「NISSAN NEXT」を支える複数の SAP システムをオンプレミス環境から AWS にマイグレーション
パフォーマンスの強化により月次処理時間を 74% 短縮

2022

“人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける。”を企業パーパスに、グローバルで革新的なクルマやサービスを提供する日産自動車株式会社。グループの会計基盤として利用する SAP ERP(ECC6.0)を、オンプレミス環境で運用してきた同社は、ハードウェアや OS の老朽化対策として、アマゾン ウェブ サービス(AWS)への移行を進めています。AWS 上に移行した国内 8 システムのうち、1 システムは同社で初となる SAP S/4HANA によるモダナイゼーションを実現。インフラや DB の最新化により、月次処理時間を 74% 短縮するなど、大幅にパフォーマンスを向上しています。

AWS 導入事例  | 日産自動車株式会社
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今回、AWS 上でのデータ保存では、Database 領域を暗号化し、接続はすべて SSL 経由としました。一般的に暗号化するとパフォーマンスが低下するものですが、AWS 上に検証環境を用意して、業務に影響がないことを確認しました。クラウドであれば、アイデアをすぐに試して確認ができるため、今後のイノベーションにも貢献できると確信を持ちました

橋山 誠一 氏
日産自動車株式会社 グローバル IS デリバリー本部 
G&A & B2E システム部 部長

ハードウェアや OS が老朽化しサーバー障害の発生リスクが増加

2023 年をゴールとした「NISSAN NEXT」のもと、“最適化”と“選択と集中”を柱とした事業構造改革を進める日産自動車(以下、日産)。近年では、新型「フェアレディ Z」や新型軽 EV の発表、中国市場へのハイブリッドシステム(e-POWER)の展開、EV ビジョン「EV36Zero」の推進など、新たな施策を打ち出しています。

2021 年 11 月に 2030 年度までの長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表。今後 5 年間で EV などの開発に約 2 兆円を投じ、2030 年度までに 23 車種の新型電動車を投入して、グローバルの電動車のモデルミックスを 50% 以上とすること、全固体電池を 2028 年度に市場投入することなどを明らかにしています。

情報システム領域では、「NISSAN NEXT」を支えるデジタル戦略「NISSAN DIGITAL NEXT」を展開しており、IT のモダナイゼーション、ドライブイノベーション、アウトスタンディングワークエフィシェンシーの実現を目指しています。

グローバルビジネスを支える会計系システムには SAP ERP(ECC6.0)を採用し、オンプレミス環境で運用してきました。しかし、長年の運用でハードウェアや OS の老朽化が進んでいました。「私たちのデジタルトランスフォーメーション推進部では国内外で 30 以上の SAP システムの開発、運用をサポートしていますが、サーバー障害が発生するとビジネス部門の業務が中断し、その先のお客様にも迷惑をかけることになります。そのためにも、いち早く安定したインフラ環境に移行する必要がありました」と語るのは、デジタルトランスフォーメーション推進部 主管の金聖雄氏です。

国内 8 個の SAP システムを AWS 上にテクニカルマイグレーションを実施

SAP システムのマイグレーションを検討した同社は、オンプレミスから広範なグローバルフットプリントを提供する AWS に移行することにしました。
「AWS は日産グループの共通クラウド基盤に定められているものです。今回はその中で実施方針を検討し、安定性、豊富なサービス、スケーラビリティ、新機能のリリーススピードなどを考慮しました」(金氏)

プロジェクトは 2018 年頃からスタートし、2021 年にかけて国内の日産本体で稼働している 4 システムと、グループ会社で利用している 4 システムの合計 8 システムを移行しました。2022 年度中には日産本体で利用するメインフレームの 1 システムを SAP S/4HANA に切り替えて AWS 上に導入する予定です。

AWS への移行は、ECC6.0 のままサーバー OS などをアップグレードするテクニカルマイグレーションを採用。日産本体の個別原価計算(Product Costing)のシステムについては、同社では初となる SAP S/4HANA への移行にチャレンジしました。マイグレーションの方針についてグローバル IS デリバリー本部 G&A & B2E システム部 部長の 橋山 誠一氏は「障害リスクを低減することが第一で、スピード優先でテクニカルマイグレーションを選択しました。ハードウェアや OS の更新時期に余裕があるシステムについては、SAP S/4HANA へのアップグレードも検討していきます」と語ります。

