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日本テレビ放送網株式会社 AWS を活用した番組制作ワークフロー刷新システム「Alligator」の運用を開始
番組制作ワークフローの課題
日々、人々が TV やモバイル端末で視聴する映像番組は放送局、ポストプロダクション、スタジオなどで作られております。そして毎日・毎時間、新しい映像番組を放送するためには番組制作の領域において数多くの人々が働かれております。番組制作の作業工程(ワークフロー)では「1つの放送番組あたり数百 GB ~数 TB のデータ量を持つ収録素材の運搬作業」、「収録素材を映像編集作業に適したデータフォーマットへ変換する作業(デジタイズ)」などがあります。これらの作業は時間を要する事に加え、データ紛失や人と人との接触による感染症のリスク、クリエイティビティ性が出し辛い作業のため番組制作ワークフローにおける課題となっておりました。
日本テレビが取り組んだ事
日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)は上記課題への取り組みの1つとしてクラウドを用いた番組制作ワークフロー刷新システム「Alligator(アリゲーター)」を構築しました。
Alligator はこれまでメディアの運搬が欠かせなかった番組制作業務を、TV 局の制作フロア、各番組スタッフルーム、制作会社、ポストプロダクションなど様々な場所を高速ネットワークでつなぎ、効率化します。
各場所へは東日本電信電話株式会社(以下、NTT 東日本)が提供する高速広帯域回線「フレッツ・キャスト」が接続されます。フレッツ・キャストはインターネット回線と比較し、高速で安定的な通信が行えます。そのため、フレッツ・キャストを使った素材送受では伝送時間の短縮に加え、「伝送時間の見込みがつく」事がメリットの1つとして挙げられます。番組制作ワークフローにおいて、伝送時間の見込みがつく事は映像編集者の配置やスケジュールが組みやすくなり、無駄な待ち時間の発生を防ぎます。フレッツ・キャストは AWS Direct Connect に対応したデータセンターに接続されており、各作業場所からはフレッツ光 クロスやフレッツ光 ネクストなどの光回線を通じてインターネットを経由せずAWSクラウドへとアクセスでき、高速な大容量の素材転送を実現します。
AWS クラウド上には日本電気株式会社(以下、NEC )が持つ「Media-Serpla MAMベーシック」をベースとした Contents Management System(以下、CMS )が構築されております。CMS へは WEB ブラウザでアクセス可能であり、素材のアップロード、デジタイズ、共有、検索、プレビュー、ダウンロード等の機能を有し、番組制作ワークフローの中の多くの作業をクラウド上で行えます。また、各番組、各制作チームの運用に応じた柔軟な権限設定機能を備えます。
CMS のバックグラウンドではファイルベースの動画変換サービスである AWS Elemental MediaConvert(以下、MediaConvert )がデジタイズ処理を行っています。収録後の数百といったファイルが同時にアップロードされても、MediaConvertは並列稼働し、複数のファイル(ハイレゾ/低レゾ編集用素材、プレビューファイル)を一度に生成できます。また、アーカイブシステムに保存されているコンテンツを再利用する際は、オンライン申請後、即時連携により Amazon S3 に保存されている低レゾをダウンロードすることが可能です。番組制作ワークフローにおいてデジタイズや素材貸出に時間が掛かる事は制作時間の増大に直結しますが、MediaConvert や Amazon S3 といった伸縮自在のクラウドリソースを活用する事で制作時間の短縮を図っています。
機能実装に関しては Alligator を利用する制作陣の声を技術チームが聞き、利用者目線で必要な機能を実装しています。実装サイクルとして、番組制作陣に使ってもらう→要望が挙がった機能を実装する→利用番組数が増える→更に要望が挙がる…を繰り返す事で常に改善と進化を続けるシステムになっております。
Alligator 概要構成図
日本テレビ技術統括局の小池氏は次のように述べています。
Alligator の基本コンセプトは「制作者ファースト」であり、弊社の中期経営計画で掲げた「すべての人の働きやすさの実現」を具現化したものです。番組制作現場における業務効率化は時代の趨勢に合わせて要請されてきたものの、抜本的な労務環境改善への取り組みには課題も多くありました。Alligator の導入は、包括的な番組制作ワークフローの可視化を実現する DX を制作現場に提供し、それにより生み出された時間の一部をクリエイティブに再配分することで、弊社のコンテンツ制作力をさらに高める役割を担っています。検証フェーズから携わってきた若手制作スタッフによっては、ディレクターに昇格し、本ツールの利用を前提とした番組づくりを推進する“ Alligator 世代”とも呼べる人材も育成されてきています。今後も Alligator を利用する番組数を順次拡大し、他システムとの連携や新機能の実装を行ってまいります。
終わりに
テレビで視聴される番組は日夜数多くの番組制作スタッフによって作られております。番組制作フローは収録、運搬、デジタイズ、編集という制作工程を踏み、長年大きな変化はありませんでした。また、昨今は COVID-19 の猛威や働き方改革などにより場所に捉われない働き方が検討・模索されてきました。Alligator は番組制作フローにクラウドを取り入れ、素材運搬やデジタイズといった業務から制作スタッフを解放しました。制作スタッフは有限な時間をよりクリエイティブな番組制作業務に集中させる事ができ、場所に捉われない働き方が実現しております。
番組制作ワークフローにクラウドを適用する事で人が行わずクラウド側で代替できる作業や削減できる制作工程は多々あります。それらの対象となる作業はこれまでのワークフローの中に組み込まれ、そもそもが課題意識として認識されなかった項目や現在進行形で課題になっている項目もあるかと存じます。AWSではそれらの課題を解決するためのご相談や類似事例の共有を行っております。また、放送・映像制作において利用できる AWS メディアサービスを軸に放送業界に強いパートナー様、革新的なソリューションを持つパートナー様による協力を通し、メディア業界のお客様をご支援しております。
クラウドでの番組制作ワークフローにご興味のある読者の方は、下記の参考リンクよりお問い合わせ下さい。本記事が映像制作業務、関連業務を行われているお客様、映像編集者様の働き方改革の一助となれば幸いです。
また、AWS のメディアチームでは、映像制作に関連する様々なソリューションのご紹介や、AWS 上での新たなメディア向けソリューションの立ち上げなどのご支援も可能ですので、そのようなご要望があれば、下記の AWS のメディアチームの問い合わせ先からコンタクトをお願い致します。
参考リンク
日本テレビ放送網株式会社 プレスリリース
AWS Media & Entertainment Blog (日本語)
AWS Media & Entertainment Blog (英語)
AWS のメディアチームのへ問い合わせ先: awsmedia@amazon.co.jp
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この記事は SA 金目、SA 斎藤が担当しました。