Amazon Web Services ブログ

AWS で実現する AI 主権

本ブログは 2026 年 5 月 12 日に公開された AWS Blog “Enabling AI sovereignty on AWS” を翻訳したものです。

クラウドと AI は、研究の加速や顧客体験の向上から、ビジネスプロセスの最適化や公共サービスの充実に至るまで、かつてないスピードで産業や社会を変革しています。Amazon Web Services (AWS) は、クラウドと AI がその可能性を最大限に発揮するには、お客様がデータをコントロールでき、ワークロードをどのように、どこで実行するかを選択できる必要があると考えています。2022 年には、AWS Digital Sovereignty Pledge によってコントロールと選択肢へのコミットメントを正式に表明しました。これにより、クラウドで利用できる最も高度な主権コントロールと機能を、すべての AWS のお客様に提供しています。AI の導入が加速する中、AWS はお客様と協力し、主権要件を満たしながら AI イノベーションを取り入れられるよう支援してきました。AWS は、お客様が AWS クラウドの機能、パフォーマンス、イノベーション、セキュリティ、スケールを犠牲にすることなく、AI 主権を含む主権のニーズを満たしながら、AI の変革力を引き続き活用できるよう取り組んでいます。AI 主権に対する AWS のアプローチは、こうしたニーズと、それに伴う実際の導入上の課題に対する深い理解に基づいています。

お客様、パートナー、アナリスト、規制当局との議論を通じて、デジタル主権、そして AI 主権の意味はステークホルダーによって異なることがわかりました。国や地域ごとに独自の主権要件があり、その要件も変化し続けています。また、どのワークロードやセクターが準拠すべきかについて、統一的なガイダンスはありません。このように違いがある一方で、共通するテーマも見えてきました。それは、データ主権 (データレジデンシーとオペレーターによるアクセスの制限を含む) と運用主権 (レジリエンス、存続性、独立性を含む) です。AI 主権はこれらを基盤とし、さらに AI の出力において文化的規範、価値観、現地の言語を守るといった新たな考慮事項が加わります。つまり、デジタル主権と AI 主権の要件を満たすことは、最終的にはお客様により多くのコントロールと選択肢を提供することにほかなりません。

AI スタック全体でのお客様によるコントロールと選択肢の実現

AI 主権には、AI スタック全体にわたるコントロールと選択肢が必要です。AI スタックとは、コンピューティング、ネットワーキング、データ管理、セキュリティコントロール、専門的なアプリケーションサービス、そして人材を組み合わせた包括的なクラウドインフラストラクチャを指します。お客様独自のニーズ、規制要件、イノベーションの目標に沿って、ロケーション、依存関係、サービス、パートナーなどをスタック全体で意図的に選択できることも、これに含まれます。AWS を利用することで、お客様はデータを安全かつ自らのコントロール下に置いたまま、信頼できる基盤の上で AI を開発できます。また、専用設計の AWS シリコンや、NVIDIA、AMD、Intel のチップなど、AI に最適化された幅広いチップから自由に選択できるため、ワークロードに最適なチップを選べます。AWS は 20 年にわたって培ってきた専門知識を包括的な AI スタックに活かしており、組織はデータと運用を完全にコントロールしながら、最先端の機能を活用して地域の課題を解決できます。

AWS は、AI を個別のユースケースにとどめず、バリューチェーン全体に組み込むためのインフラストラクチャとツールをお客様に提供しています。これにより AI は、モデルのトレーニングとデプロイ、そして卓越したパフォーマンスを備えた高度な AI アプリケーションや生成 AI アプリケーションの構築を可能にする基盤的な能力となります。その結果、お客様はインフラストラクチャではなくイノベーションに集中できます。さらに、AWS AI Factories、AWS Outposts、AWS Local Zones、AWS Dedicated Local Zones、AWS リージョン (AWS European Sovereign Cloud を含む) など、さまざまな選択肢の中から、最も必要とされる場所でクラウドを利用できます。例えば、ミッションクリティカルな AI ワークロードの主権要件を満たすために専用のデプロイを必要とするお客様は、AWS AI Factories を利用できます。お客様専用に構築され、物理的に分離されたこのデプロイ環境は、AWS Trainium アクセラレーター、NVIDIA GPU、専用のネットワーキング、ストレージといった最新の AI インフラストラクチャを組み合わせています。AWS AI Factories は、トレーニング、ファインチューニング、リアルタイム推論を安全に実行できるオンプレミスの AI 機能を提供し、AI 主権のニーズに対応します。

