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高知県

クラウドを活用したデータ駆動型農業を推進

2022

高知県では、農業DX の実現に向けた活動の一環として、産学官連携で施設園芸の飛躍的発展を目指す「IoP(Internet of Plants)プロジェクト」に取り組んでいます。農家やJA(農業協同組合)など農業関係者間で環境データや集出荷データを共有し、データドリブンな農業を推進することで、生産性のさらなる向上を目指しています。

Kochi Prefecture Speaker
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「高知県が目指すデータ駆動型農業を支える基盤として、多様な機能を最適コストで利用できるクラウドサービスは、非常に有用です。その中でAWSのプレゼンスは、今後もIoPクラウドを進化させていく上で高まっていくと考えています。

松木尚志 氏
高知県 農業振興部
農業イノベーション推進課 IoP推進室 主幹

山が多く、農地が少ない高知県では農業の生産効率向上が課題

高知県が立ち上げたIoPプロジェクトは、施設園芸の生産効率(面積当たりの収量)を高めるための取り組みです。その背景には、“山が多く、農地が少ない”という県の課題がありました。その詳細について、高知県 農業振興部 農業イノベーション推進課 IoP推進室 主幹の松木尚志氏は、次のように説明します。

「農地が少ない高知県で農家の皆様が所得を上げるためには、面積当たりの収量を高めることが必要です。この課題に対して様々な工夫に取り組んできましたがこれまでの施設園芸では、ビニールハウス内やガラス室内の温度が主な制御対象で、その活用も個々の農家様の経験と勘を頼りにしたものでした。こうした状況を何とか改善できないかと考え、まず2014年から導入を推進してきたのが、環境制御技術です」(松木氏)。

屋外で稲などを栽培する露地栽培に対し、閉じたハウス内で作物を栽培する施設園芸では、様々な環境データに基づく栽培管理が可能です。

「環境制御技術では、温度だけでなく、環境測定装置により計測される湿度やCO2濃度、日射量などのデータを総合的に見ながら、ハウス内の作物の生育をコントロールすることが可能になります。環境制御技術の導入を開始して以降、県内各地で農家さん主体の勉強会が立ち上がり、県の職員も入ってデータ活用についての議論を進めてきました。しかし当時は装置を設置した農家さんしか収集したデータを見ることができず、スムーズなデータ共有まではできませんでした。そこで2018年度の内閣府の地方大学・地域産業創生交付金を利用して同年10月にスタートしたのが、産学官連携で施設園芸の生産性向上を目指すIoPプロジェクトです」(松木氏)。

大容量データの活用と将来的な利用範囲の拡大を見据えてAWSを採用

高知県では、ハウス内の温度/CO2濃度/湿度/日射量など取得した環境データが共有・活用されることなく個々の農家内に留まっている現状を打破するため、クラウドベースでデータ連携・共有するための基盤を構築することを決めました。それがIoPクラウドで、高知県では、仕様書の作成支援やプロジェクトの管理、技術支援などを仰ぐパートナー企業としてプロンプト・K株式会社を選定、2019年から2020年にかけて構築事業者の公募を行い、2020年8月に株式会社高知電子計算センター(KCC)を主管とする4社の企業共同体(KCC/株式会社高知システムズ/株式会社NTTドコモ 四国支社/ネポン株式会社)を選定しました。

こうして構築したIoPクラウドは、まず一部の農家に参加してもらい、2021年1月からプロトタイプとして実証的な利用を開始しました。現在県内で施設園芸に携わる農家は約6000戸で、そのうち環境データを共有している農家は約300戸、作物の集出荷データを共有している農家は約1500戸です。2022年9月から本格運用に移行し、IoPクラウドを大々的に活用していくフェーズに入る予定です。このIoPクラウドのシステム基盤として採用されたのがアマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)でした。

AWS採用の理由について、IoPクラウド開発管理者を務めるプロンプト・K株式会社 最高技術責任者の天辰健一氏は「AWSがIoPクラウドの要件を十分に満たすものだったからです」と強調します。

「IoPクラウドは最大で6000戸の農家様を繋ぐ仕組みで、さらに施設園芸では1つのハウス当たりの取得データ量が膨大です。このような大容量データを収容し、スムーズに利活用していくためには、複数の機能やサービスを組み合わせてシステムを構築するマイクロサービスアーキテクチャを利用することが大前提になると考えました。こうした条件を満たすクラウドサービスがAWSでした」(天辰氏)。

