導入事例 / 製造業

2024

日立、クラウドで提供する材料開発ソリューションの基盤を、サーバーレスアーキテクチャで再構築。顧客の材料開発の効率化に貢献

4 か月

リアーキテクトの開発期間

インフラコストの最適化

1 回の分析にかかる時間の短縮

新機能の開発効率の向上(サービスリリースの迅速化)

概要

株式会社日立製作所において、官公庁や研究・教育機関などの顧客を IT の側面から支援する公共システム事業部。同事業部は、化学メーカーなどが利用する材料開発ソリューションを、2017 年よりアマゾン ウェブ サービス(AWS)上で提供してきました。2021 年にはサーバーレスを中心としたアーキテクチャに刷新。コストの最適化によりハイスペックなコンピューティングリソースの提供が可能となり、顧客の材料開発の効率化に貢献しています。

ビジネスの課題 | コスト低減やサービス提供の迅速化に向けてアーキテクチャを刷新 

日立の材料開発ソリューションは、さまざまな材料データや実験データから、機械学習や AI などを駆使して材料開発の指針を獲得するマテリアルズインフォマティクス(MI)を適用したソリューションです。近年、新材料の開発競争は激化し、短時間・低コストでの開発が求められています。しかし、従来は専門家の経験や理論に基づいて実験を繰り返す手法が一般的で、より高機能な材料の開発が求められる中では開発期間やコストが膨らむ傾向にありました。この課題を解決するべく、日立が 2017 年にリリースしたのが MI による材料開発ソリューションです。

「材料開発に従事する研究者の方々が、MI の高度な専門知識がなくても日常的に利用できる汎用的なサービスとして開発しました」と語るのは、公共基盤ソリューション本部 デジタルソリューション推進部の福岡誠之氏です。

材料開発ソリューションは、材料データの分析環境をクラウドで提供する『分析環境提供サービス』、顧客から材料データを預かって分析を代行する『分析支援サービス』、DX 化推進のためのプラットフォームを具体化する『DX 支援サービス』、実験データを記録・管理する『実験データ収集サービス』の 4 種で構成されています。

その中の『分析環境提供サービス』は、顧客が持つシミュレーションデータや実験データなどの材料データを、日立が提供するクラウド環境上で分析・可視化するサービスです。顧客は日立独自の AI ツール群を Web ブラウザー上で操作しながら分析環境上で予測モデルを構築し、予測モデルを用いた未知のデータの結果予測や、目標値を達成するための変数を予測モデルから推定できます。

分析環境のプラットフォームは、2017 年のサービス提供開始段階から AWS を採用しました。「以前は、オンプレミス環境に分析基盤を構築していましたが、サービス化にあたり、サーバー調達のリードタイムの短縮、運用負荷の軽減などを目的に、当部のクラウド専任部隊にノウハウや開発実績のあった AWS を活用して構築しました。AWS であればセキュアなベースラインを提供するテンプレート Baseline Environment on AWS(BLEA)があり、お客様にも安心して利用いただけます」と公共基盤ソリューション本部 デジタルソリューション推進部の小幡輝明氏は語ります。

しかし、初期環境は Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) による仮想サーバーベースの構成であったため、コストやサービス提供の迅速化が新たな課題として浮上しました。そこでデジタルソリューション推進部は、アーキテクチャの再構築を決断しました。

「これまでの分析環境は、画面表示領域のフロントエンドと、分析実行領域のバックエンドで構成し、顧客ごとに独立した環境を提供していました。しかし、分析実行領域はサーバーを常時稼働させておく必要がないため、フロントエンドから切り離してサーバーレスアーキテクチャで再構築し、疎結合で連携することにしました。さらに分析実行領域はマルチテナント化して集約し、当社が開発した分析アルゴリズムをいつでも追加実装できる環境を目指しました」(小幡氏)

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「分析環境のサーバーレス化により、分析時間の短縮が実現しました。材料開発の期間短縮を通して、お客様の DX に貢献できていることを実感しています」

福岡 誠之 氏
株式会社日立製作所 公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部 デジタルソリューション推進部 技師

