生産系 DX 共通基盤の提供と人財育成の両輪で進む製造現場のデジタル変革
デジタル人財 4 万人へ
2021
1922 年に創業し、マテリアル、住宅、ヘルスケアの 3 領域でグローバルに事業を展開する旭化成株式会社。同社は製造現場での DX を加速するため、アマゾン ウェブ サービス(AWS)を基盤とした製造 IoT プラットフォーム(IPF)を構築しました。同時に DX 人財の育成も積極的に推進。現場主導での DX の成果が続々と生まれつつあり、統計解析手法を用いることで異常予測のスパンを 20 日前から 5 ヶ月前に拡大した事例もあるなど、様々な業務を進化させつつあります。全従業員 4 万人のデジタル人財化を目指すなど、全社規模のデジタル変革を加速していく計画です。
クラウド環境で構築した DX 共通基盤の活用により、データは組織の壁を超えることを実感しました。また、現場が勘と経験で『知っていた』ことをデータで裏付けるのが AI の正しい使い方と考えます
原田 典明 氏
旭化成株式会社
デジタル共創本部
スマートファクトリー推進センター センター長
複数工場が個別にすすめていた DX
共通基盤を構築することで、現場主導の変革を支援
旭化成では、生産系と研究開発系、各全社組織が DX に取り組んでいましたが、2021 年 4 月に「デジタル共創本部」を設置してデジタル系部門を統合、全社横断型で取り組む体制が整いました。中でも生産系 DX を推進するのが「スマートファクトリー推進センター」です。
同センターでセンター長を務める原田典明氏は、デジタル化の取り組みについて次のように語ります。「これまでは各工場、各現場で個別に取り組んできましたが、共通で使える基盤を提供することで、DX のスピードを上げていくことを目指しました。そのため、まずは共通基盤として、『製造 IoT プラットフォーム(IPF)』を構築しました。IPF には二つの側面があります。『製造現場データの分析・見える化基盤(フィールド基盤)』と、『アドホック・データ分析基盤』です」。
また、同社の生産系DXにおけるテーマは大きく 4 つあるといいます。第1はこれまで人の目に頼っていた「官能検査」の自動化、第 2 は品質や設備稼働向上などの生産性の最適化、第 3 は装置の故障予兆の把握、そして第 4 が各種 IoT 機器を活用した現場業務の高度化であり、これらのテーマに取り組む製造現場の試行錯誤を、IPF が支えています。
試行錯誤がスピーディーに行えることと内製化が容易なことが大きなメリット
この IPF の基盤として活用されているのが AWS です。「IPF の構想は3年前にスタートしましたが、導入実績が多数あり、ソリューションが豊富な AWS を選択しました」と振り返るのは、同センター IoT推進部 部長の中山雅彦氏です。システム構築にあたっては、IT システムを統括する IT統括部とも綿密に連携してセキュリティ面も確認し、クラウド上にデータを上げることへのハードルを共同で乗り越えたといいます。「たとえば工場と AWS 間は AWS Direct Connect を利用し、高速通信環境を整備しました。インターネットに出る必要がないため、オンプレミスと同等のセキュリティが確保されています」
さらに、同センター プラットフォーム技術部 部長の譽田正宏氏は AWS 上に構築した共通基盤による効果について次のように話します。
「内製化もしやすく、 DX 施策の取り組みスピードを加速できました。AWS 上では製造現場の担当者のアイデアをもとに試行錯誤を簡単に繰り返せます。このスピード感は現場のやる気にもつながっていますし、工場での各 DX 施策の横展開が始まるなど、良い循環が進んでいます」
同センター IoT推進部 IoT推進グループ 横谷知昂氏は、次のように述べます。「AWS は世界中で多くの人が使っているため公開情報でノウハウが入手しやすく、開発者として使いやすい環境です。技術を学ぶためには、積極的に無償・有償でのワークショップやハンズオンも活用しました。また設計や運用で課題に直面した場合でも、ソリューションアーキテクトに相談したり、エンタープライズサポートを活用したりすることで、解決も迅速に行えます」
