AWS の活用により、IT 部門は IT ソリューションを創出するチームに生まれ変わり、
デジタルトランスフォーメーションを推進する体制を強化することができました。
 
子安 俊雄 氏 ネスレ日本株式会社 財務管理本部 インフォメーションテクノロジー 執行役員 部長

スイスに本社を置くネスレの日本法人として、「ネスカフェ」や「キットカット」などのブランドを展開するネスレ日本株式会社。同社は 20 年以上にわたり IBM AS/400 (以下AS/400) 上で運用してきた 基幹 EDI システムを、ハードウェアのサポート切れを機に AWS 上に再構築。通常 1 年半かかるプロジェクト期間を、約 1 年の短期間で Web ベースのシステムに刷新しました。今回の導入により、IT 部門は IT ソリューションを創出するチームに生まれ変わり、デジタルトランスフォーメーションの本格化に舵を切りました。


飲料、食料品、菓子、ペットフード、栄養補助食品など幅広い製品を提供するネスレ日本。近年は第 2 の成長の柱を確立すべく、IT を活用したイノベーションの創出に取り組み、EC サイトでの「ネスカフェ」の定期購入サービスや、マシンをオフィスに無料で提供してコーヒーを定期購入してもらうサブスクリプション型の「ネスカフェ アンバサダー」などを展開しています。

先進的なビジネスにチャレンジする一方、課題となっていたのが業務を支える IT システムの老朽化です。中でも取引先の卸売業者・商社や自社倉庫などと商品の受発注データ、出荷データなどを交換する EDI システムは、20 年以上にわたりの AS/400 上で運用してきました。長らく利用する中でプログラムの改修を何度も重ねた結果、アプリケーションの複雑化・ブラックボックス化が進んでいたといいます。「技術者の定年退職と後継者不足で、プログラム言語の RPG ・ COBOL やプログラムを理解する要員も減っています。今後の保守運用に支障をきたさないようにするためにもシステムの近代化が急がれていました。」と語るのは財務管理本部 インフォメーションテクノロジーの細見貢氏です。

こうしたタイミングで AS/400 が 2019 年に保守サポートの終了を迎えることから、これを機にインフラを刷新し、自然災害対策への対応も合わせて強化することを決断しました。財務管理本部 インフォメーションテクノロジー 執行役員 部長の子安俊雄氏は「きっかけは AS/400 のサポート終了ですが、本来の目的はデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためです。IT を活用してビジネスをドライブしていくためには、イノベーションや DX の阻害要因となるレガシーシステムから脱却し、能動的に IT ソリューションを創出するIT 部門に生まれ変わる必要がありました。」と語ります。

同社は、EDI パッケージを用いてアプリケーションをオープン化し、開発効率とメンテナンス性の向上を図ることを決定しました。インフラは短期間での構築、耐障害性、スピーディーなインシデント対応の観点からクラウドを選択。クラウドサービスを複数検討した中から AWS を選定しました。

「決め手は、SAP ERP をはじめ大規模でクリティカルな基幹システムの稼働実績が多かったことです。特に Amazon の膨大な商取引を支えてきた実績には信頼感がありました。加えてパートナーの数も豊富で、導入に慣れたベンダーが多いことも大きな要因でした。」(細見氏)

導入パートナーは APN コンサルティングパートナーで、AS/400 のオープン化経験が豊富な JBCC を採用。現状分析を経て2018 年 1 月より移行プロジェクトに着手しました。インフラに AWS を採用し、JBCC の提案した開発ツールと EDI パッケージを用いたことで、1 年半かかるプロジェクトを 1 年に短縮することができました。

「インフラ構築時に AWS のソリューションアーキテクトから本番サイトと災害対策サイトの構成と切り替えについてアドバイスを受けました。アカウントマネージャーにもグローバルレベルでネスレのセキュリティ基準を満たすためのリスク対策や監査対応に関する支援をいただきました。」(細見氏)

EDI システムの開発やインフラの移行と並行して、クラウド環境で運用するためのスタンダード作りも進めました。財務管理本部 インフォメーションテクノロジーの山口晃子氏は「アカウントの棚卸しや承認手順などのルール作りから、サービスレベルの設定、障害時の対応ルールやチケット管理の運用、24 時間 365 日のシステム運用監視のルール策定など、細かいところまで検討してドキュメントに落としていきました。経験豊富な JBCC の支援を受け、社内の要件を満たす運用サービスをデザインすることができました。」と振り返ります。

EDI システムのクラウド移行により、アプリケーション、インフラ、運用のそれぞれの課題は解消されました。今回の AWS の導入により、IT 部門は IT ソリューションを創出するチームに生まれ変わり、DX を推進する体制の強化を実現しています。

「基幹システムの近代化が実現し、柔軟性の高いシステムへと移行した結果、IT 部門が運用保守をする組織から、積極的に自らを変化していく組織に脱皮できたことが最大の効果です。」(子安氏)

費用対効果についても、商取引の基本となる EDI システムを老朽化したまま維持し続けた場合と比較して、長期的な視点では数値で表せないメリットが得られたとみています。山口氏は「ISDN の終了で 2024 年までに EDI の通信を電話回線からインターネットに切り替えなければならない中、いずれはシステムを最新化する必要がありました。その中で、AS/400 を理解しているエンジニアが残っているタイミングで移行に着手できたことは幸運でした。システムがシンプルになったことで今後の開発コストや運用コストは確実に削減できる見込みです。」と話します。


 

今後は電話回線を使った EDI 通信を、インターネットを使った業務標準フォーマットの流通 BMS に移行し、最終的には EDI 通信を AWS 上ですべて完結させる計画です。EDI システムの運用保守についても実績を積み重ねながら、最適な体制を確立していく考えです。

一方、ビジネス側からは SaaS をはじめとするクラウドの活用要望が増加していることから、IT 部門ではクラウド利用時のルールやセキュリティ基準を整備しながら、ビジネス側の期待に応えていくといいます。

「基幹システムの AWS 移行は、IT 部門としてもクラウド活用に一歩になりました。今後は開発・運用で得たノウハウをもとに、業務システムのクラウド化を促進していきます。具体的には、車載スピーカー等を用いた営業社員の業務効率化支援、チャットボットによる IT 部門の運用保守や問い合わせ業務の効率化、工場や設備、製品の異常検知などを検討中です。」(細見氏)

DX の加速に向けて、新たなスタートを切ったネスレ日本。子安氏は「AWS や JBCC には今後も最新技術の提案をいただきながら、3 社で Win-Win の関係を続けていきたいと思います。」と話します。

子安 俊雄 氏

細見 貢 氏

山口 晃子 氏


APN コンサルティングパートナー
JBCC 株式会社

AWS における設計・構築・運用までトータルサポートのサービスを提供する総合 IT ソリューションプロバイダー。システムインテグレーションに加え、独自の超高速型やクラウド型のアプリケーション開発も手がけ、セキュリティ、AI、RPA のサービスとともにお客様のシステム管理上の課題をワンストップで支援している。



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