Oracle RAC から Amazon Aurora に載せ替えただけの作業で、10 分程度かかっていたものが 7 分程度になり、さらに SQL を調整したら 1 分を切るバッチ処理もありました。今は手間をかけずに原則はそのまま Amazon Aurora に移行しています。
AWS を利用することで、エンジニア全員がアーキテクトになれる可能性があると考えています。やる気さえあれば、AWS のサービスを組み合わせてすぐに新しい仕組みを作ることができ、システムの最適化などにも着手できるからです。
荒井 明 氏  藤本 忠 氏 マガシーク株式会社 システム開発部

2003 年に創業したマガシーク株式会社は、「自分のためのセレクトショップ」をコンセプトにした総合ファッション EC サイト『MAGASEEK(マガシーク)』を運営しています。マガシークではメンズからレディス、ドメスティックからインポートブランドに至る約 2,000 ブランドの商品を扱い、幅広い商材を独自のレコメンドシステムを活用し、使えば使うほど顧客の好みに合った商品を提案できることが特長となっています。

現在はコアビジネスのマガシークに加え、人気ブランドの旬の商品を 24 時間 365 日オフプライスで手に入れられる国内最大級のアウトレットファッション EC サイト「アウトレットピーク」も展開しています。さらに、2013 年に NTT ドコモグループに加わり、NTT ドコモが運営する『d マーケット』内のファッション通販サイト『d fashion』の運営を開始しました。また、アパレルメーカーの EC サイトの構築から運営までをサポートする『ECソリューション事業』も展開し、デリバリーまで含めたワンストップサービスの提供により顧客から高い評価を得ています。  

マガシークでは、数多くの商品を一括して取り扱い、売り場となるさまざまな EC サイトを顧客ニーズに合わせて増やしていく、といった戦略を柱としています。この戦略では EC サイトをタイムリーに構築する必要があるため、サイトの構築・運用を担っている IT 部門にも同様のスピードが求められています。近年、アパレル EC の市場競争は激しく、安価に購入できるアウトレットや古着などを扱う競合サイトも増えているため、競争力の高いサイトを迅速にかつコストをかけず構築することが求められています。

マガシークでは、これまでオンプレミスの IT インフラを活用していましたが、オンプレミス環境でも、企画の決定後 1、2 ヶ月程度の短期間で EC サイトを構築してきました。「しかしながら、さらに迅速なサイト構築、特に IT インフラ部分の構築スピードを速くすることで、EC のサイトのコンテンツ部分にもっと力を入れられるようにしたいという要望が出てきました。」と話すのは、システム開発部 マネージャー チーフプログラマー 兼アーキテクトの荒井 明氏です。

また、マガシークではインフラの老朽化の課題にも直面していました。オンプレミスで適宜インフラを入れ替えても、スピード向上の面では限界があります。また、利用しているソフトウェアやミドルウェアのサポート切れのタイミングも迫っており、これらをバージョンアップするには手間とコストがかかることが問題となっていました。さらに、「年に 2 回あるセールへの柔軟な対応も必要でした。セール時にはシステム負荷が大きく跳ね上がり、これをいかにして乗り切るか、という点についても IT 部門では大きな課題となっていました。」と話すのは、マガシーク株式会社 システム開発部 マネージャー チーフネットワークエンジニアの藤本 忠氏です。 

マガシークでは、2015 年秋頃からオンプレミスを使い続けるのか、別の環境に移行するのかの検討を開始しました。2017 年 3 月末には、Oracle Database を稼働させているサーバー OS のサポート期限を迎えることもあり、判断は急を要しました。

既にマガシークでは、セールの際にオンプレミスのインフラにクラウドを加えたハイブリッド構成で急激な負荷上昇に対処する取り組みを行っており、この時のクラウド利用のノウハウをもとに、まずはオンプレミスからクラウドへの移行方針が立てられました。

マガシークの IT インフラでは、データベースが重要なものとなっていたため、既存の Oracle Database の Oracle Real Application Clusters(RAC)で運用している環境をうまく移行できるかがクラウドサービス選択のポイントとなっていました。ちょうどこの頃、Amazon Aurora の東京リージョンでのサービスが開始され、Amazon Aurora を活用できることが AWS クラウドの採用の決め手となりました。 「マガシークのシステムでは、トランザクションよりも参照系の処理が多いのが特徴です。Oracle RAC では、これを最適化するのにチューニングやメンテナンスの工数もかなりかかっていました。移行に際して当初は Amazon RDS for MySQL も検討しましたが、Amazon Aurora の方がレプリカへの遅延が極めて短くいために参照処理のスケールアウトがしやすく、ノードごとのストレージを持っていないので管理も楽です。検証でも想定した性能が十分に確保できることが確認できたため、採用に至りました。」(荒井氏)  