ソリューション | 分析環境の一部をマルチテナント化し、サーバーレスアーキテクチャで構成

アーキテクチャの再構築に着手したデジタルソリューション推進部は、2020 年 12 月から開発を開始し、2021 年 4 月に新たなアーキテクチャでのサービス提供を開始しました。ユーザーデータを保管する顧客用 VPC は、セキュリティを考慮してシングルテナントとし、データ分析を実行する分析環境用 VPC はマルチテナントとしました。マルチテナント環境は、Amazon API Gateway、AWS Lambda、AWS Step Functions、Amazon Elastic Kubernetes Service (Amazon EKS) 等のサーバーレスアーキテクチャで構成し、API で実行命令が送られたタイミングでサーバーを稼働して、コンテナによるコンピューティングリソースが利用できるようにしています。

導入効果 | 従来のコストのままで、ハイスペックリソースの投入が可能に

リアーキテクトにより生まれ変わった材料データ分析環境は、新たなユーザーを受け入れながら、順調に利用が進んでいます。

「現在、国内外の化学メーカーの研究部門のお客様を中心にご利用いただいています。従来環境を利用していたお客様に対しては、分析アルゴリズムが高度化されたり、分析にかける時間が増えたりするメリットを説明しながら、新たな環境に順次移行していただきました」(小幡氏)

新アーキテクチャに移行し、分析環境をサーバーレス構成としたことで、コスト最適化が実現しました。

「常時稼働の従来環境で GPU インスタンスを長期間利用し続けると、高額になって提供が難しかったものが、サーバーレスで原価を抑えることが可能となり、安価で提供できるようになりました。1 回の分析にかかる時間も、従来の CPU のみのアーキテクチャでは数十時間かかってしまい提案できなかった画像解析のような分析も、GPU が利用可能となることで数時間に短縮されて提案が可能になりました」(小幡氏)

材料データ分析環境で提供する新しい分析機能の開発についても、日立内部でアジャイル開発を進めている中で、機能単位で開発環境を用意して、開発中の機能をリアルタイムに確認できるようになりました。

「これにより、開発効率が向上し、サービス品質の向上にも貢献しています」(小幡氏)

高度な分析機能の提供や分析にかかる時間の短縮は、一刻も早く PoC を実施して成果を出したい化学メーカー等の要望に応えるものであり、顧客のベネフィットにも貢献しています。

「多くのお客様に当社のソリューションを使い続けていただけていることは、材料データを活用して分析するメリットを認知していただいている証左であると考えています。共創したお客様からは、実験効率が何十%向上したといった声も寄せられています。さらに、お客様の 1 部の部署だけでなく、研究所、事業部、グループ会社、海外も含めて材料データ分析環境を利用しているという声もいただいていますので、材料開発の期間短縮を通してお客様の DX にも貢献できていることを実感しています」(福岡氏)

材料データ分析環境は、再構築後も新たな分析機能を追加しながら進化を続けています。今後は、生成 AI を活用したユーザービリティの向上、グローバル展開の拡大、開発工数の削減に向けたインフラのコード化(IaC)なども検討中で、AWS の継続的な支援に期待を寄せています。

「今後、基盤上に材料データが蓄積されていくと、より多くのデータを扱うことになります。そのためには大量の計算リソースも必要になってきますので、さまざまなサービスでアーキテクチャの改善を重ねながら、シームレスに分析できる世界を目指していきます」(福岡氏)

企業概要 株式会社日立製作所

日立の公共システム事業部は、官公庁、自治体、研究・教育機関、道路や消防分野など、公共分野の顧客を IT の側面から支援する組織。デジタルイノベーションを加速する「Lumada」(ルマーダ)を活用し、顧客のデータから新たな価値を創出。幅広いプロダクトや制御・運用技術に最先端のデジタル技術を掛け合わせることで、より豊かな社会づくりに取り組んでいる。

福岡 誠之 氏

小幡 輝明 氏

ご利用中の主なサービス

Amazon API Gateway

フルマネージド型サービスの Amazon API Gateway を利用すれば、開発者は規模にかかわらず簡単に API の作成、公開、保守、モニタリング、保護を行えます。API は、アプリケーションがバックエンドサービスからのデータ、ビジネスロジック、機能にアクセスするための「フロントドア」として機能します。

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AWS Lambda

AWS Lambda を使用することで、サーバーのプロビジョニングや管理をすることなく、コードを実行できます。料金は、コンピューティングに使用した時間に対してのみ発生します。

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AWS Step Functions は、AWS Lambda 関数および AWS の複数のサービスを、ビジネスに不可欠なアプリケーション内に簡単に配列することができるサーバーレスの関数オーケストレーターです。

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Amazon Elastic Kubernetes Service

Amazon Elastic Kubernetes Service (Amazon EKS) は、フルマネージド型の Kubernetes サービスです。

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