CASE 時代におけるコネクテッドカーの増加に対応する
次世代 OTA(無線による更新)サービス提供に向けたアーキテクチャ刷新にて
AWS のサーバーレスアーキテクチャを活用
1,000 万台超の自動車がつながる世界の実現へ

2020

変革期にある自動車産業を読むうえでキーワードとなっている「CASE」。その 1 つである、ネットワークにつながるコネクテッドカーの普及が進んでいます。株式会社日立製作所の産業・流通ビジネスユニットでは、コネクテッドカーに搭載するソフトウェアを無線で更新する OTA(Over the Air)サービスプラットフォームをアマゾン ウェブ サービス(AWS)で構築。1,000 万台超の自動車からの接続に対応できるサービスの実現を目指し、サーバーレスアーキテクチャを採用したプロトタイプ開発を実施しました。プロトタイプ開発の結果から、EC2 インスタンスベースと比較して 50% 程度のコストを削減し、運用負荷も大幅に軽減できるという試算も得ました。

AWS 導入事例  | ニフティ株式会社
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『自動車ソフトウェアを無線で更新する OTA サービスにサーバーレスアーキテクチャを採用し、コストを増やさず 1,000 万台超の接続を可能にする見通しを得ました。初めてのサーバーレスアプリケーションの開発でしたが、AWS の支援のおかげで 1 カ月で環境を構築し、開発期間も想定より短縮できました』

齊藤 博 氏
株式会社 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット
エンタープライズソリューション事業部
モビリティ&マニュファクチャリング本部
グローバルオートモーティブシステム第三部
担当部長

コネクテッドカーの普及に不可欠な無線による更新システムを開発

1910 年の創業以来、“優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する”を理念に、社会の課題解決に取り組む日立製作所(以下、日立)。産業・流通ビジネスユニットエンタープライズソリューション事業部モビリティ&マニュファクチャリング本部では、IoT 技術と自動車システム技術を融合したコネクテッドカーを支えるプラットフォームの開発を進めています。その実現において、中核技術の 1 つが無線で自動車のソフトウェアを更新する OTA です。

近年の自動車はハードウェア制御からソフトウェア制御に移行し、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)に搭載されるソフトウェアの重要性が高まっています。ECU のソフトウェアは、機能強化やセキュリティアップデートを続けているものの、これまではユーザー(車の所有者など)がディーラーに自動車を持ち込む必要がありました。

無線で更新ソフトウェアを配信する OTA を使えば、持ち込む手間や時間を省くことができ、最新かつ安全な環境が維持されます。「コネクテッドカーの比率は今後ますます増え、2025 年には市場の車の半数以上が、2035 年には大部分がコネクテッドカーになっていくと予想しています。自動運転技術が進展していくと、ECU のソフトウェアはますます複雑化が進み、更新頻度も高くなります。そこで遠隔から更新・保守を実行する OTA によるソフトウェア更新サービスを自社開発し、SaaS として自動車メーカーに提供することにしました」と語るのは、モビリティ&マニュファクチャリング本部 グローバルオートモーティブシステム第三部 担当部長の齊藤博氏です。

コスト改善や付加価値の提供に向けサーバーレスへの移行を決断

OTA サービスの開発において、日立は当初から拡張性の高いクラウド基盤を用いることを前提とし、2016 年度に始めた PoC の環境構築から AWS を採用しました。選定の理由をモビリティ&マニュファクチャリング本部 グローバルオートモーティブシステム第三部 技師の泉奈央美氏は次のように語ります。

「グローバルな市場を持つ自動車メーカーにサービスを提供する際、地域ごとにシステム構築が必要となる可能性があり、グローバルに対応したクラウドサービスが必須でした。このことをふまえて検討した結果、コスト、拡張性、サービスの点で最も先進性が高かったのが AWS でした。セキュリティ面でも自社で対応するより、さまざまな規格に準拠している AWS に任せるのが安心かつ確実と判断しました」

PoC 基盤は、Amazon EC2 と AmazonRDS、Amazon DynamoDB で構築。検証結果をふまえて 2017 年からサービス基盤の開発を進め、2018 年に日立が IoT 戦略の中核に据えるデジタルイノベーションプラットフォーム『Lumada(ルマーダ)』の 1 サービスとして OTA サービスの提供を開始しました。

OTA サービスは順調に滑り出したものの、今後より多くのメーカーに利用してもらうためには、さらなるコスト改善や付加価値の提供が求められます。そこで日立はサーバーレスアーキテクチャへの移行を検討し、それまでの稼働実績を考慮して、ここでも AWS の採用を決めました。

「将来的には 1,000 万台超の自動車の接続を目標としており、既存基盤の拡張ではサーバーコストも運用コストも膨大になります。また、コネクテッドカーでは自動車からの接続が、通勤ラッシュ時の朝方の時間帯に集中する傾向にあり、一方で深夜帯はほとんど接続がないなど、オンとオフのピーク差も大きくなります。そこでスケーリングと効率性を鑑み、AWS のサーバーレスアーキテクチャを選択しました」(齊藤氏)

