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ウェザーニューズ : “雨雲レーダー”に AWS の HPC クラスターを活用し、90% 以上の予測精度と「30 時間先まで 10 分間隔の予報」を実現

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AWS の活用により 30 時間先まで 10 分間隔での雨雲の予報を実現することができました。エンジニアが自由な発想で遊び、新しいサービスを作り出すことのできるプラットフォーム、それが AWS です

石橋 知博 氏
株式会社ウェザーニューズ
取締役 専務執行役員

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世界最大規模の民間気象会社として、気象予測の世界をリードする株式会社 ウェザーニューズ。 「30 時間先まで 10 分間隔の予報」という、これまでにない高解像な予報を“雨雲レーダー”で実現した同社が計算リソースとして活用しているのが、 AWS ParallelCluster です。 スケーラブルな HPC(High Performance Computing)環境を活用することによって大量の計算リソースを柔軟に調達し、負荷の変動にも柔軟に対応できる環境を構築。 90% 以上の高い予測精度を実現しています。

より先まで、より細かい気象予測を目指して

1986年に創立されたウェザーニューズは、世界約 50 か国にサービスを展開する世界最大規模の民間気象会社です。サービスの市場は航海気象や航空気象をはじめ鉄道気象、道路気象、流通気象など多岐にわたり、スマートフォン向けのお天気アプリ『ウェザーニュース』の提供でも知られています。
 
気象業界では一般的に、ベースとなる情報を政府関係機関から入手します。これに加えてウェザーニューズでは、創業期から観測や通信網、画像処理、配信などのインフラを自前で構築してきました。高精度な気象予測を行うために、独自の気象予測モデルを開発し、レーダーやユーザーから寄せられた天気報告を AI 技術を用いて解析することで、3 時間先までは 10 分間隔の予報を実現しました。そこから 15 時間先までは 1 時間間隔の予報でしたが、「1 時間間隔になると『急に雨雲がぼやけてわかりにくい』と指摘されることがありました。また近年はゲリラ豪雨のような天気の急変が増えているため、より長時間にわたって解像度の高い予報のニーズも高まっています。より先の時間まで細かく予測したいというのは、私たち“気象屋”にとっての夢でもありました」と、ウェザーニューズ 専務執行役員の石橋知博氏は語ります。そこで同社は、1 時間間隔から 10 分間隔に高解像度化し、さらに時間も伸ばして 30 時間先まで 10 分間隔で予報するサービスの実現に向けた取り組みをスタート。予測の頻度も従来の 6 時間から3 時間間隔に改善することを目指しました。

AWS で大量の追加計算リソースを柔軟に確保

大きな課題は、予測に必要な大量の計算リソースの調達でした。「従来どおりオンプレミスで追加しようとすると膨大な投資が必要で、サーバーの台数が増えれば故障発生の可能性、運用負担の増大も懸念されました」と予報センター 開発チーム リーダーの坂本晃平氏は振り返ります。さらに台風やゲリラ豪雨が発生しやすい 6~10 月は、他の季節よりも大きな計算リソースが必要です。オンプレミスではこのような負荷変動にも柔軟に対応することが困難でした。

そこで 2018 年に、AWS ParallelCluster を用いた次世代独自気象モデルの検討を開始。徹底的な検証を経て 2020 年 4 月に採用を決定します。

「実際のモデル計算を行うことで、AWS ParallelCluster のインスタンス台数とパフォーマンスの関係や、EFA(Elastic Fabric Adapter)の効果、インスタンスタイプによる処理速度の変化などを検証しました」と、予報センター 開発チームの高橋一成氏は語ります。高いパフォーマンスと同時に、限られた予算の中で安定稼働が求められるシステムでもあったため、可用性・コスト・パフォーマンスの要件を満たせる構成について議論を重ねたといいます。最終的には複数のリージョンや、料金が安価な Amazon EC2 のスポットインスタンスを活用する構成を選択しました。

予測精度 90% 以上と予測の高解像度化を実現、アラーム機能も充実

AWS ParallelCluster で計算リソースを追加したことにより、当初の目的だった「15 時間先まで 10 分間隔の予測」を達成し、2020 年 7 月にスマートフォンアプリ『ウェザーニュース』の有料会員向け機能として提供を開始。その後改良を加え、2022 年には 30 時間先までの予測を実現しました。時間だけではなく空間の解像度も、従来の 1~5km から 250m メッシュへと細かくなっています。この高解像化には新開発の AI 技術が活用され、その学習も AWS 上で行われています。

30 時間先まで 10 分間隔で予測できるようになったことで、より直感的でわかりやすくなった反響は大きく、有料機能を使うユーザー数も増加。「例えば、台風の回転の様子もはっきりと把握できます。過去の延長としてそのまま未来の天気が見えるのです。これは今まで誰も見たことのない情報であり、かなりのインパクトをもたらしています」(石橋氏)また、『雨雲アラーム』という通知機能により、ユーザー自身が現在地で最新の予報にタイムリーに気づくことで、天気の急変などにも柔軟に対応することができます。

さらに、予報精度も向上。すでに 2020 年と 2021 年は 90% 以上の予報精度(日毎の降水捕捉率)を実現しています。必要となる計算リソースをダイナミックに調達できるため、予測モデル改善のスピードも向上しています。

自由な発想で生まれる新たなイノベーションに期待

AWS のもたらすメリットは、「より遠く、より細かく予測する」気象予報だけではないと石橋氏は語ります。

「経営的な観点から言えば、社内の気象屋やエンジニアに自由な発想で『遊んでもらう』ことで、これまでできなかった予報が可能になるという期待があります。未来を切り拓く先進的な発想は、遊びの中から生まれるからです。そのために膨大な投資が必要であれば、その一歩をなかなか踏み出すことができません。しかし AWS なら小さなリスクで取り組むことができ、うまくいかない場合のサンクコストも最小限にとどめることができます」さらに AWS を使うことで、社外との協業や新しい技術の取り込みも容易になるといいます。新たなチャレンジの中から生まれるイノベーションに期待が高まります。

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