リアルな街でオン / オフラインを縦横無尽に行き来する顧客接点の新たなデザインに向けて
三菱地所グループ共通クラウド基盤を AWS 上に構築
2022
「まちづくりを通じた社会への貢献」を掲げ、丸の内に代表されるオフィスや商業施設・収益用不動産・住宅など開発や運営管理、さらには設計監理や不動産仲介、海外事業など多岐にわたる事業領域を持つ三菱地所株式会社。DX(デジタルトランスフォーメーション)によって生活者が暮らしやすさを実感できる新しいまちづくりを目指す同社は、コンテンツ開発と顧客接点の基盤にアマゾン ウェブ サービス(AWS)を採用しました。グループ共通基盤のクラウド化により、IT ガバナンスやセキュリティの強化を実現し、運用負荷の軽減が期待されています。
AWS は、守りの IT から攻めの IT に転じる基盤となり、三菱地所グループのDX 推進において欠かせない存在となっています
太田 清 氏
三菱地所株式会社
DX 推進部 部長
DX で新しい街づくりを目指す「三菱地所デジタルビジョン」
「人を、想う力。街を、想う力。」をブランドスローガンに、常にチャレンジを続ける三菱地所。同社は 2020 年 1 月、「長期経営計画 2030」を策定しました。国内アセット事業、海外アセット事業、ノンアセット事業の 3 つの領域のうち、国内アセット事業では、常盤橋・有楽町エリアを重点更新エリアに指定。「丸の内 Re デザイン」をテーマに、イノベーション・エコシステムの進化と、エコシステムを支えるデジタル基盤のアップデートに取り組んでいます。ノンアセット事業では、テクノロジー活用による業務の効率化と新たな事業展開、BtoC / BtoBtoC に着目した新たなサービス・コンテンツの提供を目指しています。
2021 年 6 月には「三菱地所デジタルビジョン」を策定しました。「三菱地所デジタルビジョンで目指すのは、オン / オフラインを自由に行き来する体験の提供を通じて、真に社会や個人の課題に寄り添うこと、事業横断的なデータなどの分析・活用によって顧客体験がアップデートされ続けること、街の関係者とオープンにつながるエコシステムを構築して協創を促進することの 3 つです」と語るのは、DX 推進部 部長の太田清氏です。
同社は東京・丸の内をはじめ、横浜・みなとみらい、仙台・泉パークタウンなどで、さまざまな関係者と連携しながら価値創造を図ってきました。丸の内エリアにおいては、運営商業施設来客人数年間 2 億(人)、就業者数 28 万(人)、また、マンション管理戸数約 35 万(戸)など、物理的な接点を豊富に保持しています。これらの顧客接点を活用して新たな価値を生み出すのが、三菱地所デジタルビジョンの戦略です。
「かつては物理的接点が顧客理解・顧客体験のすべてでしたが、新しい街づくりではリアルな街でオンラインとオフラインを縦横無尽に行き来できる顧客接点をデザインし、愛着を持ち続けてもらえるようにすることが重要です」(太田氏)
グループ共通基盤と顧客接点をデザインするためのプラットフォームを AWS 上に構築
三菱地所デジタルビジョンの実現に向けた環境整備の一環として、同社は 2020 年 5 月 にグループ共通で利用するクラウド基盤(以降、共通クラウド基盤)を構築し、10 月には共通認証 ID『Machi Pass(マチパス)』を開発しました。Machi Pass により、利用者は街で展開される複数のオンラインサービスをはじめ、来場予約や、リアルな空間への入退室などオン / オフラインの体験を 1 つの ID で利用できるようになりました。
共通クラウド基盤は AWS 上に構築されており、Web、共通認証 ID(Machi Pass)、ポイント、コンテンツ配信、データ連携を行うシステムなどがその上で稼働しています。また、顧客接点をデザインするためのプラットフォームも AWS を使って開発し、大丸有アプリ、みなとみらいアプリ、丸の内ポイントアプリ、丸の内エリアのオフィスワーカー向け Web サービス(update! MARUNOUCHI for workers)なども共通クラウド基盤上で稼働しています。
これらにより、街のリアルな体験をデジタルで包み込むローカルな顧客接点が実現し、エリアに対応した独自アプリ上で、多様な利用者に合わせた体験や、住まいや暮らしに関するさまざまなサービスをシームレスに提供できるようになります。これらの実現に向けて同社は個人起点での分析と最適化を図る統合分析基盤を構築し、より良い体験となって回り続ける「まちの UX Loop」の実現を構想しています。
