お客様 1 人ひとりにパーソナライズされた情報を
リアルタイムに通知するストリーミングエンジンを活用し
多くの CX 向上施策を短サイクルで実施

2022

安全かつ高品質な空の旅に定評のある全日本空輸株式会社(ANA)。同社は、複数のシステムを仮想的に統合するお客様情報基盤(CX 基盤)に集約されたデータから、具体的な施策を実行する『ストリーミングエンジン』を 2020 年 3 月にアマゾン ウェブ サービス(AWS)上に構築しました。お客様の行動や運航イレギュラーなどをリアルタイムに検知し、お客様 1 人ひとりに合わせたアプローチを行うことで、お客様の体験価値のさらなる向上に取り組んでいます。

AWS 導入事例  | 全日本空輸株式会社
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オンプレミスなら半年から 1 年近くかかる施策を、AWS なら約 2 か月で実装することができます。CX 向上の施策が短いサイクルで実施できるのは、スケーラブルなストリーミングエンジンがあるおかげです

五葉谷 太一 氏
全日本空輸株式会社
デジタル変革室
イノベーション推進部

お客様情報と運航情報から適切なアクションを実行するストリーミングエンジンを開発

ANA はデジタルトランスフォーメーションを主要戦略の 1 つに位置付け、2019 年にはデジタル戦略の司令塔となるデジタル変革室を立ち上げました。同室がお客様体験価値の向上を目指してリリースしたのが『お客様情報基盤(CX 基盤)』です。

CX 基盤は、旅客系システム、運航系システム、顧客系システム、マイレージ会員管理システムなど、業務システムごとに分散しているお客様情報を、API を介して仮想データベースに統合し、“同じお客様のデータ”として活用しやすくしたものです。これにより、航空券の予約時から空港、機内などさまざまな接点でタイムリーな情報共有が可能となり、お客様に合ったコミュニケーションが展開できるようになりました。

さらに、お客様の行動をトリガーに、リアルタイムでパーソナライズされた施策を実行するため、『ストリーミングエンジン』の開発に着手しました。ANA システムズ株式会社 CX マネジメント部の西川和彦氏は、「ストリーミングエンジンは、あらゆるタッチポイントで 1 人ひとりのニーズにお応えする One to One サービスを提供するための仕組みです。航空券の予約、チェックイン、保安検査場通過、搭乗といったお客様の行動情報や、航空機の運航状況、ゲート変更など運航に関する情報を検知すると、お客様の ANA アプリやメールにリアルタイム通知してアクションをサポートします」と語ります。

Amazon EKS を用いたマネージドコンテナ環境を構築

ANA は 2019 年 4 月からストリーミングエンジンの開発について本格的に検討を始め、同年 11 月から 2020 年 3 月の 5 か月間で構築しました。プラットフォームに AWS を採用し、マネージドサービスの Amazon Elastic Kubernetes Service(Amazon EKS)を用いてコンテナ環境を構築。AWS の採用理由について、ANA システムズ株式会社 CX マネジメント部の川村周平氏は次のように語ります。
「ストリーミングエンジンは、コンテナ上にストリーミングデータ処理を行う Spring Cloud Data Flow やワークフロー管理の Drupal など、複数の OSS を組み合わせて構築し、クラウドネイティブなアーキテクチャとしました。これらをスクラッチで開発するのは難易度が高く、時間もかかります。そこで、パッケージ型のマネージドサービスとして提供される Amazon EKS との組み合わせなら開発の難易度は下がり、期間の短縮にもつながると判断しました」

その他、クラウドサービスとしての利用実績が豊富で、ANA グループでも多くのシステム基盤に AWS が採用されていること、将来的にストリーミングエンジンを使った各種サービスとの連携が容易になること、開発者向けのドキュメントが豊富なことも評価したといいます。短期間のシステム構築は決して容易ではなかったものの、AWS の活用により、計画通りのスケジュールでリリースすることができました。
「プロジェクト中、AWS によるトラブルはなく、困った時も AWS の担当者に適宜サポートしていただきました。結果として、ストリーミングエンジンに求められる低レイテンシー・高スループットと、運航情報を提供するシステムに求められる安定性・安全性を両立するストリーミングエンジンを開発することができました」(川村氏)

