準備さえしっかりしていれば、基幹系システムの AWS への移行は、決してハードルの高いプロジェクトではありません。

 

長沼 正人 氏 株式会社バンダイナムコビジネスアーク 情報システム部 ITインフラ戦略セクション ITインフラ・システム管理チーム マネージャー

「世界で最も期待されるエンターテインメント企業グループ」を目指すバンダイナムコグループ。災害対策サイトを含め 3 つの主要データセンターを運用する同グループでは、VMware 上で稼働する ERP パッケージを含む基幹系アプリケーション、93 の仮想サーバーを AWS クラウドへ移行し、データセンターを集約。十分な災害対策の体制を維持しながら、そのコストを約 1/10 までに圧縮しました。


2005 年にバンダイとナムコの経営統合によって生まれたバンダイナムコグループは、独自の商品やサービスを通じた「夢・遊び・ 感動」の提供をミッションに掲げ、「世界で最も期待されるエンターテインメント企業グループ」を目指しています。

業界を代表する 2 社の統合は事業ポートフォリオの拡大だけではなく、IT 基盤も複雑化をもたらし、同グループでは災害対策サイトを含めて 3 つの主要データセンターを運用していました。そのため、データセンター運用の効率化や IT コストの削減は、継続的な改善課題となっていました。

また、ビジネス環境の変化によって柔軟な戦略立案が求められるようになり、これまではとは違った視点で業務データを分析したいというリクエストも増えてきました。こうした声にタイムリーに応えるためには、新たなシステムを迅速に提供できる柔軟な IT インフラ基盤が不可欠な状況でした。

 

そこでバンダイナムコグループでは、複数のデータセンター運用の見直しに加えて、基幹系システムを運用するデータセンター内の機器が保守期限を迎えることも踏まえ、これらの課題の解決策としてオンプレミス継続と比較した結果クラウドの活用を決定します。

クラウドサービスの具体的な選定においては、要件を洗い出し、メリット、デメリットを点数化。国産キャリア系サービスなどを含む、いくつかのクラウドを比較した結果、総合点が最も高かったのが アマゾン ウェブ サービス(AWS) でした。最終的な選定においては、コスト面だけでなく、必要なインフラを柔軟かつ迅速に提供できる AWS のアドバンテージが高く評価されたといいます。

「AWS であれば日々バックアップだけを別リージョンに転送し保管、必要時には、バックアップから自動でサーバーを復旧できます。この方法によってコストを最大限に抑制した災害対策が実現します。」と話すのは、バンダイナムコグループの ITを含む管理業務を担う株式会社バンダイナムコビジネスアークの情報システム部 ITインフラ戦略セクション ITインフラ・システム管理チーム マネージャーの長沼 正人 氏です。

同時に AWS への移行をサポートするパートナーも新たに選定しました。ここで選ばれたのが APN プレミアコンサルティングパートナーで、移行コンピテンシーを所有するアイレット株式会社です。AWS に関する豊富な知見と実績、さらに AWS への移行から監視保守運用までカバーする cloudpack のサービスがあったことが評価されました。

バンダイナムコグループでは、AWS 化で会計や物流、人事など基幹系システムを運用するデータセンターを集約することを当初の目的としていたため、移行を最優先し、既存構成はなるべく変えない方針としました。「ERP パッケージの AWS への移行は、すでに事例があるので難しいとは思いませんでした。それよりも他のスクラッチシステムの移行で不具合を出さないことが重要と考えていました。」と株式会社バンダイナムコビジネスアーク 情報システム部 ITインフラ戦略セクション ITインフラ・システム管理チーム チーフの三谷 繁春 氏は当時を振り返ります。

バンダイナムコグループでは、2016 年 10 月から移行プロジェクトを開始し、11 月には開発、検証環境を用意、災害対策構成の要件定義や設計と並行して各種テストを実施します。2017 年 2 月には AWS に本番用の環境を用意してアプリケーションの稼働テストを実施し、5 月までにはデータの移行検証も行いました「パッケージもスクラッチシステムも VM Import/Export でのイメージ移行をすれば、アプリケーションは AWS の上で問題なく動作することが確認できました。」(三谷氏)

