静岡県磐田市に本社を置くヤマハ発動機は 1955 年の創業以来、二輪車事業を中心に多くのものづくりやサービスを通して多様な価値の創造を追求してきた企業です。現在は世界 30 カ国以上で事業を展開しており、売上の比率も海外が 90 % を超えています。

ヤマハ発動機はクラウドへの全面移行を検討する 10 年ほど前から IT システムのオープン化を積極的に推進しています。当社情報システム子会社のヤマハモーターソリューションとともに、段階的にサーバー集約のための IA 化・仮想化、BCP 視点でデータセンターのクラウド化、セキュリティ強化を目的としたシンクライアントの導入、そしてメール・オフィス環境については Office 365 への移行を進めています。

デスクトップ環境においては、Microsoft の WindowsXP サポート終了を受けて業務アプリケーションの Windows7 対応を 2015 年 3 月までに完了させ、Office365 の利用を Windows7 化が完了した 4 月から開始する計画でした。しかしながら、一部のアプリケーションの Windows7 対応が遅れ 2015 年 12 月までかかってしまうことが判明し、Office365 の利用は全 PC の Windows7 化の完了を待たないでスタートすることになりました。そこで、暫定的に Office365 の利用環境として Windows7+Office2013 環境が必要となり、必要に応じて必要なだけ利用できる仮想デスクトップサービスを検討することになりました。

その一方で、既存シンクライアント環境においても Office 365 を利用するにあたり、事前に動作検証を実施したところ、現在利用している共有型のアーキテクチャーのシンクライアントサーバーでは、動作が不安定で実務上利用に耐えないということが判明しました。このため、急遽シンクライアントユーザー向けに Office 365 を利用できる環境としても、仮想デスクトップサービスを検討する必要がありました。

こうした 2 つの課題を解決するため、クラウドベースの仮想デスクトップ環境を調査、検討することとなりました。

ヤマハ発動機株式会社 プロセス・IT部 原子 拓 様、江間 由希子 様  - ヤマハモーターソリューション株式会社 企画・設計グループ 伊藤 秀樹 様、池田 久実 様

「今回の導入を通して思ったのは「情シスが頑張って何でもやる時代は終わった」ということです。」

- ヤマハ発動機株式会社
プロセス・IT部 原子 拓 様、江間 由希子 様

- ヤマハモーターソリューション株式会社
企画・設計グループ 伊藤 秀樹 様、池田 久実 様

仮想デスクトップ環境を提供するクラウドサービスを選定する際は、AWSの他にいくつかの他社サービスを比較検討しましたが、最終的には Amazon WorkSpaces が最適であると判断いたしました。

その理由としては、

  • 1 ヶ月単位の利用が可能
  • 低コスト
  • 迅速に導入が可能
  • 標準仕様
  • パフォーマンスおよび安定性
  • すでに社内で AWS クラウドに関する知見が蓄積されていた

などが挙げられます。

AWS に関する知見としては、すでにヤマハモーターソリューションが Amazon EC2 上で開発環境や Web サイトを構築/運用してきた実績があったため、AWS のサービスである Amazon WorkSpaces の方が、より馴染みやすかったことは事実です。また、ユーザーのリクエストに応じて細かくカスタマイズするサービスよりも、基本的にどのユーザーに対しても同じ内容で提供される標準仕様のサービスのほうが、業界や社内に知見が蓄積されやすい点も高く評価しました。

Amazon WorkSpaces が 1 ヶ月単位で利用できるサービスであること、そして AWS が数多くの第三者認証を取得していることも大きな決め手となりました。Windows XP ユーザーの暫定環境として考慮すると、本当の意味で数カ月単位での利用が可能で、セキュアな仮想デスクトップを実現するには Amazon WorkSpaces は最適だと判断しました。

最終的には 2014 年 9 月 から Amazon WorkSpaces の検討を始め、11 月から検証作業を行い Amazon WorkSpaces の導入を決定しました。本番環境の構築は 2015 年 2 月に開始し、3 月には本番稼働にこぎつけています。

シンクライアントとデスクトップ PC(Windows XP)を合わせ 230 程のクライアントから Amazon WorkSpaces に接続して Office 365 を利用していますが、業務ユーザーからはとくに大きな不満の声はありません。逆に問い合わせが少ないということは、パフォーマンスや安定性の面で業務に支障なく利用できている証拠だと受けとめています。とくにパフォーマンスに関しては、検証時に評価した他社の仮想デスクトップや、共有型の仮想デスクトップとは比較にならないほど高速で安定しています。

Active Directory は現状で利用している環境を使い続けることを前提に、非常時や災害時を考慮して同じドメインコントローラの複製を AWS 側に置いています。

コストについて、これまでの仮想環境の場合、保守切れのたびに企画設計だけで 1000 万円くらいかかるため、すぐに調達できて、期間限定利用も可能な Amazon WorkSpaces のほうが、今後の展開や運用などを含めても費用対効果は高いといえます。この「保守切れ」という情報システム部門にとっての長年の苦悩が、クラウドによって解放されつつあることは確実に感じています。

セキュリティに関しては当初から AWS を信頼していたこともあり、大きなトラブルは起こっていません。銀行にお金を預けるように、AWS にセキュリティを預ける、という感覚で利用できています。

もともと仮想デスクトップ環境に関する知見が社内に蓄積していたため、今回の Amazon WorkSpaces 導入は比較的スムースに運んだのではないかと考えています。運用に関しても今までの経験が大きく役に立ちました。

ヤマハ発動機株式会社様 システム構成図

この環境に移行してからは『もう以前のオンプレミスな環境には戻れない』というのが正直な感想です。先ほども触れましたが、企業の情報システム部門はもう何十年も保守切れの度に発生する「バージョンアップ症候群」に悩まされてきました。ハードもソフトも更新のたびにコストも時間もかかり、本番稼働するころにはそのシステムが陳腐化していることも少なくありませんでした。とくにデスクトップは共通の文房具でもあるのに、それに対して以前のような労力を費やすことは無駄が大きいと思っています。今後、メールを使わない共有型シンクライアントについても順次 Amazon Workspaces に切り替え、グローバルで活用していく予定です。

今回の導入を通して思ったのは「情報システム部門が頑張って何でもやる時代は終わった」ということです。これほどクラウドにいろいろなサービスが増えてきている以上、適材適所にそれらを組み合わせて「いいとこ取り」をしたほうが、よりビジネスに直結した仕事に集中することができると感じています。



- ヤマハ発動機株式会社
企画・財務本部 プロセス・IT部 IT技術戦略グループ 主務 原子 拓様
企画・財務本部 プロセス・IT部 IT技術戦略グループ 主事 江間 由希子様

- ヤマハモーターソリューション株式会社
ITサービス事業部 ITサービス企画部 企画・設計グループ ITスペシャリスト 伊藤 秀樹 様
ITサービス事業部 ITサービス企画部 企画・設計グループ 池田 久実 様