導入事例 / エネルギー&ユーティリティ

2024
株式会社 Helical Fusion

Helical Fusion、大量計算リソースでシミュレーション速度を 8 倍以上高速化し、世界初の商用核融合炉に向けた開発を加速

8 倍以上

計算時間の短縮

最大 1 万物理コア

AWS ParallelCluster による大規模計算リソース

最大 10 万 USD

AWS Activate で提供されるクレジット

Time to Market の短縮

世界初の計算に成功

概要

核融合炉を開発する国内スタートアップの株式会社 Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)。同社はアマゾン ウェブ サービス(AWS)のスタートアップ支援プログラム AWS Activate の活用や、AWS ParallelCluster、Hpc7a インスタンスによる HPC 環境の構築などによって、設計シミュレーションの速度が 8 倍以上になりました。最大 1 万物理コアの計算リソースをもとに、世界初の商用核融合炉の完成を目指しています。

背景 | 核融合炉の設計で重要な鍵を握る数値シミュレーション

エネルギー効率が高く、温室効果ガスをほとんど排出しないことから、次世代エネルギーとして世界中で注目を集める核融合発電。Helical Fusion は、日本独自の磁場閉じ込め方式(ヘリカル方式)による核融合炉を開発するスタートアップです。「弊社は、日本の核融合研究の総本山とも言える国立の核融合科学研究所の研究者と、金融機関などでキャリアを重ねた私が共同で、2021年に設立しました。核融合発電関連の国内スタートアップの中でも核融合炉そのものを開発しているのは弊社のみで、2034 年までに世界初の定常核融合炉の実現を目指しています」と語るのは、代表取締役 CEOの田口昂哉氏です。

核融合炉の設計は膨大なデータを用いた中性子挙動のシミュレーションが鍵を握り、大量の計算リソースを必要とします。設立間もない同社では自前で HPC 環境を保有することは困難なため、計算機クラスターを持つ大学や研究機関や開発者個人の PCやワークステーションで計算、分析を行っていました。しかし、共同研究先はタイムリーに利用できず、個人の PC も計算リソースに限界がありました。

そこで同社は大量の計算リソースを短期間で確保できる AWS の導入を決めました。決め手は最大 10 万 USD のクレジットや技術サポートなどを受けられるスタートアップ支援プログラム AWS Activate の適用を受けられたことです。田口氏は「資金調達の段階で出資者からこのプログラムを紹介されました。十分なクレジットが使える AWS Activate は非常に魅力的でした」と語ります。

また、アメリカの核融合発電スタートアップのトップランナーである CommonwealthFusion Systems 社(CFS)が大規模な核融合中性子輸送シミュレーションを実施している事例があったことも採用の決め手となりました。チーフリサーチャーの中村誠氏は「CFS 社の事例を見て弊社でも AWSを使ってみたいと思いました。HPC 環境でAWS を利用するメリットは、物理的な計算機を設置する必要がなく、施設投資を抑えられることです。計算機のスペック選定やハードウェアの購入手配、自社でのセットアップ、さらに自社購入した場合の陳腐化や廃棄手続きまでを回避でき、スペックも柔軟に変更できます」と語ります。 

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「AWS の HPC 環境における計算時間の短縮は、いかに早く成果を出すかが問われるスタートアップにとって、大きな意味を持ちます」

田口 昂哉 氏
株式会社Helical Fusion
共同創業者 代表取締役 CEO

ソリューション | AWS ParallelCluster、Amazon EC2 の GPU インスタンス、Hpc7a インスタンスで高速計算

AWS の採用決定後、同社は 2023 年 12月にワークショップで HPC の技術スタックに触れ、2024 年 1 月から 2 月にかけて PoC を実施しました。

「AWS ParallelCluster を用いたシミュレーションでは、AWS の担当者にハンズオンを実施していただいてから PoC に着手したものの、シミュレーションソフトのインストール用ディスク不足、コードの再コンパイルなどの課題に直面しました。しかし、これらは AWS の担当者との月 1 回のミーティングでアドバイスを受けて解決できました」(中村氏)

Amazon EC2 の GPU インスタンスを活用した電磁解析のシミュレーションでは、GPU の種類、メモリー、GPU クロック数などを加味して最適な組み合わせを検証。チーフリサーチャーの金田健一氏は「NVIDIAV100 GPU を搭載した Amazon EC2 P3インスタンスを使って計算している中で、AWS の担当者から上位クラスの NVIDIAA10G GPU を搭載した Amazon EC2 G5インスタンス を紹介いただき、P3 インスタンスと G5 インスタンスのメモリーやクロック数を考慮してコストパフォーマンスの高い組み合わせを検証しました」と語ります。