マガシークでは、2016 年 3 月末から AWS クラウドへの移行プロジェクトを開始しました。まずはアプリケーションの移行から着手し、データベース移行では AWS Database Migration Service を利用しました。当初はこの移行作業のために 4 人程のエンジニアリソースが必要と想定されていましたが、AWS Database Migration Service を活用することで、2 人体制でデータベースの移行を完了することができました。結果的に複数ノード構成の Oracle RAC の環境は、1 クラスターの Amazon Aurora に移行され、オンプレミスの時代と同等以上の処理性能が得られています。さらに、ピーク時の性能を担保するために別途用意していた参照専用の Oracle Database も不要になりました。

「AWS Database Migration Service は簡単にデータベースを移行できるだけでなく、リハーサル環境をすぐに構築でき繰り返しテストを行うことができます。Oracle RAC から Amazon Aurora に載せ替えただけの作業で、10 分程度かかっていたものが 7 分程度になり、さらに SQL を調整したら 1 分を切るバッチ処理もありました。今は手間をかけずに原則はそのまま Amazon Aurora に移行しています。それだけでもさまざまな処理が速くなっており、さらに手をかければもっと速くできるだろう考えています。」(荒井氏)

Amazon Aurora への単純な移行でも 3 倍程度性能が上がっているバッチ処理もあります。オンプレミスの Oracle RAC の環境では、秒間に処理できるクライアントからのリクエスト数が 1,000 を超えることはありませんでしたが、Amazon Aurora では約 1,200 を記録しました。2017 年 7 月には、AWS 移行後初めての『夏のセール』が実施されましたが、この時の負荷上昇にも問題はありませんでした。「これまでは通常の数倍程度、ブランドによってはそれ以上の負荷が発生するセール期間は、IT 部門にとっても事前に十分な準備が必要な特別なイベントでしたが、今後は日常的に必要なことさえ行っておけば、特別な準備は不要になるだろうと考えています。」(藤本氏)

また運用面においても、従来の環境では現場作業に多くの時間を割かれていましたが、現在では、現場作業の多くは 1 人のメンバーに任せられるようになり、藤本氏自身も最新の技術情報の収集や学習等にも時間を充てられるようになっています。 「AWS を利用することで、エンジニア全員がアーキテクトになれる可能性があると考えています。やる気さえあれば、AWS のサービスを組み合わせてすぐに新しい仕組みを作ることができ、システムの最適化などにも着手できるからです。AWS であれば運用管理の手間も少ないので、そういったことに取り組む時間をエンジニアに与えることができるようになりました。」(藤本氏) 

マガシークでは、今回の移行をクラウド活用の 3 ステップのうちの最初と位置づけ、まずは既存環境を Amazon EC2 をはじめ Elastic Load Balancing や Amazon Aurora、Amazon S3、AWS Route 53、Amazon CloudWatch などを組み合わせた環境へ移行しました。次のステップでは、AWS クラウドの上で基盤や言語の統一など、IT 環境の標準化を 2018 年春を目途に進める予定です。そして、2018 年度から本格的に取り組む予定のステップ 3 では、AWS Lambda や Amazon Kinesis Streams といったマネージドサービスやサーバーレスの仕組みを活用した新基盤の構築と運用の自動化を目指しています。

また、マガシークでは今回の AWS 移行において AWS のエンタープライズサポートプランを活用しており、コストの最適化やサーバーレス活用計画の事前レビューなどを含め、今後のステップにも引き続き活用していく方針です。

「AWS への移行後、新しいアイディアやサービスを実現するための若手を中心としたワークショップが社内で開催されるようになりました。この新しい取り組みも AWS 導入の効果だと考えています。今後はこのワークショップから生まれたアイディアを AWS と共に実現していきたいと考えています。」(荒井氏) 

- マガシーク株式会社 システム開発部 マネージャー チーフプログラマー 兼アーキテクト 荒井 明 氏
- マガシーク株式会社 システム開発部 マネージャー チーフネットワークエンジニア 藤本 忠 氏

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