不動産業界向け SaaS に必要なスケーラビリティ、マイクロサービス、BCP を求める中、運用性、管理性、パフォーマンスが高く、
利用者の声を取り入れながら積極的に投資してサービスを成長させていく AWS の姿勢を評価して移行を決めました。
 
松崎 明 氏 株式会社いい生活 専務取締役 CTO

不動産ビジネス向けシステム・アプリケーションを企画・開発し、クラウドサービスとして提供している株式会社いい生活。これまではオンプレミスのシステムでサービスを提供してきましたが、データセンターの老朽化をきっかけに AWS への移行を開始しました。現在、不動産広告を入稿するデータ連携システムと、お客様の Web サイトの構築を支援する CMS などが稼働中で、2020 年 9 月までに業務のコアプラットフォームを含めて全システムの移行を終える予定です。そして、次のステップとして不動産関連データを機械学習で活用した新たなサービス提供を描いています。


“全ての人の生活に関わる不動産市場を、テクノロジーでより良いものへ。”をミッションに、全国の不動産会社向けにクラウドサービスを提供するいい生活。IT を核にした不動産テックの先駆者として、不動産業界のデジタルトランスフォーメーションを推進しています。中でも同社の主力のサービスが、不動産ビジネスに不可欠な物件や取引データを一元管理する『 ES いい物件One 』シリーズです。売買仲介、賃貸仲介、賃貸管理、広告管理など不動産のあらゆる悩みを解決する『 ES いい物件 One 』は、2019 年 12 月時点で約 1,400 法人、4,000 店舗以上の不動産会社が導入しています。

『 ES いい物件 One 』シリーズは、2000 年の設立時からデータセンターのオンプレミス環境で提供してきましたが、利用しているデータセンターの老朽化が進んでいたことから将来の事業環境にも柔軟に対応できるようにクラウド移行を決断しました。

「クラウド化の目的は主に 3 つあります。1 つめはリソースの調達のしやすさです。不動産業の 1 週間のサイクルでは土日が最も忙しく、1 年のサイクルでみると 1 月から 3 月が繁忙期となります。このようにシステム利用に波があるため、無駄なくリソースを利用することでインフラコストを最適化するためにはクラウドが最適でした。2 つめはコンテナ化の推進です。セキュリティの担保が難しいモノリシックなシステムから脱却し、マイクロサービス化することでアップデートの際の影響範囲を最小化し、セキュリティを高めるだけでなく、マイクロサービスを担当するチームがアップデートの判断を独自にできるようにすることで、開発・運用効率を高めることが狙いでした。3 つめは BCP (事業継続計画)や DR(ディザスタリカバリ - 災害復旧)の観点です。お客様のデータを預かってサービスを提供している当社にとってシステムの停止は避けなければなりません。そこで安価に DR サイト構築ができるクラウドサービスに着目しました。」と語るのは専務取締役 CTO の松崎明氏です。

クラウドサービスは複数の事業者を比較。PoC を実施した結果、運用性、管理性、パフォーマンスを評価して AWS を選定しました。

「採用の決め手は、AWS が利用者の声を取り入れながら積極的に投資してサービスを成長させていくビジョンと、汎用的なインフラレイヤーからサービスレイヤー、マネージドサービスまで幅広くカバーしていること、Web 上での情報量が豊富でユーザーコミュニティが充実していることでした。」(松崎氏)

AWS への移行プロジェクトは、2018 年 9 月頃からスタート。影響範囲の少ないサブシステムから開始し、順次移行するスケジュールで進めています。現在は『 ES いい物件 One 』で管理している不動産物件の広告情報や写真 / 画像を 30 社以上の不動産メディアに 1 日延べ 400 万件配信するデータ連携ソリューションと、『 ES いい物件 One 』の SFA/CRM 機能と連携して物件情報等を一般消費者に公開するための店舗向け Web アプリケーションの移行が完了しています。さらに、クラウドネイティブで開発した不動産会社向けのホームページ作成ツールのほか新設計サービスが AWS 上で稼働しています。

クラウド移行プロジェクトにおいて、同社が現時点で大きな効果を実感しているのが組織や人材に与えたインパクトです。DevOps によってアプリケーションチームはインフラ領域に目を向けることが増え、AWS の新サービスを使ったサービス改善に動くようになりました。

「従来は慣れ親しんでいた開発手法で進めることがほとんどで、OS やミドルウェアなどはインフラチームが用意してくれるものという意識でした。AWS の採用後、アプリケーションの開発チームは、Infrastructure as Code によってシステム全体について Dev から Ops まで一貫した観点で考えられるようになりました。これによりアプリケーションチームはインフラに近い領域まで関わることが可能になり、守備範囲を広げることができたため開発生産性が向上しました。」(松崎氏)

また、それまでアプリケーションへの関心が低く、インフラの設定をコードで管理することに心理的抵抗感があったインフラチームも、従来のアプリケーション管理と同じようにソースコードでインフラ構成を管理するようになり、アプリケーションをより意識するように変化しました。

「インフラチームは運用中に発見した改善点や得られる知見を即座に開発チームにフィードバックすることで、改善サイクルを高速に回すことができるようになりました。」(松崎氏)

開発における AWS 利用の基本方針は、AWS Organizations によるアカウントの集中管理とし、セキュリティ強化のために、MFA(多要素認証)が必須となっています。再現性を重視するため、コード化された構成のみを許容し、AWS CloudFormation または Kubernetes のマニフェスト以外での構築は認められていません。テクノロジーの観点でも、AWS CloudFormation の活用でインフラのコード化が促進され、構成管理やプロビジョニングの自動化が実現しています。


 

クラウドジャーニーに乗り出した同社は、これまでの実績で得られた知見と経験をもとに、よりよい形でのマイグレーション方法を模索しながら、最後はデータ連携のハブとなる『 ES いい物件 One 』のバックエンドのコアプラットフォームの移行に着手し、2020 年 9 月までに完全移行を終える予定です。

クラウドシフトを終えた後に見据えているのは、これまで蓄積した各種データを活用した新たなサービスの提供です。それまで同社はさまざまなサービスのデータを蓄積してきたものの各所にデータが分散し、有効に活用できていませんでした。そこで現在はデータレイクを実現する Amazon Redshift に注目し、Amazon SageMaker を使った機械学習の研究を進めています。松崎氏は「不動産業界はいまだに人に頼ったアナログ的な業務が多く、紙を減らすという単純な業務の効率化から、物件まで移動して現場をチェックするといった距離や時間に関する問題まで、デジタルの力で改善できる領域は多く残されています。こうした課題をデータや機械学習、ブロックチェーンなどの力で解決し、不動産業界の方にもっと中核業務に集中していただくことを目指していきます。そして将来的には入居者やオーナーといった不動産に関わる一般の方や不動産の周辺業界を含む、より広範囲に渡るソリューションを提供できればと思っています。」と語ります。

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松崎 明 氏


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