日々の運用で改修がかかるプログラムやデータ、OS 設定など、当初は手動で移行する予定でしたが、人為的ミスを避けるためにも、自動で移行/チェックする仕組みを別途構築することを決断しました。移行先の環境はサーバーに Amazon EC2(以下EC2) を、ロードバランサーに Elastic Load Balancing を利用し、Amazon VPC と AWS Direct Connect で仮想プライベートクラウド空間を確保、AWS 環境の監視には Amazon CloudWatch を活用しています。災害対策の構成は、東京リージョンで EC2 の マシンイメージ を取得し、それをオレゴンリージョンの Amazon S3 にコピーしています。この仕組みの自動運用にはサーバーレスの AWS Lambda も活用しています。「準備さえしっかりしていれば、基幹系システムの AWS への移行は、決してハードルの高いプロジェクトではありません。」(長沼氏)

本番移行に際し、課題となったのがデータ移行に時間がかかることでした。これについてはアイレットからの提案を踏まえ、先に最低限分だけ移行し移行当日に差分を送ることで移行期間極小化を実現しました。VMware 上で稼働していた基幹系システムの 93 の仮想サーバーは、2017 年 8 月までに EC2 への移行を完了しました。AWS 化することによって災害対策サイトは不要となり、災害対策費用を約1/10にまで圧縮することができました。「インフラコストは全体で約 20% 削減できました。AWS の利用料金はデータセンターの賃借料とほぼ同等のため、これまでハードウェア購入と保守にかけていた費用がほぼすべて削減できたことになります。」(三谷氏)

今回の AWS の基盤構築では、AWS プロフェッショナルサービスも利用しています。ここでは発注側の立場でベンダーからの提案内容の妥当性などを検証しており、より確実で安価な移行につながりました。AWS への移行による効果はそれだけにとどまりません。インフラ提供の迅速化も実現しました。AWS のインフラ提供をメニュー化しグループ内に展開、担当者が必要なリソースを選んで申請し稟議が通るまでをルール化することによって、従来は開発環境の提供に 2 週間から 2 ヶ月ほどかかっていたものが、1 日程度に短縮されました。

 

バンダイナムコグループでは、今後 IT インフラのさらなる効率化を推進するために AWS 上でのサーバーレス化やマネージドサービスの積極活用を進め、よりクラウドネイティブな利用形態を検討しています。一例として、新たに開発するシステムのデータベースは、Amazon Aurora などのマネージドサービスを積極的に採用する方針です。さらに、情報システム部門の意識改革にも取り組んでいく考えです。「今回のプロジェクトは、インフラ基盤が単に VMware から AWS に変わっただけでなく、組織を見直すきっかけになるほどのインパクトがありました。情報システム部のメンバーはAWS を使うことで、市場価値の高い仕事をしているという意識、意欲も芽生えています。」(長沼氏)

バンダイナムコグループでは、AWS 化によってアプリケーションとインフラの垣根がなくなってくると考えており、新たなアプリケーション開発は基盤と共に内製化を進めることになると考えています。その際には情報システム部の基盤メンバーが率先して新しい技術を活用する提案ができるように、継続してスキルアップを推進し、情報システム部一丸となりビジネスをサポートしていく考えです。  

長沼 正人 氏

三谷 繁春 氏

 

APN コンサルティングパートナー
アイレット株式会社

AWS のパートナーの中で最上位の『プレミアコンサルティングパートナー』に 2013 年から認定されているほか、システム環境の AWS 移行に関して計画から実施に至るまで優れた実績・専門的なスキルを持っていることを AWS が認定する『移行コンピテンシー』を有しています。


AWS クラウドがエンタープライズ企業でどのように役立つかに関する詳細は、AWS によるエンタープライズクラウドコンピューティングの詳細ページをご参照ください。