概要

課題・ソリューション・導入効果
ビジネスの課題
従来の配信システムでは番組ごとの最適化が困難。新たな配信システムを模索
『ABEMA』は、AbemaTV がテレビのイノベーションを目指し“新しい未来のテレビ”として展開する動画配信事業です。ユーザーの会員登録は不要であり、国内唯一の 24 時間編成のニュース専門チャンネルをはじめ、オリジナルのドラマや恋愛番組、アニメ、スポーツなど、多彩なジャンルの約 20 チャンネルを 24 時間 365 日放送しています。2023 年 5 月と 7 月には WAU(Weekly Active User)の数が 2,000 万人を突破。また、テレビやパソコンの視聴者数割合は直近 1 年で前年比の 1.5 倍以上に増加しています。
『ABEMA』では、これまで他社製のクラウドプラットフォームを用いてリニア配信やペイ・パー・ビュー(以下、PPV)配信のためのシステムを構築していました。リニア配信とはチャンネル型の配信であり、「番組表の内容に沿って配信する」「ライブ配信と収録済みコンテンツが混在する」などの特徴があります。PPV 配信はイベント単位の配信であり、プレミアムプラン加入者またはチケット購入者に提供するコンテンツです。
他社製のクラウドプラットフォームで構築した従来のシステムは、録画と生配信を織り交ぜた番組編成が可能である代わりに、放送時間の延長・短縮に対応できないという問題がありました。また、パッケージングサーバーを自社で内製したため、配信規格の変更があると対応のコストが大きいことも問題でした。
CTO の西尾亮太氏は「これらの問題を解決できるような、ライブイベント配信用のシステムを新たに構築することを決めました。そこで、2017 年からソリューションの検討を始めました」と当時を振り返ります。
ソリューション
AWS Media Services を採用してマネージドなライブイベント配信システムを構築
各種のソリューションを比較した結果、『ABEMA』の開発組織では AWS Media Services を採用する方針としました。AWS Media Services 系列のサービスのうち、安全で信頼性の高いライブ動画伝送を行う AWS Elemental MediaConnect やあらゆるデバイスへのブロードキャストおよびストリーミング向けにライブ動画をエンコードする AWS Elemental MediaLive、動画コンテンツを用意・保護し、接続されたさまざまなデバイスに配信する AWS Elemental MediaPackage などを採用しています。
コンテンツ配信チーム エンジニアの久保亮介氏は「AWS Elemental MediaLive では標準クラスを選択するとサーバーが自動的に冗長構成になるため、システムの可用性向上に寄与してくれます」と、AWS Media Services の利点について話します。
コンテンツ配信チーム エンジニアの山中勇成氏も「AWS Media Services はクラウドネイティブな思想に基づいて作られているマネージドサービスであり、他社のソリューションと比較しても利便性が高い。AWS IAM を用いた権限の管理など、AWS の他のサービスを組み合わせて多様な機能を実現できることも優れています」と語ります。
ライブイベント配信用のシステムでは、インフラの構成管理のために AWS CloudFormation を採用し、運用にかかる工数を低減。さらに、動画配信の CDN( Contents Delivery Network)として Amazon CloudFront と他社製のソリューションを併用する方針を選びました。
ライブイベント配信用のシステム構築・運用を行うにあたり、AbemaTV の開発組織のメンバーは AWS のサポートメンバーと緊密に連携を図りました。それは AWS Media Services に関連した問い合わせだけにとどまりません。
世界的スポーツイベントの開催期間中には、AWS のテクニカルアカウントマネージャーや AWS Media Services のサービス開発チームのメンバーと、試合開催中にリアルタイムでコミュニケーションをしながらシステム監視を行いました。
導入効果
『ABEMA』開局史上最大のトラフィックを、サービスダウンなしに乗り切る
日本のみならず世界中で注目されるスポーツイベントであるため、『ABEMA』のシステムにも連日大量のトラフィックが集中しました。その規模は『ABEMA』開局史上最大だったといいます。
しかし、システム改善のための数々の施策の結果、サービスダウンは発生しませんでした。60 以上の試合が開催されたなか、発生した障害はわずか 1 件。しかも極めて小規模であり、ユーザーへの影響はほぼありませんでした。
また、AWS のマネージドサービスを中心にアーキテクチャを構築した利点を、システムの運用を行うなかで大いに感じているといいます。
「他社製のクラウドプラットフォームを用いて構築しているリニア配信や PPV 配信のシステムでは、配信規格の変更を行う場合には対応のための開発が求められるだけではなく、インフラ環境を構築する際にエンジニアの運用作業がそれなりに必要になります。一方で AWS を用いて構築したライブイベント配信システムでは、動画のビットレートなどの設定を変更することも容易ですし、インフラ構築にかかるコストも AWS CloudFormation によってほぼなくなりました」(久保氏)
サイバーエージェントグループの展開する事業のなかでも特に注力度の高い『ABEMA』では、今後もさらなるコンテンツの拡充やユーザー獲得施策の実施を予定しています。それに伴い、西尾氏は「より良い配信プラットフォームの構築を目指して、アーキテクチャをさらに進化させていきたい」と今後の展望を語ります。
「将来的にはリニア配信を含む、すべての配信システムの基盤を AWS で統一したいと考えています。ライブイベント配信システムで得たノウハウを、他のシステムにも適用していきたいです。また、コンテンツのパーソナライズと収益化のためのサービスである AWS Elemental MediaTailor の検証を進めているところです。動画にパーソナライズド広告を差し込むうえで、AWS Elemental MediaTailor は有力な選択肢になります。これからも AWS の各種サービスを積極的に取り入れ、『ABEMA』を進化させていきます」(西尾氏)

サービスの機能やアーキテクチャの改善策などをプロアクティブに提案してもらえる。AWS のサポートのホスピタリティと品質の高さを実感しました
西尾 亮太 氏
株式会社 AbemaTV CTOアーキテクチャ

株式会社 AbemaTV
取組みの成果
- 2,000 万人
Weekly Active User - 1.5 倍以上
テレビやパソコンの前年比の視聴者数割合 - セキュリティレベルの大幅な向上
- 一切のサービスダウンを発生せずに世界的スポーツイベントのライブ配信を実現
本事例のご担当者
西尾 亮太 氏

山中 勇成 氏

久保 亮介 氏