AWS の AI ポートフォリオは、基盤モデル (FM) を提供する Amazon Bedrock から、Amazon SageMaker AI などの機械学習サービス、Amazon Q などのアプリケーションサービス、Kiro などの開発者ツールまで、幅広いサービスで構成されています。これらはいずれも、お客様がデータをコントロールし、AI のデプロイ方法を選択できるように設計されています。Amazon Bedrock では、AI21 Labs、Anthropic、Amazon、Cohere、Mistral AI、OpenAI などの主要プロバイダーが提供する数百のモデルから選択できます。お客様は、特定のニーズに最適な FM を評価して選択し、デプロイ先を決められるほか、独自のデータを使用してモデルをプライベートにファインチューニングすることもできます。データは常にお客様のコントロール下にあります。特に重要な点として、お客様の Amazon Bedrock への入力や Amazon Bedrock からの出力が、Amazon Nova やサードパーティーのモデルのトレーニングに使用されることは一切ありません。

国家 AI 戦略の支援

AI 戦略を成功させるには、地域の人材を育成し、スタートアップを支援し、業界固有のアプリケーションを開発し、官民パートナーシップを促進する包括的な環境を構築する必要があります。クラウドによって、AI は巨額の投資を必要とする一部の組織だけの技術から、あらゆるセクターや規模の組織がイノベーションに活用できる身近なツールへと変わりました。AI 主権を考える際には技術インフラストラクチャに注目が集まりがちですが、各国の FM が持つ文化的・戦略的な側面も同様に重要です。こうした FM は単なる計算ツールではありません。文化的な知識、言語のニュアンス、社会的な文脈といった要素を取り込めるため、地域との関連性は後から付け加えるものではなく、設計段階から考慮すべき事項となります。また、こうした FM は技術的な能力にとどまらない役割を果たします。地域でトレーニングされた FM は、その地域の法制度、商慣行、規制の枠組みを理解しながら、国の教育カリキュラムや文化的価値観を反映できます。現地の言語、方言、文化的文脈でトレーニングされたモデルは、言語の多様性を支え、これまで十分に扱われてこなかった言語が AI 製品やサービスに反映されるよう後押しします。

AWS は、文化的規範、価値観、現地の言語の保護や、地域や現地の言語に対応した言語モデルの能力開発など、国家にとって重要な優先事項やお客様のミッションを支援しています。モデルをカスタマイズする際には、Amazon SageMaker AI を使用して、音声への対応やドメインへの特化を行ったり、モデルの精度を評価したりできます。例えば、2024 年 3 月に初のギリシャ語の大規模言語モデル (LLM) として公開された Meltemi は、Mistral-7B をベースに構築され、AWS のインフラストラクチャ上で稼働しています。さらに、285 億のギリシャ語トークンからなるデータセットで継続的な事前トレーニングを行うことで、ギリシャ語の能力を高めています。Meltemi は HuggingFace で利用できます。SEA-LION は東南アジア向けのオープンソースの多言語 LLM ファミリーで、マネージド GPU クラスターを使用し、すべて AWS 上でトレーニングされました。開発チームは 30 億パラメータのモデルをわずか 3 か月で完成させており、これは同等のオンプレミスプロジェクトと比べて 60% 速いペースです。

データアクセスに対する検証可能なコントロール

主権は、データがどこに保存されているかだけの問題ではありません。誰が、どのような条件でデータにアクセスできるかという問題でもあります。AI の文脈では、アクセス制限の対象はインフラストラクチャにとどまらず、モデルの入力と出力、トレーニングプロセス、さらに AI が実行される運用環境にまで及びます。従来のインフラストラクチャとは異なり、AI ワークロードには新たなアクセス対象が存在します。具体的には、モデルそのもの、モデルのトレーニングに使用されるデータ、そして機密性の高い入力が流れる推論パイプラインです。そのため、IT システムにおける検証可能なガバナンスとアイデンティティの伝播の必要性がさらに高まっています。

