4,000 万口座を対象とした分析プラットフォームを
AWS プロフェッショナルサービスを活用して 3 ヶ月で構築
金融機関に求められるセキュリティレベルを確保し新たな金融サービスを開発
2020
三菱 UFJ フィナンシャル・グループ(以下、MUFG)では、グループ各社が持つデータを個々で集約・分析してきましたが、資源が分散して新サービスの開発を阻害する要因となっていました。そこで MUFG の FinTech スタートアップとして発足した Japan Digital Design 株式会社は、三菱 UFJ 銀行が保有する 4,000 万顧客口座の取引明細を対象として分析可能なプラットフォームを、AWS プロフェッショナルサービスを活用してわずか 3 ヶ月で構築。金融機関に必要なセキュリティレベルを AWS の各種機能を活用して確保し、分析者に自由な環境を提供することで、金融サービスのイノベーションを推進しています。
高いセキュリティレベルが求められる AI を用いた金融分析プラットフォームを、自社の内製チームだけで 3 ヶ月で構築することができました。AWS のみなさまには常に寄り添って対応いただきましたので、引き続き先進的なサービスのリリースと、高いサポートを期待しています
上原 高志 氏
Japan Digital Design 株式会社
代表取締役 CEO
新しい金融サービスの提供に向けて AI モデルを用いた分析プラットフォームを検討
“金融の新しいあたりまえを創造し、人々の成長に貢献する”をミッションに掲げる Japan Digital Design(以下、JDD)。同社は、2016 年に MUFG が イノベーション推進を目的に立ち上げた内部組織が、2017 年 10 月にスピンアウトする形で発足しました。「従来の銀行では対応が難しいお客様の課題やニーズに着目し、新たな金融サービスをよりスピーディーに提供することを目的に設立しました。大企業では意思決定に時間を要し、外部のベンダー依存も多いため、新規プロジェクトがスムーズに進まないことがあります。そこで、開発体制も内製化を推進し、既存の金融業界の考え方にとらわれない人材を内外から集めて金融サービスの向上や社会的課題の解決に取り組んでいます」と語るのは代表取締役 CEO の上原高志氏です。
設立以来、さまざまな金融サービスを開発してきた JDD が、現在の注力分野に掲げているのが AI やビッグデータの活用です。MUFG には長い歴史から得られた膨大な顧客基盤と情報資産があり、それらを活用した価値提供が課題になっていました。そこで 2018 年 4 月に MUFG 独自の AI モデルの開発・研究を目的とした施設『MUFG AI Studio(M-AIS(呼称:アイス))』を JDD のオフィス内に新設しました。
取締役副社長の扇裕毅氏は「従来から MUFG 各社・各部門でデータや開発環境などのリソースを個々に確保していたものの、それぞれが集約・分析しているために資源が有効に活用できませんでした。そこで三菱 UFJ 銀行が保有する 4,000 万の顧客口座情報、例えば過去 10 年分の取引明細等を集約した分析プラットフォームを構築し、MUFG 独自の AI モデルを用いて、三菱 UFJ 銀行とともに、お客様に対し新たな金融サービスを提供することが狙いです」と語ります。
サービスや技術に関する AWS の先進性とプロフェッショナルサービスなどのサポート体制を評価
同社が分析プラットフォームに求めた要件は、分析者の創造性を妨げない自由な環境、さまざまなフォーマットのデータが扱える多様性、大量のデータを素早く処理する能力、少人数の組織で運用管理ができる効率性、各種法規制・業界規制等をクリアしたセキュアな環境でした。この 5 つを中心に検討した同社は、分析プラットフォームを AWS 上に構築することを決定しました。
AWS を採用した理由は、上記の要件を満たしていたことに加え、AWS の先進性やサポートに対する信頼感にありました。
「AWS のシアトル本社や Amazon の物流センター(FC)を見学するツアーを通して AWS の先進性が理解できました。プロフェッショナルサービスやアカウントチームからも適切なテクニカルサポートやアドバイスが受けられることも信頼感につながりました。世界に広がる AWS のユーザーコミュニティを通して海外のトップクラスの金融機関と情報交換ができることへの期待もあり、AWS の採用を決めました」(上原氏)
リファレンスが豊富で、関連情報が充実した AWS はプロジェクトを進めるうえでアドバンテージになるといいます。CTO の楠正憲氏は「徹底した内製化で金融サービスの高速リリースをミッションとする JDD において、AWS は開発時に工数や期間の見積りがしやすく、プロジェクト管理の負荷軽減が実現します。人材採用においても、AWS に触れられることがエンジニアには響きやすく、優秀な人材の確保につながる期待がありました」と語ります。
