協和発酵キリンは医療用医薬品の製造/販売をおこなう製薬企業です。グループ企業には、医薬品原料や各種アミノ酸などを製造/販売する協和発酵バイオがあり、グループ連結で年間売上高は 3,334 億円、従業員数は 7,424人です( 2014 年12月末時点)。

現在、海外での売上は全体の 20 % ほどですが、2020 年までにはこの比率を 40 % までに高めることを目指しています。そうした変化の中、IT 部門もまた、事業の変化に迅速に対応できる柔軟性を求められています。

AWS クラウドを最初に知ったのは 2011 年の春ごろです。たまたま手にした雑誌に東京リージョンの開設を伝える記事が載っていて、1 年間の無料利用枠も用意されていたこともあり、軽い気持ちで Linux サーバーを動かすところから始めました。

当時はまだエンタープライズ業界でのクラウド導入事例は数が少なく、とくにクラウドをインフラとして業務で活用するというケースは、国内ではあまり見かけなかったように思います。

クラウドを試しているうちに、東京リージョンでもいろいろなサービスが使えるようになっていきました。とくに大きかったのは 2011 年 8 月から利用可能になった仮想プライベートクラウドサービスの Amazon VPC です。AWS クラウドの中に専用のプライベート領域を持てるようになったことで、既存のデータセンターとまったく同じ運用スタイルでクラウドを利用できるようになりました。

この Amazon VPC の登場は「クラウドをインフラとして企業利用することは可能」と判断する大きなきっかけとなりました。また、Amazon VPC に続いてデータセンターと AWS を専用線接続する AWS Direct Connect や、自社 ID によるアクセスをクラウド上でも可能にする AWS IAM など VPN や関連サービスが 2011 年末には出揃ったこともあり、翌 2012 年の初頭から本格的にクラウドデータセンターの本番運用に向けて動き出しました。

当時はエンタープライズがインフラとして使えるレベルのクラウドを提供しているところは AWS だけだったため、AWS 以外のクラウド事業者については特に検討していませんでした。

本番運用に向けて、経営層を含む社内の了承を取る必要がありましたが、いちばん大きな説得力をもったのが国内 SIer 各社が作成した「金融機関向け AWS 対応セキュリティリファレンス」の存在でした。これは金融業界が AWS クラウドを採用してもセキュリティ的にはほぼ問題がないことを示したガイドラインでしたが、金融のように規制がきびしい業界においてもアウトソースできる環境なら、製造業界である自分たちのリソースを預ける場所として信頼できる、という意識を社内で共有することができました。

2012 年秋には SAP ERP の本番運用を前提に AWS への導入を進め、運用手順の整備を行いました。そして 2013 年初頭、完全な閉域網のクラウドデータセンターとして、既存の物理データセンターと併用しながらの運用を正式に開始しました。

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AWS はすぐに簡単にサーバーを立ててテストをすることができ、しかもその価格が安いのが魅力で、少額の範囲での検証は担当グループに任せており、ハードウェア調達も必要ありません。こんなに技術者を楽しくさせる環境は久しぶりでした。AWS がこれほど普及したのは技術者を熱狂させたという点が大きいのではないでしょうか。技術者主導でビジネスシステムが動くことを証明したのは AWS クラウドの大きな功績だと思います。

現在では、31 システム / 69 サーバーが AWS クラウド上で本番稼働しています。(2015 年 9 月現在)また、物理データセンター上のデータのうち、約 40 % が AWS クラウドに移行済みで、あと 2、3 年以内には移行可能なほぼすべてのデータ移行が完了する予定です。

また、新規でシステムを提案する場合、それぞれ 5 年使うことを前提にパブリッククラウドとオンプレミスのコスト比較を行っており、それでもオンプレミスを提案する場合は「クラウドではダメな理由」の提示を求めるようにしています。

こうしたクラウドファーストのスタイルに変わったのも、クラウド導入の効果、特にサーバー構築やテスト・検証作業・リソース変更などのスピードアップに加え、コスト削減効果が非常に大きいことが影響しています。たとえば 24 時間稼働のシステムならリザーブドインスタンスを適用するとコストを大幅に抑制することが可能です。ほかにも、似たようなシステムはサーバーを集約する、 週末に稼働の必要がないインスタンスは止める、平日でもバックアップが終わったら落とす、など、こまめに調整することでさらにコスト削減効果を高めることができます。クラウドだからこそ、細かいコスト管理はより重要になってきます。

既存システムのクラウド移行は、更新時期に合わせて順次行っています。当社にはクライアントサーバー時代から運用してきた中核システム「エンタープライズ HUB」とそれに連携している業務系システムがあるのですが、これも順次、 AWS クラウドへの移行を進めているところです。

エンタープライズ HUB は共通マスター(マスター HUB) と業務システムがトランザクションデータを格納するトランザクション DWH (TR-HUB) で構成されており、販売物流や営業支援といった業務システムをモジュールとして疎結合なかたちで接続しています。モジュールはパッケージでも SaaS でもスクラッチでもよく、その中のロジックでモデル変換も自動で行われます。モジュールなので業務システムの入れ替えも簡単です。

エンタープライズHUBを含む中核システムの AWS クラウドへの移行はほぼ完了していますが、当社のクラウド移行が比較的スムースに進んでいるのは、このアーキテクチャーがベースにあることが大きいと思います。

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「AWS がこれほど普及したのは技術者を熱狂させたという点が大きいのではないでしょうか。」

- 協和発酵キリン株式会社 情報システム部長 篠田 敏幸 様

業務システムのクラウド移行は順調に進んでいますが、今後は Amazon Redshift や Amazon Elastic MapReduce などビッグデータ関連サービスの導入も検討しており、Amazon Redshift に関してはすでにテスト利用を開始しています。

AWS が展開する各種マネージドサービスにも興味はありますが、AWS にはそれらのサービスの継続性をできる限り担保してほしいと思っています。エンタープライズは基本的にひとつのサービス/アプリケーションを最低 3 年から 5 年は使います。それだけの時間が経ってもそのサービスを継続して使えるという保証があれば、マネージドサービスの導入も視野に入ってくるでしょう。

今思うと、AWS が東京リージョンを開設し、エンタープライズに力を入れ始めた時期と、当社がクラウドを触り始めた時期が重なったことで、どちらも同じタイミングで成長できたのかもしれません。今後もフィードバックを介して、お互いに成長を促し合う関係を構築していければと思います。

 

- 協和発酵キリン株式会社 情報システム部長 篠田 敏幸 様