全社員4 万人をデジタル人財に
変革を生みだせる現場を目指す
並行して、DX 人財育成にも注力しています。
「当社では、高度なスキルを持つデータサイエンティスト、製造現場のデータ分析人財(パワーユーザー)、そしてプロセスを熟知した原理原則アドバイザーが三つ巴でデータの分析活用を推進しています」(原田氏)。製造現場の人員をデータ分析人財として育成するカリキュラムは、6 ヶ月間にわたる育成プログラムを用意。教育プログラムの受講者数は2年前に比べて倍増、2021 年度は 100 人弱が参加しました。
また、一般ユーザーの底上げでは『旭化成 DX オープンバッジ』と呼ばれるオリジナルの自己啓発的なカリキュラムを提供。5 段階のレベルをそれぞれクリアすると、第三者機関の認定を受けたバッジが取得できます。現在、全従業員 4 万人のデジタル人財化を目指し取り組んでいます。
続々と生まれる現場主導での成果
将来は部門や企業の壁を超えた DX 連携を目指す
「共通基盤と人財育成」の両輪で DX を推進した結果、現場主導での成果が続々に生まれています。「AWS上に構築したIPFは、最初は 5 つのモデル工場で活用がスタートしましたが、現在では 10 以上の工場に広がっています。成功事例が他の工場に伝わることで、トライしたいという工場が増えています」(譽田氏)。現場で取り上げられる DX テーマ数も急増しており、その内容も多岐にわたっているといいます。
その一例として中山氏が紹介するのが、製造機器の故障予測の高度化です。
「化学品の製造では撹拌機を使いますが、それがいきなり停止すると 1 回あたり数億円のロスが発生します。そのため事前に異常を予測してロスが生じないように計画停止する必要がありますが、以前は 20 日先までの予測が限界でした。しかし IPF 上で機械学習を使うことで、その期間を 5 ヶ月先まで延ばすことができました。」
「現場が勘と経験で『知っていた』ことをデータで裏付けるのが AI やデータ分析の正しい使い方。その解析結果を現場に適用し、さらにその結果の検証を行う。この繰り返しが重要なポイントになります。このような機能拡張を迅速におこなうこと、それがクラウドを使うポイントです」(原田氏)
また生産部門だけではなく、研究開発部門でもマテリアルインフォマティクス等の DX の試みなどが進んでいます。今後はこのような他部門の DX とも連携していく展望です。
「複数工場のデータをクラウドに上げ、DX 共通基盤を構築したことで感じたことは、データは組織の壁を超えていくことができるということです。将来は原材料メーカーやお客様とのサプライチェーンの連携も実現したい。パブリッククラウドである AWS を土台にすることで、このようなことも可能になると期待しています」(原田氏)
原田 典明 氏
中山 雅彦 氏
譽田 正宏 氏
横谷 知昂 氏
カスタマープロフィール:旭化成株式会社
- 創業: 1922 年 5 月
- 資本金: 1,033 億 8,900 万円
- 従業員数: 44,497 人(連結、2021 年 3 月 31 日現在)
- 事業内容:マテリアル領域、住宅領域、ヘルスケア領域における製造販売
AWS 導入後の効果と今後の展開
- 複数工場共通の 製造 IoT プラットフォーム(IPF)を構築
- 続々と生まれている現場主導での成果
- 今後は研究開発部門などとの連携も視野に
ご利用中の主なサービス
Amazon EC2
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。
AWS Direct Connect
AWS Direct Connect はオンプレミスから AWS への専用ネットワーク接続の構築をシンプルにするクラウドサービスソリューションです。AWS Direct Connect を使用すると、AWS とデータセンター、オフィス、またはコロケーション環境との間にプライベート接続を確立することができます。
AWS Lambda
AWS Lambda を使用することで、サーバーのプロビジョニングや管理をすることなく、コードを実行できます。料金は、コンピューティングに使用した時間に対してのみ発生します。