1986 年に豊田の小さなレンタルビデオショップとして創業したゲオは、現在、全国に 1,000 を超える直営店を抱え、メディア事業だけでなく、リユース事業やオンライン事業、アミューズメント事業などを展開するゲオグループへと成長を遂げました。創業時に掲げた "CHANGE as CHANCE" にある通り、変化こそが成功への原動力と捉え、「ポケットマネーで楽しめるレジャー」を事業の中心に据えながら、社会の変化とともにゲオグループもつねに変化を続けています。

当社は創業当時から「商売には IT がつきもの、だからこそ良い製品/サービスを積極的に使っていこう」という意識が経営層にあり、IT に対する理解も深くあります。 また、事業のコアとなる IT システムについては、創業時から内製で構築することにより、スピード感や競争力を保ってきました。

小売業の世界では何事もスピードが非常に重要です。IT においてもそれは同様であり、当社はこれまでパフォーマンスが高いと評価される製品を積極的に導入してきました。2008 年に発表された Oracle Exadata をいち早く導入したのもそうした IT 施策の一環です。まだ世界的に見ても Exadata 採用企業が少なかったころでしたが、店舗の売上データを集計する基幹業務用と分析/ディザスタリカバリ用に 2 台導入し、業務の大幅なスピードアップを図りました。

ですが、事業規模が拡大し、店舗数が増えていくにつれ、日々扱わなければならないデータ量も比例して増えていくようになりました。1,600 以上の店舗から上がってくる伝票の数は 1 ヶ月あたりおよそ 1 億 2,000 万件で、過去データも含めるとデータ量は 20 テラバイトを超えます。こうした背景がある中で、基幹業務と分析を一緒に回すとオンプレミスでは、パフォーマンスが低下するケースがしばしば見られるようになりました。スピードを第一に考える当社にとって、これは考えなければならない事態でした。

また、処理速度を上げるためにメモリを増やす際も、何か不具合が起こりパッチを当てようとする際も相当のコストがかかります。Exadata は非常にパワフルなツールなのですが、オンプレミスのインフラがもたらすコスト面、スピード面での問題が多く顕在化するようになったことから、2014 年 6 月ごろからクラウドへの移行を真剣に検討するようになりました。

「さまざまな試みを容易に実現可能にしてくれる AWS クラウドは、当社のこれからの事業戦略においてますます重要な存在になるはずです。」

ゲオホールディングス 業務システム部
- 情報システム課 マネージャー 神野 旬 様(中)
- 情報システム課 竹内 誠 様(右)
- システム管理課 マネージャー 世古 雄紀 様(左)

複数のサービスを比較/検討した結果、2015 年 4 月に Amazon Redshift をはじめとするいくつかの AWS サービスの導入を決定しました。AWS を選んだ理由は、展開するサービスの多さ、技術的優位性、拡張性の高さなどが他社に比べてすぐれていると判断したからです。クラウド上のデータウェアハウジングシステムである Amazon Redshift も、小売を含む世界中の多くの企業ですでに十分な導入実績があることがわかっていましたし、セキュリティについても十分に納得の行く説明を受けることができました。

ただ、移行期間が 4 ヶ月半と非常に短い点が問題でした。小売業界の IT 部門である以上、「店舗への影響は最小限に抑える」は大前提です。システムが止まったり、処理が重くなったりすることで店舗に迷惑をかけることは絶対に避けなければなりません。そのため、ローンチのスケジュールをシルバーウィーク終了後の 9 月の終わりに設定しました。

そこで導入プロジェクト開始当初の 5 月は「AWS 上で Oracle をどう動かすか」について、要件を洗い出すことからスタートしました。AWS クラウド上に Oracle ライセンスをもっていくという方針で、まずは検証用として、Amazon EC2 上に大きな Oracle DB システムを構築しました。これは店舗の売上データを集約する基幹系の統合データベースで、それまで Exadata のパワーに頼って回していた部分を Oracle Database に合わせてチューニングしていく作業を行っていきました。Exadata 上のデータを Oracle Database 上にエクスポートしながら、負荷はどの程度までかけられるか、アプリケーション側に必要な要件は何か、Amazon EC2 のインスタンスサイズはどのタイプが適切か、といったことを何度も何度も試しながら決めていきました。

このようにテストや検証を簡単に行える、ダメな場合はすぐに変更ができるという点は AWS クラウドならではの大きなメリットだと思います。

Oracle Database で集約した店舗データを Amazon Redshift に渡したあとは、Amazon Redshift 上でバッチ処理や分析を行い、その分析データに対して Amazon EC2 上の Microsoft SQL Server、SAP Predictive Analytics からクエリを投げる構成にしました。最初はデータのインポートに時間がかかっていたのですが、分析アプリケーションを Amazon EC2 上で稼働させることで、参照による負荷を抑えることが可能になりました。それでも重い場合は SQL 側でチューニングしています。

前述したように、最初にサイジングをする必要がなく、何度もテストを繰り返すことができたため、開発期間は予定通り 4 ヶ月半で済みました。今回の移行に合わせて、アプリケーションサーバーのバージョン変更を行う点で若干苦労しましたが、それ以外は移行を段階的に進めることができたため、かなりスムースに運んだプロジェクトでした。クラウドでなければこの期間での移行は実現できなかったと思っています。

プロジェクトが順調だった理由をもうひとつ挙げると、ちょうど 4 月に IT 部門の組織を変更し、インフラ技術者とアプリケーション開発者が一緒のチームで働く DevOps 的な体制を取ったことです。これは本当に偶然だったのですが、AWS はアプリケーションエンジニアがインフラ領域を触りやすい環境になっているので、「コードを書きながらインフラを構築する」というアプローチを取ることができたのは非常に良いタイミングでした。そしてこの組織変更が良い方向に作用したのは、やはり「必要なものは内製する」という当社の文化があったからだと思っています。DevOps や内製重視といったアプローチの重要性は、今後クラウドが普及するにつれて、より高まるのではないでしょうか。

分析用に導入した Amazon Redshift については、「性能にマッチする用途で、本当にぴったり合うシステム」という印象です。たとえばこれまで 7、8 時間かかっていた集計/分析処理などを数分単位で終わらせてくれます。"待ち" の処理に時間がかかっていたところを一気に短縮するという感じでしょうか。

この集計 / 分析システムはこれからもさらに変更を加えていく予定です。ハードウェアの調達を必要とせずに、いろいろな新しいサービス試せることが多いのはやはり AWS クラウドならではのメリットだと思います。今後は Amazon API Gateway の採用を決めていますが、Amazon Kinesis や Amazon DynamoDB といったリアルタイムなストリーミング処理系のテスト利用も検討しています。

当社は今後、ビジネスの幅をさらに拡げていく予定です。変化の多い社会をスピーディに渡っていくために、我々もまた変化をおそれずに挑戦していきたいという当社の方針は IT に関しても同様です。

さまざまな試みを容易に実現可能にしてくれる AWS クラウドは、当社のこれからの事業戦略においてますます重要な存在になるはずです。

 

- ゲオホールディングス 業務システム部
情報システム課 マネージャー 神野 旬 様
情報システム部 竹内 誠 様
システム管理課 マネージャー 世古 雄紀 様