お客様データの機密性と完全性を確保するため、最新のすべての Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) インスタンスは、AWS Inferentia や AWS Trainium などの AI アクセラレーターを搭載したインスタンスも含め、AWS Nitro System の業界をリードするセキュリティ機能によって保護されています。お客様がワークロードの実行に使用する Nitro EC2 インスタンス上のお客様データに、AWS の誰であってもアクセスできる仕組みは、設計上存在しません。Amazon EC2 上に構築された AI 機能を持つサービスを含め、AWS のサービスはこれと同じ保護を継承しています。これらの保護は AWS Nitro System 上で処理される AI データに適用されるため、モデルトレーニングから推論まで、あらゆる段階でデータが保護されます。独立したサイバーセキュリティ企業である NCC Group は、Nitro System の設計を検証しました。AWS は、このレベルの透明性を提供することが、信頼の構築と維持に不可欠であると考えています。

AI エージェントがユーザーに代わって複数のシステムにまたがるアクションを実行することが増える中、誰が、また何がリソースにアクセスできるかを制御し、人間による適切な監督を確保することが重要になっています。AWS Identity and Access Management (IAM) は、きめ細かなアクセス許可と包括的な監査証跡によって、認可されたユーザーとアプリケーションだけが AI リソースにアクセスできるようにします。AI エージェントや自動化されたワークロードについては、Amazon Bedrock AgentCore Identity がアイデンティティと認証情報の管理機能を提供するため、エージェントは必要最小限のアクセス許可だけで動作します。

透明性と保証

透明性は、AWS のデジタル主権へのコミットメントの中核です。AWS は、データをどこに保存し、誰がアクセスでき、どのように使用されるかをお客様がコントロールできるよう、業界をリードする包括的な技術的対策、運用上のコントロール、契約上の保護を提供しています。また、AWS のサービスの設計と運用についてより高い保証を提供するため、お客様のコンプライアンスニーズへの対応に役立つ第三者による証明、認定、認証の取得に引き続き取り組んでいます。

AWS は、お客様への保証と透明性を引き続き強化しています。例えば、AWS サービス条件を更新して技術的保護に関するコミットメント (AWS Nitro System など) を反映したほか、お客様データの開示を求める第三者からの要請の取り扱いについて、契約で詳細なコミットメントを示しています。さらに、お客様が主権に関する事項について十分な情報に基づいて判断できるよう、補足的な説明やリソース (CLOUD Act に関するブログなど) も提供しています。こうした取り組みは責任ある AI へのコミットメントにも及んでおり、お客様が AWS のサービスを使用して、安心して AI アプリケーションを責任ある形で構築、運用できるよう支援しています。ISO/IEC 42001 は、組織が AI システムの責任ある開発と使用を推進するための要件と管理策を定めた国際的なマネジメントシステム規格です。AWS は、主要クラウドサービスプロバイダーとして初めて、認定を受けた認証機関から AI サービスを対象とした ISO/IEC 42001 認証を取得しました。対象には Amazon Bedrock、Amazon Q Business、Amazon Textract、Amazon Transcribe が含まれます。2025 年 11 月には、ISO 42001:2023 の初回サーベイランス審査を指摘事項なしで完了し、責任ある AI の実践に対する AWS の継続的なコミットメントを改めて示しました。

革新的なテクノロジーには、安全で信頼できる基盤が欠かせません。AWS は 140 を超えるセキュリティ標準とコンプライアンス認証をサポートしており、お客様やパートナーはこれらを継承することで、各地域の法律や規制への準拠に役立てることができます。AWS は 20 年にわたり、規制当局やサイバーセキュリティ当局と緊密に連携し、提供するサービスを国家の優先事項に合わせるとともに、ソリューションがイノベーションとコントロールの両方を支えられるよう取り組んできました。また、進歩を妨げることなく新たな動向に対応できるフレームワークづくりにも積極的に貢献しています。

お客様の主権目標の達成に向けた継続的なコミットメント

AWS は、お客様がデータに対して持っているのと同じコントロールと選択肢を、AI システムに対しても提供することに取り組んでいます。AWS クラウドの機能、パフォーマンス、イノベーション、セキュリティ、スケールを維持しながら、お客様が AI の変革力を活用できるよう支援します。クラウドと AI の進化に合わせて、AWS は今後も、利用可能な最も高度な主権コントロールと機能を提供し続けます。

Stephane Israel

Stéphane Israël

Stéphane は、AWS European Sovereign Cloud のリーダー兼 Managing Director です。AWS European Sovereign Cloud のインフラストラクチャ、テクノロジー、サービスを含む管理と運用に加え、AWS におけるより広範なデジタル主権の取り組みを担当しています。AWS に入社する前は Arianespace の CEO を務め、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げをはじめ、成功を収めた数多くの宇宙ミッションを統括しました。

本ブログは Security Solutions Architect の 中島 章博 が翻訳しました。