Prototyping Program を利用しサーバーレス化の課題を解決

次世代の OTA サービス基盤の構築プロジェクトは、2019 年 4 月よりスタート。まずは PoC の環境を構築し、必要な性能が得られるか検証しました。PoC の開発メンバーは、インフラ、アプリ、設計担当などを合わせて 7 名。実際にサーバーレスアーキテクチャでサービスを構築可能であるか素早く検証する必要がありました。そこで AWS の支援プログラムである Prototyping Program を利用し、メンバー全員と AWS ソリューションアーキテクト数名が 4 日間にわたりプロトタイプを設計・開発しました。プロトタイプにはサーバーレスアーキテクチャ専用フレームワークの AWS Chalice を活用し、その後 1 カ月間で環境構築を終えています。

「Prototyping Program には多くの AWSソリューションアーキテクトに参加いただき、さまざまな視点から示唆をいただきました。要件定義時に課題に挙がっていたクライアント認証に関しても、的確な解決方法を提示いただけました」(泉氏)

次世代の OTA サービスは、サーバーレスの AWS Lambda と Amazon DynamoDB を中心に構成。加えて、AWS IoT を使った X.509 証明書による認証と、Amazon API Gateway のセキュリティ機能を連携させ、認証要件に対応しています。

泉氏は「開発直後の検証では AWS Lambdaの性能面、特にレイテンシ増大に問題があったものの、2019 年 12 月に AWS Lambda が大型アップデートしたことにより、アーキテクチャを見直すことなく 1 秒あたり 1,000 リクエスト(rps)の目標値をクリアすることができました」と語ります。

サーバーコストについてはプロトタイプ開発フェーズでの試算結果として、インスタンスベースの既存構成と比較して 50% 程度の削減が可能という結果が得られています。合わせてサーバー管理が不要になることで、運用負荷の軽減も期待されています。

その他のコネクテッドカー向けシステムもサーバーレスアーキテクチャに移行

サーバーレスを採用した OTA サービスは現在、PoC の結果をもとに製品化を進めています。産業・流通ビジネスユニットのエンタープライズソリューション事業部 モビリティ&マニュファクチャリング本部 グローバルオートモーティブシステム第三部では、今回の OTA サービスの他にもコネクテッドカーシステムを AWS のインスタンスベースの環境で運用しているものがあります。今回の経験を活かして既存システムの基盤をサーバーレスアーキテクチャに移行し、モダナイゼーションを進めていくことも検討しています。

「コネクテッドカーのシステム領域は、OTA、IoT、AI、ビッグデータなど多岐にわたります。ビジネスを拡大していくためにも AWS のサーバーレスアーキテクチャを積極的に採用し、開発生産性の向上やコスト軽減を図っていきます。AWS には引き続き、短サイクルでの新機能の提供や、ユーザーニーズに基づく新機能の提供を期待しています」(齊藤氏)

齊藤 博 氏

泉 奈央美 氏


カスタマープロフィール:株式会社 日立製作所

  • 設立年月日:1920 年 2 月 1 日
  • 資本金:4,587 億 9,000 万円(2019 年 3 月末現在)
  • 売上高:1 兆 9,272 億円(連結 9 兆 4,806 億円)(2019 年 3 月期)
  • 従業員数:3 万 3,490 名(連結 29 万 5,941 名)(2019 年 3 月末日現在)
  • 事業内容:情報・通信システム、社会・産業システム、電子装置・システム、建設機械、高機能材料、オートモティブシステム、生活・エコシステム、その他の 8 セグメントで事業を構成

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • Prototyping Program や AWS Chalice の活用によるサーバーレスアプリケーションの短期開発
  • コネクテッドカーからの同時アクセス数で 1 秒あたり 1,000 リクエスト(rps)をクリア
  • インフラコストはインスタンスベースの既存アーキテクチャと比較して 50% 程度低減する試算を得た
  • 運用負荷の軽減により、エンジニアはサービスの開発に集中が可能に

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Amazon DynamoDB は、規模に関係なく数ミリ秒台のパフォーマンスを実現する、key-value およびドキュメントデータベースです。完全マネージド型マルチリージョン、マルチマスターで耐久性があるデータベースで、セキュリティ、バックアップおよび復元と、インターネット規模のアプリケーション用のメモリ内キャッシュが組み込まれています。

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産業用、消費者用、商用ソリューションのための IoT サービス

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フルマネージド型サービスの Amazon API Gateway を利用すれば、開発者は規模にかかわらず簡単に API の作成、公開、保守、モニタリング、保護を行えます。API は、アプリケーションがバックエンドサービスからのデータ、ビジネスロジック、機能にアクセスするための「フロントドア」として機能します。

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