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AWS Media Services を使って信頼性の高い Dynamic Ad Insertion (動的広告挿入)を実装する

この特異な時代においてライブイベントのオフラインでの開催が困難となるなか、音楽コンサートやスポーツイベント、リニアテレビなどのライブ中継のストリーミングが COVID-19 のパンデミック発生以来、爆発的に増加しています。携帯電話やデスクトップブラウザでのオーバーザトップ (OTT) ライブストリーミングや、スマートテレビアプリケーションを介してのみ利用できるコンテンツの量が増えています。

これらのライブストリームの視聴者の数が年々増加するにつれて、オンラインのオーディエンスは指数関数的に増加しています。例えば、Super Bowl LV では、2020 年比でオンライン視聴者数が 65% 以上増加しました。さらに、ヨーロッパの放送局は、サッカーの UEFA Euro 2020(欧州選手権)中に、ライブストリーミングの記録を塗り替えました。Peacock (NBCUniversal)、 IMDb TV (Amazon)、 Pluto TV (ViacomCBS) などの新しいサービスが開始し、無料広告付きストリーミングテレビ (FAST) のチャンネルも増加しています。

eMarketer は、デジタル広告の未来は非常に有望と見込んでいます。「米国の広告主は COVID-19 パンデミック中にもかかわらず、 2020 年のデジタル広告支出を 15% 近く増加させました。今年は成長率が加速して、デジタル広告が米国広告セグメントの 3 分の 2 を上回る見込みです。」

アマゾンウェブサービス (AWS) を利用する放送局やライブストリーミング事業者にとって今は、ライブストリームを収益化し、パーソナライズされた広告や地域別の広告を配信する新しく革新的な方法が利用可能となるエキサイティングな時期です。ライブストリーム中にミッドロールを配置することには、放送局や配信業者に収益を創出するための新しい手段を提供します。動的広告挿入 (DAI) は、ストリーム内にミッドロールを配置するための技術です。ライブ広告の置き換え(DAI のユースケースの一例)では、広告ブレーク中に、従来のテレビ放送が提供している広告をデジタル広告に置き換えます。

AWS Media Services を活用することによって、放送局や配信業者は、「マニフェストの操作」を使ってライブ広告置換ソリューションを実装し、OTT ソリューション上でコンテンツと視聴者向けのパーソナライズされた広告を切り替えることで、DAI 機能の市場投入までの時間を短縮できます。

このブログ記事では、AWS Elemental Services 、特に AWS Elemental MediaTailor(チャネルアセンブリおよびパーソナライズされた広告挿入のサービス)を使用してサーバー側の広告挿入 (SSAI) による信頼性の高い DAI ソリューションを実装する方法について説明します。 このブログでは、AWS Elemental ServicesとAmazon CloudFront (コンテンツ配信ネットワーク (CDN) サービス)のアーキテクチャと構成について説明し、リニアテレビチャンネルを対象とした広告置換アーキテクチャを AWS 上で作成するための手順を説明します。

アーキテクチャ

AWS 上の DAI ソリューションのアーキテクチャと実装について詳しく説明する前に、ライブストリーム中に広告を配置する従来の方法について、事前に確認しておきましょう。動画配信プロバイダーの収益を創出する主な方法は次のとおりです。

  • プレロール (Pre-Roll) 広告 : 視聴者がライブフィードにアクセスする前に動画広告を表示します。
  • ミッドロール (Mid-Roll) 広告 :  動画広告は、ライブフィード内の任意の場所に表示することができ、通常は特定のマーカーによってコンテンツ内に配置されます。広告収益の機会の大半はミッドロール広告によるものです。
  • ポストロール (Post-Roll) 広告 :  ライブフィードの最後に動画広告を表示します。

クライアント側の広告挿入 (CSAI) と比べて SSAI の利点は、広告前または広告間でバッファリングすることなく番組コンテンツに一致させるために、広告アセットのトランスコーディングを管理することで、シームレスでテレビのような再生体験を提供し、視聴体験を向上させることです。SSAI はコンテンツ内に広告をシームレスにステッチングします。広告を個々の視聴者に合わせて提供できるため、広告ブレークごとに収益化の機会を最大化し、広告ブロックを軽減できます。SSAI のもう一つの利点は、プレイヤーレベルの開発を簡素化することです。ビジネスロジックをサーバー側に押しやることで、コネクテッドテレビ、タブレット、スマートフォン、セットトップボックスなど、インターネットに接続された幅広いデバイスで、均質な体験を提供することが可能になります。

クライアント側の広告挿入では広告の品質がプライマリコンテンツよりも劣る傾向がありエンドユーザー体験が低下する一方、SSAI では広告動画の解像度とビットレートをライブコンテンツと一致させることができます。パーソナライズされた広告を提供することで、広告代理店やマーケティングチームは、ターゲットパラメータ外のオーディエンスに対する無駄な広告を減らし、カスタマージャーニーをサポートする意味のある広告を提供することで、セグメント化された市場により的確にアドレスし、より多くの収益を創出できます。

