データ基盤」を活用したカスタマー・データドリブン経営の取り組みについて紹介します。
JFR のカスタマー・データドリブン経営の取り組みと統合データ基盤の活用
大丸松坂屋百貨店(以後、百貨店)、パルコを傘下に持つ JFR のデジタル戦略の骨子は以下の 3 つの柱から構成されています。
- カスタマー・データドリブン経営の実践
- デジタルテクノロジーを活用した新たなビジネスモデルの構築
- これらのアクションを支えるデジタル人財の育成
1 つ目の「カスタマー・データドリブン経営の実践」とは、百貨店やパルコなどの各事業会社で、お客様との接点を通じて得られた顧客情報、サービスご利用状況などのデータを分析し、お客様を理解することで、より良いサービスの提供を目指すということです。そのために、 JFR では、顧客情報やサービスご利用状況などのデータを統合データ基盤に集約・活用することにより、各事業会社単体のデータだけでは分からなかった百貨店とパルコの両店舗における購買者の行動を把握することで、新サービスの仮説を見出し、新たなご利用機会を生み出す取り組みを行っています。この取り組みを、各事業会社で実践、改善を繰り返し行うことで、事業を横断した、より多くの顧客データの蓄積から分析までのサイクルが洗練されていき、ビジネス施策への活用手段を増やしていくことができます。この一連の活動を「カスタマー・データドリブン経営」として実践し、お客様に今以上に喜んでいただける価値を提供できるグループを目指しています。
本稿では、カスタマー・データドリブン経営を支えるための、 AWS を活用した統合データ基盤についてご紹介します。
取り組みにおける課題
JFR が、統合データ基盤を構築し、横断した顧客理解を進めるには課題がありました。百貨店、パルコなど各事業会社は、それぞれ個別に顧客データ基盤を保有していました。データ構造も事業特性に合わせて最適化し、データ分析・活用を行っています。また、データ分析ソリューションも各事業会社が個別に導入しています。そのため、各事業会社の事業方針、事業スピードに影響を及ぼさないように、グループ全体での「カスタマー・データドリブン経営」を実現していくためには、グループ全体観点での顧客情報(項目)の精査・最適化を進めつつ、以下の条件を満たすことが必須でした。
- 現在保有している顧客情報に加え、行動情報、趣味、嗜好などのより多くのデータを将来的に蓄積し、データ処理が可能な高いスケーラビリティ
- 並列実行のクエリに対する高パフォーマンス
- 顧客データを取り扱うプラットフォームとして、高いセキュリティ、細かな権限管理
- 将来的なグループ全体での最適化に向けた基盤の技術拡張性
アプローチ
これらの課題に対し、取り組んだアプローチは、新しく AWS 上でデータレイクを中心としたデータ基盤を構築することです。Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)は容量無制限というスケーラビリティを持ち、高い耐久性、低コストです。この Amazon S3 をデータレイクの中心とし、各事業会社が保有する顧客情報を Amazon S3 に出力することで、データを集約します。各事業会社のデータはそれぞれで持つ AWS 環境に存在するため、 S3 バケットへのクロスアカウントアクセス許可をすることで JFR 内のセキュアなデータ共有を実現しました。
しかし、そのままではデータ形式が違い、結合はできないため、 ETL ツールを用い、フォーマットを整え、同一顧客かどうかを判別する処理(パターンマッチングによる名寄せなど)を行います。統合元となる顧客情報には情報自体にゆらぎがあるため、単一パターンでの名寄せでは統合しきれません。そのため、数パターンの名寄せロジックで実行した結果を評価し、組み合わせることで信頼性の向上を図っています。統合されたデータは Amazon Aurora に取り込み、統合データ基盤上に“統合顧客データベース”として利用可能な状態になります。
JFR では、この統合顧客データベースを起点としてデータ活用を行っています。一例として、 JFR のデータアナリストが事業を横断して分析するケースです。活用するデータは個人情報を取り除き、 Amazon S3 に保存、 AWS Glue データカタログに登録しています。AWS Glue データカタログに登録されたデータに対して、 Amazon Athena で SQL アクセスが可能です。Amazon Athena は、サーバーレスなクエリエンジンであり、 Amazon S3 上のデータをシンプルに分析できるインタラクティブな分析サービスです。また、 AWS は、 Amazon S3 に保存されたデータにシームレスにアクセスできる周辺サービスが充実しており、ペタバイトレベルまでスケール可能なデータウェアハウスサービスである Amazon Redshift を始め、 AI/ML サービスもあります。並列実行クエリに対して高パフォーマンスを求める分析は、 Amazon Redshift を利用しています。
各要素と AWS サービス
- データレイク:Amazon S3, AWS Glue
- 統合顧客データベース:Amazon Aurora
- Amazon S3 上のデータへのクエリエンジン:Amazon Athena
- データウェアハウス:Amazon Redshift
この統合データ基盤を活用することに、 JFR は力を注いでいます。必要に応じて、データ活用のためのデータマートを個別案件に合わせて準備し、活用スキルを備えたデータアナリストに提供します。データマートの準備は単にルール化するだけでなく、対応方式、組織を一元化することで、データ構造や型の標準化を徹底できます。活用事例を積み重ねることで、類似する活用案件には過去に構築したデータマートのノウハウを生かすことができ、スピードアップが図れます。また、データマート自体の標準化にもつなげることができます。
データアナリストにはあらかじめスキル教育を実施しており、標準的な BI ツールや ML 型 AI ツールとその使い方も提供しています。これにより、分析手法の標準化を図ることができ、過去の分析で構築した BI ツールの資産が部品として 2 次利用できるメリットも生まれます。
JFR のグループデジタル統括部デジタル推進部で基盤構築チーム専任部長である池田氏は、「私たちが大切にしているのは、単なるシステム基盤にとどまらない、グループ内の様々な活用要望に応えられるデータ活用基盤であることです。そのために BI ツールの提供やデータマートの標準化を行っていますが、それを支えるためには、 AWS のシステム基盤としての安定性、将来を見据えた機能拡張性、スケーラビリティの確保が不可欠です。」と述べています。
今後に向けて
AWS 上で統合データ基盤を構築し、さまざまな AWS サービスを組み合わせることにより、グループ全体でのデータ活用が動き始めました。JFR では、この統合データ基盤で可視化できたデータから、グループ共通指標を作成、社内へ公開しています。公開したデータは各事業会社も閲覧することができています。このデータを元にしたビジネス施策の PCDA サイクルを加速することで、カスタマー・データドリブン経営を実践しています。
AWS は日夜進化を続けており、新サービスのリリース、機能アップデートを重ねています。現在は外部ソフトウェアを活用しているサービスを今後リリースされる AWS の新機能に置換することにより、サービスレベルの向上や基盤のコストパフォーマンス向上が狙えます。また、既に利用している機能も新機能に置き換えることにより同様の効果が狙えるものと期待しています。
JFR ではこの取り組みを強力に推進していくために、共に取り組んでいく仲間を募集しています。興味を持っていただける方のご連絡をお待ちしています。
本稿は、ソリューションアーキテクト 齋藤、髙橋が担当し、J.フロントリテイリング株式会社 グループデジタル統括部デジタル推進部 基盤構築チーム専任部長 池田氏との共同執筆です。データ分析基盤の構築をご検討されている方の参考となれば幸いです。
JFR におけるデジタル人財の育成の取り組みについても、以下のブログで紹介しています。合わせてご覧ください。