さまざまな施策を通してお客様満足度向上と定時運航に貢献

2020 年 3 月のリリース後、ANA では約 2 年の間にストリーミングエンジンを活用した CX 向上の施策を 10 件近く実施しています。代表的な施策の 1 つが、手荷物の到着時間のリアルタイム通知です。デジタル変革室イノベーション推進部の五葉谷太一氏は次のように語ります。
「規模の大きな空港ではお預かりした荷物の返却に時間がかかることがあります。お客様は返却までに要する時間が分からないため、他の行動ができずストレスを感じてしまうといったお声を頂戴することがありました。お客様は、そういった経験から荷物のお預けを敬遠されることとなり、機内でのお荷物収納時に混雑が生じ、それが出発時間の遅延にもつながりかねません。そこで、到着便の荷物の返却時間をリアルタイムに通知することで待ち時間のストレスを軽減し、次回以降も荷物を預けていただき、スムーズな移動につなげることを目指しています。この施策はお客様満足度に加え、定時運航にも貢献できています」

その他、搭乗便の出発 24 時間前にオンラインでのチェックインが可能になったことを ANA アプリに通知してチェックインを促し、出発当日の空港カウンターでの手続きを減らす施策や、搭乗時間の 45 分前までに保安検査場を通過したお客様に対して搭乗口近くの売店(ANA FESTA)で使えるクーポンを送付し、早期の通過を促す実証実験(現在はすでに終了)なども実施しています。
「搭乗便 24 時間前のチェックインを通知する施策では、オンラインチェックイン率が実施前の 3 倍に増加しました。保安検査場を早期通過するお客様にクーポンを配信する施策でも、クーポンをご活用いただくことにより、お客様から喜んでいただけたと同時に、航空機の定時運航による貢献や売店の売り上げ増加にもつながりました」(五葉谷氏)

このように CX 向上の施策が短いサイクルで実施できるのは、AWS を活用したスケーラブルなストリーミングエンジンを活用し、プロダクトオーナーとエンジニアがチームを組むスクラム開発を実現しているからでもあります。
「オンプレミスなら半年から 1 年近くかかる施策の実装が、AWS なら 3 分の 1 以下の約 2 か月で可能なため、お客様の声をもとに施策のあるべき姿をアジャイルで作ることができます。開発の難易度も低く、スクラム開発に途中から参画したエンジニアも AWS のサービスを組み合わせるだけで開発ができるので、開発効率も向上しています。さらにシステムの監視、運用、保守も AWS のマネージドサービスに任せることで、スクラムチームは安心して新たな施策やサービスの企画に専念できるようになっています」(西川氏)

センサーなどの IoT データを活用し混雑解消に向けた施策を実施

CX の向上と定時運航の実現に向けた数々の施策で手応えを得てきた ANA は、今後も CX 基盤とストリーミングエンジンの活用の幅を拡大していく予定です。五葉谷氏は「センサーデータの活用なども視野に入れ、IoT デバイスとの連携も検討していきます。例えば、空港内において混雑が予想される場所にセンサーを設置して混雑状況をリアルタイムに検知できれば、さらに有効な施策を実施できる可能性があります」と語ります。

開発面では、現在 2 か月の実装期間をさらに短縮できるよう、AWS CodeBuild の API 化など、CI/CD によるリリースの自動化を進めていく計画で、ストリーミングエンジンは今後も進化を続けていきます。

五葉谷 太一 氏

西川 和彦 氏

川村 周平 氏


カスタマープロフィール:全日本空輸株式会社

  • 設立:2012 年 4 月(創業 1952 年 12 月)
  • 資本金:250 億円
  • 従業員数:13,689 名(2022 年 3 月 31 日現在)
  • 事業内容:定期航空運送事業、不定期航空運送事業、航空機使用事業、その他附帯事業

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • 施策実行基盤を約 2 か月間で構築可能に
  • CX の向上と定時運航の実施に貢献
  • マネージドサービスによる運用負荷の軽減
  • IoT を活用したサービスの拡充を検討

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