AWS のきめ細かいセキュリティ機能により自由度の高さとセキュリティを両立
分析プラットフォームは、2019 年 5 月から 7 月までの 3 ヶ月間で構築しました。金融データ・顧客データを扱う特性上、構築時はセキュリティを重要視して、データを保管する環境とデータを分析する環境を明確に分割したり、それぞれの環境へのデータアクセス権限を分割したり、機密データを安全に取り扱うための暗号鍵管理の機能を追加したりしています。Technology and Design Division, VP of Infrastructure の小野雄太郎氏は「AWS のセキュリティ機能をフル活用することによって、自由度の高さとセキュリティの確保の両立を目指しました」と説明します。
運用面でも数名のインフラ担当者で効率的に管理するため、AWS CloudFormation や Amazon CloudWatch を活用して自動化を進めています。今後は、AWS の機械学習用インスタンスも活用し、分析のコスト効率をより高めていく考えです。
プロジェクト時には、AWS プロフェッショナルサービスを活用し、実装の詳細を議論していきました。
「フロントエンドに採用した分析ツールとプラットフォームを相互接続する際、プロフェッショナルサービスチームに AWS のセキュリティ機能を網羅する形で検証していただきました。その他、AWS ならではの知見を活かしたクラウドネイティブな実装提案は非常に有意義でした」(小野氏)
AI 審査によるオンライン型融資サービスがコロナ禍にあえぐ中小企業の事業継続を支援
現在 M-AIS では、三菱 UFJ 銀行の委託に基き、MUFG からの出向者、データサイエンティストなど数十人体制で独自の AI モデルを開発し、三菱 UFJ 銀行の 4,000 万顧客口座の情報を分析しています。
この分析環境で得られた分析成果の 1 つは、三菱 UFJ 銀行が 2019 年 6 月にリリースした中小企業向けのオンライン完結型融資サービス『Biz LENDING』に適用されています。『Biz LENDING』では、借入側は決算書の提出が不要となり、最大 1,000 万円の融資が申込から入金まで最短 2 営業日で完結します。
分析プラットフォームは今後、企業間でのビジネスマッチングや、市場部門におけるリスク分析への活用、さらには HR 領域のサービスの研究などへの適用を進めていく考えです。JDD では M-AIS のほかにもさまざまな新規ビジネスプロジェクトを立ち上げる予定で、そのプラットフォームとしても AWS の活用を検討しています。楠氏は「クラウドの柔軟性と機動力を活かし、これまで銀行がやってこなかったことにも積極的にチャレンジしながら、社会課題の解決に貢献していきます」と語ります。
AWS に対しては、充実したサポート体制を評価し、今後も継続的な支援を要望しています。扇氏は「引き続きユーザー企業の声に耳を傾けながら、必要な機能やサービスを迅速にリリースしていただけたらと思います」と語ります。
上原 高志 氏
扇 裕毅 氏
楠 正憲 氏
小野 雄太郎 氏
カスタマープロフィール:Japan Digital Design 株式会社
- 設立年月日:2017 年 10 月 2 日
- 資本金:36 億円
- 事業内容:次世代金融サービスおよびプロダクトの企画開発
AWS 導入後の効果と今後の展開
- 三菱 UFJ 銀行が保有する顧客口座情報と取引明細の安全な管理の実現
- 分析プラットフォームが中小企業向けのオンライン完結型融資サービス『Biz LENDING』に採用
- AWS CloudFormation(テンプレート)による環境構築負荷の軽減
- Amazon CloudWatch および AWS Lambda / Step Functions による運用監視の自動化
ご利用中の主なサービス
Amazon S3
Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) は、業界をリードするスケーラビリティ、データ可用性、セキュリティ、およびパフォーマンスを提供するオブジェクトストレージサービスです。
Amazon EC2
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。
AWS CloudFormation
AWS CloudFormation では、プログラミング言語またはシンプルなテキストファイルを使用して、あらゆるリージョンとアカウントでアプリケーションに必要とされるすべてのリソースを、自動化された安全な方法でモデル化し、プロビジョニングできます。
Amazon CloudWatch
Amazon CloudWatch は、DevOps エンジニア、開発者、サイト信頼性エンジニア (SRE)、および IT マネージャーのために構築されたモニタリング/オブザーバビリティサービスです。