一方、企業共同体を主管するKCCの情報事業本部 ネットワークシステム部 UL技師の前田恭兵氏も、AWSを提案した理由について、展開しているサービスが非常に豊富な点を挙げます。「提案に際しては複数のクラウドサービスを比較検討しましたが、高知県様の募集要項には“今後IoPクラウドの利用範囲をさらに広げていきたい”という展望が記されていました。将来的には流通業者様とも連携したり、消費者の方とマッチングしたり、といった構想も見えていたのです。利用できるサービスの多いAWSは、そうしたビジョンにも非常にマッチすると考えました」(前田氏)。

IoPクラウドでは環境データや集出荷データだけでなく、気象業務支援センターが提供する気象データ、国の農業データ連係基盤WAGRIが提供するAPIから卸売市場の市況データなども取り込める形になっています。まさに高知県が目指すデータ駆動型農業を推進するための基盤だと言えます。今後はAI (人工知能)を活用して今まで人手で数えていたハウス内の作物の花や実の数をカメラで撮影して自動カウントすることで、収量予測や生産効率のさらなる向上を目指したい栽培管理農改善に生かしたい考えです。

「2023年を目標に、6000戸全ての施設園芸農家様にIoPクラウドを利用してもらいたいと考えています。またIoPクラウドをさらに進化させていくためには、IoPクラウドに繋がる環境測定装置の機種を増やしていく必要もあります。農機具メーカー様との協業体制も一層強化していきたいですね」(松木氏)。

データを管理・保存するソリューションとしてMQTTが利用できるAWS IoT Coreも導入

また今回高知県では、各農家から収集する環境データを管理・保存するためのソリューションとしてAWS
IoT Coreも導入しました。AWS IoT Coreの利用メリットについて、天辰氏はMQTT(制約のあるデバイス用に設計され、軽量で広く採用されているメッセージングプロトコル)を使えることを挙げます。

「IoPクラウドは、将来的には現場の機器と双方向でリアルタイムに通信することも想定しており、通信プロトコルとして、軽量で広く採用されているMQTTを使いたいと考えました。MQTTプロトコルでアクセス可能なGatewayを低コストで活用できるソリューションとしては、AWS IoT Core以外にはほぼありませんでした」(天辰氏)。

現在までの取り組みの効果として、高知県の出先機関である高知県中央西農業振興センターで普及指導員として活動する戸梶加奈子氏は、次のように説明します。

「今回のIoPクラウドをきっかけに、新たに環境測定装置を導入してクラウドに接続した農家様がたくさんいらっしゃいます。それによって他の農家様のハウス内の状態まで見えたり、あるいは集出荷データが見えたり、さらにはデータを私たち普及員とも共有することで、データに基づいた栽培支援をしてもらえる、という点を非常に有益だと考えていただいています」(戸梶氏)。

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(引用:高知大学 IoP協創センター IoPとは

システムを作り直すことを失敗ではなくトライと捉え、“とにかくやってみること”が重要

天辰氏は“とにかくやってみること”が重要だと強調します。

「AWSのようなクラウドを利用すれば、システムの構築コストは昔よりも下げることができます。まずは一旦終わりを決めて仕組みを構築し、作り直す前提で気軽に取り組まれるのがいいと思います。それを失敗と捉えるのではなくトライと捉え、とにかくやってみることが重要です」(天辰氏)。

「IoPプロジェクトは他県様からも非常に注目されており、現在までに15件ほどのお問い合わせや視察をいただいています。クラウドシステムの構築主体として、どのように構築を委託すればいいのかというノウハウの部分で、今回の取り組みが少しでも皆様のご参考になれば幸いです」(松木氏)。


カスタマープロフィール:高知県

  • 県政開始:明治4 年7 月14 日
  • 年間予算規模:4,820 億円(2022 年度当初)
  • 職員数:13,415 人(2022 年 4 月 1 日時点)
  • 産業:施設園芸農業、食品加工業、製造業等

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • 農業関係者間でデータを共有するためのIoPクラウドを構築
  • 複数農家のデータを比較分析することで生産効率の向上が可能に
  • データ共有により営農指導などを行う体制も強化
  • 画像データ×AIの活用で、今後の収量予測も視野に

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