三菱地所グループが目指すのは、グループ内外と連携してあらゆる街の関係者とオープンにつながるエコシステム『Mitsubishi Estate Local Open Network(MELON)』を構築し、シームレスな UX を実現することにあります。太田氏は「AWS は、守りの IT から攻めの IT に転じる基盤となり、三菱地所グループの DX 推進において欠かせない存在となっています」と話します。
共通クラウド基盤の活用でグループ全体のガバナンスやセキュリティを強化
三菱地所グループの DX に重要な役割を果たす共通クラウド基盤は、2018 年から基本構想をまとめ、2019 年 5 月から 2020 年 5 月にかけて構築しました。同社ではこれまで、社内ネットワーク専用のインフラ基盤をオンプレミス環境で運用していましたが、DX 事業の加速で社外向けのサービスが増えた結果、部署やグループ会社が個別にクラウド基盤を構築するケースがありました。そこで、グループ全体で最適化されたクラウド基盤を AWS 上に構築することを決定しました。DX 推進部 主事の加藤翔氏は次のように語ります。
「AWS を選定したのは、国内での利用実績が最も多く、サービスを開発するベンダーにノウハウが多くあったからです。マネージドサービスが豊富で、コスト面や BCP 対策で有効であることも AWS 採用のポイントになりました」
共通クラウド基盤は、構築の自由度に応じて、フルマネージド、セミマネージド、セルフの 3 つのメニューを用意し、申込みからアカウントと環境の払い出しまでの運用フローを整備して提供しています。現在は、外部向け Web サイトや事業部門などが企画するサービス基盤などで採用され、開始以来約 40 システム、Web サイトも含めると合計で約 65 システムが運用されています。DX 推進部 統括の加賀谷宗徳氏は「共通クラウド基盤の稼働から 1 年半が過ぎ、グループ内で認知されるようになり、クラウドを使う場合はファーストチョイスとなっています。共通クラウド基盤上での PoC に加え、B to C または B to B to C 向けの新たな Web サイト展開を実施したいという要望も多く、DX への貢献も果たしています」と語ります。
運用面でも最適化が進み、コスト削減にも寄与しています。
「共通基盤化することで、発見的統制への対応などのセキュリティ強化によるコストアップが生じました。一方で、各利用部門に対しコストの削減余地を積算した上でリザーブドインスタンス等への移行を促すことで、現行費用から 20 ~ 30 % の削減を見込んでいます」(加賀谷氏)
プロフェッショナルサービスを活用しシステム品質のさらなる向上へ
共通クラウド基盤の今後については、新たな機能の追加やサービスメニューの改善などを続けていく考えです。その 1 つが BCP 対策の強化で、AWS の大阪リージョンを活用した DR オプションの整備を検討しています。
2021 年 11 月からは、さらなる AWS のサービス活用に向けて、AWS のプロフェッショナルサービスの活用を開始しました。
「プロフェッショナルサービスは、共通クラウド基盤を事業部やグループ企業が快適に利用できるようにするために採用しました。今後、AWS のベストプラクティスに沿った基盤設計、構築、運用方法をガイドすることで、グループ全体のシステム品質を高めていきます」(加藤氏)
太田 清 氏
加賀谷 宗徳 氏
加藤 翔 氏
カスタマープロフィール:三菱地所株式会社
- 設立: 1937 年 5 月 7 日
- 資本金: 1,424 億 1,426 万円(2021 年 5 月 21 日現在)
- 従業員数:連結 9,982 名(2021 年 3 月 31 日現在)
- 事業内容:
・オフィスビル・商業施設等の開発、賃貸、管理
・収益用不動産の開発・資産運用
・住宅用地・工業用地等の開発、販売
・余暇施設等の運営
・不動産の売買、仲介、コンサルティング
AWS 導入後の効果と今後の展開
- DX に向けたグループ共通基盤と顧客接点基盤の提供
- 街のリアルな体験をデジタルで包み込むローカルな顧客接点の実現
- 多様な関係人口に合わせた体験や暮らしに関するさまざまなサービスの提供
- あらゆる街の関係者とオープンにつながるエコシステムの構築
- Amazon EC2 と Amazon RDS の運用コストを年間 30 ~ 40% 削減