次の図は、ライブリニアフィードの広告をデジタル広告に切り替えるために、ライブ広告置換システムが行う内容をまとめたものです。

: OTT 配信では、広告ブレーク全体を同じ長さのデジタル広告に置き換えることは困難です。ビデオスレートの目的は、デジタル広告ブレークの終了時間までビデオを埋めることです。

従来の放送のセットアップでは、広告マーカーは特定のフレームに挿入され、広告ブレークの開始のタイミングとその長さを示します(これは通常、プレイアウトレベルで行われます)。広告ブレークの長さは、放送局やイベントによって異なります。AWS Elemental MediaTailor には、広告ブレークの長さに関する制限はありません。広告ブレーク中は、複数の広告ポッドまたは広告クリエイティブを表示できます。

DAI を使用すると、広告ブレークを全体的に置き換えることも、1つの特定の広告ポッドのみを置き換えることも可能です。広告ブレーク時に使用されるマーカーは、通常、SCTE (Society of Cable Telecommunications Engineers : ケーブル通信技術者協会) マーカーです(非圧縮ビデオフィードの場合は SCTE-104、圧縮フィードの場合は SCTE-35 )。AWS Elemental では、SCTE  マーカーを幅広く柔軟に扱うことができます。AWS Elemental MediaLive(ブロードキャストグレードのライブ動画処理サービス)がSCTEメッセージを処理する方法の詳細については、こちらを参照してください。

次の図は、AWS で信頼性の高いライブ DAI を構築するためのアーキテクチャを示しています。

MediaTailor は、AWS 以外の他のオリジンおよびコンテンツ配信ネットワークソリューションもサポートしていますが、ここでは AWS サービスでの構成を示しています。

  • 取り込み:ソースとしては、SCTE マーカーを使用する任意のライブフィードが取り込み可能です。ここでは、AWS Elemental MediaConnect (ライブビデオの高品質なトランスポートサービス)のライブソースを使用しています。ソースは、SCTE-35 マーカーを含む、オーディオ、ビデオ、字幕などの複数のコンポーネントから成る MPEG-2 トランスポートストリーム (TS) です。
  • ライブトランスコーディング:ここではライブトランスコーダとして MediaLive を使用して、複数のビデオレンディションを作成させます。SCTE マーカーは、ソースからパススルーにする、またはスケジュール機能を使用した API コールを介して MediaLive に直接送信することができます。
  • パッケージング : AWS Elemental MediaPackage(インターネット経由の配信に向けて動画を確実に準備・保護するサービス)を、MediaLive からのストリームをオンザフライで、HLS(HTTP ライブストリーミング)や MPEG-DASH ( Dynamic Adaptive Streaming over HTTP ) などのさまざまな形式に変換するためのパッケージャーとして使用します。
  • SSAI:マニフェストマニピュレータとして MediaTailor を使用して、広告決定サービス ( ADS ) から受信した広告をライブストリームにステッチングします。ADS は、直接販売広告用の任意の広告サーバーで、この広告サーバーの下流にあるプログラマティック販売広告のサプライサイドのソリューションが含まれています。
  • CDN:ライブコンテンツを配信するための CDN として Amazon CloudFront を使用しています。他の任意のサードパーティ CDN も使用できます。
  • プレーヤー: 「EXT-X-DISCONTINUITY」タグのある HLS をサポートするビデオプレーヤーを使用するか、マルチピリオドの MPEG-DASH をサポートするビデオプレーヤーを使用します。シングルピリオドの MPEG-DASH ストリームも MediaTailor のオリジンとしてサポートされます(詳細はこちら)。

以下は、広告置換がどのように見えるかを、横並びのビデオプレーヤーで示しています。

デプロイの手順

このセクションでは、AWS 上でライブ広告置換ソリューションを実装するために必要な手順について説明します。

前提条件

まとめ

このブログ記事では、AWS Elemental のサービスと Amazon CloudFront を使用したライブ DAI ワークフローの実装について説明しました。DAI ワークフローを構成するための簡単な手順を紹介しましたが、広告をよりパーソナライズするために利用可能な方法・設定は他にも多くあり、それらによってさらに収益を増やすことが可能です。MediaLive と MediaPackage では、SCTE-35 のシグナルをより効果的に処理するための幅広い設定が用意されています。MediaTailor では、セッションやプレーヤーの情報を ADS に渡したり、クリックスルー機能や VPAID 機能を提供したりすることで、広告エクスペリエンスをよりパーソナライズするための多くのオプションが用意されています。MediaTailor の動的広告変数の詳細については、ドキュメントを参照してください。


参考リンク

AWS Media Services
AWS Media & Entertainment Blog (日本語)
AWS Media & Entertainment Blog (英語)

AWS のメディアチームの問い合わせ先: awsmedia@amazon.co.jp
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翻訳は  BD 山口、 SA 石井が担当しました。原文はこちらをご覧ください。