AWS ParallelCluster や GPU インスタンスをセキュアに利用するためのアーキテクチャは、AWS Control Tower と AWSIAM Identity Center によるマルチアカウント環境を構築しています。

「研究開発用の HPC 環境として外部からの攻撃に強いアーキテクチャを構築・維持することが重要です。現在も AWS の担当者のアドバイスを受けながらアカウント管理を強化しています」(中村氏)

アーキテクチャ

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導入効果 | AWS Activate の活用で開発速度を加速

現在、中村氏はほぼ毎日、AWS ParallelClusterを活用して核融合炉の基本構造の決定や材料を選定するためのシミュレーション、3 次元実態モデルでの精密評価を行っています。「核融合炉を構成する機器の発熱量やトリチウム生産量などを評価し、全体設計にフィードバックしています。今後も炉停止後の放射化量評価など安全設計・安全評価を実施していく予定です」と語ります。

金田氏もほぼ毎日、核融合炉用プラズマ加熱装置(ジャイロトロン)の設計に向けてG5 インスタンスを活用したシミュレーションを実施。「ジャイロトロンの量産化を目指し、G5 インスタンスを 2 台、3 台と活用しながら分析しています」と語ります。AWS ParallelCluster でのシミュレーションでは最大 1 万物理コアの利用が可能となり、計算時間を大幅に短縮しました。「共同研究先所有のオンプレミスマシンで約24 時間かかっていた計算が約 3 時間に短縮されました。ひと晩待つ必要もなくなり、材料を変えながら計算を繰り返すパラメータサーベイが容易になりました」(中村氏)同様に、金田氏が利用する GPU インスタンスでも、従来の PC 環境で 10 時間かかっていた計算が 2 時間程度になるなど、5 倍以上の高速化を実現しています。

「AWS の HPC 環境での計算時間の短縮は、いかに早く成果を出すかが問われるスタートアップにとって大きな意味を持ちます。また、AWS Activate に参加し、世界最大級の核融合スタートアップである CFS 社と同水準の AWS 計算機環境を確保できたことも市場へのアピールにつながりました」(田口氏)

AWS の活用で、世界で初めて 3 次元性の強いヘリカル式核融合炉における中性子輸送計算と可視化に成功するなど画期的な成果も生まれています。同社は今後も 2034年の核融合炉初号機の運転開始に向けて、炉の構造や材料の決定、発電量の評価、安全設計と安全評価のシミュレーションを繰り返していく予定です。また、核融合炉心プラズマのシミュレーションにも AWS の活用を検討中で、高い期待を寄せています。

「2024 年 6 月に核融合科学研究所が、大型ヘリカル装置の実験データを 2 ペタバイトのオープンデータとして AWS 上に公開しました。そのデータと連携した炉心プラズマ設計も AWS 上で行えたらと考えています。最新のインスタンスに柔軟に切り替えられるのが AWS の魅力ですので、今後も高性能なインスタンスの発表を期待しています。また、コストパフォーマンスに優れる AWS Graviton の活用も視野に入れています」(中村氏)

カスタマープロフィール:株式会社 Helical Fusion

磁場閉じ込め方式(ヘリカル方式)で核融合の社会実装を目指すスタートアップ。核融合科学研究所出身の宮澤順一氏、後藤拓也氏と、金融機関での M&A 案件などを経験した田口昂哉氏が共同で 2021年 10 月に創業。「人類は核融合で進化する」をビジョンに、究極の脱炭素社会を目指している。現在、世界初の定常核融合炉の実現に向けて、核融合炉本体と、核融合を実現するための要素技術の開発を進めている。

田口 昂哉 氏 

中村 誠 氏 

金田 健一 氏 

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AWS ParallelCluster は、AWS がサポートするオープンソースのクラスター管理ツールです。このツールは、AWS クラウドでハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) クラスターを簡単にデプロイおよび管理するのに役立ちます。

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Amazon EC2

Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。

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AWS Control Tower は、ランディングゾーンと呼ばれる安全なマルチアカウント AWS 環境をセットアップおよび管理するための最も簡単な方法を提供します。

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AWS Identity and Access Management (IAM) では、AWS のサービスやリソースへのアクセスを安全に管理できます。IAM を使用すると、AWS のユーザーとグループを作成および管理し、アクセス権を使用して AWS リソースへのアクセスを許可および拒否できます。

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