移行プロジェクトでは、共通基盤を設計して初期段階で集中的に課題を解消。その後、チームで経験を重ね、ノウハウを蓄積しながら移行を繰り返していきました。中でも大きなポイントになったのは、本番移行におけるダウンタイムの短縮です。同社のポリシー上、オンプレミスから AWS に直接ネットワークでつなぐことができないため、あるシステムではデータを転送したハードディスクを接続拠点に直接運び込み、ハードディスクから AWS 上にデータを移行しました。協力会社の株式会社コスモルート ビジネスソリューション事業部テクノロジー & プロセスソリューション部 マネージャの月野博之氏は「システム停止時間が限られているために、移行リハーサルを 2 回実施して万全を期しました」と振り返ります。

別のシステムでは、中間サーバーを利用し、多重転送・並列処理によって、移行時間の短縮を図っています。デジタルトランスフォーメーション推進部の山原千沙氏はプロジェクトを振り返り「限られた時間の中、AWS 上でのサーバー OS の稼働確認を入念に行いました。ジョブの移行についても AWS 上で稼働させるためにジョブ管理ツールを変更して対応しました」と語ります。

結果として、AWS の特徴を理解したメンバーによる試行錯誤と、複数回のリハーサルにより、スムーズに実施することができました。

さまざまなジョブで処理時間を短縮し業務の効率化に貢献

AWS への移行により、データ処理、画面操作、バッチ処理などで性能改善が図られました。SAP S/4HANA 化した Product Costing では月次の処理時間が 74% 短縮されています。ECC6.0 を移行した別のシステムでも業務プロセスの実行時間が 20% ~ 80% 短縮、月次処理時間も 76% 短縮されました。パフォーマンスも向上し、これまで 2 時間30 分要していたジョブが 45 分と 70% の短縮、業務の効率化に貢献しています。

ハードウェアやネットワークの性能向上により、IT 面でも施策を打ち出しやすくなり、柔軟なリソースを活用した新たなオプションも生まれています。リカバリーのための運用工数が発生しなくなったことも大きな効果です。加えて、サイバー攻撃が増える中、データの安全性を維持することが可能になりました。
「今回、AWS 上でのデータ保存では、Database 領域を暗号化し、接続はすべて SSL 経由としました。一般的に暗号化するとパフォーマンスが低下するものですが、AWS 上に検証環境を用意して、業務に影響がないことを確認しました。クラウドであれば、アイデアをすぐに試して確認ができるため、今後のイノベーションにも貢献できると確信を持ちました」(橋山氏)

基幹システムの安定稼働を実現しデータ活用に向けた議論を開始

プロジェクトは現在も進行中で、国内はオンプレミス環境で運用している複数の SAP システムの AWS 移行や、DWH の SAP HANA 化を検討しています。海外拠点においても、南米で 2 システム、欧州で 1 システムが AWS に移行済みで、現在は欧州と北米で各 1 システムの移行を検討中です。

今回のプロジェクトを基幹システムの安定稼働に向けた「準備段階」と位置付ける同社では、今後も AWS による運用メリットの恩恵を受けながら、SAP システムから得られるデータ活用に向けて本格的な議論を進めていく予定です。デジタルトランスフォーメーション推進部 主担の井上花菜子氏は「当社の SAP 活用はこれから本格化します。今後は日産が蓄積してきたノウハウを活かしながら、最適な活用方法を追求していきます」と話しています。

橋山 誠一 氏

金 聖雄 氏

井上 花菜子 氏


カスタマープロフィール:日産自動車株式会社

  • 設立: 1933 年 12 月 26 日
  • 資本金: 6,058 億 1,300 万円
  • 従業員数:連結 131,461 名(2021 年 3 月 31 日現在)
  • 事業内容:自動車の製造、販売および関連事業

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • データ処理、画面操作、バッチ処理などの性能改善
  • 個別原価計算(Product Costing)で月次の処理時間を 74% 短縮
  • 業務プロセスの実行時間を 20% ~ 80% 短縮
  • ジョブの処理時間を 70% ~ 83% 短縮
     

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